小林よしのり 第2号か

ビデオニュースという私が時折視聴しているインターネット番組を見た。

江川達也という漫画家を招いての歴史認識の対談だった。江川達也といえば、「東京大学物語」という女性蔑視的な漫画の作者として有名である。

以前、テレ朝の「たけしのテレビタックル」で田嶋陽子に漫画のことを非難されたことで「それを読者が求めるから仕方ないじゃない」とか「あくまで、こうであってはいけないという反面教師して提供しているのだから」とへりくつを言っていたことを覚えている。田嶋女史は、「それでも、女性を侮辱していて、そのことで女性が困った立場におかれる」と文句を言った。

そのことの反省もあってか、どうなのか、最近は歴史物のリアルに近い漫画「日露戦争物語」を連載しているそうだが、彼の対談を聞いて、こりゃ、小林よしのりの「ゴーマニズム」別バージョンかと言わざる得なくなった。

北朝鮮の拉致問題が正式に認定されたことを、さも「左翼の崩壊」と単純に位置づけ、その上、日本の歴史認識のずれは「アメリカの陰謀」という。自分の調べた資料は絶対に正しく、他は全て勝手に作られたものと言い切る。専門家でもないくせに。

宮台氏も、あまり乗り気でないことが、何となく態度で分かったが、彼はこの上川氏と明治前期の亜細亜主義思想では一致しているらしい。だが、上川氏は、そのことでさも日本の大東亜共栄圏は素晴らしき大儀があり、実は、中国や朝鮮の人々も受け入れていたということ、現体制は隠していることを大きく取り上げていた。ちょっと勘違いしているんじゃないのか。

確かに当時、中国や朝鮮に日本と組んで近代化を成し遂げようとした勢力がいた。傀儡勢力ともいえる人達も含めて。だが、民族の自立自存意識もそれなりにあり、排外運動や韓国においては独立運動もあった。

日本は海を隔てた島国のよそものであるのは、結局のところ変わらない。国内に置いて、藩同士でまとまりがなかったのは事実だが、200年以上も鎖国をした同じ島国にいた同質の民族であったのをまとめるのと、海を越えた大陸に及んでアジア国家をつくる構想を同列に語るのは極端すぎる。

当時は欧米列強に対抗するため、きれいごとばかり言っていられなかったとか。清国は国民国家ではなかったし、孫文などは日本に留学していたほど、日本から協力を得ていたとか。確かにそれも事実の側面だが、それイコール他民族に主権を奪われてまでも、欧米列強に対抗する戦略に合意していたかというと、それは無茶苦茶な認識だ。義和団の乱や1919年には日本の21箇条要求に抵抗運動5.4運動があったことは有名だ。

早くから近代化した日本から学ぼうとかいう人々はいたのだろう。中には現地での権益争いによる仲間割れから日本の傀儡勢力になる道を選んだ人々もいる。だが、ご存知だろうか、日本に留学していたと言えば、日中戦争で総統を務めた「蒋介石」もいたことを。文学者の魯迅は、日本で不当な差別を受け祖国に戻ったことを。

救いようがないのは、満州国を建国した石原完爾を称えて、「満州国」はすばらしかったのだと言ったことだ。彼の理念はそれなりにすばらしかったのだろうが、宮台氏も指摘した通り「当時の日本の体制では実現には無理があった」、その上、すでに第1次世界大戦も終わり、植民地拡大をしないようにする合意がなされ、国際連盟が設立され、日本も加盟国となっていた。

そもそも、事変のきっかけとなった線路爆破も、関東軍のやらせ、その後の自衛名目の占領行為も、国際条約に違反した逸脱行為であったのも事実だ。満州を工業国にして欧米に対抗するような国を作るとか言いながらも、満州には十分な資源がなく、だからこそ、さらなる戦線拡大となる。

実に破綻しやすい戦略だったのだ。軍部にとっては不況の解決策と日本の大陸における利権を守る国防国家構想でしかなかった。満州の現地の人々は土地を追い払われ、差別的な待遇を受けたことは事実である。石原完爾は、戦後、間違いの発端であった私が東京裁判で裁かれないのはおかしいと主張し、「日本はもう戦争をしてはいけないんだ」と語ったと記録されている。意外にいいかげんな信念しかなかったのね、と思う。

まあ、賛同できるところといえば、明治前期の政治家や軍人は戦略家であり自立していたということ、朝日新聞などのメディアや大衆が軍部礼賛していて、実を言うと指導者に限らず多くの一般の人々にも責任があったこと。亜細亜主義のそもそもは、対等なアジア人同士の関係だったこと。そういうところが、現在においてあまり語られてないことだ。

ただ、それがアメリカの陰謀であるというのは極端な憶測だ。単純に言えば、失敗の歴史を振り返る勇気が国民になかったということなのだろう。明治前期の時代を振り返れば、必ず出てくるのは、じゃあ、なぜその後、日本の政府や軍はあんな大失敗をするに至ったのかと考えなければならなくなる。

宮台氏が、復権を叫ぶ「亜細亜主義」は失敗に終わった思想だ。そのものがどんなにすばらしくとも、苦いイメージはつきまとう。復権するよりは、新時代に向けたアジア各国の戦略的提携を構築するようにしてはと思う。まあ、過去の総括はいずれにせよ、必要だろう。朝日新聞や岸信介の孫にあたる次期首相にとってはさぞおつらいことになるだろうけど。ま、そのことが総括をこうも不十分にさせた要因なのだろうけど。ちなみに朝日新聞に関しては、私、以前、市民メディアのJANJANに投稿記事を載せていますので、ご参考に

それから、上川氏が言っていた戦前の天皇制は、立憲君主制の象徴のようなものだったとかいっていたが、それは間違いではないのか。明治憲法は、イギリスを模したものではなく、プロイセンの帝政をまねたものといわれている。天皇が実質的な権限を行使することは制約されていたものの、今のような国事行為を形式的に行うだけではなく、2.26事件に見られるように非常時に置いては天皇が権限を行使したり、また、御前会議という形でそれなりの関与はあり、天皇に何もできなかったということでは決してない。知らなかったとかいうことでは、すまされない責任もしょわされている。世襲制という実に不幸な責任のしょわされ方だが。

結論として、この番組は、上川氏の漫画とイデオロギー売り込みプロモーション以外の何でもないなという印象を受け、実に残念だった。時間を損した感覚を覚えた。
by masagata2004 | 2006-07-17 12:56 | メディア問題 | Trackback(1) | Comments(0)
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Tracked from Murrielz blog at 2006-07-18 06:48
タイトル : 第276回マル激 江川達也氏の語りの立ち位置が、日教組の..
第276回 [2006年7月14日]のマル激は、江川達也氏(漫画家)をゲストに、シリーズ『小泉政治の総決算』その1として「われわれは歴史を正しく語り継いでいるか」がテーマでした。 今回は、面白かった、というより、もっと面白くできたのに残念、というのが素直な感想です。神保さんも宮台さんも、江川氏を「ネタ」に呼んだのなら、徹底的にその「ネタ」の面白さを引き出せばよかったのでしょう。中途半端に補完してあげるものだから、「ネタ」の新鮮さが生きず、ありきたりの――言ってみれば、近現代史をけっこう勉強したつもり...... more


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