小説で地球環境問題を考える Part 21

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 20を読んでください。


 真理子が、驚いて叫んだ。だが、由美子は、真理子の姿など目もくれず、英明に話しかけた。
「由美子さん、これは、これは。あなたも明智物産の一員として開発の現場をきちんと見届けに来たのですね」
 薄気味悪い微笑みを浮かべながら、英明は由美子を見つめ言った。
「開発なんかさせないわ。社長の娘の私が命令するわ。直ちにこの工事をストップさせて」
 由美子は、怒鳴り声で言った。
 バターン、とまた大木が切り倒され地面に叩きつけられる音が響いた。由美子は、まじまじとその光景を眺めた。目から涙が溢れ出そうだ。
「お父様が、そうなさるよう、あなたに伝えたのですか?」
 石田にそうきかれ由美子は黙っていた。
「ほほう、娘であっても、あなたには何の権限もないことを分かっらっしゃるようですね」
 英明は、あざ笑い、リムジンに乗り込もうとする。
「待って、前に言った条件なら、この場で工事を止められるの?」
と自分でも思わぬことを由美子は、言ってしまった。
 英明は、サングラスを外し、まじまじと由美子の方を見つめる。
「条件を飲むのであれば、話しは実に早い。でも、あとで気が変わったは、なしですよ。いつだって工事は再開できるのですからね」
 英明は、現場監督をするスワレシア人に近付き、話しかけた。
 それから数分後、当たりは静まり返った。鋸の音もしない。ブルドーザーもクレーン車もトラックもその場で休停止した。
 由美子は、英明とリムジンに乗り込んだ。リムジンは、エンジンを点火させると、クアランコクに向け発車した。
 真理子は、親友に話しかけることもできず、呆然と由美子と英明がやり取りをするのを眺めていた。二人の間に何だかの取り決めが交わされ、そのことが事態を治めたらしいが、真理子には、それが何であるのか皆目、見当がつかなかった。


 クアランコク・パレス。ホテルの最上階スイートルーム、英明の滞在している部屋に由美子は、英明と二人っきりでいた。由実子は、実に不愉快な気分であった。だが、これも、いかしかたない成り行きであることは十分承知していた。
 英明は、言った。
「私たちが、結婚するとなれば、お父様がまずお喜びになるでしょう」
「今、父は生死をさまよう重病なのよ。娘の結婚を祝福する元気なんてないわ」
 由美子は、苦々しい口調で言った。英明に伝えたくないことを言ったのだ。
「そのことは知っていますよ」
 由美子は驚いた。このことは健次や家族と一部の病院関係者しか知らないことのはずだったのだ。どこから漏れたのだろうかと考える前に、
「じゃあ、すぐにでも見舞いに行ったら。あなたにとっては、とても大切な人なんでしょう。明智物産の社長で、わたしの父親よ」
「ええ、行こうと思ってますよ。私たちの結婚が成立したあとに二人で。その方がいいでしょう。きっとお父様も元気を出します」
 由美子は言い返す言葉がなかった。 
「さあ、さっそくですが。結婚するという証が欲しいですね」
「何が欲しいの?」
と由美子が言った瞬間、英明が由美子の肩を抱き寄せた。お互いの顔を接近させる。キスをするつもりだと由美子は思った。
「やめて!」
と言ったとたん、英明は、由美子の肩をさっと突き放した。
「キスなんて、珍気なもの要りませんよ」
そう言いながら、薄笑いを浮かべる。そして、立っているそばの机の引き出しから一枚の薄い紙切れを取り出した。
「これですよ。これに署名をしてください。これで私たちは、正式な夫婦です」
と出されたのは、日本から持ってきた婚姻届の書面だ。すでに「石田英明」の署名はされ、印鑑も押されている。
 由美子は思った。自分は、何とも愚かしいことをしている。英明は、この時のためすべての準備を整えていたのだ。英明が、ただ自分を利用しようとしていることは分かっている。結婚をさせ、獲得した夫の地位を利用して明智物産を乗っ取ろうとしているのだ。従うだけ損だ。だが、このままでは、あの森は破壊されなくなってしまう。地球から美しい森がまた一つ消され、森の先住民ペタン達は住む場所を奪われる。
「分かったわ。署名をするわ」
 英明は、さっとペンを差し出した。由美子は、殴り書きで署名をした。自分がいかに愚かなことをしているかというのは、はなはだ分かっていた。だが、これは今、現在においての非常手段なのだ。
 英明は、すぐさま婚姻届を取ると、背広のポケットから印鑑を取り出した。「明智由美子」と彫られた印鑑だ。それをさっと婚姻届の由美子の署名の横に押した。
「どこでそんな印鑑を作ったの」
と由美子は、驚いてきいた。
「夫が妻の印鑑を持っいてはいけませんか」
 澄ました顔で英明は答える。そして、英明は、婚姻届を壁にとり付けてある金庫へと持っていった。プッシュボタンのついた金庫の暗唱番号をとんとんと押す。由美子は、その様子を観察した。
