小説で地球環境問題を考える Part 10

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 9を読んでください。


 クアランコク国際空港から五時間後、ジャンボジェット機は成田に着いた。到着ロビーを出ると、由美子は、タクシーを拾い運転手に真理子の住所を告げた。 
 空港から一時間後、品川にある真理子の住むマンションに着いた。階段を駆け上り真理子の部屋に行く。由美子は、インターホンを押した。
「誰ですか?」
 真理子の声だ。
「わたしよ。由美子よ。真理子、スワレシアから戻ってきたの。あなたにききたいことがあって・・」
 とっさにドアが開いた。
「由美子、帰ってきたの。ちょうどいいわ。私もあなたにききたいことがあるの」
 真理子はこわばった顔をし由美子をにらんでいる。そして酒臭かった。
 部屋の中にはウィスキーの瓶が転がっていた。
「ずっと飲んでたのね、真理子」
「そうよ、飲まずにはいられなかったわ!」
「一体どうしちゃったの? 今朝の新聞をクアランコクで読んだわ。それで急いで飛んできたの。いったいどういのことなの、この記事は!」
 由美子は、その新聞を手に持っていた。
「それは、こっちがききたいぐらいだわ、由美子」
 真理子が、ぐっとにらみつける。こんな真理子を見たのは初めてだ。
「どういうことなの? おしえてよ」
「わたしの記事は、上からの命令で突然発行中止。きっとあなたの会社の評判を悪くするようなことは書くなって圧力がかかったのよ。自分たちにとって都合の悪い記事だもの。わたし、飛行機の中で記事を書き上げたのよ。日本について編集長に出して、朝刊紙面に出そうってことになったの。だけど、今朝になってみるとこのあり様、会社に行くと、私に転属命令が来たの。何でも営業をやれって。私に記者を辞めて、広告を募る仕事をしろっていうのよ。これもすべて上からの命令なんだって!」
「そんな!」
 由美子は、驚きのあまり胸が破裂しそうだった。
「あなたね。あなたがおしえたのね。あなたしかわたしがあの記事を書くこと知らなかったもの!」
 真理子の声には憎しみが込められていた。
「何ってこと言うの、真理子。私がそんなことするとでも思って。もしわたしが会社のために記事を差し止めるつもりだったら、最初からあなたにあんなことおしえる?」
 真理子の表情が、さっと変わった。
「そうね、そうだったわね。私、お酒飲み過ぎて取り乱してた。御免なさい。大親友を疑うなんてどうかしてたわ。でも、突然のことで頭が混乱して」
 真理子はすまなそうな表情になった。
「でも、いったい誰が?」
 由美子は、考えた。
 すると、真理子は言った。
「由美子、考えてみれば、大日本新聞はあなたの会社、明智物産を最大の広告主としてるわ。大事なスポンサーなのよ。きっと自主的にあの記事を取り止めたんだわ。私って馬鹿だった。大学でマスコミ学を勉強していたとき、習ったことだわ。マスメディアがいくら、社会の公器といわれていても完全な中立を保てないってこと。広告やコマーシャルなどで、運営資金を利益優先主義の企業からもらっているのだから、所詮は同じ利益主義者の仲間にすぎないんだってこと。正義の戦死を気取っていた自分が甘かったんだわ」
 真理子は、しょんぼりとして言った。由美子は、罪悪感にさいなまれた。自分のせいのような気がする。由美子が手を下したわけではないが、由美子の頼んだことが裏目に出て親友の真理子を傷つけることになってしまったのだ。

