旅小説「私を沖縄に連れてって」 第18章 ワンショット・ワンキル

米軍新基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)たちの戦い

まずは第1章から第17章までお読み下さい。

 その後、龍司とヘインズとはお互いのプライベートなことを語り合った。ヘインズの出身はサウスカロライナ州であること。高校卒業後、海兵隊に入隊して湾岸戦争時に初めての従軍をしたという。数年前に教官としての任務に就くことになったという。プライベートでは、一度、結婚して五年続いたものの、離婚したという。龍司も離婚経験があると自分の二度の結婚失敗体験を語った。龍司は子供はいるのかときくとヘインズは「一緒に住んでいないが息子が一人いる」と重い口調で語った。なので、踏み込まないことにした。
 互いに語り合い、打ち解け合って、お互いファーストネームで呼び合おうということになり、龍司はヘインズを「チャーリー」と呼ぶことにした。ファーストネームのチャールズの略称だ。ヘインズは「リュージ」と呼んだ。
 チャーリー、ナイスガイだぜ、と思った。

 数日後、龍司は洋一に誘われ、平和団体が名古市民会館で主催する戦場ジャーナリストの講演とドキュメンタリー映画の上映会に参加することにした。テーマは、米軍はイラクとアフガニスタンで何をしているのか、そして、米軍とはどんな人達なのかというものだ。
 龍司はもちろんのこと、沖縄人なら誰でも最も関心を持つ事柄だ。
 講演をするジャーナリストは二人で、一人はイラクに詳しい志葉玲と名乗るジャーナリストで、イラク戦争前、戦中、そして、戦後とイラクに出向き取材をしてきた三十代のジャーナリストと、常岡敬介という四十代のジャーナリストで、自らイスラム教徒であり、アフガニスタンに渡り、九一一以降、米軍を主体とする多国籍軍と対決するタリバン及びアフガニスタンの市民に密接して取材をしてきた経験を持つ。取材中、タリバンに長期に渡り身柄を拘束されたこともあるという。
 その二人にイラクとアフガニスタンの現状を語って貰い、その講演後、沖縄に駐留する米海兵隊の新兵訓練の様子を取材記録したドキュメンタリー映画「ワンショット・ワンキル」を上映し、その映画の監督である藤本幸久氏が講演をするプログラムになっている。
 司会者は、沖縄に弁軍基地があるため、沖縄人は自らを被害者だと思いがちだが、そんな基地から部隊が出撃することによって、嫌がうえでも加害者になっている面も忘れてはいけないと語った。
 沖縄が本土に復帰する前のベトナム戦争時、容赦なくベトナム市民を殺戮する米軍の前線基地として沖縄は使われた。そのため、沖縄はベトナムの人々から「悪魔の島」と呼ばれていたという。今の時代、そう呼ぶのは、イラクとアフガニスタンの人々だろう。
 沖縄に基地を貸すということは、アフガニスタンとイラクでの米軍の戦争に加担するということを意味しているのだ。

 まずは、イラクに詳しいフリージャーナリスト、志葉玲の講演から始まった。
 志波氏は自己紹介と挨拶をした後、自らのイラクでの取材活動をスライドを使い説明した。
 志葉氏が特に注目したのは、イラクの一般市民に対する被害である。非人道的な兵器が数多くイラクの地で使用され、主なものを挙げると白リン弾と劣化ウラン弾である。
 白リン弾とは、手榴弾、砲弾、爆弾の一種で、充填する白リンを大気中で自然燃焼させるものである。五千度の熱を出し、焼夷弾なので酸素がある限り燃え続け、攻撃目標だけでなく周囲数百メートルの広範囲に被害が広がり、かなり多くの一般市民が犠牲になっているのを知った。真っ赤に焼き尽くされた死体をいくつも見たことを語り、その死体を撮した写真を見せた。まるで天狗になったかのように真っ赤に皮膚が焼けただれ、悲痛の表情で死んでいったことが分かる。
 もう一つは劣化ウラン弾だ。これは劣化ウランを主原料とする合金を使用した弾丸であり少量でも極めて破壊能力の高い兵器として米軍が湾岸戦争時からイラクで使用していたものだ。兵器としての殺傷能力の高さもさることながら、爆発後、残された粉塵が空気中に放散し続け、それが、体に吸い込まれると放射線を出し続け、人体の細胞に異常な現象を引き起こす。それによる一般市民を含めた数多くの健康被害が報告されている。
 特に細胞分裂の著しい胎児・新生児・幼児への影響は深刻である。イラクでは、日本に比べ数十倍の確立で幼児が白血病にかかり、生まれてくる子供は早期に死ぬか奇形児であることが珍しくない。
 また、米兵たちが誤射または、むしゃくしゃして、民間人を殺したりすることがあり、その時に正当防衛にみせかけるため、自らが携帯するのとは別に余分な銃を持ち歩き、殺した民間人の死体の側に置き、それで正当防衛に見せかけることが横行しているという。ニュースで聞く「武装勢力を殺害した」というものの中には、そんな事例も多々含まれる。 
 講演の最後に志葉玲はこう締めくくった。
「アメリカでは政権が代わり、新大統領は、「戦争終了」を宣言して軍を撤退させているが、イラクの人々の苦難は終わらないし、アメリカの戦争責任が消えたわけでもありません。イラクでは少なくとも約十万人、最大で百万人超のイラク人が殺された上、今もイラク国民の約六分の一が難民となっています。アメリカは国をあげて戦争の検証をし、被害者の救済を行うべきでしょう。アメリカを支持した日本も同様です。私は断固、追及し続けます。イラクに本当の平和が来る時まで、アメリカやその従属国家が自らの誤りを検証し、反省した上で、しかるべき償いをする時まで」
 次に、常岡浩介氏が、アフガニスタンの現状について講演をした。



