旅小説「私を沖縄に連れてって」 第16章 オレオ

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第15章までお読み下さい。

 龍司は、男の手を払おうとしたが、男は手を襟から放すと、突然、龍司の腹にパンチを加えた。龍司は、とっさにのけずさり地面に倒れ込んだ。かなりきついパンチだ。これまで、喧嘩などの経験で何度かパンチを喰らった経験はあるが、これは念の入ったパンチであると分かる。
 こいつらは海兵隊員だ。戦闘としての格闘を習っている。その筋が感じられる。
「やめて」
とセーラの声。すると、もう一人の男がセーラの手を取り、
「おまえ、どうしてアメリカ人のくせに、このジャップと付きあってやがるんだ」
と荒っぽい調子で言う。
「お願い、ほっといて」
とセーラが大声で言う。龍司は立ち上がろうとしたが、男に手で力一杯背中を押さえつけられ地面に平伏された。
「おい、おまえ、このリボンを外せ」
と男は耳元に顔を近付け、怒鳴り声で言う。怒鳴り声と共に酒臭い息が漂う。龍司は従うことにした。こいつらは戦闘訓練を受けている、そして、酒に酔っている状態だ。抵抗すると、かえって危ないと思った。特にセーラを危険な目に遭わせたくない。
 有刺鉄線に結ばれているリボンを一つ一つ外しにかかった。男たちは、それを見てへらへらと笑っている。何とも屈辱的な気分だ。
 突然、パーンと銃声が鳴った。何だと思ったら、もう一人別の男が現れた。男は小柄な男だ。手に小銃を持っている。
「やつらをほっといて、基地の中に戻れ」
と男は言った。龍司は、その男に見覚えがあった。それも、この場所で会ったことのある男だ。
「おい、トニー、何のつもりだ?」
と大男が言うと
「僕の言った通りにするんだ」
とトニーと呼ばれる小男は言って、銃口を大男二人に向ける。
 大男たちは、セーラと龍司から離れた。龍司は、とっさに立ち上がってセーラに近付き「大丈夫かい、セーラ」
と話しかけた。セーラは龍司に抱きつき
「大丈夫よ」
と返した。とても体が震えている。
「だから言っただろう。このフェンスに近付くなって」
とトニーは龍司を睨みつけて言った。トニーと男たちは、そそくさにフェンスの低くなったところを飛び越え去っていった。分断されたもう一つ世界、奴らの世界に戻っていったというのか。
 龍司は、トニーと初めて会った時の頃を思い出していた。昨年の六月だった。同じ場所だったが、昼間なので、もっとはっきりとお互いに顔を見てとれた。フェンスの近くにいた龍司を怒鳴って追い払おうとしたのを、龍司が逆に怒鳴り返し蹴散らしたのだ。
 その時の仕返しをさせられたような気分だが、トニーは自分たちを救ってくれたのだ。

「あのオレオ、あ、トニーと呼ばれていたわね、マッチョな男たちに。彼ら海兵隊員は、みんなどうしようもなく貧しい家の出身なのよ。まともな教育を受けてない人達だから、あんな粗野な行動を取るんだわ」
 セーラはビールを飲みながら、龍司にそう語った。二人は、浜辺のビーチから集落の飲屋街にある「バー・アップル」に移った。カウンターで肩を並べながら話しをしている。
「オレオってどういう意味だ?」
と龍司が訊くと
「ああ、悪い言葉使っちゃったわね。オレオってお菓子知っているかしら、黒いビスケットの中に白いクリームが入っているものよ。つまり黒人と白人の混血という意味」
「はあ、なるほど、確かにそう見えたな」
と龍司。
「多くの若者が、大学にも行けず、まともな職にもつけないで軍に入るの。アメリカは最近、どんどん貧しくなって、そんな若者が増えている。わたしがブルーピースに入る前に務めていた大学でも授業料が高くなって、おまけに予算削減で授業数がどんどん減っていき勉学を続けられなくなった学生を嫌って程見たわ。ついには講師も解雇されて、私も解雇の対象にされてしまった」
 セーラの意気消沈した表情を見るのは何とも耐えられない。龍司は、気分を変えさせる意味で敢えてこう言った。
「いや、でもな。あんな荒れくれものが君たちと世界の平和のために戦っているんじゃないの。テロとの戦いをアメリカは国是としているんじゃないのか」