 真理子は、今は一人にしてほしいと告げた。由美子も、それが真理子のためだと思いマンションを出ていった。

 由美子は、外に出て歩きながら考えた。いったい誰が新聞社に指図したのだと。いや、真理子の言う通り、新聞社の方から真理子の記事を読んで自主的に差し止めたに違いないのだ。
 もし、明智物産の誰かが、大日本新聞に圧力を加えたとなると、誰かが由美子と真理子の会話を聞いていたことになる。真理子の記事を編集長に見せて発行されるまでの間に。明智物産の誰かが次の日に出される記事の内容など知り得ることなんてありえないのだ。あれは二人だけでホテルのスイートルームの一室でした会話なのだ。誰も聞いてはいなかったはずだ。
 由美子は、通りにタクシーが走っているのを見つけた。手を挙げ止めさせた。中に乗り込んで運転手に告げた。
「世田谷区成城にお願いします」
 それから三十分程して、由美子は我が家に着いた。
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 インターホンを押すと、しばらくして家政婦のばあやが玄関から出てきた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
 ばあやが、そう言うと、由美子は、
「お父さんは帰ってるかしら」
とさっそくきいた。
「旦那様は、書斎の方におられますが・・」
 由美子は、駆け足で廊下を走り書斎へ向かった。書斎のドアを開けた。
 父、清太郎が、机の上で書類を読んでいる最中だった。
「何だ、由美子じゃないか!」
 清太郎は、驚いた顔で由美子を見る。
 由美子は、手に持っていた新聞紙を書斎の机の上に投げつけた。
「これを読んで、お父さん」
 由美子は、清太郎をにらみつけ言った。
「何だ、一体?」
「とにかく、読んで! お父さん」
 新聞紙は四面のところが開いた状態になっている。清太郎は、圧倒され訳も分からず記事を読み始めた。      
「それが、どうした? クアランコクから、こんな記事をわしに読ませるため大事な仕事をほっぽり出して帰って来たのか!」
 清太郎は、かっとなって言った。
「わたしの友達の新聞記者が左遷されたわ。明智物産がダムを造るため、熱帯雨林を破壊して周りの村人や森に住む原住民の人達を苦しめているという事実を新聞の記事に載せようとしたためにね。代わりにこんなインチキな記事を出すなんて」
「わしは何も知らんぞ」
 清太郎は、キツネにつままれたような顔で由美子を見る。
「お父さんが知らなくたって、同じことよ。明智物産が新聞社に圧力かけてやめさせたんでしょ」
 由美子は、大声で叫んだ。とにかく、由美子は腹が立って仕方なかった。何であろうと父を責めたかった。たとえ記事の差し押えが、新聞社の自主的なものであったとしても、明智物産社長である父にも責任の一端はある。つまり大日本新聞は、清太郎のことを気遣い社会正義を投げ売ることをしたのだ。そのうえ、親友を犠牲者にさせてしまった。
「だからなんだって言うんだ! おまえは会社に不利益になるような情報を新聞記者におしえたのか。よくもそんなことできたな」
 清太郎も強気で言い返す。
「お父さんは分かってないわ。ダムができると、たくさん生活に困る人達ができるのよ。その人達は、どうだっていいって言うの!」
「何を言っとるんだ、由美子。ダム建設は会社のためだぞ。まずは、会社の利益を考えろ。人を思いやるのは勝手だが、会社には関係ないことだ」
 清太郎は、由美子の言葉など理解の範疇にないようだ。由美子は悲しくなった。
「お父さん、わたし、お父さんのことが理解できない。わたしにはとっても優しいのに、私のためなら何だってしてくれて、こんな豪邸に住まわして、毎日おいしいもの食べさせてくれて、ハワイにまで留学させてくれた。そんなやさしいお父さんが、どうしてそんな酷いことを言うの?」
 由美子は、涙を流した。清太郎は滅多に見れない娘の泣き顔をまじまじと見つめた。しばらくお互いの間に沈黙が続いた。
 清太郎は小声で、
「全く、おまえの言っていることはわけが分からん・・」
と呟いた。
 由美子は思った。父にこれ以上、何を言っても無理だ。清太郎は、今回に限らず今まで会社の利益のために数多く似たような環境破壊を押し進めてきたのだ。それを、自分のような小娘が文句を言ったところで考え方を変えるなんてことあり得ない。
 沈黙の中、由美子はふと健次のことを思い出した。まだクアランコクにいるのだ。せっかくの医薬品原料探索が中止になってしい、そのことが心苦しかった。一ヵ月後には、あの森の伐採が始まる。あと一ヵ月しかない!
「お父さん、ダムのことはどうでもいいわ。だけど、お願いがあるの。ダムができるのは一ヵ月あとのことでしょ。その一か月の間だけでいいの。森に入って、医薬品の原料を探しに来ている人達を入れて」
「医薬品の原料を探すだと! いったい何者なんだ?」
 由美子は、健次との関係を今話すのはまずいと思った。清太郎は、健次と会ったことはないから全然知らないのだ。由美子の恋人であることなどを今話せば、余計な混乱を生じさせてしまう。
「わたしがハワイで知り合った友達の薬理学者が率いる調査隊よ。熱帯雨林から癌やエイズを治せる薬の原料を探しているの」
 清太郎は、その言葉を聞いてはっとした。癌やエイズを治せる薬を熱帯雨林から探す?
「何、馬鹿なことを言っとるんだ。そんなものがあるか!」
「探してみなきゃ分からないわ。わずかな可能性にかけて頑張ってるの。熱帯雨林は生物の種類がとても豊富なところよ。今まで発見されてない特殊なものが存在するかもしれないの。そして、それが癌やエイズを治す薬の原料になるかも・」
 ゴホ、ゴホ、ゴホ、清太郎が喘息のような咳をした。
「お父さん、どうしたの、大丈夫?」
 咳がまた続いた。ゴホ、ゴホ、苦しそうで身動きが取れないみたいだ。
「由美子、薬を、取って、くれ。右の、一番上の、引き出しに、入っている。それを、わしの口に入れて、くれ」
 咳をしながら途切れ途切れに言う。
 由美子は、さっと引き出しを開けた。粒状の薬を入れた瓶詰が入っていた。 
 瓶を取り出し蓋を開けた。粒を一つ取った。由美子は、急いでそれを咳を吐き出す清太郎口の中へ押し込んだ。水差しとコップがそばにあった。すぐに水をコップに入れ、それもすぐに口へ押し込んだ。清太郎が喉をグイグイ鳴らしながら飲み込む。
 しばらくすると、咳はおさまった。
「お父さん、ひどい咳だわ。いったいどういうことなの? 何かひどい病気じゃ」
 由美子は、恐ろしく心配になった。どう見ても普通の風邪で患う咳にはみえなかった。
「医者に行って検査をしてもらった。どうも働き過ぎで体の調子を最近崩しているらしい。まあ休みを取るようにしていれば、じきに治ると言っていた。心配するな!」
「心配するわ。あんなに咳き込んで」
 由美子は、何だか自分が父親を責めすぎて咳を出させた気がしてしまった。
「由美子、その医薬品の原料を探すという奴だが、工事が始まる前までなら構わん。入れてやりなさい」 
「お父さん! 本当?」
「ただし言っとくが、工事が始まったら、おしまいだ。分かったな」
 清太郎は由美子をじろじろと見つめながら言った。由美子は心配そうな表情から喜びの表情へと変わっていった。

