環境教訓小説 「原発ターミネーター」 第3章 原発未来図

原発建設阻止の活動家の前に未来人現れる。その正体と目的とは?

まずは、第1章第2章をお読み下さい。

「そんなことあり得ない」
と洋二は叫んだ。当たり前だ。なぜ、田辺吾郎が孫を持っていない時代に、それも、その田辺と同じ歳格好の孫が現れるというのか。
「それは、普通の常識ではあり得ないことだ。私も、こんなことができるとは夢にも思っていなかったが、苦心の研究の末、実現した。タイムマシンだ。私は、今から60年後の未来から来た」と老人。
「え、あんた何を言っている? 狂っているのか?」と洋二、仰天され放しだ。
「ハハハ、どんなに説明しても信じられないだろうが、昨日のクレーンへの攻撃も、その未来から持ってきたものだ。タイムマシンと一緒にな」
気が付くと、男のすぐそばにスリムで丸い形の軽自動車が停まっている。その車のすぐそばに、小さなバズーカ砲みたいな金属でできた円筒があった。
「これで、あんたが撃ったのか。でも、あんな威力を持つ武器のように思えない。いったい、どんな弾を使ったんだ。かなり大きな弾と火薬が必要だぞ」
「弾は要らない。要るのは空気だ」
「え、そんなバカな。空気が弾になるのか、よっぽどのエネルギーがないと」
「あるさ、電気だ。それも、風力や太陽光を使った自然エネルギーだ。それを蓄積して空気を圧縮、発砲するエネルギーとした」
「ははは、笑わせるな。そんな大それたことが」と洋二、嘲笑う。
「昨日みた通りだ。その証拠に、クレーンが切り落とされた跡には、弾薬や金属の弾の破片など発見されなかっただろう」と老人。
確かに、と洋二は思った。だが、それだけで、この老人が本当に、空気砲を使ったということを信じる気にはなれなかった。
「おい、何なら、今使ってみて証明してみてよ」
「ああ、それが残念ながら、充電一発限りの空気バズーカだ。一発撃って電気がなくなってな。未来では、高電圧充電で数秒で蓄積できるのだが、ここではかなりの時間がかかる」
「ハハハ、うまい話をしやがって、あんた詐欺師か何か。田辺社長にたまたま似ているからって、こんな奇想天外なストーリー作りあげなくても、確かに昨日のクレーンが切り落とされたのは不可解だったけど、だからって」と洋二、呆れてしまった。

「ならば、この記事はどうだ。なぜ、ここが君にとって思い出の場所か私が知ったのか教えてやる。それはこの記事が理由だ」
と紙で印刷された雑誌の記事を差し出す。紙は一枚で、雑誌ではないが、雑誌記事をデータベースから拾い印刷したような状態だ。年月日をみると今から5年後である。
 
タイトルは、「瀬戸内海に神関原発完成 想い出の場所で悔しさを語る反対活動リーダー」というインタビュー記事だ。
写真がある。髪型が違っているが、紛れもなく洋二だ。丁度、この場所に立っている姿だ。
もう一つは、完成した神関原発の姿。何度も目にした完成予想図通りの写真だ。絵ではなく、生で写した写真であることが分かる。
「長年、地元の漁民や住民からの反対運動を受けながらも完成した神関原発に対し、運動のリーダーが、運動を起こすきっかけとなった場所から、原発建設を阻止できなかった悔しさを語った。」という出だしで、洋二が、運動を始めるきっかけとなった場所が、生まれて初めて女性とのキスを体験した場所で、その女性がその後、白血病で亡くなったことなどが綴られている。
 
抵抗運動は、電力会社や警察などが、あらゆる手口で潰しにかかり、結局、頓挫してしまったことなども語られている。そして、今後、この海に原発が稼働することで生活環境が変わり、どんな危機が訪れるか不安であると語り記事は結んでいる。

なるほど、これで知ったのか、これが未来の記事であることは紛れもない事実だ。今まで、誰にも話したことがない、洋二だけが知っている事実が書かれている。

この老人が未来人で60年後から来た。それも、自分たちが対立する連中の頂点に立つ男の孫にあたる。孫、そういえば、田辺社長の娘、小夜子嬢が身重の体で昏睡状態だと。これって、もしかして、この孫が腹にいる状態でのこと?

「ねえ、この車がタイムマシンだというのか?」と洋二。
「ああ」と老人。
「はあ、電気で動くの」
「これは、ハイブリッドだ」
「ハイブリッド? じゃあ、電気とガソリン?」
「私の時代では、車は電気のみで走るのが当たり前だが、これは特別な造りでな。時空を移動するため、特別に強力なエネルギーを必要とした。本来ならば使ってはならないものを、タイムトラベルのために使った。プルトニウムだ」
「プルトニウム、って原発の廃棄物から造るものでしょう?」
「そうだ、私の時代には、原発は、とんでもない事故が起こり、全く使われなくなり、その上、その後に、膨大な量の捨て場のない廃棄物を抱え込むことになった代物だ」
「とんでもない事故?」

今から私が辿ったこれまでの人生と、なぜ、この時代に来たのかを映像を使って説明してやろう。老人は、指輪をはめている手の指をさっとあげた。すると、突然、指輪から光が出て、映像が浮き出た。映写機のようだ。だが、スクリーンは必要ない。映像は、空気中に固定され、浮かぶスクリーンのようになっている。これが、未来の技術というものか。

