自作小説「不安な家族」 序章 ある男の過去


耐え難い過去を背負った家族が高度経済成長時代の日本の暗部を露わにする。

 成田空港から一人の男がやって来た。三十数年前に日本を発ち、そして、戻ってきた。日本を発った時は、まだ十代の青年だった。今、多くの人が、彼の帰国に注目している。なぜなら、彼は日本を発つ一年ほど前、とんどもない事件の現場にいたはずだったからだ。 その事件は、彼の育った家が火事に見舞われ、彼の両親が、その後、焼死体で発見された事件だ。彼も火事の時、その現場にいたはずだったのだが、なのに事件後、行方不明となった。その青年は問題を抱えていたことが分かっていた。事件と何か関わりがあるのでは、なぜ行方不明になったのか。多くの人々が知りたがっていた。

 男の名前は宮田真一。彼は、今、記者会見が設定された会場のすぐそばの一室で、日本で宮田が高校生だったときから付き合いがある老人の男と顔を合わせている。二人は、心を落ち着かせるためか煙草を吸って話しをしていた。この老人とは、成田に着く前に、中国と韓国で宮田と一週間ほどを過ごした。記者会見で話しをする前の準備として必要なことをしたかったからだ。

 宮田真一は、窓の外の景色を眺めた。東京の副都心が眺められる位置にいる。夕暮れに照らされる超高層ビル群が見えた。真一が、昔、日本にいたときは、こんなビル群はなかった。あったのは、一本だけ、当時、日本一の高さを誇るホテルビルとして話題を集めた「京王プラザホテル」だ。今では、他のより高いビルに取り囲まれビル群に埋もれるように佇んでいる。変わったものだ。

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 思い出す。家族との思い出。今は亡き彼らとの思い出。





一九七一年七月

 宮田真一は一七歳の高校生。東京に住む宮田一家の長男であった。一家揃って、三歳年上の姉、由希子の結婚式とその後の披露宴に出席するため式の前日、開業したばかりの京王プラザホテルに泊まっている。マスコミで話題になっているホテルだ。地上四十七階の高さで日本で最初の超高層ホテルだ。宮田家は、三部屋を借りている。一部屋は、姉と母、律子の泊まる部屋。一部屋は、父、孝三の泊まる部屋。もう一つは、真一の泊まる部屋だ。いわば、結婚式出席記念に日本中で最も注目を浴びているホテルに一家で宿泊をしているようなものだ。
 よく分からないが、家族で旅行をするといつもこんな感じだ。由希子は、母が付き添わなければいけない。なぜなら、生まれつき障害を持っているからだ。主に知的な障害だが、それ以外に足をひきずらなければいけない身体的な障害もある。
 父の孝三とは、男同士なのだから同じ部屋でもいいのだと思うのだが、だが、父は、いつも一人でいることを好む。自宅でも、書斎か隣接する病院の院長室に籠もりっきりになる。食事でさえも一緒でないことが多い。幼いときからの思い出として、友人の父親たちと違い、真一には父と遊んだとか、真っ正面に話し合ったとかいう記憶が全くといっていいほどない。孝三は、家庭に無関心な男だ。姉の由希子の世話も母に任せっきりだ。
 真一は、案外、そんな状況を普通として感じ育ってきたような気がする。敢えて家族に不満を持つ気はなかった。しかし、最近は違う。大学受験を控えるようになったからだ。高校の成績は芳しくない。目指すべきは医学部。父が経営して院長を務める「宮田病院」の跡を継ぐためだ。そのことでせかされ続けている。高校に入って家庭教師がつくことになったが、真一は、やる気が全くなかった。医者などにはなりたくなかった。
 最近、感じるようになった。いいかげん、こんな家族とは縁を切りたいと。

 明日は、姉と姉の婿となる男、岩田哲司との結婚式だ。真一は、そんなことには関心がなかった。関心があったのは、銀座に開店したマクドナルドハンバーガーだ。ホテルに行く前に一人で銀座に寄った。ハンバーガーを買って食べてみた。丸いパンに牛肉のミンチが挟まれている。日本初のアメリカ式ファーストフード店ということで大盛況。数十分、並んで買って袋に入ったハンバーガーを取りだし、サンドイッチみたいにすぐにほおばった。
 だが、楽しみにしていたわりには、食感がいまいちだった。こんなものをアメリカ人は好んで食うのか、不思議に思った。
 銀座の街では、最新のファッションが眺められた。特にすばらしいのは女性たちのミニスカートとホットパンツだ。
 ホテルに戻り、自分の部屋でテレビを見た。「テレビ東京」の番組を見た。「プレイガール」という女探偵たちが活躍する番組だ。
 その後、チャンネルを変え、歌番組を見る。女性二人組の歌手シモンズが「恋人もいないのに」を歌っている。
 また、チャンネルを変える。ニュース番組だ。全日空機の墜落事故ニュースがあり、その次にアポロの月着陸のニュースが続いた。アポロ十五号が月に着陸間近というニュースだ。これで四回目の月着陸成功になるらしい。
 だけど、これって偽物なんだってな、ある人が言っていた。夏休みが終われば、そいつと顔を会わすことになる。
 さて、寝よう。

 翌日、新郎岩田哲司とその妻である新婦の岩田由希子の結婚式が執り行われた。式は紋付き袴と文金高島田の和式。その後、披露宴はホテル最上階の宴会場へ。
 神前の結婚式もそうだったが、続く披露宴もなぜか、結婚式なのにしんみりとした雰囲気が漂う。新郎も新婦もなぜか嬉しそうな表情ではない。新郎は時折、わざとらしく笑顔を見せるが、新婦は、一貫して無表情で、自分が今何をしているのか分かっていない感じだ。宮田家と岩田家、それ以外に招かれた数十人の出席者も、なぜかぎこちない。
 さて、新郎の友人を代表して、小室章という男が挨拶の弁を述べることになった。小室はギターを持ってやってきた。この男は、岩田とは同じ京都大学医学部出身で、一年後輩に当たる。岩田は大学を卒業後、二年間研修医として京大の大学病院にいたが、その後、宮田病院で勤務することになった。小室は、同じく京大の大学病院に研修医としていたが、その後、京都市内の別の病院に勤務することになった。二人は大学時代、フォークソング倶楽部に所属して親交を深めた仲らしい。
 岩田は、今年の秋から東京の病院に勤務することになった。これから、姉と一緒にこの東京で夫婦生活を送ることになる。
「先輩、おめでとうございます」
と小室の挨拶が始まった。さっきまで退屈そうだった岩田の表情がやけに明るくなった。小室の方をじっくり見つめ、目を互いに輝かせている。小室は一通りの挨拶が済むと
「先輩と由希子さんへの祝いの気持ちを込めて歌を一つ歌わせていただきます。今、流行の歌で、「花嫁」です」
とギターを持ち上げ、弦を指で弾き、伴奏のメロディを鳴らすと「花嫁は夜汽車に乗って・・」と歌い始めた。
 両者の視線はますます熱くなる。真一は、岩田を不審な目つきで見つめた。
 こんな結婚、インチキだ。何のために二人が結婚するのかは出席者の一部はよく分かっている。特に真一は、岩田哲司がなぜ障害を持つ姉と結婚することを決めたのか、そのやんごとなき事情をよく承知していた。
「この、ゲス野郎め!」
と真一は岩田を見つめながら心の中で叫んだ。

第2章へつづく。(更新は時期は未定) 2011年7月までに完成予定の短編か中編。
by masagata2004 | 2009-02-08 22:24 | 自作小説 | Trackback | Comments(0)
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