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小説で地球環境問題を考える Part 12

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 11を読んでください。


 英明は、リムジンの中で考え事をしていた。気になっていることといえば由美子のことだ。あの女は、全く厄介だ。だが、自分の出世のためには社長の娘である由美子を利用しなければならない。
 由美子と結婚するのだ。由美子と結婚すれば、明智一族の仲間入りができる。由美子は、社長清太郎の跡継ぎだ。しかし、あんな世間知らずの小娘に跡など継げるはずなどない。ということは夫であるこの自分が変わりに継ぐこととなる。
 清太郎が、癌で余命いくばくもないのは知っている。野村院長が教えてくれた。あの男は、自分に負い目を感じているのだ。というのも、最近、野村が自分の所有する野村病院に新しい病棟を造る際の融資追加を明智物産傘下の銀行に依頼した時、英明の力が役に立ったのだ。英明が多額の融資を後押しする代わり、野村が清太郎の主治医となり清太郎の健康状態に関する情報を全て提供するという約束をさせたのだ。
 由美子と結婚すれば、明智物産は清太郎の死後、自分のものになる。

 英明は思った。由美子が、自分を心底嫌いなのは分かっている。だが、結婚はさせてみせる。いや、必ず結婚する。こっちには、ダム建設を中止できるという切札がある。あの女は愚か者だ。自然を守るという血迷った理想に打ち拉がれ、しまいには何でもすることになるだろう。あの鬱蒼とした不気味な森を守るために。
 だが、そこまで追い詰めるには今のところ一つの障害が存在する。それをなくさなければならない。それは安藤健次のことだ。由美子の恋人だ。二人揃って愚かな理想主義者といえる。英明は健次とハワイで会った時のことを思い出した。その時、健次は仕事に失敗したからとやけ酒を飲み、酔いつぶれ、あろうことか自分につっかかてきた。何とも不愉快な体験だったことを覚えている。
 由美子と同様、とても厄介な存在だ。あの男がいる限り、由美子は他の男と結婚するつもりにはならないだろう。そして、あの男は、会社が管理する土地となったあの森で、訳の分からないことをしている。あの森に癌やエイズを治す薬があるというのだ。英明にとっては、あの森は木や草が集まっただけのものに過ぎず、そんな優れものがあるとは信じがたかった。
 だが、英明はアメリカのハーバード大学に留学していた時、医学部の学生からこんな話を聞いたことがある。化学薬品の合成などで新薬を作ってきたこれまでのやり方以外に、画期的な方法として熱帯雨林の植物から、直接そんな原料を捜し当てるというやり方が注目されているという。もっとも、古代から現代に至るまで医薬品の原料は植物から採取することが多かったのだが、その中で熱帯雨林は未知の原料の宝庫であり、癌やエイズを治せる薬の原料が存在する可能性があるといわれているのだ。

 そんなこと起こるなどと本気で思ってはいない。しかし、万が一の可能性も無視できないのだ。英明は、用心深い性分だった。
 障害となる要素は徹底して排除しなければならないと考えた英明は、携帯電話を取り上げた。番号を押した。しばらくして、
「ハロー、あんたかね。頼みたいことがある。厄介な奴が私の周りにいてね、・・・」
 こんな問題を処理してくれる裏世界の組織がクアランコクに存在することを英明はよく知っていた。


 次の日 
 昨晩、クアランコクに戻った時から、健次と隊員たちは採取したサンプルの分析をスワレシア国立クアランコク大学から借りた研究室で行った。
 昨日採ってきた植物のサンプルの中には特別なものはなかった。健次達は、形が奇妙で、不思議な匂いがする魅惑の熱帯雨林ならではの珍しい植物ばかりを採ってきたのだが、医学的な効果を及ぼす成分などは含まれていなかった。
 その他、昆虫も調べてみた。どれも奇妙な形や色をしたものばかりだった。日本では、絶対に見ることはできないものばかりだ。面白いのは、その多くは、カメレオンのように洩り全体の景色と形や色がマッチしており、その体自体が、葉っぱや木の枝とそっくりで、カモフラージュ効果といわれる天敵から見つかりにくくなるような外見をしているのだ。しかし、それらからも何も得られなかった。
 まだまだ、始まったばかりだ。それに昨日採ってきたのは、あの森にある生物のほんの一部でしかない。熱帯雨林には何百万という種類の生物が存在し、その多くがまだ人間に発見されていないものばかりだ。昨日採ってきたのはその中の数百でしかない。
 サンプルの分析が一段落すると、由美子も加わり、明日の探索の予定を決める打ち合わせが始まった。打ち合わせは長く続き、終わった時は夜遅くだった。取りあえず、一通りの計画はできあがった。明日からの探索は数日に渡り野宿して行う予定となった。限られた時間を活かし、なんとしてでもいい薬の原料を探し出さなければならない。あと三週間しかないのだ。

