南京大虐殺の史跡を訪ねて

旅行・地域

この記事は、2004年9月に書いたものです。

先週から今週にかけて、私は、1937年日中戦争時に大虐殺があったとされる当時の中華民国の首都、南京、そして、その南京を侵攻する前に激戦地となった上海を訪ねた。近年、南京大虐殺は、右翼や知識人の間で、実際はなかった。中国共産党の捏造であるという、説が唱えられているが、結論として言えば、もし、いわゆる南京事件が捏造であるならば、広島、長崎、東京大空襲も捏造であったということになるだろう。

そもそも、南京大虐殺、南京事件とは、1937年7月、盧溝橋で日本軍と中国軍が衝突したことを発端に始まった日中戦争のさなか、当時の中華民国の首都、南京で日本軍により、捕虜、一般市民を含む30万人が凄惨な虐殺により犠牲になったと言われる事件である。

私は、、ノーモア南京の会といわれる市民団体のツアーに参加し、上海・南京での日本軍の侵攻の軌跡を追う旅に出た。9月16日に上海入りをして、上海の抗日記念館で上海戦の説明を受け、家族を殺されたという中国人一家を訪ねたりして、9月19日に南京大虐殺のメモリアルとして1985年に建てられたという「南京大虐殺同胞記念館」を訪ねた。この場所は、虐殺による数多くの遺体が発見された場所でもある。

私を含む団体は、記念館の侯副館長(TBSのNEWS 23のアナウンサー、佐古さんにそっくり)に応接間に通され、交流をすることとなった。お互いの紹介をした後、私は、副館長さんに、思い切って日本における捏造説の元となった犠牲者数「30万人」について、何を基にそのことを主張しているのかきいた。

副館長さんは、私のぶしっつけな質問に怒った様子もなく淡々と、且つ丁寧に答えてくれた。以下は、その概要を箇条書きにしたものである。(通訳を通しての説明)

(1) 犠牲者数、30万人というのは、あくまで推定である。これは、戦後行われた極東軍事裁判(いわゆる東京裁判)の判決で出た20万人と、南京裁判の34万人を基にしたものである。日本はその判決を、1951年のサンフランシスコ講和条約に署名することにより受け入れた。

(2) 1936年の南京の人口は、101万人と記録されているが、南京事件があった当時の37年12月は、避難するため南京を離れるもの、また、避難のため南京に入ったものもおり、実際の人口は、分からない。60万人ほどいたのかもしれないが、明確ではない。国民軍の兵士は、それとは別に11万ほどいたとされる。

(3) 日本の軍人(オオタ)による証言で、700人の兵士によりトラック10台、船30艘を使い、揚子江に18万人に及ぶ死体を処理したということが、分かっている。

(4) 略奪は、兵士個人の行為ではなく、組織的なものであった。

(5) 当時の中島師団長の日記に、捕虜を残らず殺すべきであると書かれている。

(6) 数字は、重要ではない。重要なのは、日本軍が、数多くの中国人を虐殺したことである。


この後に、私たちの団体は、記念館の展示物、そして、「万人坑」といわれる遺骨の掘り起こし場所を見た。

私は歴史学者ではないが、昨今、唱えられている捏造説に関しては、この旅に出る前から、信憑性の低いものであると考えていた。というのも、それを唱える人達は、自分たちの政治色を前面に出して、事実があろうがなかろうが、なかったことにしようという意図が、見え見えだからだ。
ただ、副館長さんの説明を、私は鵜呑みにしたわけではない。(1)の東京裁判と南京裁判は、戦勝国が戦敗国を裁くという、公平性に欠ける裁判による判決だったので、政治的な偏りがあって知るべしだろう。日本政府としては、独立と引き換えに署名したサンフランシスコ講和条約で、判決を受け入れた限り、内容を認めないわけにはいかないのは事実だが、歴史学上の解釈は、別のものとなる。

しかしながら、当時、南京には、難民救済を行う国際安全委員会やジャーナリストなど数多くの外国人が滞在していた。国際安全委員会の委員長であったジョン・ラーベの書いた「ラーベの日記」を含め、数多くの証言がある。被害者の中国市民の証言はもちろんのこと、第3国の人々、そして、加害者であった元日本兵の証言などである。彼らが、全て嘘を言っているとは、言い難い。揚げ足を取って、嘘だ、捏造だと叫ぶなら、同じ論法で、広島、長崎、東京大空襲も捏造だったといわれかねないのではないか。

