小説で地球環境問題を考える Part 20

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 19を読んでください。

次の日の朝

 ダム建設予定地前では、デモが続いていた。昨晩からテントを張り、立て篭っていた人々が起き上がり、デモを再開した。アジア人、白人、黒人と肌の色は様々。国籍もスワレシア、日本、アメリカ、イギリス、フランスからなどと同じく様々であった。そのデモ隊の前には、警官隊が睨みつけながらずらりと並んで立っていた。
 彼らの掲げるプラカードには、「自然破壊反対」、「熱帯雨林は地球の資源だ」、「先住民を追い出すな」などと書かれていた。
 デモには、近くに住む村民も参加していた。彼らは、「我らの住みかと農地を奪うな」というプラカードを掲げ、自らの生活に密着した切実な思いを訴えていた。
 人々は、叫んだ。
「我々は、計画が中止になるまで決して屈しない!」
 昨日からすでに警官隊も来ていた。デモ隊と警官隊は、お互いにずっとにらみあいを続けている。
 デモ隊の中に一人の日本人女性がいた。この事件を世界中に伝えた雑誌記者、塚原真理子である。ニューズマンツリーのおかげで、事件は世界中に広まり、各国の環境保護団体の関心を引くことになった。
 真理子は、沸き上がる興奮を抑え切れない状態だった。自分が伝えた記事によって世界中の人々が反応している。もしかしてダム建設も中止にできるかもしれない。自分の振るった筆の力によって、世の中を変えることになるかもしれない。自分は、立派なジャーナリストの使命を果たしている。今までにない満足感を感じていた。
 ふと、ガタガタという大きな雑音が、遠くから聞こえてきた。真理子は、音の聞こえる方向を向いた。何台ものトラック、クレーン車、ブルドーザーが向かってくるのが見える。何事だろうか。真理子は、怖くなった。戦場で戦車の大群を見ているような気分だ。
 トラックとクレーン車とブルドーザーの大群は、デモ隊ぎりぎりまで迫ると、すっと止った。停まって静まり返ったと思うと、辺りに砂埃が舞った。
 人々は、圧倒され数歩ぐらい体を後ろに引いた。何事だと、皆そわそわしだした。クレーン車とトラックとブルドーザーのずらりと並んだ姿は、なんとも異様であった。砂埃がおさまり、よく見るとこれらの大型車の集団と共に、黒いリムジンが止まっていた。リムジンは、クレーン車などを背にして、この不気味な集団を引っぱる先頭を担っているみたいだ。
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 リムジンの運転席から、制服を着た運転手が出ると、後部座席のドアを開ける。
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サングラスをかけ、ネクタイと背広をまとった背の高い紳士が姿を現した。
 真理子は、この男を見たことがあった。写真で知っているのだ。新聞の経済欄に、よく載っていた顔だ。明智物産の若くやり手の副社長である。親友の由美子が話していたことも思い出した。
 英明は、車を出たかと思うと、すぐ横に止まっていたトラックの荷台に上がった。そして、スーツ姿をまとったスワレシア人の部下が続いて上がった。部下は、手にメガホンと金属製の大きなケースを持って、重そうな足取りだ。
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 荷台に上がった英明と部下は、デモ隊を見下ろした。デモ隊は、二種類の集団が合わせもってできている。一つは、自然保護を唱える環境保護団体。もう一つは、生活を守ろうとする村民達。なぜか二つの集団は、どちらも同じスローガン、ダム建設反対を唱えているはずなのに右と左で分かれて立ち並んでいる。
 無理もないのかもしれない、と英明は思った。二つの集団は、コミュニケーションに使う言葉もデモを行う目的も違う。右にいる環境保護団体の輩は主に英語を使い、目的は美しく尊い熱帯雨林を守ろうという人類理想の実現だ。片一方の左の集団は、自らの生活を守って行こうという切実なもの。全くの好対照だ。森を守ろうという熱意は同じなのだが、その熱意の湧いてくる源が異なる。
 英明は、部下からメガホンを取り、英語で叫んだ。
「皆様、私は、ヒデアキ・イシダと申しまして今回のダム建設事業を執り行う明智物産を代表する者です。皆様に私どもの事業内容に対する理解を求めにやって参りました」
 そばにいたスワレシア人の部下は英明から手渡されたメガホンを取ると、村人にも分かるスワレシア語に訳して英明の言ったことをそのまま伝えた。
 人々は、静まりかえって聞いている。だが、目だけは、トラックの荷台に立つ二人をにらみつけている。
 相変わらずの企業お得意の弁解が始まったと、真理子は思っていた。
「今回の事業は、この国スワレシアの産業発展のためであり、スワレシア政府から奨励を受けたものであります。これは皆様のためでもあるんです」
「何がみんなのためですって! 地球にとって貴重な熱帯雨林を破壊して、そのうえ、この近くに住む村の人達の生活を危険にさらすことまでして、何が皆のためですって」
 真理子は怒りに口を震えさせながら言った。
 英明は、真理子を見下ろしながら、話し続けた。
「村民の方々には、それ相応の保障をいたします。また、この発電所が完成しました折には、優先的に村民の方々をこちらで雇わさせていただきます」
 スワレシア人部下が通訳したこの言葉が、放たれたとたん、村人側の集団がざわめき始めた。
「今ここに保障金を用意しています。直ちに受け取れます。一人当りこれだけを差し上げます」
 そう言いながら、英明は、金属のケースを開け、そこから分厚い札束を手につかみ、天高らかと挙げた。
