旅小説「私を沖縄に連れてって」 第12章 逮捕

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第11章までお読み下さい。

 翌日、早朝、活動家と海人たちは、漁船一隻とカヌー数隻を櫓の周りに浮かせ、同時に十人ぐらいは櫓の海面上の足場にどっしり座り込むことにした。その座り込みメンバーに安次富とその息子の洋一、龍司がいる。
 ジャングルジムのようなパイプで形作られた櫓の足場用板にところ狭しと十人もの人間が座り込む。
 作業船と海上保安庁の大型ゴムボートがやってくる。漁船一隻とカヌー隊は、すぐさまけ散らかされた。
 だが、この日の主戦場は櫓だ。そのために人員とエネルギーをこの場所に集中させたのだ。「さあ、来い」と皆、息巻いた。
 そして、彼らはやって来た。作業船から掘削用の機械を櫓の屋根の中に置こうとしている。そのためにも、足場にいる龍司たちを追い払わなければならない。
 ヘルメットと救命胴衣と黒のウエットスーツを身につけた男たちが足場に踏み込んできた。さっそく、座り込みメンバーをどしどし海に投げ落としていく。小柄な女性は、すぐに落とされた。三十分ほどで座り込みメンバーは半分になった。
 洋一も海面に落とされた。必死に足場に上がろうとするが、それを足裏で押さえ、また引き落とす。何度もそんな状態が続くと疲れてしまい海面でもがき、仕方なく漁船に泳いでいき一時休をしのぐ。間違っても敵側のゴムボートや船に拾い上げられてしまってはたまらない。
 龍司と安次富は、体を引っ張られながらも粘って座っている。龍司は自分を引きずり降ろそうとする連中がつかむ胴体と腕に力を入れ、相手がつられて力んだ瞬間を利用して絶妙のタイミングで力を抜き、それと同時に体を反転、それにより、連中のバランスを崩させ海中に落とすという高度な格闘を繰り広げた。外見上、相手に暴行を加えていない格闘だ。
 だが、安次富は、何度も引っ張られ体がへとへとになっている様子だ。しかし、それでも粘る。すると、黒いウエットスーツの男は安次富の首を絞め始めた。安次富は「ぐ、ぐう」と言う。
 こりゃ、とんでもないぞっと思った龍司は、立ち上がりその首を絞める男の腹に蹴りを入れた。すると、その男は安次富の首をつかんだまま一緒に海面に投げ出された。
 海面で安次富が息をしようともがいている。首を締め続けられた状態から平静を保とうと必死だ。すると、さっき首を絞めていた男が、今度は安次富の頭を押さえ海中に沈み込ませようとする。
 殺す気か、と危険を察知した龍司は海に飛び込み、安次富を押さえつける男に近付き、得意のパンチを食らわした。水面でのパンチは得意技だ。大学時代、そんなことをしたために水球部を退部にさせられた。
 男は、一気に力を失い、意識もうろうとなり、海面に浮かぶだけの状態になった。
 安次富は、息をふうふうさせながら、正気を取り戻そうとしている。だが、ショックが強かったらしい。顔を真っ赤にしてかなり苦しい状態だ。
 これはまずい。急いで仲間の漁船に乗ろうと思った。すると、目の前に海保のゴムボートが止まった。男が一人手を差しのべる。見ていられなくなったのか。危ない状態なので急いで海面から出ないとと思い、手を伸ばし、安次富も一緒に引っ張り上げゴムボートに乗った。
 とりあえず、助かったと思った。安次富もすぐに落ち着きを取り戻した。同時に龍司に殴られ救命胴衣で浮かんでいるだけの状態になった男も海面から引き上げられた。
 龍司と安次富を海保の男が見つめ言った。
「お前らを威力業務妨害で逮捕する」
 龍司は仰天した。即座に二人に手錠がかけられた。そして、海保の男は龍司に向かって怒鳴り声で言った。
「お前はそれに加えて公務執行妨害と暴行罪だ」
「何だと、あれは正当防衛だぞ」
 龍司は言い返したが、奴らは無視して、ボートを陸に向けて進ませた。最初から、これをすることが目的だったのではないかと疑う。