事実は事実である。仮に、教科書の上でそれを消し去っても、事実そのものは、決して消すことは出来ない。そして、自虐的といわれようとも、その重たさから決して逃れることは出来ないのである。犠牲者数は、正確ではないかもしれないが、同じ民族とは思えないような凄まじい虐殺が、そこで行われたことは事実なのである。また、事件が起こったのは、南京だけの問題ではない。1931年の満州事変以来、日本軍は、中国大陸の随所で、侵略行為を犯していた。当時の日本は、世界恐慌の真っ只中で、その上、国民の政治不信が強く、軍部による暴走に歯止めがかけられない状態だった。終戦までに、中国人の犠牲者は、1000万人を下らないと言われている。南京だけを否定したとしても、あまり意味のあるものではない。ご存知だろうか、この前のサッカー・アジア・カップのあった重慶は、日本軍による激しい空爆のあったところだ。

中国共産党の反日プロパガンダと叫ぶ人もいるが、そういう人達は、よく考えて欲しい。中国ほど、したたかな国はない。国連の常任理事国で、戦後も世界の政治では、重要な役割を果たしてきた。日本の政治家の名前を挙げられるアメリカ人やヨーロッパ人は少ないが、毛沢東や周恩来を知っているb0017892_1742040.jpg人は、欧米に数多くいる。従って、後で捏造と分かる事件をでっち上げるほど愚かではないのだ。

戦後から、現在に至るまで、中国人の反日感情は、教育によるものよりも、むしろ、身近な体験によるものが大きいのではないかと思った。自分の両親や祖父母、親戚の人達が、語り継いできたからなのではないか。江沢民主席が、90年代から敷いてきた反日教育はいきすぎなのだろうが、その元にしたものが事実起こったことだからこそ、中国人は反感を強めるのではないか。中国という国は、とても大きな国で、地方によって言葉が外国語のように違うくらい多種多様な人々が生きている。その上、情報の高度化が経済発展により進んでいる。ただ学校の教育だけで、反日感情が沸き起こるほど単純ではない。

愚かなのは、証拠もあり捏造でないとすぐに分かる捏造説を唱える日本の右翼や学者どもである。事実そのものを認めたうえで、戦争だから、やも得ないんだと言って正当化する方法だってあるのに、これでは事実そのものが認められた時点で、自分たちの立場を全て否定されかねない。

私は、虐殺の事実を知ったところで、日本人であることを恥じるつもりはない。というのも、このような虐殺は、世界中の国々で過去現在、行われている。日本人だけが悪魔だということではないのだ。ただ、歴史的な事実を知りたかっただけなのである。アホくさい政治思想などない。民主党を応援していたこともあったが、基本的に無党派であり、右でも左でもないのだ。分かりやすく言えば、憲法9条は、改正派(現時点では反対)であるが、イラクへの自衛隊派遣には、反対の立場である。

ただ、戦争は、常に避けるべきものではないか。避けられないというのであれば、かつての南京のように、戦場という極限の状況を頭に叩き込んだ上で、我々は、覚悟を決めなければならないのではないか。そんな覚悟の出来た政治家や市民が、日本にはいるのであろうか。

次は、南京虐殺史跡巡り以外の中国旅行記を書きます。乞うご期待。

(2005年1月25日追加記述)
2004年11月、イラクのファルージャで米軍による総攻撃が始まった時に、私が投稿した記事があり、そこでファルージャの虐殺との比較について書かれていますので、これもお読みください。

