「防衛医大の場合は」 著者は軍事オンブズマンになるべき
防衛医大のとんでもない医師のとんでもない医療過誤、というか人体実験により将来を潰された一人の青年の壮絶なまでの記録。裁判の仕組みや方法論なり、実にためになる書なので必読。
20年ほど前、防衛医大で痣の治療のため、強引に手術を受けさせられ、同症例では前例のない方法での手術を非人格で技術的に未熟な医師により執り行わされ、結果、障害が残り、音楽家としての道を諦めざる得なくなった著者のこれまでの経緯を綴ったもの。裁判には、見事に勝訴。医療訴訟では、勝率は4割程度であることを考えると、凄腕であったことがいえるが、同時にこの事例が誰の目からみても余りにもひどいものであることの証であることを物語っている。
この本では、731部隊の伝統を引き継ぐ自衛隊の体質及び司法も独立権がなかなか保証されない「お上に逆らうな」という明治以来の国家至上主義がテーマになっている。一審で勝訴しても、最高裁までいくと国側が勝訴になるシステム。裁判官は官僚化しており、時に信念を持って国に不利な判決を下すと左遷されたりする。
日本は民主主義の国なのにとなぜ?と言いたくなるが、似たような事例は海外でも数多くある。特に軍が関連する事例に関してはそうだ。湾岸戦争の劣化ウラン弾の影響で体調不良になった兵士の妻が、軍の病院のカルテを盗み、メディアに公表。すると、夫婦は同じ仲間から爪弾きにあってしまうという実話を元にした映画を以前みたことがある。イラク帰還兵でも同じことが起こっているだろう。
この著者は、その後、防衛庁の情報公開制度で、請求者の個人情報リストをこっそり作っていたスキャンダルで有名になったとのこと。著者も請求者として監視されていたらしい。そこにも、防衛庁と官僚のいかがわしい体質が浮き彫りにされた。
民主主義は完璧ではない。権力側は、どんなことをしてでも、自分たちが上に立ち民衆を操りたがるものだ。民衆のためを思いするはずの権力の行使が、いつのまにか、自らの権力を守るために使われる。手段が目的化していくのだ。特にこれまで政権交代のなかった日本では、官の中立性が低く、その結果、官を中心として国会と司法が、下部組織に成り下がっている。ようやくの政権交代で、それがどれだけ変わるかがみものだ。
ところで、この本を読むと、著者が対決した防衛庁(現在は防衛省)の幹部であった田母神氏を思い出す。というのは、この本を読むと自衛隊はけしからん、憲法9条改正はあってはならないという結論に終わりそうだが、私はそうならない。
国家権力は腐敗する、だから、安易に信用してはならない。それはその通りだ。しかし、だからといって、国家という機能をなくしてしまえばいいというものではない。その一部である防衛機能もそうだ。それならば、「自衛隊」という曖昧な形にせず、防衛軍として認め、そのうえで市民の力できっちりと監視するという体制を築くべきだと思う。
鳩山次期首相は9条改正派だ。善い悪いは別にして、いずれ近い内に改正されるだろう。その時に大事なのは、権力に安易に迎合せず、監視の目を光らせ正していける勢力が国民にどれだけいるかということだ。著者には、この壮絶な苦悩の体験を活かし、将来的には軍事オンブズマンたる存在になって欲しいと思う。
ただ、著者だけでなく、著者の体験から学び触発され、より多くの市民が、参加意識を持ち、国家権力という「必要悪」に立ち向かっていけるようにならなければいけないのだと思う。
実際、世の中は理不尽なことばかりである。強大な権力とぶつかり合うと、それは壮絶なものだ。
著書にもあった「試されない人生は生きる価値がない」と、その通りだ。優雅でまったりとした平穏な日々は、ひたすら無駄に過ぎてしまう。著者は、ある意味、他の人が体験できない有意義な体験をしてしまったのだと思う。
ところで、余計なお節介だが、この著書には、数カ所誤植があった。
P.95 最後の行「て逆に衛医大は」 は、「て逆に防衛医大は」ではないのか。
P.175 これも最後の行で「肩が悪いと思いものを持てません。」「肩が悪いと重いものを持てません。」では。
ところで、彼は一体何をして生計を立てているのだろうか。この本がベストセラーになって十分暮らしていっているのだろうか。私も、作家になりたい。私の場合は小説だが、どんな小説を書いているかは、タグの「ノベルズ」から拾って読んで貰うと有り難い。
20年ほど前、防衛医大で痣の治療のため、強引に手術を受けさせられ、同症例では前例のない方法での手術を非人格で技術的に未熟な医師により執り行わされ、結果、障害が残り、音楽家としての道を諦めざる得なくなった著者のこれまでの経緯を綴ったもの。裁判には、見事に勝訴。医療訴訟では、勝率は4割程度であることを考えると、凄腕であったことがいえるが、同時にこの事例が誰の目からみても余りにもひどいものであることの証であることを物語っている。
この本では、731部隊の伝統を引き継ぐ自衛隊の体質及び司法も独立権がなかなか保証されない「お上に逆らうな」という明治以来の国家至上主義がテーマになっている。一審で勝訴しても、最高裁までいくと国側が勝訴になるシステム。裁判官は官僚化しており、時に信念を持って国に不利な判決を下すと左遷されたりする。
