旅小説「私を沖縄に連れてって」 第4章 キャンプ・ヘナコ

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い。

まずは第1章から第3章までお読み下さい。

 自分は何と危険なところで海水浴をしていたのか。今いる浜辺から、数百メートル先には、さっき海中で出くわした黒いウェットスーツを身につけ、ライフル銃を抱えた兵士らしき人物が複数、上陸している。
 ヘリコプターの轟音も鳴り響く。また、さらに、そのヘリからロープにぶら下がりながら、人間が海中に落ちていく。これが海兵隊の訓練というものなのか。
 そして、リゾートホテルかと思っていた建物は海兵隊基地の施設ということか。
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そして、よく見ると、その施設の建物から続く浜辺から、この漁港近くの浜辺の間に金網のフェンスが設置されているのが見える。龍司と安次富のいるところから五十メートル程先のところだ。
 こんなこと知らされてなかったぞ。龍司の仰天した表情を見た安次富は、
「心配することはない。月に何回かある程度の訓練で、たいてい規模の大きいものは通告がある。奴らともめったに会うこともない」
と言った。やや申し訳なさそうな表情をしている。昨晩話していた「通告」とはこのことか。龍司は、どう反応していいのか分からなかった。ヘリの轟音が鳴り響く中、二人の間にしばらく沈黙が続いた。すると、安次富は、
「そもそも、海水パンツ一丁で泳ぐのはいけんぞ。まあ、内地の者ならみんなそうするのだろうが、ここでは海に入る時は、上に必ず何かを着る。そうしないと、体が焼けただれて大変なことになるからさ。漁に出る時もそうだぞ」
と叱りつけるように声を立てた。
 納得である、と龍司は思った。真夏の八月だから日本中どこでも日差しは強いのだが、ここは、明らかに東京より日差しが強い。太陽がより高い角度で光を差しているのが分かる。緯度の低い南方にいるということだ。朝早いというのに、東京にいる時の真昼のような日差しの照り方だ。これで正午となると、眼も開けてられない。海上ならば尚のこと。サングラスを持ってこなかったことを後悔した。すぐにでも買おう。そうしないとこの日差しにはかないそうにない。
 とりあえず、詰め所の建物に戻った。すでに昨晩会った漁師たちが何人か来ていた。訓練が終わり次第、漁に出るつもりだと。通告はあるが、実施日だけなので、いつ始まるか終わるか正確な時間は知らされない。その日一日中、終わるまで待つか、漁は中止するかしないといけないという。

 一時間ほどして海兵隊の訓練は終わったのか、辺りは一気に静まった。龍司は、この辺奈古の町を回ってみることにした。
 何と言っても、興味があるのは、そのキャンプ・ヘナコといわれる訓練基地だ。海浜からではなく、陸上の入り口から見たいと思った。
 日本で米軍の海兵隊の基地があるのは沖縄だけだと聞く。そして、沖縄には数多くの米軍基地があると聞く。時にテレビや新聞のニュースになることがあるので、誰でも知っていることだ。日本国内にある米軍基地の七十五%が沖縄に集中していると。国土面積の一パーセントに満たない県なのに、どうしてかと沖縄県民からの不満の声が流れたりする。
 もっとも、龍司は、そんなニュースには今まで一度も関心を払ったことはなかった。だが、間近に米兵が訓練して自分自身にあんなにも迫って来た体験をしてしまうと無関心ではいられない。その上、これからずっとその近所で生活することになるのだ。




 訓練が終わり静まった浜辺に龍司は戻った。空にはもうヘリコプターは飛んでいない。早朝の大騒ぎが嘘だったかのように静まりかえっている。
 有刺鉄線のワイヤフェンスが浜辺を区切っているところまで近付いた。高さは、腰のところまでで、ワイヤをくるくる巻きにして置いているという感じで簡素なものだった。ちょっと無理すれば飛び越せないことはない。
 だが、フェンス際には、有刺鉄線よりはるかに威圧効果を与える立ち入り禁止看板が立てられていた。英日語で書かれている。
「US Marine Corps Facility
米海兵隊施設
Unauthorized entry is punishable under Japanese law
許可なく立ち入った者は日本国の法律で処罰される」
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 何とも言えない表示だ。まあ、関係者以外は立ち入り禁止と言いたいのだろうが。
 さて、この有刺鉄線に沿って、龍司は陸上の方へあげっていくことにした。砂浜から森の茂る丘へ続いている。
 丁度、森が始まるところで、有刺鉄線ワイヤは終わり、フェンスは二メートルの高さの壁状の金網になっている。そこには、浜辺を監視するためのカメラが設置されていた。金網より高く五メートルぐらいの位置から周囲を監視している。これも威圧的だ。
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 どんどんフェンス沿いを上がっていく。フェンスの両側が丘の上の森林地帯になっている。この辺りは丘陵地帯だ。丁度、上がりきったところは大きな道路だった。
 普通の乗用車やバスが通り過ぎた。どうやら公道のようだ。だが、右側を見ると、その公道に沿って同じようなフェンスが続いた。その百メートルぐらい先に基地のゲートらしき場所が見える。
 ここまでが基地かと思いきや、道路の反対側に眼を移すと目の前にまた丘が始まり、そこにも金網が。そして金網の背後に戦車のような車両が並べられている。
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 つまり公道を挟んで基地がある。公道が基地の中にあるということだ。
 そして、基地のフェンスが続くところとは逆方向である左側を見ると、その先に住宅の並ぶ集落が見える。
 龍司は、その方向へ向かった。沖縄の住宅は皆、鉄筋コンクリートでできている。それは台風が頻繁に来るためだろう。
 各家の門には、つがいでシーサーと呼ばれるライオンのような像が置かれている。沖縄独自のものだ。
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 そんな集落を通り抜け、元の辺奈古漁港に戻った。
 
 漁港に戻ると、漁師たちが漁の準備を始めていた。龍司は漁師詰め所に戻った。
「どうだ、訓練が思ったほど早く終わったことだし、さっそく今から一緒にティラジャーを獲りに行かんかな」
と安次富が声をかけた。実に爽快な表情をしていた。よしっと龍司は気分を転換させた。さっそく海人(うみんちゅう)としての仕事が始まるのだ。わくわくしてきた。

第5章へつづく

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by masagata2004 | 2010-09-11 21:03 | 沖縄


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