旅小説「私を沖縄に連れてって」 第15章 再会

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第14章までお読み下さい。

 普天間基地の移設がどうなるか結論は出ないまま、年越しを迎えた。辺奈古になる可能性は未だ残されている。県外か、国外かと、いろいろな議論が噴出され続けたが、県外の場合、どこも受け入れを嫌がっている。当然のことだろう。ならば、普天間の海兵隊のもう一つの移設先であるグアムに一括して移設してはどうかという案が出たが米軍は当然の如く拒否。
 年末が迫り、首相は長引くのはよくないと、遅くとも翌年の五月までに結論を出すつもりだと国会で明言した。果たして、どこになるのか。

 年が明けた一月、名古市は任期切れに伴う市長選が行われることになった。市長選は、土建業者の支援を受けているためか新基地受け入れ容認の現職市長対その市長の助役であり、新基地受け入れには反対を表明した候補の一騎打ちとなった。
 テント村の活動家たちは、当然のこと反対派候補の応援に奔走した。沖縄で県内移設反対の意見が強まっているとはいえ、いざ、選挙となれば事情が変わってくる。選挙となればどこでも利権にまつわる事情が優先され、土建業者が元来から大きな票田になっている沖縄では必ずしも、一般世論が選挙の結果を左右するとは限らないのだ。それに選挙の争点は、基地受け入れの是非にはとどまらないので、必ずしも反対派が勝つとは限らない。
 だからこそ、市民に対して直接語りかける戦法を取った。一人一人が基地にまつわる問題の実態を説明して回り、どう考えるかを問いかけたのだ。
 よくいわれている基地により沖縄の経済が成り立っているというのは必ずしも事実ではない。実際のところ、沖縄が基地に占拠されている場所が多いからこそ、都市計画などの妨げとなり、その結果、鉄道や利便性の高い交通網が敷けなく、結果、沖縄が発展できないというのが実情だ。逆にいえば、だからこそ、基地に依存せざる得ない状況が作り出されている。それに基地による経済効果は、基地内の従業員の雇用と施設などの建設費用に限定されており、それらは米軍のためだけであり、経済全体への波及効果は低い。また、米軍は冷戦後、日本の防衛を担う役割をなしていない。普天間飛行場が返還されても、新たに基地が建設されることで新たな基地の固定化につながるので、絶対に容認してはならない。米軍基地に関しては撤去しかありえないのだ。そのように反対派候補と、その応援をする活動家は、市民に説いていった。
 結果、反対派候補が勝利した。これで名古市の世論は辺奈古に新基地を受け入れることに反対であるということが、はっきりと示された。基地反対派新市長は「職を賭して阻止する」と就任演説で決意を述べた。市民は一致団結した。これにより、政府に県外・国外の移設という公約を守らせる大きな圧力を与えることになった。
 普天間基地の県外移設という期待が、県民の間にさらに強まった。しかし、政府の反応はそれでも、定まらなかった。
 
 四月
 思わぬニュースが海を越え、沖縄に伝わり、沖縄では新聞が一面で伝えるほどの大ニュースになった。
 それは、アメリカの連邦地裁が、普天間基地の移設先として予定されている辺奈古沖の環境調査をアメリカの国内法に照らして再考するよう国防総省に命じる判決が下ったというものだった。
 国防総省側は、辺奈古の環境調査は日本政府の管轄であるという立場から、判決に不服を示し控訴した。
 だが、これにより、辺奈古の基地建設がアメリカ側の事情により中止される可能性が生まれたのだ。
 この連邦地裁の喜ばしい判決を導いたのは、もちろんのこと、国際環境保護団体のブルーピースをはじめとするアメリカにいる環境保護活動家たちだ。
 彼らは、判決の報告をするため沖縄にやってきた。これまでも何度も訪れているのだが、今度は朗報を携えての訪問だ。もちろんのこと、テント村の活動家たちとも顔を合わすことになる。
 ブルーピースの中には、龍司が待ち望んでいたセーラ・フィールズ海洋生物学博士がいた。
「ハーイ、セーラ、久しぶりだな」




