小説で地球環境問題を考える Part 8

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 7を読んでください。


 クアランコクタワービルのオープニング・セレモニーは、一階の広い玄関ロビーホールで、早朝に開かれた。
 ロビーホールは、つやつやとした大理石で壁とフロアが、かためられ、ゆったりと広く天井は空を見上げるように高い。フロアには椅子が数多く並べられ、世界各国からの来賓、マスコミの記者などが正装をまとって席に着き華やかな雰囲気を呈していた。
 セレモニーの主催者は、スワレシア大統領マラティール・モハメド氏と同国通産大臣ライ・グーシング氏である。この超高層ビルの所有者であるスワレシア政府の代表だ。
 由美子と英明は、このビルの建設を担当した明智物産の代表として出席した。
 セレモニーは、まず最初にマラティール大統領のスピーチから始まった。
「この式典に出席なされた皆様に深い感謝の意を述べたいと思います。スワレシアも、数々の難を乗り越え、今このビルの完成に象徴されますよう、大きな発展を遂げようとしています。これも、ひとえに皆様の御尽力があってのことと考えています。我々スワレシア国家がさらなる進歩を遂げ、世界の平和と発展に貢献することをお約束します。また、・・」
 マラティール氏の年齢は五十九歳だ。スワレシア人特有の浅黒い肌に皺の刻まれた顔が独自の貫禄をかもし出している。だが、演壇の上で背筋をピンとのばして立つ堂々とした姿は五十九歳とは思えない若々しさを感じさせる。スピーチの英語も流暢で、熱弁のある話し方も一国の指導者らしい。
 マラティール氏は、十年前から大統領の座に着き、現在二期目を務める。来月には三期目続投のための大統領選を控えているが、国民から絶大な人気を誇っているため、続投は確実視されている。マラティール氏の政策信念は、この発展途上のスワレシアを経済大国のみならず、民主主義を基に政治や文化でも他国に引けを取らない世界に通じる真の先進国に変えていくというものだ。
 マラティール氏には、二つの評判がある。一つは、国家第一主義で政策の施行が強引で独裁者的であるということ。
 だが、もう一つの評判は、それらの政策の遂行は、国民の生活を豊かにしていくために行っていることであり、大統領は国民の幸せを考える人物で、国民に信頼されるべき素晴しい指導者であるというものだ。いずれにせよ、議会からも国民からも大統領への支持は絶大である。
 大統領のスピーチは約三十分間続いた。次に明智物産代表として由美子の側に座っていた副社長石田英明が司会の紹介を受けながら立ち上がった。誇らし気な笑みを浮かべ演壇に上がった。
「只今御紹介に預かりましたイシダ・ヒデアキです。ここでスピーチをできる機会をいただけましたことを大変な栄誉と考えます。御存知の通り、このクアランコク・タワーの建設は私共、明智物産にとっても史上稀に見る大型プロジェクトでした。世界一の超高層ビルを・・」
 さすがはハーバード大学出のエリートビジネスマンだ。まろやかにアメリカ英語を話す。
 由美子は苛々していた。英明が由美子の心理を見抜いていたためだろうか、スピーチをする機会を与えられなかった。
 十分程のスピーチを済ますと、英明は無表情に演壇を下りた。
 セレモニーの後、大統領と通産大臣はSPに囲まれたまま、エレベーターに乗り上がっていった。最上階の九十九階だ。電光表示の数字が上がっていき「99」を示した。大統領などの要人警護のため、セレモニーの間は、三十基以上もあるビル内のエレベーターは一基しか使えないようになっていた。
 二分ほどして九十九階からエレベーターが戻ってくると由美子と英明が乗ることになった。明智物産のクアランコク支社オフィスのある階へ向かうのだ。
 エレベーターで由美子が言った。
「ねえ、大統領と通産大臣は何しに上がったの?」
「これから官邸に戻って閣僚会議があるそうですから、そのことについて打ち合わせをしに行ったのでしょう。邪魔することのないように」
 英明は由実子の企んでいることを見抜いているようだ。
「あら、私が、邪魔でもするとお思い?」
 由美子は、かっと英明をにらんだ。昨晩からにらみつけられ、慣れてしまっているのか英明は平然としている。
「別にそういうわけではありませんが、あ、着きましたよ。七十五階です。ここに私たちのオフィスがあります」
 英明がエレベーターから廊下に出る。その瞬間、由美子はさっとボタンを押し、エレベーターのドアを閉めた。  
 エレベーターの中で一人になった由美子は、最上階のボタンを押した。
 エレベーターは、上昇していく。そして、約十秒後、エレベーターが停まった。ドアが、さっと開いた。
 由美子が廊下に出ると。警備員が数人近付いてきた。
「君は何者だ?」
 警備員の一人の男が強ばった口調できく。
「明智物産社長の代理である娘の明智由美子です。大統領に大事な話があって参りました。会わせていただけますでしょうか?」 
 すると、警備員の男は、なるほどという顔をして由実子を見つめた。そして、男は、とにかく大統領と通産大臣の話し合いが終わるまで十分ほど待つようにと言った。
 十分が経った。すると警備員の男は、その場を離れた。どうやら、大統領のいる部屋へ向かったようだ。