日本は民主主義の国なのにとなぜ?と言いたくなるが、似たような事例は海外でも数多くある。特に軍が関連する事例に関してはそうだ。湾岸戦争の劣化ウラン弾の影響で体調不良になった兵士の妻が、軍の病院のカルテを盗み、メディアに公表。すると、夫婦は同じ仲間から爪弾きにあってしまうという実話を元にした映画を以前みたことがある。イラク帰還兵でも同じことが起こっているだろう。
この著者は、その後、防衛庁の情報公開制度で、請求者の個人情報リストをこっそり作っていたスキャンダルで有名になったとのこと。著者も請求者として監視されていたらしい。そこにも、防衛庁と官僚のいかがわしい体質が浮き彫りにされた。
民主主義は完璧ではない。権力側は、どんなことをしてでも、自分たちが上に立ち民衆を操りたがるものだ。民衆のためを思いするはずの権力の行使が、いつのまにか、自らの権力を守るために使われる。手段が目的化していくのだ。特にこれまで政権交代のなかった日本では、官の中立性が低く、その結果、官を中心として国会と司法が、下部組織に成り下がっている。ようやくの政権交代で、それがどれだけ変わるかがみものだ。
ところで、この本を読むと、著者が対決した防衛庁(現在は防衛省)の幹部であった田母神氏を思い出す。というのは、この本を読むと自衛隊はけしからん、憲法9条改正はあってはならないという結論に終わりそうだが、私はそうならない。
国家権力は腐敗する、だから、安易に信用してはならない。それはその通りだ。しかし、だからといって、国家という機能をなくしてしまえばいいというものではない。その一部である防衛機能もそうだ。それならば、「自衛隊」という曖昧な形にせず、防衛軍として認め、そのうえで市民の力できっちりと監視するという体制を築くべきだと思う。
鳩山次期首相は9条改正派だ。善い悪いは別にして、いずれ近い内に改正されるだろう。その時に大事なのは、権力に安易に迎合せず、監視の目を光らせ正していける勢力が国民にどれだけいるかということだ。著者には、この壮絶な苦悩の体験を活かし、将来的には軍事オンブズマンたる存在になって欲しいと思う。
ただ、著者だけでなく、著者の体験から学び触発され、より多くの市民が、参加意識を持ち、国家権力という「必要悪」に立ち向かっていけるようにならなければいけないのだと思う。
実際、世の中は理不尽なことばかりである。強大な権力とぶつかり合うと、それは壮絶なものだ。
著書にもあった「試されない人生は生きる価値がない」と、その通りだ。優雅でまったりとした平穏な日々は、ひたすら無駄に過ぎてしまう。著者は、ある意味、他の人が体験できない有意義な体験をしてしまったのだと思う。
ところで、余計なお節介だが、この著書には、数カ所誤植があった。
P.95 最後の行「て逆に衛医大は」 は、「て逆に防衛医大は」ではないのか。
P.175 これも最後の行で「肩が悪いと思いものを持てません。」「肩が悪いと重いものを持てません。」では。
ところで、彼は一体何をして生計を立てているのだろうか。この本がベストセラーになって十分暮らしていっているのだろうか。私も、作家になりたい。私の場合は小説だが、どんな小説を書いているかは、タグの「ノベルズ」から拾って読んで貰うと有り難い。
by masagata2004
| 2009-09-08 19:29
| 書籍評論
|
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Comments(4)
Tracked
from 楽なログ
at 2009-09-13 00:21
タイトル : 出版関係の寄り合いにて
夕べは出版関係者の寄り合いがあった。 二次会で午前様になった人が十数人いて、それだけフリーランス稼業の人が多いということで、寝坊出来るのは良いが、ワーキングプアの人も多いということ。 それで、会社の経費で落としてくれる人がいると大喜びというわけだ。 その会場のカラオケスナックで、店でこれを唄った客は初めてだそうで、マスターも知らなかったのだが、「初めて聴いたが、なんかすごい良い歌だ」と本当に感心していたが、このサビの部分で熱が入ってしまったため、喉を痛めてしまった。それで今日は沈黙の日に...... more
夕べは出版関係者の寄り合いがあった。 二次会で午前様になった人が十数人いて、それだけフリーランス稼業の人が多いということで、寝坊出来るのは良いが、ワーキングプアの人も多いということ。 それで、会社の経費で落としてくれる人がいると大喜びというわけだ。 その会場のカラオケスナックで、店でこれを唄った客は初めてだそうで、マスターも知らなかったのだが、「初めて聴いたが、なんかすごい良い歌だ」と本当に感心していたが、このサビの部分で熱が入ってしまったため、喉を痛めてしまった。それで今日は沈黙の日に...... more
