自作小説「ヨーソロ、三笠」 第1章 初めての横須賀

インペリアル・ホテル」に続く自作小説。「私を「スキーに連れてって」の時代に連れてって」の後に連載予定。

平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

 二〇〇八年 五月末日

 野崎源太は横須賀中央駅に着いた。

 二十二歳の大学を卒業してから、就職先がなく、アルバイトをしながら生活している青年である。今、やっているのは宅配便の配送係とテニス学校の補助インストラクターだ。
 体力には自信がある。というのも、子供の頃からテニスをしていて、大学時代はプロ養成の遠征に招待され、イギリスにテニス留学をしていたほどだ。もっとも、競争が激しすぎてプロの道は断念したものの、その後、アルバイトでテニスのインストラクターをする仕事をしている。だが、これはパートタイムであり、それだけでは食っていけない。宅配便の配送アルバイトと合わせて、何とか生活費を稼いでいる。
 企業に就職するのも考えていたが、不景気のせいで、職を見つけること自体むずかしく、また、源太の好みに合う仕事というのが、なかなか見つからない。特に源太は、企業社会というのを嫌っていた。大学時代、テニスプロの道を断念して以来、源太が打ち込んだのはNGOなどのボランティアや啓蒙活動だ。この社会にはびこる不正や貧困などの理不尽な問題を解消していこうという信念を強く抱くようになった。
 そのため特に、平和運動にも傾倒していくようになった。世界にはどうして、戦争が起こるのだろう。どうして国同士、民族同士で愚かな戦争をし続けるのか。まだかじった程度の知識しかないが、自分が世界平和に貢献できるのではと使命感を感じるようになった。
 その運動の一環として、今、この横須賀にいる。駅の近くの平和団体の事務所に向かうことにした。今は、午前十時、埼玉県さいたま市の自宅を午前八時に出発、電車を乗り継ぎ、横須賀に着いた。生まれと育ちは埼玉で同じ首都圏で軍港として有名と知りながら、これまで横須賀に来たことがなかったので生まれて初めての訪問になる。
 その日の午後一時から開催される「原子力空母母港化反対大会」に加わるためだ。横須賀は米海軍基地のある街。そして、その海軍基地に米軍は、原子力空母ジョージ・ワシントンを母港化配備しようとしている。原子力を動力源にして航行する空母だ。母港化するので、一年の半分以上の期間、横須賀に停泊する。つまりは、東京湾に原子力発電所が配置されるようなものだ。事故を起こせば、首都圏数千万人に被害を及ぼす。
 当然、地元の横須賀市民は、配備の決定がなされる前から反対運動をし続けていた。現市長の蒲谷氏は、母港化配備拒否を公約に掲げ当選したが、就任後、容認に転向。政府の対米追従政策に沿って、母港化を既成事実化させ、市民の署名運動で要求されていた母港化の是非を問う住民投票案の成立さえ阻止。
 結局のところ、空母は今年中に配備される運びとなった。そのうえ、先週には、空母が洋上で火災事故を起こし、修理のため一ヶ月以上、配備が遅れると発表。安全性にさらなる疑問を投げかけている。
 ならば、できるだけ反対の意志をアピールして計画を変更すべきだと同志と共に叫びを上げることにした。
 日本には憲法九条がある。戦争をしないと決めたこの国にそんな空母が配備されるなんて信じられない。日本政府はよくも、そんなことを許した。いったいどうして、そうまでして米軍の言うなりになるのか。



 大会開催まで三時間あるので、その間は、まず事務所へ行き打ち合わせ、その後、昼食をして、会場となる基地近くのヴェルニー公園へ行き設営などの準備を手伝うことを予定している。イベントでは、平和運動家の一人として演説をする予定になっている。
 平和団体の方々とは、連絡を済ませており、インターネットに載っていた地図を印刷した紙を頼りに拠点事務所に向かう。
 
 駅から歩いて二分ぐらいのところだと聞いていたが、もう五分も経つのに、事務所が見当たらない。分かりやすい看板があると聞いていたが、見つからないのである。
 いったいどうしたことか。地図で示された道順通りのはずなのに、それらしい看板が見当たらない。複雑にくねった道を歩いているわけではないのにどうしてだ。
 地図を頼りにしても、初めて来るところだから、やはり迷ってしまったか。まあいい。先方には、十一時前までに来てくれればいいと言われていた。張り切り過ぎて早く来すぎた感がある。のんびりと探そう。
 歩いていると、潮風の香りがする。そうか、海岸沿いの街なのだ。だからこそ、海軍基地があるのだ。何人か米兵らしい外国人の姿を見受ける。半袖半ズボンに気軽な格好をしている。
 どうも、こいつらは気にくわない。こんな奴らが空母に乗って日本に居座るのか。というか、米軍基地が日本に置かれて以来、基地の町とはこんな様子だったのだろう。
 また、黒い制服の水兵らしき人々も、ああ、これは海上自衛隊員だ。確か米海軍基地のそばに海上自衛隊の基地もあると聞いている。横須賀は、昔から軍港だって聞いていたな。ニュースなどで何度か耳にしていたが、実際に来てみるとこんな感じであるのかと実感させられる光景だ。
 しかし、地図の場所と周囲の場所が、何とも似付かない。どうやら、地図に描かれている範囲を通り越してしまったようだ。
 困ったな。また、駅に戻ろうかな。しかし、駅に戻る方法も分からなくなったほどだ。
 ふと、何気なく道を通る。どこか分かりやすい場所を探せないか。そこから、駅に戻る道を探せないかなと思った。やや広めの通りに出る。ひたすら歩く。看板が目に留まった。
「この先、三笠公園」
 公園か。それなら分かりやすいかも。どうやら、海に近いらしい。潮風の香りが近付くにつれ強くなっている。
 公園らしき広場が見えた。と、同時に、得体の知れないものも。

b0017892_21502751.jpg

 あ、これは船。それも戦艦だ。何だこれ。公園には噴水があり、噴水の真ん中に銅像が立っている。
 そして、海岸に停泊するように戦艦が。でも、ここは基地ではない。どうやら展示用の戦艦だ。いったい何だってこんなものが。
 そして、公園では、ごそごそ何やら準備をしている様子が見られる。人がまばらにいて、パイプやテントが置かれ、幟をたてかける準備をしている。その幟には「日本海海戦記念式典」と刷られている。
 式典の準備か。それも海戦記念とは。何だか訳が分からない。どのみち自分には関係ない。源太は元来た道を引き返して駅に戻ろうとした。
 その時、「おい、君、自衛隊に入隊したくないかい」と背後から声をかけられ肩に手を置かれた。
 源太は何事かと驚き、振り向いた。

第2章へつづく。(不定期更新) 

同じテーマの「平和という名の付く船」もよろしく。

この小説の著作権は、このブログの管理者マサガタ(作家名 海形将志)に帰属します。
by masagata2004 | 2009-07-19 21:55 | 自作小説 | Trackback | Comments(0)
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