 しばらくして警備員が戻り、由美子に近付き言った。
『大統領が入っていいとおっしゃています。案内しますから、ついてきてください』
 由美子は、警備員についていき、大きな応接室に入っていった。
 そこには、通産大臣のライ氏と、マラティール氏がソファに座っていた。
 マラティール氏は、近くで見るとさらに貫禄の伝わってくる人物だ。通産大臣は、それとは対照的で、同じ年齢のはずだが大統領よりずっと老けて見える。いまいち、大臣としての貫禄も感じられない。二人は、由美子を見つめながらソファーから立ち上がった。
「初めまして、由美子さん。今回お父さまはお越しになれないと聞いていましたので残念に思っていたのですよ。ですが代理のあなたにお会いできて嬉しい。あなたのお父様にはずいぶんお世話になりましたからね。娘さんのあなたと是非ともお会いしたいと思っていたのですよ」
とマラティール氏は、たいへん流暢な日本語で由美子に話しかけた。
 由美子は、驚いてしまった。まるで、日本人に話しかけられたような気分だ。
「私の日本語に驚いていらっしゃるようですね。私は日本に住んでいたことがあるんですよ。その時からあなたのお父様とのつき合いが始まりましたからね」
 由美子は、自分の驚いた表情が失礼に当たらなかったか心配になった。
「初めまして。大統領、すばらしい日本語、感激しますわ。父の会社が、お世話になってますので、私こそ、お近付きになれて光栄でございます」
 由実子は、大きな笑みを浮かべて言った。心の中では恐ろしく緊張していた。今まで大統領のような大人物と面と向かって会ったことがないのだ。
 マラティール氏は、握手をしようと手を差し出した。由美子も、さっと手を差し出し握手を交わした。すぐにライ氏が、続いて手を差し伸べ握手を交わした。ライ氏は英語で「お会いできて光栄です」とフォーマルな挨拶を一言口にした。由美子は、「私も光栄です」と言って丁寧に返した。
「どうぞ、お座りください」
 マラティール氏は言った。
 由美子とマラティール氏は、向かい合いソファーに座った。ライ氏はマラティール氏の横に座った。
「大統領、今回厚かましくも、約束もとらずここに参りましたのは、たいへん重要なことがあってのことなんです」
「なるほど、それはいったいどういうことなのでしょう? 私でお役に立つことでございますなら、何なりとお話しください」
 マラティール氏は、真剣な眼差しで由美子を見つめる。
「ここから車で二時間ほど離れたところで、ダムの建設が予定されていることはご存じでしょうか?」
「もちろんですとも、何といっても、そちらの明智物産の方で担当なさっていただくことになりましたプロジェクトですからね。完成すれば、貯水規模、発電量は東南アジアで最大のものとなりましょう」
 由美子は、ここぞと神経を集中させた。相手は一国の大統領、慎重に対応しなくてはならない。
「大統領、昨夜、建設予定地周辺の村民の方達が集まって、市民会館で反対集会をしていたことはご存じでしょうか?」
「ほお、それは初耳ですな」
「そんなことはないと思います。昨夜、そちらの通産大臣の命令により警官隊が市民会館の講堂に押し寄せ、村民の方たちを逮捕して、集会をやめさせましたから」
「何ですと?」
 マラティール氏は、驚きの表情を見せた。
「村民の方たちは今、留置場にいます。本当なら、今日のオープニングセレモニーの時にここでデモをするはずだったんです」
「ライ君、それは本当なのかね?」
 マラティール大統領は、英語でライ氏に話しかけた。
「大統領、彼らの集会は著しく公益を害するもので、ほっておけば、今日のオープニングセレモニーを妨害され、ダムの建設もまた・・』
「ライ君、すぐに村民の方たちを釈放しなさい。我が国はこれでも、民主主義体制をとっている国家だ。市民の運動を力で押さえたとなると、国家の恥だ。釈放しなさい。私は、そこまでしろとは君に命じた覚えはない」
 ライ通産大臣は、立ち上がった。
「かしこまりました、大統領。直ちに釈放させます」
 何だか、ライ氏は不満気な感じだ。苦々しい表情で応接室を出ていく。
 応接室は、由美子とマラティール大統領の二人だけになった。
「わざわざおしえていただいてありがとうございます。時に彼も行動が強引すぎてしまいミスを犯してしまうことがあります。私の監督不届きといえばそれまでですが、これも国を思う気持ちがあればのことでして、ですが、まことにとんでもないことをしてしまったと思いますよ」
 マラティール氏は、淡々と言った。
「大統領、そのお国を思う気持ちがあるのでしたら、ダム建設自体を考え直してはいただけませんでしょうか!」
 由美子は、息を吐き出しながら言った。
「考え直すというと、どういうことですかな? 由美子さん?」
 そう言いながら、マラティール氏の表情が、不気味に変わっていった。
「は、はい。ご存じの通り、大統領、今回の発電所建設計画は、私共の会社明智物産が請け負うこととなりましたが、実際のところ、建設の発注主でございますスワレシア政府の大統領、貴方に考え直していただきたいのです」
 由美子は、目の前のマラティール氏の凍った目つきと驚きの表情を見て、これ以上言葉が出なかった。
「お父さまには、そのことをお話しなさいましたか?」