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ruhiginoue at 2009-09-13 00:59
細かい所までお気づきだから、実物まで読んで下さってるようで、感謝します。
文筆にご関心お持ちなら、その点を知りうる限りで述べさせていただきます。
誤植のご指摘ありがとうございます。実は他にもあるのですが、一度で根絶はほぼ不可能です。複数人でチェックしても、出版されてから発見はざらにあります。文字なら意味から理解できますが、楽譜だと判別しにくいので厄介です。
文筆業の生計について、トラックバックしたような実態があり、多くは副業をしてます。俳優の圧倒的多数が,声優や結婚式の司会をしているのと同様です。選挙の応援演説や集会の司会をする場合も有り,それが縁で売れない西部劇役者から大統領になった人もいました。
物書きの場合は、新聞雑誌記事や有料ブログの執筆のほか他人の代筆業が多く、とくに芸能人や政治家のいわゆるゴーストライターです。裁判の体験談や自伝の聞き取り代筆もありますし取材録音の文字化「テープ起こし」などもあります。もちろん外国語が得意なら翻訳もあります。
勤めをしてる人もいて、出来れば誰でも大学講師など時間の融通が効くことをしたいものですが、そうはなかなか。
文筆にご関心お持ちなら、その点を知りうる限りで述べさせていただきます。
誤植のご指摘ありがとうございます。実は他にもあるのですが、一度で根絶はほぼ不可能です。複数人でチェックしても、出版されてから発見はざらにあります。文字なら意味から理解できますが、楽譜だと判別しにくいので厄介です。
文筆業の生計について、トラックバックしたような実態があり、多くは副業をしてます。俳優の圧倒的多数が,声優や結婚式の司会をしているのと同様です。選挙の応援演説や集会の司会をする場合も有り,それが縁で売れない西部劇役者から大統領になった人もいました。
物書きの場合は、新聞雑誌記事や有料ブログの執筆のほか他人の代筆業が多く、とくに芸能人や政治家のいわゆるゴーストライターです。裁判の体験談や自伝の聞き取り代筆もありますし取材録音の文字化「テープ起こし」などもあります。もちろん外国語が得意なら翻訳もあります。
勤めをしてる人もいて、出来れば誰でも大学講師など時間の融通が効くことをしたいものですが、そうはなかなか。
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ruhiginoue at 2009-09-13 00:59
小説だけでやっていける人は、名前がブランドになった一部のスターを除けば、出版社に他の作家たちと抱き合わせで売ってもらうのでなければダメです。だから出版社の言いなり「奴隷フリーランス」となりがちです。有名な文学賞を受けても、ほとんどはそうで、それでも食えるだけマシで、他は副業しないとやっていけません。
最近は漫画家でも厳しいから、小説家はもっとでしょう。
幸運にも売れたら、その著作使用権について適正な管理をできるかに、この先やって行けるかどうかがかかっています。
最近は漫画家でも厳しいから、小説家はもっとでしょう。
幸運にも売れたら、その著作使用権について適正な管理をできるかに、この先やって行けるかどうかがかかっています。
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masagata2004 at 2009-09-13 01:24
ま、趣味として小説を書き続けます。宝くじを引くようなものですよね。趣味として書き続けるので十分楽しいですから。
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doramamaker at 2009-09-15 20:47
こんにちは。私も実は物心付いた頃からずっと漫画を
描いていて、15歳から同人誌活動をはじめ、そこそこ
生活費を稼いでいたりしたのですが、今は派遣勤務で
すっかり作品制作も休止しています。
現在ではネットや様々な方法で作品を発表できますし、
様々な活動の方法があると思うので、プロになるだけが
全てではないんじゃないかな、と思える時代になりました。
趣味として充分楽しめる、生きがいを感じられる、
仲間が出来るのですから、それもまた手段の一つですよね。
描いていて、15歳から同人誌活動をはじめ、そこそこ
生活費を稼いでいたりしたのですが、今は派遣勤務で
すっかり作品制作も休止しています。
現在ではネットや様々な方法で作品を発表できますし、
様々な活動の方法があると思うので、プロになるだけが
全てではないんじゃないかな、と思える時代になりました。
趣味として充分楽しめる、生きがいを感じられる、
仲間が出来るのですから、それもまた手段の一つですよね。
私の体験記、意見、評論、人生観などについて書きます
by マサガタ
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