カテゴリ:沖縄( 73 )

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第20章 ヘインズの秘密



 辺奈古は、日もそろそろ暮れ始める時間になっていた。キャンプのゲートに向かおうとしたが、たまたまゲートに向かう途中の金網フェンスから、芝生のフィールドで格闘訓練の指導をしているヘインズ曹長を見つけた。立ち止まって、金網からヘインズとヘインズから訓練を受ける数十人の若い兵士たちの姿を眺めていた。ヘインズはTシャツにサングラスをしており、大柄な兵士たちの中でも一際、体格の大きさと逞しさが目立つ。一人の訓練兵士を地面に四つんばいにしたうえで、羽交い締めの方法を教えている。殺人の訓練なのだろうか。
 金網越しの自分に気付いてくれないだろうかと思った。いちいちゲートまでいって呼び出すのも面倒くさい。
 すると、警備員、見るからにウチナンチュウの年老いた男が近付いてきて、
「あんた、ここで突っ立って何をしている。じっとしてないで、どっかいかんね」
と声をかけた。
 龍司は、警備員に言った。
「あの教官、ヘインズ曹長っていうんでしょう。彼に伝えてくれませんか、トニーのことで緊急に用があるって。そう言えば分かるし、そのことを伝えなければあなたにとって不利な結果になりますよ」
 警備員は、はあ、という顔をしたが、しばらく考え込んで、訓練中のヘインズに近付き、龍司のいる方向を指差し、何かを言っている様子だ。
 すると、ヘインズが走って金網までやってきた。
「やあ、チャーリー、ごきげんよう」
「リュージ、トニーのいる場所を知っているのか」
「二人だけで話せないか」と龍司。
「もちろんだ、そこで待ってろ。今から、そっちに行く」
とヘインズ、訓練生を解散させ、建物の中に入っていく。思った通りだ。
 そして、数分後、龍司のところに現れた。二人は車の中に入った。
「トニーに会いたい。君のところにいるんだろう」
「事情は分かっているよ。だけど、彼を連れ戻す気ではないよな。明日にはアフガニスタンに連れて行くのだろう」
と龍司。
「何を言っている。奴は脱走をしたんだぞ志願して入ったからには決められた任務を全うする契約がある。このまま明日の招集までに戻らなければ軍法会議にかけられる。そうなれば刑務所行きだ。刑務所を出た後は、そのことが一生つきまとう。非国民としてリストされ、就職もまともにできなくなるんだ」
 龍司は言葉を失った。これが軍隊のある国の掟なのか。日本の自衛隊なら好きな時に除隊できる。そして、除隊してもお咎めなしだ。
「しかし、今のトニーを見る限り、とてもじゃないが戦場に行ける状態じゃないぞ」
「私が彼を説得させる」
「無理矢理連れ戻すんじゃないよな」
「そんなことはしない、私と彼なら、じっくり話しをして解決策が見つける。会わせてくれ。頼む」
 ヘインズの表情は深刻そのものだ。
「分かったよ、チャーリー」
と言って龍司は車を発進させた。

 車は別荘に着いた。日は暮れ、辺りは暗くなっている。電灯の点いた別荘の中に入った。リビングルームにセーラとトニーがいた。二人はソファに座ってコーヒーを飲んでいた。
 トニーは、ヘインズを見た瞬間、立ち上がった。
「僕は戻らないぞ」
と大声で叫んだ。
「連れ戻しに来たんじゃない。一緒に話しに来たんだ」
とヘインズ。
「うそだ。あんたたちもひどい。助ける振りして、こんなひどいことするなんて」
 トニーは、さっと走り、キッチン側に向かい、キッチンの裏口を開け外に出た。
 三人はトニーの後を追う。トニーはひたすら走る。暗い中、森の中を走る。
「トニー、止まるんだ」
 龍司が叫んだ。この先が崖だということを知っている。止まらざる得ないだろう。
 だが、トニーは止まらなかった。そして、その崖から姿が見えなくなった。どうしたのだろうかと思った。暗くてどこへ行ったのか分からない。しかし、この先が崖である限り、その先に進めないはずだ。
 崖を滑って降りたのか。昼なら、腰をかがめながら、足を滑らせながら降りられないこともないが、こんなに暗くなると足元が見えないから転げ落ちるしかなくなる。そうなるとかなり急だから、危険だ。
 三人とも、崖の先まで来たが辺りにトニーはいない。崖の下は真っ暗で何も見えない。崖の下は海岸だ。二、三〇メートルの高さがある。
 海岸まで、車で道路を走って降りることにした。五分後、崖の真下の海岸まで来た。真っ暗な砂浜にヘッドライトを照らす。崖の真下のごつごつとした岩場に人らしきものが横たわっている。
 まさか、と思って照らした。あ、トニーだ。倒れ込んでいる。どうなったのかと不安になり近付く。
 血まみれだ。頭や胸から血を流している。かなりの重体だ。ヘインズが抱き上げる。反応がない。しかし、虫の息程度の呼吸と脈はあるみたいだ。急いで、救急車を呼ばないと、と思い龍司は携帯電話を取り出した。
 すると、ヘインズが叫んだ。
「私の息子なんだ。私の息子なんだ、トニーは」
 チャーリーは涙を流しながら大声を上げた。