 マラティール氏は、ソファーから立ち上がった。ゆっくり歩いて窓の方へ近付いていく。窓の外の景色を眺め始めた。ここは、世界一高いビルの最上階、眼下に見下ろすのはスワレシアの首都クワランコク市の全景だ。
「まず、きっとお父さまとお話しになったはずです!」
とマラティール氏は、とげとげしく言った。
 由美子は、「はい」と答えた。
 すると、マラティール氏は言った。。
「でも、断られたのでしょう。このビルの建設同様、ダム建設計画を逃すと、お父様の会社にとって大変な損失を被ることとなりますからね。だったら、建設を中止する理由なんてないということになりますよね?」
 由美子は、ソファーから立ち上がり、力を振り絞り口を開いた。
「しかし、大統領、ダムが建設されれば、周辺の住民の方たちの生活はどうなるんですか。みんな、もと住んでいた土地を出ていかなければなりません。建設予定地の森には、ペタンという原住民の方たちが生活しています。森の自然と共存しながら根を下ろしている方たちです。その人たちも出ていかなければなりません。それに、森を切り開いて建てるのですから、地球の貴重な財産である熱帯雨林を破壊することになって、地球環境全体にも悪影響を及ぼすんじゃありませんか?」
 由美子は、話しながら息が切れそうだった。
「は、はあ、驚きましたな。明智物産のような大企業の社長のお嬢様が、こんな理想主義を唱えるとは、時々、アメリカやヨーロッパの環境保護団体の方たちが私の官邸を訪ねて同じようなことを言ってきます。まるで正義の使者にでもなったかのように。しかしですね、彼らは私たちの国スワレシアの辿ってきた歴史を何一つ知らない。それなのに、勝手な理想主義を押しつけてくる」
 マラティール氏は、由美子をにらみつけながら話しを続けた。
「私たちの国スワレシアは、長い間、イギリスの植民地でした。第二次世界大戦になると、あなた達日本がこの地に攻めてきて、占領しました。戦争が終わってイギリスの植民地にまた戻り、その後、人々の運動の末、やっとのことで独立を手にしました。ですが、農業や漁業が主要な産業となっている我が国は貧しく弱く、またいつ植民地主義の脅威にさらされるのでと怯え続けなければなりませんでした。真の独立はまだまだ先でした。そんな時、私はこの国の指導者となる決意をしたのです。念願が叶い、大統領になったときに経済発展第一の目標をかかげることにしました。工業化を促進させ経済を発展させ、先進国並みの経済力を獲得できれば、国家としての主権が侵されることはありません。日本が、高度成長を成し遂げていた三十年程前、私は貿易の仕事をするため日本に住んでいました。日本の経済発展を目の当たりにして、これこそはと思ったのです。私たちの国も、いずれは日本のような経済大国になる日が来る、必ず来させてみせると! それのどこがいけないというのですか!」
 マラティール氏の口調は、どんどん高鳴っていた。そして、
「熱帯雨林を切り開くのは罪深いことですと? そもそも、この国の熱帯雨林消失のほとんどは植民地時代に起こったことなのですよ。イギリスの人が、家具や薪にする木材を取りたいとか、ゴム農園を開くためにとかで、むやみやたらと木を切っていったことから始まったんですよ。熱帯雨林の伐採を含めて地球の環境破壊のほとんどは先進国が起こしてきたことじゃないですか! 私たちに責任はない。先進国のあなた方がまず解決すべきことなのです。あなた方に私たちを責める資格があるとお思いですか?」
 大統領の言葉には説得力があった。そして、由美子は言った。
「おっしゃる通りです。私たちに責める権利はありません。何よりも、私が分かっていることです。今まで、父の会社のおかげで便利で贅沢な生活ができました。私の豊かな生活は、父の会社が経済発展の名の元に行ってきた環境破壊を土台にして成り立ってきたものだったのです。そんなわたしに何も責める権利はありません。恥ずかしながら、そんな当り前のことを今になって分かってしまいました。しかし、この国の人々はどうなるんです。たしかに豊かになっていく人々もいますが、同時に環境が破壊され、健康がおかされ、住むところを追われたりする人々はどうなるのですか? あなたの大事にする同じスワレシアの方たちではないのですか。大統領は、この国を先進国並みの民主主義で国民の人権を尊重する国家にしていくという信念をお持ちだとお聞きしましたが?」
 マラティール氏は、言った。
「日本にいたときあなたのお父様からある言葉を教わりました。《大の虫を生かすためなら、小の虫を殺せ》とですね。国全体の発展のために、否応ない犠牲はつきものです。日本も同じようにして発展なさったんじゃありませんか。国が発展を遂げれば、いずれ皆、幸福になります」
「しかし、大統領、日本では国が発展していく中、数々の公害問題が起こり、犠牲になった多くの人々は一生癒えることのない身体的、また精神的な傷を負う結果となりました。それは歴史的事実です」
 しばらく、沈黙が続いた。
 そして、沈黙を破るようにマラティール氏は、言った。
「残念ながら、これ以上話す時間はありませんな。これから、大事な閣僚会議があります!」
 マラティール氏は、応接室を速歩きで出ていった。由美子は、黙って大統領の後ろ姿を見つめた。無礼なことをしてしまったと思った。
 