と龍司は大きな笑顔を作って迎えた。彼女も、とても嬉しそうな表情を見せた。二人は思いっきり抱擁した。ほぼ八ヶ月ぶりの再会だ。それだけでも嬉しかったが、それに加え反対活動には最高の朗報を携えてやってきたのだ。こんなすばらしい再会はない。
「君のおかげだ。感謝しなくちゃ」
「大いに感謝して、私も必死になって法廷で戦ったんだから」
とセーラ。ブルーピースの者たち、テント村の活動家たち、漁師たち、地元住民を交えてのパーティーを開くことになった。場所は、もちろんのこと、辺奈古のビーチでだ。有刺鉄線の側でバーベキュー・パーティーとなった。

 エメラルド・グリーンに輝く海を眺めながら、潮風を受け焼き肉、ゴーヤ焼きそばを食べ、泡盛、ビールを飲む。こんなに楽しい一時はない。
 勝負はまだ終わったわけではないが、勝利への期待が高まる中での安堵と高揚の一時だといえる。龍司も、美しきセーラを眺めながら、自らの人生においても最高の一時ではないかと思えるこの瞬間を噛みしめた。

 バーベキューはお昼から何時間も続いた。気が付くと夕暮れ時になっていた。人も少なくなり、暗くなるにつれまばらとなり、活動家たちも、さっさとバーベキューの道具を片付け帰ってしまい夕陽が沈みかけるようになったころ、ビーチには龍司とセーラだけになってしまった。
 海風が吹き、ちょっと寒気を感じるようになった。龍司にとっては、二人っきりになれたので、しめた、という想いであった。寒さしのぐのと、灯りが必要になったため、龍司は焚き火を砂の上で炊いた。二人は焚き火の前の砂面に腰を下ろした。
 彼女も、この状況になることを望んでいるような感じであった。二人っきりになっているのが分かっているのに、仲間と一緒に帰ろうとしない。ブルーピースの面々は、今後、控訴審に備えてさらなる活動を行うため、辺奈古に一軒家を借り切り、長期の滞在をすることになったという。
 焚き火を見つめながら、セーラが言った。
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「龍司、これから私たち、長い付き合いになりそうね。私も辺奈古にずっといなければいけなくなったから」
「よかったじゃないか。ここは、とてもいいところだ。俺も漁師として助けになることは何でもするよ。それに、君と好きなだけ会えるようになったのはとても嬉しい」
「とても嬉しい? それってどういう意味なの?」
と言うセーラの瞳は、ひときわ輝いている。これは、龍司は思った。数多い女性経験から、このチャンスを逃してはならないことはよく分かっている。女性は口よりも目でものを言うことが多い。彼女の目は、明らかにモーションをかけている。誘っているのだ。
 もちろんのこと、誘いには大いに乗るつもりだ。龍司は、セーラの肩に手をかけた。
 が、その時だった。有刺鉄線のところで、ざわざわとした音が聞こえた。何だと思い、見ると男が二人ほど近付いてくる。フェンスの低くなっているところを飛び越えて入ってきたようだ。太りとも、大柄で横幅も広い筋肉質な男たちだ。見るからにいかつい。近付くにつれ、焚き火で彼らの姿がはっきりと写し出されるにつれ、そのいかつさが露わになる。
 白人の二人の大男、まるでゴリラのようだ。そして、大男たちは龍司を睨んでいる。
「お前ら、ここで何してやがるんだ?」
とすぐに酔っていると分かる口調で男の一人が話しかけた。一気に雰囲気が重苦しくなり、殺気さえ漂う。危険な状況だと悟った。
「今から帰るところなんだ。じゃあな」
と龍司は言って、セーラと一緒に立ち上がった。セーラは怖がっている。女性なら当然だ。変に絡んで彼女まで巻き込ませてはいけないと思い、龍司は穏便に立ち去ろうと思った。
「ここで焚き火なんてしていいと思っているのか」
と怒鳴って龍司に男が詰め寄る。とっさに龍司の服の襟元をつかんだ。

第16章につづく

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by masagata2004 | 2010-10-11 00:37 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)
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