 数時間後、龍司と安次富は同じ留置場内のベッドに寝そべっていた。
 寝れた服を着替え、取り調べを受けたが、必死で龍司と安次富は正当防衛を訴えた。どうせ、奴らのシナリオが決まっているんだろうが、言いたいことは言わないといけない。
 警官は、作業の妨害を目的で座り込んだ龍司たちを引っ張り排除しようとしていたところ、それに対し悪意をもって暴行を加えた、という海保が主張する説明が正しく、龍司の行為は正当防衛に当たらず、海保が安次富に首を絞めるなどの暴行を加えたという事実はないのだと龍司に告げた。
 これから、どれだけ拘置されるのだろうか。警察に逮捕されると、たいてい数ヶ月、拘置されることになるという。この間、漁に出られない。生活はどうなっていくのか。だが、何よりも、この逮捕を口実に基地建設反対の活動をテロ活動と同等の行為だとレッテルを貼り反対運動そのものに弾圧を加えていくのではないか。連中にまんまと乗せられたということか。
「すまないさな、こんなことに巻き込ませてしまって」
と安次富が龍司に言った。
「いいさ、こんなことになるのも覚悟のうちだったんだ。それに、安次富さんは俺をこんなことに巻き込ませるつもりで俺を海人にさせたんだろう。どうして、俺のような奴が海人になれたのか、その意味がしっかりと分かった。悔いはないよ」
と龍司、この状況に適応させるつもりで言った。
「いやあ、すまない。どうしても海を守りたくてな」
と安次富は申し訳なさそうだ。
 外は大雨のようで、そのうえ暴風が吹いている。そういえば、早朝の天気予報で台湾近くで台風が発生していると聞いた。進路によっては沖縄を直撃するかもしれないと。
 時間が経つにつれ、風雨の勢いは強くなり、夜になると、その激しい音で眠れなくなるほどだった。
 何とか睡眠に入って翌朝、まだ、激しい風雨の音が聞こえる。どうやら台風が沖縄本島を通過していくようだ。
 拘置期限は翌日までだ。だが、おそらく延長されるだろうと警察官は言った。まさに台風のように激しい日々がこれから始まると考えていい。
 だが、翌朝、台風一過のせいか、一気に外は静まったと同時に、二人の釈放が警官から告げられた。
 どういうことだと思って、留置場を出ると、数十人もの活動家仲間が迎えに来てくれた。
外はすっかり晴れ渡り、まさに晴れて釈放となったのである。
 洋一が笑顔で言った。
「海保の奴らの汚いやり口を表に出したんだ。あの時の場面をビデオに撮っていた人がいてね。それをネットに流して、その後、テレビでも流れたんだ。みんなで一斉に抗議電話をかけて、警察も仕方なく釈放したというわけさ。権力側もしばらくおとなくしなければいけなくなったかも」
 龍司も安次富も、ほっとした。何とか正義がまかり通ったというわけか。自分たちのしたことが思わぬ成果を上げたと言っていいのではないか。
「もっといいニュースがあるんだ」
と洋一がさらに微笑みを増して言う。
 それは辺奈古の海岸に戻ってみてよく分かった。沖合に建っていた櫓が消えている。台風が丸ごと吹き飛ばしたのだ。台風一過の穏やかな水平線は真っ平らだ。まるで自然が味方したかのような光景だ。
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 一同は大喜びだった。龍司と安次富の釈放、権力側の横暴が公に知らされ活動の支援の輪が広がり活性化していく。そのうえ、自然の力で破壊の序章となっったかもしれない櫓が台風により吹き飛ばされてしまった。
 まさに台風一過にふさわしい晴れ晴れとした気分を龍司たちは感じた。
 その後、しばらくして新たな台風がやってきた。それは自然界の台風ではなく、日本の政界の台風である。
 戦後、六十年近く、政権交代のなかった日本の国会に台風がやってきた。不景気と内閣の指導力のなさに端を発した政治不信により内閣も与党の支持率が大幅に低下、今度こそは政権交代になるかもしれないと期待が沸いた。
 衆議院が解散され、総選挙に、政党支持率も政権交代を目指す野党連合側が与党よりも高い。最大野党の主民党は、これまでの日米安保体制を見直し、地位協定の改正、沖縄の基地負担軽減のため普天間基地の県外または国外への移設を公約に掲げた。
 もし、政権交代が実現すれば、普天間基地は沖縄から代替施設なしに完全に撤去されるかもしれない。そんな期待が渦巻いた。沖縄県選出の野党候補は、皆、県外移設を必ず実行させると選挙で訴えた。
 そして、九月、選挙結果は野党連合側の圧勝。政権交代が実現した。沖縄の議席も皆、県外移設を訴える野党側候補が占めた。というより、彼らこそ与党となり、これからの日本の政治の方向性を決める役割を担うことになるのだ。彼らこそが沖縄の運命を握ることになるのだ

第13章につづく

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by masagata2004 | 2010-10-04 21:12 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)
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