 それから、一時間後、手術室の前に龍司とヘインズがいた。救急車で運ばれ緊急手術が始まった。腕や足、肋骨を骨折、内臓も破裂している。かなり危ない状態であるということで、すぐに手術室に運ばれた。
 セーラは、別荘にいて軍警察と海兵隊に事情を説明することになった。
 龍司は、あっぷあっぷした表情のヘインズを見ながら、不思議な気持ちでならなかった。自分の息子が自分が指導する部隊の一員で脱走。そして、突然、こんな事態に。トニーは父親である教官を見て逃げ出した。何ともわけの分からない展開だ。
 ヘインズのトニーに対する思い入れは、息子だったからだというのは理解できたが、しかし、どうして、こんなことに。釈然としない気分だ。しかし、今は一刻も早くトニーが助かることを願いたい。
「私が父親であることをトニーは知らないんだ」
と突然、ヘインズが口にした。
「チャーリー、それはいったいどういうことなんだ。ずっと同じキャンプにいたんだろう」
「私が彼が自分の息子であるということを知ったのも、つい最近だ。それまでは自分に息子がいたということさえ知らなかった」
「え?」
 龍司は驚きを隠せなかった。どういうことなんだ。ヘインズは、その経緯を話し始めた。

 話しは二十年ほど前、チャールズ・ヘインズが高校生の時にさかのぼる。彼にはドロシーという同じ学校に通うガールフレンドがいた。二人は仲が良く、高校生にして恋人同士、卒業後は結婚する約束までしていた。
 だが、二人には問題があった。黒人と白人のカップルだということだ。それは、チャーリーの父親には絶対に許されることではなかった。厳格で保守的な考えを持ち、人種差別主義者であったチャーリーの父親は、チャーリーとドロシーが二人きりで家の中で抱き合っていたところを目にしたとたん激怒、ドロシーを汚い言葉で罵って追い出し、チャーリーには暴力を振り、二度と彼女と会うなと命令した。ドロシーは深く傷付き、そのためチャーリーも彼女に会いづらく、二人は互いを避けるようになった。
 それを機に元から父親と反りの合わなかったチャーリーは家を出ることに。チャーリーは家族と縁を切り自分一人で生きていくためにもと考え海兵隊に入隊することにした。
 これでドロシーとは永遠に顔を会わすことはないと思った。
 海兵隊に入隊後、湾岸戦争に派遣された。
その後、世界各所を回る任務に就きベテランの海兵隊員となった。白人の女性と結婚。子供のいる暖かい家庭を望んだが、五年も結婚していて、性生活にも問題がなかったはずなのに、夫婦の間に子供ができない。なぜなのか知りたくて、妻は生殖機能に問題がないか検査を受けたが医師の診断では問題なしと出た。チャーリーも受けてみることにした。
 すると、チャーリーの精液に異常があると医師から検査結果の報告を受けた。精子が正常な男性に比べ、極端に少ないというのだ。この状態では生殖は困難だと診断された。
 それは湾岸戦争シンドロームと呼ばれる現象ではないかと疑いを持った。
 すでにチャーリーの知る湾岸で従軍した仲間の中には、頭痛、めまいが長期に続く、手足が動かなくなるなどの体の障害を訴える者が何人もいて、戦争中に使われた劣化ウラン弾や化学兵器によるものではないかと噂された。若いのに白血病や癌にかかって死んだという話しまで聞いた。軍は、症状と兵器の関連性を認めてはいなかった。しかし、明らかに同期に湾岸に派遣された仲間に顕著に見られた現象だったのである。イラクでは一般市民の間で数多く報告されていると聞く。
 仲間には自身に異常は見られなくとも、彼らから生まれてくる子供に奇形児やダウン症の子供が生まれてきたという話しをしばしば聞いた。精子の異常が原因と思われるという。
 まさか自分が。しかし、それは分からない。先天的なものの可能性もある。自分には、それ以外、体の異常なんてあり得なかった。湾岸に従軍したことが原因だなどと断定はできない。してはいけないと思った。