ファルージャと南京 イラク戦争と日中戦争

(2006年12月20日追記記述)
最近、「南京大虐殺」という検索キーワードでこの記事を訪れる方が多いことが判明しました。

どうせなら以下のJANJAN記事も参考にしてください。一つは去年出したもので、もう一つは、つい最近書いたものです。

南京大虐殺の生存者が問いかけるもの

映画「硫黄島からの手紙」と「南京大虐殺生存者証言集会」

それから、このブログの自作連載小説「白虹、日を貫けり」にも、南京虐殺事件は場面として出てきます。

また、外務省のホームページも参考に。政府でさえ認めています。国会でも同様の答弁がありました。

では、よろしく。

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by masagata2004 | 2004-09-26 17:40 | 中国 | Trackback | Comments(15)
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Commented by えん@えんとひなたぼっこ at 2004-11-15 16:38 x
南京大虐殺は無かったなどという
言葉を聞くと腸が煮えくり返りますね。
無いわけないだろと、、
そしてろくに戦後処理もしてないくせに
適当なたわごとをホザイテさらに反日感情を仰ぐ
必要性がどこにあるのだと思います。
南京大虐殺は戦争の本当の姿・現実そのもの。
あれを直視せずにどうするのだろう。
先日6千人の命のビザという本を読みました。
更に日本兵の蛮行を認めざる得ませんでした。
Commented by mikiojapan at 2005-04-19 01:09
検索で来ました。今、反日デモが問題視されておりますが、特にテレビ報道などを見ておりますと、驚くほど日本の過去を直視した編集がされてないようです。こういう時、ネットは本当にありがたいと感じます。ありがとう。
Commented by レイランダー at 2005-05-01 18:59 x
はじめまして。
僕もマサガタさんと同じく、南京大虐殺同胞記念館に行ったことがあります。もう10年位前の話ですが。
記念館そのものは、事件についての本などあらかじめ結構読んでいたし、とりたてて新味はありませんでした。ただ入口(でしたっけ)の人骨の展示については「ちょっとどうよ・・・」と思ったこと。出口のところに書いてあった「こういう歴史があったからこそ、我々は日本人を憎むのではなく、一層友好に努めなくてならない」みたいな言葉に感動したこと。また、訪れたのが事件があったのと同じ冬だったので、深い霧の中に立つ「子供を探す母親の像」が、やけに生々しく印象的でした。

中国の「反日」感情、日本の「反中」感情については、言いたいことがいっぱいあります。マサガタさんに倣って、なんとか近いうちにHPに書けたら、と思います。
一つだけ忘れたくないのは、通訳兼ガイドだった中国の男性が、「これからも日中間には問題が起きるかもしれないが、国(政府)同士が何をどうしようが関係ない。私達のような一般の国民同士が仲良くできれば、それが一番なんです!」って言ってくれたこと。基本中の基本だと思います。
Commented by masagata2004 at 2005-05-01 20:53
コメントありがとうございます。中国カテゴリにある他の記事をお読みになれましたでしょうか?

そこに、いろいろと反日デモのことが書かれています。私は、デモが発生する直前まで北京と天津にいました。
Commented by レイランダー at 2005-05-03 17:59 x
中国カテゴリの新しい方の記事も読ませていただきました。参考になる話が多くて、ありがたいです。
ところで、今日は憲法記念日です。日本人の歴史認識に対する中国人の反感の中には、昨今の憲法改正へ向けた動きに警戒してのものも含まれているはずです。日本人の中には「謝罪ならもうした。しつこいぞ」という感情を抱く人々が結構いますが、僕は憲法9条こそアジア諸国に対する謝罪の証だと思います。これを「普通の国」になるために「改正」するという考えは、「謝罪」が口先だけのものであることを暴露しているわけです。向こうとすれば腹も立つわけです。このことに鈍感な日本人が多過ぎると思います。
てな考えも含めて、文章を書こうと思ってるわけです。今後ともよろしく。
Commented by masagata2004 at 2005-05-03 19:21
レイランダーさん、コメントありがとうございます。

ところで、憲法9条に関して、憲法記念日の今日、市民メディアのJANJANに記事を掲載していただきました。


読んでみてください。
http://www.janjan.jp/government/0505/0505026515/1.php
Commented by レイランダー at 2005-05-22 17:38 x
遅くなりましたが、僕の南京での体験等を簡単にまとめた文章を、サイトにUPしました。

http://civil-faible.hp.infoseek.co.jp/21_20050520.htm

「反日」云々についての考察はまだこれからで、とりあえず南京というとっかかりから書いてみた、というだけのものです。お暇があったら、読んでもらえると嬉しいです。

ヤマガタさんのJANJANの記事は読みました。率直で真摯な内容だったと思います。ですが憲法改正については、僕は意見が異なります。それについても合わせて、今後自分のサイトで発言していくつもりです。
なにせブログではないので、トラックバックというしゃれたことができません。進展があったら、またこういうコメントの形で連絡させてくださいませ。ではでは。
Commented by masagata2004 at 2005-05-22 19:49
レイライダーさん、体験記読ませていただきました。とてもためになりました。

ところで、このブログで連載している私の自作小説を読んでいただけたでしょうか? この小説にも南京虐殺は出てきます。また、愛国心なども一つのテーマになっています。暇があれば、お読みください。カテゴリの「自作小説」で読めます。
Commented by 通りすがり at 2005-05-25 19:47 x
>近年、南京大虐殺は、右翼や知識人の間で、実際はなかった。中国共産党の捏造であるという、説が唱えられているが、結論として言えば、もし、いわゆる南京事件が捏造であるならば、広島、長崎、東京大空襲も捏造であったということになるだろう。

少し配慮に欠けた発言ではないですか?現実に今も後遺症に苛まれている方々がいらっしゃるんですよ。それに原爆については落とした側も日本とは捉え方が違いますが、認めているのでは?
全く違う出来事である広島・長崎を引き合いに出して、南京事件も事実だというのは少々乱暴な気もしますが?