 健次と由美子と隊員達はホテルに戻った。
 健次は、フロントで鍵を受け取り、一人で自分の部屋へ行った。由美子と隊員達が、一階のレストランで一緒に食事をしようと誘ったのだが、食欲が湧かず断わった。
 ドアを開け部屋の中に入る。健次は思った。まず、シャワーでも浴びよう。汗だくだくで、体は石になったみたいに疲れている。今日は特別体を動かしたわけではないのだが、たまっていた緊張が、今になってどっと押し寄せてきたような感覚だ。
 シャワーを浴びたら由美子の部屋へ行こうと思った。今夜は二人で過ごすと約束したのだ。全くこんなに疲れている時に恋人のお務めをさせられるとはつらいものだが、考えてみれば、彼女の部屋はスイートルームだ。休むなら由美子と一緒にあの広い部屋で休むのが最適である。
 部屋の電気をつけた。
 目の前に三人の見知らぬ男達がいる。
「何だ、貴様ら!」
 健次は、大声を上げた。二人の男が健次の両腕を両側からぐっとつかむ。健次は力一杯抵抗した。両足を上げ、目の前のもう一人の男の腹を蹴った。男は床に倒される。
 即座、両側の男たちは、健次の両足を右と左からぐっと踏み、健次は立ったまま身動きできない状態にされた。
 腹を蹴られた男は、さっと床から起き上がり右手に拳を作ると、健次の頬を力一杯殴った。
 ばしっと、顔全体に衝撃が走った。すぐにもう一発が入った。その痛みを実感する間もなく、今度は腹に男の拳が入る。何度も強い衝撃が腹を攻める。内臓が破裂しそうな痛みだ。
 だんだん意識がもうろうとしてきた。目の前の男の顔がぼやけて見える。健次は何も考えられなくなり目を閉じた。
 二人の男は健次の意識がなくなったのを確認すると、手を放し床へ落とした。
 ガタっと、この部屋のバスルームのドアが開いた。一人の背広姿の男が現われた。
「終わったか!」
と英明が三人の男達に言った。
 男達は、揃って頷いた。
「じゃあ、さっそく後の処理を頼む。この男、とてもあの森が気に入ってるんだ。あの森の中で死ねたら本望だろう。連れていってやれ」
 気を失い床にひれ伏した健次を見下ろし、英明は勝ち誇った微笑みを浮かべた。
 

 健次は目を覚ました。自分が寝そべっていることに気が付いた。その場所は、かなり寝心地が悪い。じめじめとした地面の上だ。
 辺りは暗いのだが、空に大きな満月が出ているのが見えた。満月の明かりが、わずかながら、ぼんやりと辺りの姿を照らしている。自分が調査で歩き回っていたあの森の中にいることが分かった。なぜこんなところにいるのだ?
 遠くから人の声と馬の足音が、小さいながらも聞こえる。声と音は、どんどん遠ざかっている。はっきり聞こえないのだが、日本語ではないようだ。スワレシア語で話す何人かの男の声のようだ。
 健次は思い出した。ホテルの部屋に入って、見知らぬ男達に囲まれ、顔や腹を殴られ気を失った。それからあとは半分夢を見ていたような心地だったが、自分が車で運ばれていたような覚えがある。
 そして、その次は、何か動物の背の上だった。かなりぐらぐらと揺れていた。
 それから、地面に意識がはっきりしないまま、叩き落とされたのだ。その落とされた瞬間、はっきりと意識が戻り目が覚めたのだ。
 一体、何だって自分がこんな目に遭わなければならないのか、健次には、皆目見当がつかなかった。
 どうして、奴らは、自分をこんなところへ連れてきたのか?
 何はともあれ起き上がろう。こんなところでじっとしてはいられない。
 突如、ジーっと、ラジオの雑音のような音が聞こえた。何だろうと思って目を凝らすと、ほとんど真っ暗だが、月の明かりでうっすらとそのものの形が見えた。そのものに見覚えがあったため、何なのかはすぐに分かった。
 昨日の探索でも、何度か出くわしている。熱帯ジャングルでは絶対に気をつけなければならない生物、毒蛇コブラだ。それもかなり体長が大きい。綱のような太く長い胴体をキュッと立て、ぎらりと自分をにらみつけてる。
 ジー、ジー、と身を凍らせる不気味な声を何度も立てる。舌を鳴らして周りの匂いを感じとっているのだ。健次は不利な体勢にあった。起き上がって逃げようとすれは、相手は自分が攻撃を仕掛けたと思い、防御のため噛み付くだろう。
 ただ、じっとしておくしかない。少しでも動けば噛み付かれる、猛毒のしみ込んだ鋭い歯が襲ってくるのだ。
 健次の体は蒸し焼きにされたように熱くなった。夜でも炎天下と変わらないジャングルの暑さに加え、目の前に迫る恐怖が体温を上げている。
 だが、その熱い体も一気に凍った。
 コブラは、さっと胴体を延ばし健次の腕に噛み付いた。
 腕に凄まじい痛みを感じた。そして、体全体が急激に痺れてきた。意識を再び失う。

小説で地球環境問題を考える Part 12_b0017892_10222565.jpg


Part 13へつづく。
by masagata2004 | 2007-08-15 10:08 | 環境問題を考える | Comments(0)


私の体験記、意見、評論、人生観などについて書きます


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