映画「祇園囃子」と「緋牡丹博徒」 着物と封建社会

二つの着物が大きな意味を持つ映画を紹介したい。ついでにそれ以外の関連の映画と劇も。

一つは「祇園囃子」という1953年の白黒映画。京都の芸者の世界とはどういうものなのかという物語だ。15歳の少女が、年期の入った芸者見習い、つまり舞妓として弟子入りする。彼女は、芸者を芸の達人として自立した女性の職業と考え憧れを持ったが、思わぬ難儀に巻き込まれる。終戦後、基本的人権を尊重する日本国憲法により女性も自立して、自らの意志で自分の人生を開けるという確信を持てたはずであったが、花柳界は古い習わしに縛られたままであったというドラマ。

実をいうと、私はこの映画を以前、アメリカの大学で観た。それは「中国と日本の女性の歴史」というフェミニズム学のような講義でだ。映画は終戦後なので参政権を得た女性たちの本来ならなくなってもいいはずの「旦那の妾となる」というような風習が、実質的には残って続いてしまっているという実態が表されている。

つまり、芸者がデビューするには、大金を払ってくれるパトロンが必要だということだ。特に衣装として重要な着物はバカ高い。芸者の派遣業をする置屋が負担するのだ、当然、置屋は急いでその分の回収をしたいのである。だから戦前だと、花柳界に入った女性は世話をしてくれる置屋の女主人「おかあさん」の命に従い、本人が嫌でも旦那をつけられ妾となった。特に、多くの芸者の卵たちは芸者としての修業をする前に身売りをされ、その借金を返さなければならない立場だったからだ。その辺についてはハリウッド版芸者映画「SAYURI」が詳しい。

ちなみに芸者の見習い段階の舞妓は、戦前は12歳ぐらいの少女がなっていたという。だからこそ、舞妓の着物は縫い上げという肩の袖元に布が嵩張った状態にしているのだという。つまり、その後、成長するのに合わせて着物の寸法を調整できるようにするためだ。つまり、かつては今では禁じられている児童労働が堂々と認められていたということだ。今では15歳ぐらいから舞妓となる。したがって、今の縫い上げは名残でしかない。

もう一つの映画は女ヤクザの物語。富士純子主演のシリーズ「緋牡丹博徒」である。明治時代、熊本の五木村のヤクザ一家の一人娘として生まれ育った矢野竜子は、かたぎとして嫁入りするはずであったが、父親が殺されたことを期に仇相手を探すため渡世人となる。1960年代から70年代の間、8作製作されたものの最初と最後をレンタルして観た。ヤクザ映画の大御所、高倉健、松方弘樹、菅原文太との共演が味が出ている。




その時代、日本人のほとんどは着物を着ていた。芸者だけでなく、ヤクザも一般庶民も着物が普段着だったのである。格闘アクションも、着物を着こなしながらの立ち振る舞いである。

最近、着物に関心を持って、時々、着てみるのだが、その時に、着物が普段着だった時代に想いを馳せてしまうことがある。
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そんな時代の人々の考え方が、なんとなく分かったりすることもある。帯で体が縛られ、足の裾まで動きが制約される。洋服が実に動きやすいかが分かると同時に、彼の時代は、粋な時代だったのだなあとも感じられる。重苦しい着物が、人と人との結びつきをいやがうえでも深めていたのではないかと考えさせられる。怖くておっとろしいが、情の深い付き合いをしていたのではないかと思わせてくれるのだ。まさに「任侠」である。

だけど、芸者の古い習わしにしてもヤクザにしても、そんなものが残って受け継がれるいいものだとは思えない。それは過去のこと。過去にやも得ず存在していたものでしかない。むしろ、あってはならないものなのだ。

だけど、着物は、そのまま伝統として残して継承していくべきものだと思う。いまわしい過去の風習とは別に、一種のスタイルとして。一種の文化として。

「昔は良かった」という感覚で、当時の風習や価値観を復活させようという人々がいるが、それは着物文化とは別物と思わなければいけない。あんな時代があったからこそ、「祇園囃子」や「緋牡丹博徒」のような映画ができるのだろうが、だけど、それは映画の世界に閉じこめて置くべきもの。現代の我々が引き受けるのは、まっぴらご免だ。

そういえば、着物に関して以前、観た「細雪」という演劇も思い出す。着物美人の4姉妹の物語だが、最後に長女がいう台詞が印象的だ。

「古い慣習は今の人に押しつけるものではない。自分の胸の内の引き出しにしまって、好きな時に出したり入れたりするもの」

私たちは今、新しい時代に生きている。常に進化しながら前に進んでいるのだ。新しい年と共に、新しい時代の幕開けを願おう。

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by masagata2004 | 2013-01-01 22:51 | 映画ドラマ評論 | Trackback | Comments(1)
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Commented by ruhiginoue at 2013-01-02 01:13
 「祇園囃子」は、溝口健二監督の小品ながら傑作といわれる名作で、主演は後に黒川紀章と結婚して一緒に選挙にも出ることになる若尾文子でした。
 ゲイシャといっても格好を真似てお酌するだけのコスプレホステスと援助交際していた宇野総理の醜聞について、自民党御用評論家の三宅久之は、芸者と旦那の関係だから何も問題がないという事実誤認の擁護をしたけど、実際にパトロンだったとしても今時そんな封建的な関係は許されないはずなのにその認識もない。
 しょうもない奴をマスコミに出して援護射撃させている自民党は、今のていたらくになる前からひどい集団ということです。
 服装は、諸外国でも次第に利便性を求めて変化していることは同じです。問題は、気候風土が違いです。低湿度の土地で生まれた服装を、高湿度の日本で着て、暑いからと冷房をかけて電気の無駄をしています。


人生は常に進歩していかなければならない


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