旅小説「私を沖縄に連れてって」 第13章 元自衛官国会議員

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第12章までお読み下さい。

 主民党による新政権が発足。政権交代という歴史的な快挙とあって内閣支持率は七割を超えた。課題は山積だ。何よりも景気の回復、雇用の増進が国民にとって最大の懸念となっている。
 しかし、沖縄にとっては普天間基地の移設問題が最大の懸念事項であった。
 新首相は、最低でも県外への移設に向けて努力すると国会での演説で述べたのだが、だが、対する在日米軍側は、普天間の辺奈古への移設は前政権との合意だったといえ、それは政権が変わろうとも日米の国家間の合意であると主張し、一歩も引かない姿勢を前面に押し出した。
 そして、それを受けてか次第に日本政府も、政権与党の主民党内にも移設先変更に対する慎重意見が出だした。
 本土のマスメディアや世論では、議論が真っ二つに分かれた。米軍がいうように、すでに合意事項だから今更、日本側の都合で変えるのは道理に合わないし、そんなことを要求するとアメリカとの信用を損ない日米同盟に悪影響を与えるという論調と、沖縄に今まで米軍基地を押しつけてきたこの異常な状態は改善すべきで、戦後六十年以上も経って、未だに日米関係は日米安保体制の下、不平等なままであり、政権交代をした今こそ、両国は対等な関係を構築すべきで、そのためにも、沖縄の基地負担の軽減、そして、日米地位協定の改定などを実現していくべきだという論調である。
 そんな内地の賛否両論とは別に沖縄では専ら、普天間基地県外・国外移設論が優勢であり、地元紙も日本国政府に県外移設をすべきだという論陣を張り続けた。
 政権交代により、日本は対米追従から抜け出し、やっとアメリカにものをいえるようになったのではないかと、これで沖縄も救われると期待が膨らむばかりであった。
 だが、日本政府では、閣僚の中から「時と場合によっては、公約を修正しなければいけなくなる」などの発言も飛び出るなど事態は不透明さを増していくばかりであった。

 そして、政権交代から数ヶ月経った頃、テント村に著名な国会議員が現れた。テレビや新聞で有名な主民党の議員で、元自衛官だったという人で、国防問題や外交問題の専門家だという。歳は五十ぐらいで口髭がトレードマークで名は佐藤俊雄という。背広に議員バッチをつけてやってきた。今は主民党政権内閣の下、防衛政務官を務めており、移設問題のキーマンの一人でもある。今回の県外移設の公約に関しては、首相を支えつつも、慎重論を掲げている人物である。
 その日の午後、テント村は、この思わぬ来客でやや騒然とした。秘書とガードマンを同行して現れた佐藤氏は、皆の意見を聞くためにやってきたと言う。あくまで自分の立場は中立であり、できるだけ多方面の立場の意見に耳を傾け参考にしたいと言う。
 態度が定まらない主民党政権に対する不満は日に日に強まっており、活動家たちは、想いのたけをぶちまけた。
「なぜ、公約を実行しないのですか。散々、沖縄に期待もたせておいてひどいじゃないですか」
「新基地は米軍だけでなく自衛隊も共同で使いたいから、計画変更なんてしたくないのでしょう。そんなに軍備が必要なのですか」
「選挙で応援して、主民党を勝たせた沖縄を裏切るつもりなのですか」
 龍司も、言うべきことを言うことにした。特に佐藤が元自衛官のタカ派であり、毎年、終戦記念日には、靖国神社に参拝するというので、この人物の立場になりきったつもりでの意見を述べた。
「佐藤さんよ、この浜辺の有刺鉄線を見て日本の国会議員として屈辱的だと思わないのか。日本の安全のためとはいえ、他国の軍隊に、この土地を占拠されているんだぞ。戦争に負けて取り上げられた土地に基地を造られ、さらにそれを広げるために海を埋め立てることまでされようとしているんだ。有刺鉄線の看板を見ろよ。「入ったら日本の法律で罰せられる」って。こりゃなんだ。日本人をバカにしてやがるんじゃないのか。そのくせ、奴らは騒音出したり、犯罪やったりとやりたい放題じゃないか。まだ日本は占領状態にあるとしか思えん。日米安保とかいうが、この軍隊は、あんたらが参拝する靖国の英霊とやらを処刑した軍隊だぞ。そんな奴らのいいなりにいつまでなるんだ。真の愛国者なら、こんなものとっとと撤去しようとまず思うのじゃないのか」
 龍司の言葉遣いは、相手が国会議員であることなどものともしないほど荒々しかった。いくら何でも言い過ぎじゃないのかと周囲の活動家たちさえにも思わせるほどだった。また、龍司の意見は活動家たちにとっては、ややピントの合わないものだったみたいだ。テント内は、しばらくシーンとなった。
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 佐藤は表情が急に深刻になり、
「いや、いろいろな意見を聞かせていただきありがたく思います。時間も時間なので、ここらで失礼させていただきます」
と述べて、秘書、ガードマンと共にテント村を去った。予定では、この後、名古市の市長や市議会議員と面会するため市役所にいくという。来年の一月には、この市で市長選が予定されている。現市長は、かならずしも新基地建設に反対ではないと聞く。



 その日の晩、龍司は「バー・アップル」に立ち寄った。急にビールかウィスキーが飲みたくなったのだ。まだ、開店したばかりの午後八時だ。中に入ると、思わぬ人物と再会だった。数時間前、テント村で出会った男。佐藤俊雄衆議員議員、防衛政務官だ。
 佐藤議員はカウンターで飲んでいるのに対し、秘書とガードマンは少し離れたテーブルで御茶を飲んでいるという感じだ。中にいる客はその三人だけで、あとはバーテンダーのマスターだ
 龍司は入っていいのか、一瞬、足止まった。「やあ、君か。また会えたな。遠慮せず、入ったらどうだ。ここは私の店ではない」
 マスターも歓迎の表情を龍司に見せた。何とも気まずい雰囲気。秘書とガードマンは、じろじろと龍司を見つめ、不歓迎であると言いたそうだ。
 龍司は、さっとカウンターに座った。
「マスター、彼に今、私が飲んでいるバーボンを一杯」
と佐藤。
「いや、結構ですよ。国会議員は、そんなことしちゃあいけないんでしょう」
と龍司は言ったが、
「ふん、構わないよ、今は選挙中じゃない。それにある種の経費として落とせるかもしれない」
と冗談ぽく佐藤は微笑み言った。
「俺が買収されるとでも思ったら、大間違いですよ。これでも辺奈古のウミンチュウですから」
「とんでもない。君に敬意を表しているんだよ。昼間、君の演説には感服したよ。もっともな主張だ」
「え、そう思うのなら、あなたも反対だってことですか」
と龍司。すると佐藤はほくそ笑って言った。
「この問題はな、実のところ、とても複雑なんだよ」
「複雑というのはどういうことで?」
「日米安保、日米同盟のため仕方ないとよくいわれるよな。そこに実をいうと大きな勘違いがある」
「勘違いって? 米軍は日本を守っているから仕方ないってことでしょう」
「ふふ、守ってなんかいないよ。そもそも、そのために駐留しているんじゃない」
という佐藤の言葉に龍司は衝撃を受けた。
「嘘でしょう。よくいうじゃないですか。日本中に基地があるのも、思いやり予算といって駐留経費を払うのも、日本が守って貰うからだと、そのためにも沖縄への基地負担はいかしかたないって」

第14章に続く

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by masagata2004 | 2010-10-07 18:01 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)
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