「テロとの戦い、って。九一一が起こってからのことね。確かにあの事件には私も、みんなも怒ったわ。アフガニスタンに対しての攻撃も支持したわ。テロリストやそれを支援するタリバンのような国家を潰すためなら民間人に犠牲が出てもやむ得ないと思ったけど。でも、何年も米軍が戦闘して、結局、主犯のビンラディンは見つかっていない? その上、九一一とは関係のないイラクまで攻撃の対象にして、みんなを煽って突き進んだのはいいけど、フセインを倒せてもイラクは混沌とした状態になっただけ。結局のところ、テロとの関わり合いも大量破壊兵器もなかった。膨大な税金を費やして、イラクの人々を数多く傷つけ反感を増幅させて、結局のところ撤退。一体何だったのよ」
 セーラはさらに意気消沈な表情になった。
「アメリカ人でさえ、間違ったことと気付くようになった訳か」
と龍司は言った。
「そうね、戦争のせいで、人々の生活も困窮に瀕するばかり。ただでさえ経済が破綻しているといわれているのに、あんな大きな戦争をして、とてつもない額の税金を使うために教育や福祉の予算をどんどんカットしていったのよ。それも国家挙げてのテロとの戦いのためだって説き伏せて、でも、みんな、貧しくなっていくばかりで、病気になっても医者に診て貰うことが出来ない。日々の食事に困る人も増えて、貧しい家の子供は、学校にも行けずまともな教育が受けられない。大学に行くなんて無理だから、仕方なく、あの男たちのように軍隊に入るのよ。他に生きていく道がないから。そんな若者を使って、愚かな戦争を繰り返して、ますます国民を貧しくしているのが今のアメリカよ」
 龍司は、なるほど、と思った。貧しいから仕方なく軍隊に入る。愛国心とかいう理由よりも若者は、そういう理由で軍隊に入る。実のところ、龍司もそんなことを分からせる体験はしている。龍司も貧しい家の生まれだった。高校卒業後、大学に行けず、また就職先が決まらず悩んでいたところに、自衛隊からの勧誘が来た。それもやむ得ないと思っていたところに、資産家だった叔父が亡くなり、その相続財産を使い、大学への進学ができるようになった。一つ間違えば、自分も、あの海兵隊員のようになっていたかもしれない。
「リュウジ、わたしは何が何でも、あの海を守りたい。環境を守るだけでなく、これ以上、わたしの国を愚かな戦争に加担させないためにも。これは貴方の国のためだけではない。わたしの国のためでもあるの。世界中に基地を置いて、世界を支配しているような気分になっているけど、その一方で自国民を貧困に陥れている。もう王者として振る舞えるほどの余裕はアメリカにはない。軍事力よりも、あの美しい海を守ることの方がずっと、世界のためにも、アメリカのためにもなると信じているわ。そのためにも、あなたたちとつながって活動をしていきたいと思っている」
とセーラは、カウンターの上で龍司の手に彼女の手を置きながら、目を瞬かせて見つめる。龍司は、どきっとした。
「もちろんだよ、セーラ、君の協力には心から感謝している。みんなそうさ、特に俺は感謝している。君のそばにいられて、君と一緒にこれから活動できて・・」
 龍司は、セーラの手から伝わる心の高まりを感じながら、自らも鼓動を高まらせながら言葉を発っした。すると、セーラの目が、龍司から逸れた。龍司の背後にいる人物を見ているようだ。
 誰だと思い、龍司は後ろを振り向いた。いたのは海兵隊の大男。だが、浜辺で会った奴らではない。何度か顔を会わした男、ヘインズ曹長だ。
 何でこいつが、と思うと、ヘインズは
「悪いが、ミス、この男と二人だけで話しをさせてもらっていいかな」
とセーラに話しかけた。何だよ、せっかくいいところで邪魔しやがって。すると、セーラは、
「リュウジがいいのなら、いいわよ」
とセーラは、何者か知らないこの男に突然言われ、龍司に判断を求めた感じだ。
「何だよ、ミスター・ヘインズ、突然、話しだなんて、どういう用なんだ」
と龍司。ヘインズが海兵隊員だということをセーラに知られたくなかったので、ミスターという呼び方を使った。もっとも、この辺にいる白人で彼のような体格なら、海兵隊員しか考えられないものだが。
「男同士でないと分からない複雑な話しだ」
とヘインズ。
「あら、お二人とも中がよろしいのね」
とセーラがくすっと笑う。龍司は変な風に解釈されたくないと思った。
「何だよ、それ? 言っている意味が分からないな」
と龍司は不機嫌に返事する。すると、ヘインズは
「お願いだ。お互い助けになれるだろう。君は私に恩があるはずだ。ちょっと話し相手になるくらい構わないだろう」
と何とも、必死さを感じる話しぶりだ。龍司は思った。これは何か深刻な話しをしようとしているな、とりあえず聞く価値はありそうだ。
「セーラ、明日の朝、また会おう。そして、今夜の続きを」
とにこっとして言うと、セーラは愛嬌を振りまくように微笑み、二人を見つめ、
「いいのよ。お二人とも男同士、仲良く。明日また会えることを楽しみにしているわ」
と言ってバーを去った。
 龍司はヘインズを、睨みつけ言った。
「話しって何だよ?」
「トニーのことだ」

第17章につづく

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by masagata2004 | 2010-10-15 00:17 | 沖縄


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