 しばらくして、由美子も応接室を出た。大統領が警備員に囲まれエレベーターで1階に降りたのが確認された後、他のエレベーターが起動した。さっそく扉の開いたエレベーターに乗り込み、1階へと降りることにした。

b0017892_2237053.jpg


Part 9 へつづく。
by masagata2004 | 2007-06-04 21:08 | 環境問題を考える


人生は常に進歩していかなければならない


by マサガタ

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

カテゴリ

全体
プロフィール
自作小説
映画ドラマ評論
環境問題を考える
時事トピック
音楽
スポーツ
ライフ・スタイル
米留学体験談
イベント告知板
メディア問題
旅行
中国
風景写真&動画集
書籍評論
演劇評論
アート
マサガタな日々
JANJAN
スキー
沖縄

タグ

最新のトラックバック

映画「終戦のエンペラー」..
from soramove
【映画】バーダー・マイン..
from しづのをだまき
インサイダー
from 映鍵(ei_ken)

フォロー中のブログ

高遠菜穂子のイラク・ホー...
ジャーナリスト・志葉玲の...
増山麗奈の革命鍋!
*華の宴* ~ Life...
poziomkaとポーラ...
広島瀬戸内新聞ニュース(...
楽なログ
美ら海・沖縄に基地はいらない!

その他のお薦めリンク

ノーモア南京の会
Peaceful Tomorrows
Our Planet
環境エネルギー政策研究所


私へのメールは、
masagata1029アットマークy8.dion.ne.jp まで。

当ブログへのリンクはフリーです。

検索

その他のジャンル

ブログパーツ

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

東京
旅行家・冒険家

画像一覧