旅小説「私を沖縄に連れてって」 第9章 島人ぬ宝

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第8章までお読み下さい。

 生物多様性という言葉が、ずっと印象に残っている。東京から沖縄に来て、一番気付いたのは沖縄の自然の豊かさである。よく珍しい生物を数多く目にする。例えば、浜辺を歩いていると、ごろごろとヤドカリが現れる。お握りを浜辺で食べているとサザエのような大きなヤドカリが、忽然と姿を表し手からこぼれたお握りの米粒を食べに来る。
 湿地に行けば、片方の足だけがやけに長い蟹が現れ、その何か特定の機能性が形になった思われる生物の姿に感嘆した。何だか、不思議の国に舞い込んだ気分にさせられる。

 そんな自然環境を守ることと、基地のない平和な沖縄を実現する願いを込めて、洋一をはじめとするテント村の活動家たちは、辺奈古の浜辺でのコンサートを企画し実施することとした。活動の宣伝や資金集めとしてのイベントでもある。
 基地との境界である有刺鉄線フェンス近くのテントを設置しているところに代わりに舞台を設置して地元の歌手による民謡や楽曲を演奏するのだ。浜辺に座って聴く観客は数百人程度。「ヘナコ・ピース・コンサート」と銘打った。 沖縄に住む人や内地の人々、メディアの人々などを招待しての反基地PRキャンペーンの一環とした。
 セーラも招待された。龍司も基地建設の被害を被る地元漁民ということで招待された。舞台が設営され、夕日が浜辺を照らす頃、コンサートは始まった。
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 最初は沖縄の民謡、島唄から始まった。民族衣装を身につけた老人の男性が沖縄の民族楽器である三線を奏で、夕焼けの浜辺にその音色と共に張りのある歌声を響かせた。セーラは感激した様子で観ている。
「はるばる数千マイルを飛んで来た甲斐があったわ。まさに異文化に触れたというような感覚ね」
と島唄を聴きながら言った。夕焼けに照らされるセーラの風になびく金髪と微笑む表情を見る。龍司には、それが、この上ない感動だった。
 島唄は夕陽に合うしんみりとしたものから、祭り的な陽気な曲調のものが演奏された。ウチナンチュウの観客は、自然に楽しんでいる感じだったが、龍司は楽しみながらも、聞き慣れない響きにやや退屈さを感じていた。
 だが、突然、観客席にわっと歓声が沸いた。




 その時、舞台に上がったグループバンドのせいだ。始まった時から、舞台にはドラムとベースがセットされていた。様々な歌手が入れ替わり上がったものの三線や笛、太鼓などの伝統楽器しか使われなかったのに、このバンドはドラマーとベース弾きが座った。それと共に三人の三線とギターを持った男たちが舞台に上がってた。真ん中の三線を持った男がリーダーのようだ。他二人はエレキギターを持っている。
 司会が言った。
「皆さん、今夜は沖縄を代表するバンド、ビギンが来てくれました。普段は内地の方で活躍されていますが、是非とも応援にということで帰郷していただきました。まず歌ってくれるのは現代ウチナンチュウの心情を代弁する唄、島人ぬ宝です」
 ビギンが歌い出す。
「僕が生まれたこの島の・・・」と真ん中の男が歌い出す。龍司は、はっとした、この唄は那覇空港に向かう飛行機の中で聴いた唄だ。沖縄の伝統三線とエレキ、ドラム、ベースによるポップな楽音が合わさった龍司でも耳に入りやすい曲調。そして、熱い想いをそのまま声にしたような歌声。とてつもなく身にしみる。
「これも、とてもきれいな曲ね。ボーカルの男性の歌声もすばらしいわ。何て言っているのかしら」
とセーラが言うので、龍司は、
「訳してやるよ」
と言って得意の通訳、それもウィスパリングという耳元で囁く同時通訳的な手法で歌詞の意味を伝えた。
 自分の生まれ故郷の島の自然を知っているようで知らない。しかし、それが変わっていく現実は身につまされる。珊瑚が汚れ、魚が減っている。だけど、自分は誰よりも知っている。教科書やメディアを通して伝えられる沖縄の知識や情報をはるかに超えた大切なものが、この島にあるということを。それこそが「島人ぬ宝」なのだ。
 ああ、身にしみる。大いに共感できる。まるで自分がウチナンチュウになったかのような気分だ。もしかして、すでにウチナンチュウになっているのかもしれない。
「とても美しい曲だけど、深刻なメッセージも込められているのね」
とセーラは悲しげな表情をして言った。
 そうか、美しくも過酷な現実。そういう意味も込められているのか。それが沖縄の現実なのか。

第10章に続く

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by masagata2004 | 2010-09-29 01:21 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)
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