「さあ、これからどうしますかな。さっそくハネムーンにでも向かいますか。この辺はまさにハネムーンにはもってこいのところですよね。南国のパラダイスと呼ばれるところでリゾートもたくさんあります。実にいいところに仕事に来たものですよ。そう思いませんか?」
「あなたの下らない会話には付き合ってられないわ。お父さんが心配だから日本にさっそく帰らしてもらうわ」
「日本に帰るのは、明日にして下さい。私たちは今夜、大事なパーティーに招待されているのですよ。明智物産の代表者が出席しないと、これからのビジネスに響きます。お父さまのためにも・・・」
 英明の話しなど聞かないふりをして由美子は、スイートルームの玄関ドアに向かった。廊下へ出ようとした。はっと、ある人物と顔を合わせてしまった。それは、背の低いスワレシア人の老人だった。どこかで見たようなことのある顔だった。男は、由美子に挨拶などすることもなく知らん顔で、さっさとスイートルームに入った。由美子は、さっと廊下へ出た。
 由美子は、男が誰であるのか、とっさに思い出した。通産大臣のライ・グーシングだ。大統領のマラティールと会ったときに初めて見たのを思い出した。
 ふと、思った。なぜ、こんなところに。なぜわざわざ英明の泊まるホテルの一室を訪ねてきたりしたのか。なにも会うのなら、オフィスでいいのではないか。相手は大臣だ。そんな大物が、英明に会うのに、わざわざホテルの一室を訪ねるてくるのであろうか。それにあの大臣が、一人で来たようだし、普段なら、警備の者が付き添って来るはずだが。実に妙だと思った。
 由美子は、スイートルームの玄関ドアが、完全に閉まっていないのに気付いた。あの大臣、自分を見て慌てていた様子だった。それで、ドアをきちんと閉められなかったのでは。きっと誰にもここに来ることを知られたくなかったのだ。と由美子に思索がよぎった。
 由美子は、おそるおそるドアを少しずつ開けた。中から二人の男達の会話が小さい響きだが漏れて聞こえてくる。何を言っているのかはっきり分からないが二人とも英語を使って話し合っているのは確かだ。二人は、玄関ドアから離れた別室にいるようだ。由美子は、足を忍ばせ、そっとスイートルームに音を立てずに入っていった。
 ふと目の前にある机の上に何気なく置かれているものに目が留まった。それは、手で持てるサイズのICレコーダーだった。英明のようなビジネスマンが、秘書に用事を伝えるために録音するものだ。
 由美子は、それをとっさに手に取り、録音のスイッチを入れた。ゆっくりと音を立てないようにライ通産大臣と英明のいる部屋のドアに近づいた。そして、ゆっくりと音を立てないようにノブを回し、わずかに開けた。ICレコーダーをその隙間に差し込んだ。
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「今回は、こちらの急な頼みを呑んでいただきましてありがとうございます。まあ、とりあえずは延期ということになりましたが、来月の末までには建設を再開いたします。しかし、あなたが予定を早めて工事をする許可をくれたおかげで愚かな環境保護の連中を圧巻させることが出来ましたよ」
「いえ、いえ、いつものことですよ。そちらからは、それ相応の報酬を受け取っているのですから、私としては当然の行為と言うものでしょう」
 英明とライ大臣は、テーブルで向かい合って座っている。英明の席の前には、アタッシュケースが置かれていた。
「ところで、これが今回の報酬です。この中には、来月行われる高速道路拡張工事の入札における、明智物産の落札手続きの分も含まれております」
 英明は、得意気に言い、アタッシュケースを開けた。その中には、何本もの札束が敷き詰められていた。
「さっそく目を付けられましたな」
 ライは、にったりと薄笑いを浮かべ言った。
「ええ、まともなやり方で競って、最初の高速道路建設をアメリカの業者にやられましたからね。やはりあなたに頼むべきでした。今回のダムといい、あの世界一の超高層ビルといい、通産大臣のあなたに頼めば何だってうまくいく。こんなにしていただいて感謝したくてもしきれないくらいですよ」
「私は、資金が欲しいだけです。何としてでも、私が、来月に行われる選挙で勝ち、次期大統領の椅子に座るのです。あの男は、ずうずうしくも、またあと五年も大統領の座に居座りたいのです。さんざんいままで私を使っておきながら。私だって、あの男と同じように大統領の座を目指していました。それをあの男、でしゃばりおって、自分に任せればこの国は治まるんだと。私は、閣僚の座で満足すべきだと言いくるめ続けて、あの男とは若い頃からの付き合いでしたが、昔はこの国を変える共通の意志を持った同志だと捲し立てておきながら、死ぬまで自分がトップの座にいたいと考えているんだ」
 ライの顔は、みるみると紅潮していた。英明は、紅潮したライの顔をじっと眺め言った。
「資金というのは、選挙支援のためと、私に紹介してくれたあの組織の連中に支払うやつですよね。選挙の勝利を確実にするために」
