旅小説「私を沖縄に連れてって」 第17章 トニー



 トニーっと聞いて、はっと驚いた。
「トニーて、もしかして浜辺のこと、それもついさっき起こったことか」
 ヘインズはそう言われ、周囲が気になったが、バーテンダーは英語が片言しか話せない男であり、それ以外、数人ほど年老いた客がいたが、カウンターからは離れた席に座っており、英語も理解できないだろうし、話している声も聞こえない距離であるということを確認すると、龍司のすぐそばの椅子に座った。
「そうだ、監視カメラに映っていた。二人の男たちが君に暴行を加えた。あの美しいレディにも変なことをしかけそうだった。そして、トニーは勝手に銃を持ち出した。三人とも門限を破って基地の外に出た」
「ほう、すばやいな。さすがアメリカ海兵隊だ。それがどうしたっていうんだ? 何か俺たちの方に問題が」
と龍司はしかめっ面になって言った。
「いや、すまないと謝りたいんだ。私の部下が、君たちにひどいことをしたようだ。君とあの側にいたレディに対して。君もそうだが、彼女も大丈夫かな」
「大丈夫だよ。彼女がアメリカ人だから気掛かりになったのか。俺のような日本人に対してだと知らんぷりするんだろう」
「君たちが、俺たちのことを良く思っていないのは分かっている。特にあの新兵たちは、来週にもアフガニスタンに派遣される予定になっている。だから、いつになく気が立っているんだ」
「ほう、そりゃ見事な言い訳だ。それで何だ、俺たちにどうしろと。許してくれってか」
と龍司が、いきりなって言うと、ヘインズは困った表情になった。龍司は思った。なるほど、実のところ気のいい奴なんだな、このヘインズという奴は。
「ふん、いいさ。カメラの映像だけでは分からなかったろうが、あのトニーという奴のおかげで助かったんだ」
「え、どういう意味だ。トニーはいったい何をしようとした? 映像だけでは音もなく、はっきりものを見るには暗過ぎた。おしえてくれ」
「二人の男たちがな、彼女と俺に近付き、俺に対しては暴行、そのうえ、フェンスのリボンを外すことを強要したんだ。奴ら酔っていて彼女に対しても、一つ間違えば何するか分からない状態だったが、あのトニーが突然現れて、俺たちを助けてくれたんだ。銃で男たちを威嚇してな。あんな小男だからこそ、銃でないと止められなかったんだろうけど」
 龍司は、にんまりとした表情で言った。
「はあ、そうか。そういうことだったのか」
とヘインズの表情がほころんだ。何だか、トニーに特別の思い入れでもあるような素振りだ。龍司は、それを見て言った。
「どっちにしろ、海兵隊の不祥事だな。別に表にはしない。ひどい目にあったけど、同時に同じ隊員によって助けてもらったということで、相殺して構わないよ。こっちも変なことには関わりたくない。誰にもいわん。彼女も気にしないだろう」
 ヘインズが安堵の表情を浮かべる。
「だけど、あのトニー、大丈夫かな。銃で威嚇された仲間は黙っちゃないだろう。同じ基地にいるんだし」
と龍司は心配になって言った。
「大丈夫だ。そのことは私が何とかする。やつらこそ規則を犯して、君たちに迷惑をかけたのだから、トニーを咎めるつもりはない」



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「トニーって、あんたやあの二人の男たちと違って小柄だから大変じゃないのか。仲間同士のいじめに合うこともあるだろう」
「ああ、私の訓練生の中では一番小さい。そのうえ、そのうえ」
 ヘインズの口調は何か、ものがつっかかったようないい口だ。龍司は続きの言葉が分かっていた。
「肌の色が黒いってことだろう。純粋な黒人ではないようだけど」
「ああ」
 黒人が大統領になっても、まだ人種差別は続いているのか、大変だな、と龍司は思った。
「君は、アメリカ人が嫌いになっているんだろうな。君たちの海を壊そうとするんだから」
「アメリカ人が好きだとか嫌いだとかいえないな。彼女、名前はセーラというんだけど、反対運動の協力者だ。あんたのような軍人もいれば、セーラのような海洋生物学者としてこの海を守るため、あんたの国の政府、彼女の国の政府でもあるが、それを相手に訴えを起こしたんだ。これって、アメリカの民主主義って奴だよな」
「はは、いっとくが、私も個人的には、今度の滑走路計画には反対だ。ここにきて三年になるが、珊瑚礁もあり実に美しい海だ。何度も潜ったよ。あそこを埋め立てるなんて信じらん。しかし、私にはどうにもならん」
「ああ、分かっているよ。相手にしなければいけない対象はおおき過ぎるうえ、ことは複雑だってこと」
 龍司は、ヘインズに、昨年、軍事に詳しい国会議員と、このバーで語り合った内容を伝えた。米軍が日本を守っていないこと、米軍が日本に駐留するのは、日本が駐留経費を支払っているので安くつくこと、普天間基地移設に関しては、実をいうと米軍にとってはどうでもよく、移設計画に積極的なのは日本の利権関連サイドであること。など、なかなか世間一般には表に出ない複雑な裏事情などを放した。
 ヘインズは、聞く度に頷き、そして、龍司が一通り話し終わると。
「その通りさ。私たちは、日本を守るためにここに送られたわけではない。我々が守るのは常に祖国と祖国の市民だけだ。他国に部隊を駐留しているのだって、祖国の国益を第一に考えてのことだ。しかし、驚くな、君たちは我々が守っていると信じ込んでいるとは。まあ、基地を借りているのだから、守ってあげるのは当然なのかもしれないが、だが、そのうえ、駐留経費まで払っているんだよな。ここに着任して、そのことを初めて知った時は驚いたよ。当然、我々の側が支払っていると思っていたが。君たちの国にだって軍隊というのがあるだろうに、どうして我々を、それほど頼りにしなければいけないんだ」
「俺たちの国は、あんたの国と戦って負けてぼろぼろにされ、そんな結果、戦争はしない、平和を愛するから軍隊は持たない国になったんだ。今、いるのは自衛隊という名の軍隊もどきの部隊さ。兵器は持っても使わないとする、へんてこな軍隊だ。だからこそ、君たちが必要ってことになっている。現実はどうでも、少なくともそう思い込んでいる」
「なるほどね。随分昔のことを引きずっているんだな。まあ、私にとっては知ったことじゃないがな」
 ヘインズはそう言って、ウィスキーを注文し水割りで飲んだ。
by masagata2004 | 2010-10-16 10:24 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)
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