ちなみに僕は武力衝突があった以上、虐殺行為がなかったとは思ってはいません。近年のあるなしの話は定義の仕方によるものと思われます。
但し、中国の方のいう南京大虐殺の定義として最後に出てきた、
>(6) 数字は、重要ではない。重要なのは、日本軍が、数多くの中国人を虐殺したことである。
結局最後に事実としてはあいまいということを露呈している気がしますがどうでしょうか?
Commented by masagata2004 at 2005-10-06 23:35
南京虐殺も後遺症に悩まされている中国人がたくさんいます。

くだらない詭弁で事実を隠蔽するのはみっともないだけです。
Commented by がんばってくださいね。 at 2005-10-25 02:39 x
> くだらない詭弁

僕も南京虐殺&レイプはあったと思いますし、その人数も何万にも及んだとおもっています。それは日本の恥ずべき過去だと思いますし、隠してはいけないと思っています。

が、通りすがりさんは誤魔化そうとしているのではないと思いますけども。マサガタさんの「広島・長崎~南京も」というのは、おそらく「これだけの証人と証拠があるのにないというのなら、同じく証人や証拠のある広島・長崎も同じことになる」という意味でしょうが、そこが書いていない以上、どういうことかな?と思うのは仕方ないと思いますけれども。

数字にしても、数万とか数十万とかの数字には俘虜の数を含む含まないなどの技術的な問題で違うことで「なかった」ことを言いたいのではないという話をされているのですから、隠蔽したいとかの意図で通りすがりさんが書かれたわけでは無いと思います。

現在「本当のところはどうなの?」と考えている人にとって、こういう言い方をしてしまうと、意識的に反発してしまう可能性があるので、真実を知らせたいのであるなら穏やかに応対されてはどうかな、と思ったりもしました。

では貴殿の今後のご活躍を期待しております。
Commented by 00 at 2007-08-18 00:01 x
アイリス・チャンの書いた本は真実だと思われますか?
Commented by masagata2004 at 2007-08-19 12:33
00さん、アイリス・チャン氏の本は読んだことはないのでどうなのか分かりません。確か翻訳本もまだ出版されていませんでしたよね。
Commented by 通りがかかり at 2009-05-22 18:57 x
これ、前提が間違ってますね。これで論じるのもおかしい。
右派論客は当時の中国国民党のプロパガンダ活動だったと結論づけているのですが?(小規模の虐殺は存在したかも知れないが欧米でプロパガンダ活動を行いで数十万単位にしたのが国民党)そもそも東京裁判やサンフランシスコ講和会議に中国共産党は参加していません。国際会議に出席出来たのは中華民国(国民党政権)なのです。

それから数十万単位の虐殺なんか中国史通して読んでいれば紀元前から数十から数百あるのはすぐわかるはずですけどね?

唐が滅んだとき、長安では大虐殺が起こり、都は更地になりました。今の西安はその後に作られた街なのです。こんな話はいくらでも見つかりますよ。降伏した兵30万を生き埋めにして殺したとか。文官とその家族20万以上を虐殺したとか。こんな話がいくらでも出てくるのが中国史なのです。

毛沢東と四人組は数千万人虐殺してますから桁が違いすぎるので例外にしておきます。
Commented by ??? at 2009-05-24 19:25 x
不勉強で失礼します。通りがかりさん、ここでその歴史を持ち出すと話が逸れませんか?南京大虐殺は日本人によるものでは?おそらく日本について真剣に考えている方の意見だと思われますが。
 私自身は小学生のとき、本多勝一さんの南京大虐殺(写真入)についての本を目にして、大変な衝撃を受けました。日本人として嫌悪感、悲しさ、情けなさ、愚かしさ、その他諸々の感情が湧き上がりました。
 しかしその事実は知っておいてよかったと思うのです。なぜ中国の方々が日本人を感情的に非難したがるのか、納得できたからです。
 私自身は憲法9条は世界に誇れるものだと思っています。ありきたりで甘い意見ではありますが。


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