 英明は知っていた。マラティールの人気は、絶大だ。政治手腕は見事なもので、この国を発展へと導いたのは、マラティールの力があってのことだったのは誰もが認めることだ。国民から絶対的な人気を勝ち取っている。マラティールが続投する限り、まともな対抗馬などあり得ない。となると、ライ・グーシングが大統領の座を手にするには、ライバルのいない選挙に出馬するしか手はない。マラティールが出馬しないのであれば、大統領の右腕として長年通産大臣を務めてきた彼しか後継は務められないと国民の多くは思うだろう。
 ある組織、この国の影の世界を支配する組織が力になる。彼らにライバルを消すことを頼むのである。英明もその組織に頼みごとをした。結果は期待通りにはならなかったが。
「あんたには、関係ないことだ」
 ライは、「図星だ」といわんとする口調でそう応えた。英明は、思った。こんな背が低く、不細工な老いぼれ男が、一国の大統領になるだと、実に滑稽だ。だが、なってくれるとありがたい。そうなると今まで以上に、大規模プロジェクトの落札が自由になる。
「大統領に昇格された暁には、私どもで盛大の祝杯を挙げさせていただきますよ。多分、その時には、私の結婚祝いと明智物産社長就任祝いも合わせてのことになりますけどね」
 英明は、満悦の笑みを浮かべ言った。通産大臣は、領収書にサインをしているところだ。これは、お決まりの手続きだ。賄賂を受け取ったという証拠を相手に作らせるのだ。それにより、相手が決して自分を裏切ったりできないようにするためだ。
 ライは、英明に署名入りの領収書をさっと手渡した。
「ミスター・イシダ、これで取り引き成立です」
「今夜、パーティー会場でまたお会いしましょう、ミスター・ライ」
 ライと英明は、椅子から立ち上がった。部屋から出ようとする。
 由美子は、急いでリビング・ソファの影に身を縮め隠れた。
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こっそりと隙間から様子を伺う。
 まず、ライが部屋から出て来た。そして、英明が出てきた。ライは、そのまま歩き玄関ドアまで行きドアを開け黙って出ていった。
 英明は、壁にとり付けてあった金庫の前で立ち止まった。暗唱番号を押し、金庫を開ける。ライから受け取った領収書を中に入れると金庫を閉じた。
 由美子は、立ち上がろうとした。英明と対決するのだ。手に持っている収賄場面を録音したこのICレコーダが武器だ。
 プルルル、プルルル、と電話の発信音が鳴った。英明は、受話器を取る。
「ハロー、ああ、君か」
 英明は、しばらく相手の話しに聞き入っている。
「ほう、なるほど。やはり、あんたたちに大統領暗殺を頼んだか。それも、今夜のパーティーで実行するとは大胆だな。もっとも私には関係ないが、前に頼んだ安藤という男の件のように失敗するんじゃないぞ。確実に仕留めることを祈るよ」
 英明は、受話器を電話に置いた。さっと自分の腕時計を見る。何か用事を思い出した様子でスイートルームを出ていく。
 由美子は、部屋に一人っきりになった。立ち上がり、気を静めた。自分は、今まで知らなかった恐ろしいことを知ってしまった。あの英明が、人殺しにまで手を染めていたとは。冷血漢であることは分かっていたが、そこまでするとは思わなかった。恋人の健次に狙いをつけていたことには、唖然としていた。
 そして、賄賂だ。これには父、清太郎も関わっていたのだろうか。父が命令を送り英明にさせていたのでは。父も強欲な実業家だ。賄賂ぐらいのことはしても不思議ではない。
 父は、かわいそうな人だ。それがはっきりした。もっとも信頼していた部下に裏切られ、自分の築き上げた会社さえも奪われようとしている。自分の娘は、そのために利用されているのだ。
 英明は、父の死後、社長に就任するつもりなのだ。結婚の暁に株式の贈与も約束されているはずだ。ダム建設は、もちろんのこと再開する。もしかして、会社を完全に乗っ取るため、自分の相続財産を配偶者として受け継ぐため、自分を殺すかも。由美子は、背筋のひやっとする恐怖を感じた。
 しかし、同時に自分と父を利用して自らの欲望を満たそうとする英明に対し激しい憎悪を覚えた。
 由美子は、金庫に向かった。暗唱番号は、英明が押すのを見ながら記憶した。プッシュボタンを押し、金庫を開けた。中には、札束が幾本かと二つの紙切れが入っている。一つは、英明が入れたライ通産大臣署名の領収書だ。由美子は、それをまず取り出した。そして、もう一つは、英明と自分の結婚を法的に立証した婚姻届たる書面だ。
 由美子は、婚姻届を取り出すと、両手で激しく破った。細かい紙片は床に散った。そして、次なる行動に出た。
 由美子は、電話の受話器を取り上げた。
「ハロー、オペレーターですが」
「クアランコク検察庁につないでください」
と由美子は力強く言った。

Part 22へつづく。
by masagata2004 | 2007-12-25 23:38 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)
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