 わあっと、どよめきが村人の集団から起こった。人々が、トラックの荷台にかけ寄ってくる。真理子は、不安になってその光景を見つめた。
「保障金をいただこう。それから、あんた達の所で働くよ。きちんとした給料がもらえるんだろう」
 真理子の不安は、当たった。ここの村の人々の生活は、決して豊かとは言えない。農業でなんとか、日々最低限の生活を切り盛りしている人達ばかりだ。天候不良など、自然の気紛れに振り回され、安定した収入が常に望めるとは限らない。そこに、ダムの発電所という一定の給料が保障される職が得られるのであれば、願ってもない話しだ。今までの生活を脅かされる被害者としての憤りは消え去り、今は、この朗報に飛びつくことで頭が一杯になったようだ。
「やめて、お願いだからプライドを売ることなんてしないで!」
とスワレシア人の少女が、トラックの荷台に群がる村人に現地語で呼びかける。その少女は、スワレシア語で話しかけている。身なりがよく裕福な育ちらしく、村民の娘ではないらしい。環境保護団体の集団から出てきた少女だ。
 少女は、必死に呼びかける。少女は、トラックに向かって歩く村の若い男の行く手を遮った。すると、若い男は、少女に言った。
「あんたのようなお嬢様育ちに、俺たちの気持ちが分かってたまるか!」
 若い男は、さっと少女の体を押し倒して前に進んだ。真理子は、彼女に近づいた。
「ねえ、大丈夫。さっきの人ひどいわね」
と真理子は言いながら、彼女に手を差し伸べた。
 だが、少女は、真理子の手を振り払いにらんだ。
「あなたたちのせいよ。外国から来たあなたたちが、この国の自然を荒し回ることをしたりするから! あなたたちが来る前は、この国には、たくさん自然があった。きれいな森がたくさんあったのに、どんどん壊されていった」
 少女は、涙を流しながら英語で話す。真理子は、何も言い返せなかった。
 真理子は、トラックの荷台の上で次から次へと村人に保障金を渡す英明をにらんだ。英明は、金を渡しながら薄笑いを浮かべている。真理子は、英明に向かって叫んだ。
「あんたって人は、卑怯者だわ。貧しい人達の弱みにつけ込んで。今、こんなふうに保障金やってるけど。ダムができれば一切面倒など見ずほったらかしにする企みでしょう」
 英明は、聞こえない振りをした。そして、次なる行動へと移った。メガホンを手に取り、口に当てると叫んだ。
「作業開始!」
 そのかけ声と共に、ブルドーザーが動き出した。クレーン車とトラックも動きだした。森の木のそばまで近づくと止まった。トラックから何人もの作業員が降りてきた。手には、電気鋸を持っている。ギーっと、モーターを回す音が鳴った。
「何をするつもりなの! 建設開始日は、まだじゃない」
と真理子は、叫んだ。
「予定を急遽早めました。通産大臣から認可も取っています」
「何ですって! 計画を直前になって発表すると思ったら、予定を早めるなんて。それも地元の人達の承諾なんか一切取らないで。汚いわ!」
 真理子は、頭の中が煮えくりかえっていた。この場でこの男を殺してやろうとさえ思った。
 環境保護団体の中から、何人かが、鋸を持った作業員にぶつかっていった。警察官がすぐさま押さえつける。だが、また続いて何人かが無謀な行動に出る。警官は、またすぐに彼らを取り押さえる。そんないたちごっこのような格闘が続いた。
 しばらくすると、ガリガリっと、いう木の裂ける音と共に、一本の木がずどんと地面に叩き落とされた。フタバガキの巨木だ。作業員が、縄を大木にくくりつけ、縄のつながったクレーン車が、その木柱を持ち上げトラックの荷台に運びこむ。
 皆、悲痛の想いで、その光景を眺めた。警察官が、メガホンを持って叫ぶ。
「皆さん、工事の邪魔になりますので、直ちに立ち退いてください。これは、命令です」
「そんな命令、屈するものか!」
とヒッピーのような出立ちをした長髪の白人男性が叫んだ。「GREEN PEACE(グリーンピース)」という文字のプリントがされたTシャツを着ている。
 パーンという銃声が当たりに響き渡った。銃は、上空に向かって撃ち放たれた。グリーンピースの長髪男は、その場で腰を抜かし倒れこんだ。仲間が、彼の肩を持ち上げ立ち上がらせようとする。
 ついに銃声まで鳴ったかと、人々は事態の変化と自らの心境の変化を感じ取ったのか、硬直状態に陥り、叫び声を止めた。
 しばらくすると、環境保護団体の集団がぞろぞろと、その場を引き上げ始めた。人々は、深刻な事態に陥ったことを悟り、同時に興醒め感も感じ始めていた。情熱が恐怖によって打ち消されたことを痛感させられたのだ。
 どんどん、人の数が減っていく。村人達の方は、金を貰いほとんどが、消え去ってしまっていた。
 真理子は、この光景を呆然と眺めていた。所詮は、これが現実である。どうにもならないのだ。金と武器で攻める国家権力の前には、一般市民は無力な羊でしかない。何の抵抗力も持ち合わせていないのだ。結局は力に屈し、いずれここに計画通りの発電所が建てられることになる。似たようなことが世界各地で起こっているのだ。これが悲しい現実というものなのだ。
「英明さん、やめて。すぐにこの工事を中止させて!」
と一人の若い女性が現われ言った。そばにタクシーが止まっており、そこから降り立ったところだった。リムジンに乗り込みその場を去ろうとする英明に話しかけたのだ。
「由美子!」

Part 21へ続く。
by masagata2004 | 2007-12-14 21:38 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)
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