 清太郎は、由美子に社長命令を書いた署名入りの文書を差し出した。それにはダム建設予定地の森に工事開始日前までは、安藤健次を含めた医薬品調査隊員のみ入れるというものだった。
 由美子は、取りあえずクアランコクの健次に電話をして文書はファックスで送った。もちろん、現地の当局に話しは伝わっている。健次は大喜びだった。そして、言った。
「由美子、安心しろ。もしかしたら、すごい原料が見つかって、明智物産が森を破壊するのをやめざる得なくなるかもしれない。癌でも治せる薬を作れる原料があるなら、ダムなんかよりも価値が出てくるもんな」
 すっかり、薬の原料を見付けた気分だった。

 由美子は、その夜、父と食事を共にし、いろいろな話をした。話の内容は、主に子供の頃から高校時代まで父と遊んだことなど家族としての思い出話や自分の五年間のハワイ生活の話しだった。これ以上、森の話はしないことにした。今の由美子には、それで満足だった。

 次の日の朝早く、由美子は、慌ただしくも、クアランコクへ向けて出発した。空港に行く途中、真理子のアパートに寄ってみたが、真理子は留守だった。真理子には、本当にすまないことをしてしまったと思った。自分には責任があるのだ。取りあえず、父には、大日本新聞社に掛け合い真理子に元のように記者として復帰できるように頼んだ。大広告主の父が指示するのなら、問題なくその頼みも通るはずだ。

Part 11につづく。
by masagata2004 | 2007-07-13 21:31 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)
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