 九一一の報復として始まったアフガニスタンのタリバン政権への攻撃でタリバンは勢力を失ったと思われているが、ここにきてアメリカを後ろ盾とする新統治権力のカルザイ政権が、汚職の蔓延や治安維持の失敗などで統治能力を喪失しており、最近になってタリバンが勢力を盛り返し、既にアフガニスタン全域の八割から九割はタリバンの支配下におさまるほどに復活しているという。首都のカブールでさえ、大統領府や中心部は辛うじてカルザイ軍が掌握しているものの、数キロはずれると、そこは既にタリバンの支配地域になっているという。
 多くの人々が誤解しているのは、米軍がアフガニスタンの一般市民を巻き込んだ攻撃をしているから、アフガニスタンの人々に嫌われていると思われがちだが、アフガン人にとってタリバンも一般市民も同じであり、タリバンは、実際のところ、圧政を敷いていたが、治安や秩序を維持してきたので、人々には信頼されてきたという。米軍の攻撃は、無人機を使い自分たちは姿を見せないという卑怯な手段を取るので、そのことこそが反感を増す要因になっているという。
 アフガニスタンに限らず、中東のイスラム教徒にとって、イスラム教は、文化というよりも文明という位置づけがされており、西欧流の民主主義を根付かせようという発想は、最初から絵に描いた餅でしかなく、アメリカは戦争だけでなく、政策において取り返しのつかない間違いを犯したと断言した。
 次に、映画「ワンショット・ワンキル」の上映となった。監督の藤本幸久氏が、挨拶をして、映画が二人のジャーナリストが取材した戦場に送り込まれた若い海兵隊員の新兵訓練の様子を記録したものであると紹介した。約三ヶ月に及ぶ最初の訓練を受けたものが、沖縄を含めた海兵隊基地に配属させられるのだ。普段目にする海兵隊員というものがどんな訓練を受けてきた連中なのかを垣間見ることができる。
 映画の舞台はアメリカはサウスカロライナ州にある海兵隊員の新兵養成訓練所だ。深夜に訓練所の門をくぐり、最初にすることは、上官に怒鳴られながら、親に電話して、訓練中は、家族との接触は一切出来ないということを告げるのである。
 新兵たちはあどけない顔をした高校を卒業したばかりの若者たちばかりだ。男子は丸坊主にさせられる。上官にどやされ、入隊後最初の四十八時間は不眠不休の状態におかれる。
 訓練では、毎日が耳元で怒鳴られ通しだ。そして、訓練所では、新兵たちは、自らを「私」と呼ぶことができない。「この新兵」という呼び方をしなければいけないのだ。つまり自らの人格を否定して命令に絶対服従する精神を植え付けるためである。
 また、「一撃一発」を意味する「ワンショット・ワンキル」という掛け声を上げ、人を殺すことを躊躇しない精神も身につけていく。人間は元来、人を殺せるようになっていない。その本能に反した精神を身につけていかないと一人前の軍人にはなれないのだ。
 映画が終わると、藤本氏が自らの取材体験などを含めて講演した。
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 これが、沖縄に来る海兵隊員の実態なのだと。彼らの多くは愛国心から入隊するのではない。実際は家庭の経済状態が悪く、やも得ず志願するものが多い。徴兵制は今はないが、代わりに、貧民皆兵制という別の形の徴兵が行われている。それは、自由主義経済により貧困層を生み出す階級社会アメリカならではの徴兵制度であると。日本も、市場原理主義の導入によりそうなっていく恐れがあると警告した。
 近年の課題は、イラク撤退後、もう一つの戦場であり、ベトナム戦争よりも長引いているアフガニスタンでの戦闘をどう集結させるかである。タリバンの猛攻により米兵死者は急増中である。そして、その中には、戦死者として数えられない死亡件数があり、それも確実に増加しているのだ。何かというと、帰還した兵士による自殺である。信頼できる情報によれば公表されている戦死者の三倍はいるとみられる。また、自殺までに至らずとも帰還兵の四人に一人は心身症を患っている状態だという。しかし、軍隊では、苦しみを表に出さない訓練を受けさせられているためか、ある日、兆候を全く見せないまま、突然、自殺してしまうという事件が後を絶たない。
 戦争をする国家の苦悩である。自由と民主主義の国と思われがちだが、政治では軍需産業が強い影響力を持ち、情報統制さえされている。特に九一一の事件以来、その傾向は強まっている。なので、戦争反対を唱えたりするのも楽なことではない。もしかしたら、そんな国家の元に生きているアメリカの市民たちも戦争の犠牲者なのかもしれない。
 龍司にとっては、とても有意義なイベント参加だった。

 普天間基地の県外移設を求める声は、政府の曖昧な態度が続く中、ひたすら高まっていった。それは、県知事が出席しての県民大会が開かれ、参加者が九万人ほどの規模になったことで期待が頂点に達したことがみてとれた。当初は、歓迎はしないが県内やむなしと思っていた県民世論は確実に県外でなければならない、という方向に変わっていった

第19章につづく。いよいよ、佳境を迎えます。

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by masagata2004 | 2010-10-20 03:11 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)
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