さっそく、どす黒い色の海の映像が出てきた。そして、その海に浮かぶかのように、建物が建っている。神関原発のようにみえるが、完成したばかりの写真とは様子が違う。そうだ、建物に覆いがされているような姿だ。

「これは60年後のこの辺りの様子だ」と老人。



映像にその姿が現れる。そして、ナレーションと共に映像の中の老人が話しを続ける。
「私は、大それた事故を起こした原発を運営する電力会社の社長の孫として生まれ、その後、原子力技術者となり、祖父の代から続く電力会社に勤めることとなった。私が物心ついたときから、神関原発は稼働されていた。すでに周辺の海域では温排水によるものと思われる漁業被害がみられ、瀬戸内海の漁獲高の減少などが報告され、それが原発のせいではないかと訴える漁民などがいたが、そんなことは気にかからなかった。私は、原発は省エネで温暖化を防ぐ、すばらしいエネルギーだと信じて疑わなかった。生まれ育った瀬戸内に住み、結婚をして子供ができ幸せな生活を送っていた。あの時までは。
私が35歳の時、原発が完成し稼働してから30年が経ったとき、老巧化した原子炉が異常現象を起こし、炉内で水蒸気爆発が、そして、原子炉がメルトダウンを起こし、大量の放射能が流出した」空気中、そして、海中に流し出された。

その事故が起こった当時のニュース映像らしきものが流れる。屋根が吹き飛び、煙が放出される映像。

「その後、瀬戸内海は壊滅的な打撃を受けた。内海での漁業は完全に禁止。周辺住民は無期的に避難。汚染された海と陸。事故後、白血病や癌を発病する人々が多発する。私も、その被害を受けた。私の5歳の長男は白血病にかかり難病を克服したものの、障害を遺す結果に。事故当時、妻の腹の中にいた2番目の子供は、生まれてから数日後に死亡した。妻は、その後、子供を産めない体になった。私自身は、事故から数年経って癌を発症。手術して患部を切除して命を取り留めたが、その後、何度も命の危機を感じるような奇病を患うことになった。祖父の造った原発で孫とひい孫がとんでもない被害を被ることになった結果だ」

老人は、着ていたシャツをめくり、腹部の手術で腹を縫った跡を見せた。とても大きな傷だ。

「原発事故の被害は日本中に広がり、日本という国を奈落の底に落としている。事故後、国内の癌や白血病の発症率は激増した。そして、日本という国の国家としての信用は失墜。経済は衰退。自給率が低い上、食料を輸入に頼っていたため、深刻な食糧不足が国民を襲うことになる。おまけに日本中が放射能で汚染され、かなり多くの箇所の農地や漁場が使えなくなった。事故は起こらない、安全に稼働している、という言葉は事故が起こる前に言えたこと」

「そして、事故の被害以上に困ったことは、原発が稼働の度に出す廃棄物の処理だ。膨大な核廃棄物は、無害になるまで1万年はかかるといわれている。その間に、しっかりとモニターして維持管理しなければならない。すでに事故の大被害によるショックと原料のウランの枯渇で原発は廃止される運びになったが、廃棄物の処理は課題として残ったままとなる。原発が数十年間だけ電気を流した後に、子孫に未来永劫に、そのゴミ処理のツケを回すことになる。そのためのエネルギーを考えたら、それは原発が発電において二酸化炭素を出さないとか、少ない量で膨大な発電をできるということが、限定的な状況でのメリットでしかなかったことが分かる。実際のところ、稼働が停止してからの後処理を考えれば効率が悪くエネルギーのロスは膨大なのだ。結局のところ、私の時代では、原発なきあと、石油なきあと、残ったのは、以前から注目を浴びていた自然を源とする再生可能エネルギーだ。それしか残らないことは分かっていたのだから、もっと早くから力を入れて発展させるべきであった」

映像は、そこで終わった。洋二にとっては、反対運動をするに当たって学んだ知識の焼き増しやシミュレーションをみせられたという印象だった。これが、未来に起こるというのか。絶対に止めなければいけない。だけど、止められないということなのか。

「私が、この世界に来た目的というのは、この原発が建てられることを事前に防ぐことだ。科学者と共に、プルトニウムを使ったタイムマシンを秘かに開発した。過去に戻って、悲劇の原因となるものが造られるのを防ごうというのが発想だ。20世紀に大ヒットした映画「ターミネーター」から発想を得たんだ。そのためにも、君への接触を試みた。この時代で反対運動をしている君と一緒に組めば、防げるかもしれないと思ってな。さっそく、この時代のインターネットに侵入して君の情報を手当たり次第入手した。携帯電話の番号も。ま、実に簡単だったよ、この時代のネットはセキュリティが実に甘いからね」

「しかし、工事のクレーンを一本壊したからといって、建設を阻止することはできないでしょう。むしろ、昨日の事件で警戒が、さらに強くなって、僕のカヌーも取られてしまった。どうせ、奴らは、ごり押しで進めます」

洋二と老人は、しばらく沈黙して考え込んだ。

すると、洋二は、あることを閃いた。
「映像を使いましょう!」

最終章へ続く。


by masagata2004 | 2010-05-20 00:17 | 環境問題を考える


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