 しかし、子供を作れないという事実を知って絶望したことには変わりなかった。自分には自分の血を分けた子供を作れない。その絶望により離婚を体験することになった。
 それから、海兵隊の教官となり、沖縄に配属された。そして、トニーが自分が指導する部隊に入った。当初は、何ら他の新兵たちと変わらず接していたが、ある日、二十年もご無沙汰だったドロシーから手紙が届いた。
 なぜ今になってと思い手紙を読んでみると、トニーという隊員が彼女の息子で、そして、彼がドロシーとチャーリーの間の子供であるという事実が書かれてあった。ドロシーはチャーリーと別れた後に妊娠していることを知ったが、チャーリーと寄りを戻せなくなり、やも得ずチャーリーに知らせないまま、トニーを出産したという。
 シングルマザーとして苦労しながらトニーを育てたが、貧しく子供を大学に行かせることができず、結局、海兵隊に入隊することになったと。ドロシーは反対であったが、そこでしか希望を実現することができないというのであればやも得なかったと綴られ、だが、不思議な偶然で彼の指導教官が彼の父親であったというのだ。もちろん、トニーは知らない。ドロシーはトニーが沖縄から送ってきた手紙に入っていた写真にチャーリーが写っていて、教官の名前もチャールズ・ヘインズだということで分かったという。
 ドロシーはトニーに、チャーリーが父親であることは教えていない。なぜなら、トニーには父親は事故で死んだのだと子供の頃に伝えたので、今更、本当のことは話せないというのだ。
 チャーリーは、それを聞いて動揺したと同時に喜びをも感じる複雑な心境になった。なぜドロシーは今まで教えてくれなかったのかと怒りを感じつつも、その事情は理解できた。自分にも責任があるのだ。別れた後に彼女を気にかけず避けてしまった自分に責任があるのだ。
 しかし、自分に息子がいた。今まで顔を会わすことはなかったものの、しっかり成長して、偶然にも自分の近くにいる。まさに神の巡り合わせだ。
 それ以来、チャーリーには特別目をかけた。贔屓したりはしなかったが、他の隊員よりも、ずっと注意深く接した。自分が父親であるということを告げられなかったからこそ、その想いは人一倍強かった。いつか自分が父親であることを告げたい。いつになったらそれができるのかどぎまぎしていた。しかし、それはドロシーと相談して時期を考えようと思った。
 少なくとも新兵として訓練中は無理だと考えた。一番大事な時だ。心の動揺を与えてはいけないと。じっと、その想いをこらえていた。
 そして、今やこんな事態に。彼が目を覚ましたら、きちんと伝えようと決心した。もう離さない。どんなことがあっても。

 手術室の灯りが点ってから五時間以上が経っただろうか、窓から少しずつ日の光が入って差し込んでいる。
 突然、手術室のドアが開いた。医師が出てきた。その医師の表情から、龍司は何となく手術の結末が予想できた。とても想い表情で医師は言った。
「申し訳ございません。手は尽くしましたが、先程、出血多量と内臓圧迫により死亡いたしました」
 龍司はチャーリーに英語で「すまない。か彼は死んだ」と告げた。
 そのとたん、チャーリーは、もぬけの殻になったかのように巨体を床にひざまずかせ、両手を床に置いた。声は全く出さず目からぼろぼろと涙をこぼしている。大量の涙が床にこぼれた。
 そんなチャーリーの姿を見て、龍司もつられて目から涙をこぼしてしまった。
 ああ、何と残酷なことが起こったんだ!
by masagata2004 | 2010-10-22 10:25 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第19章 脱走

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第18章までお読み下さい。

 五月
 その日、龍司とセーラは、名古市にある大型スーパーマーケット、ジャスコに一緒に行って買い物をしようということになった。
 漁港にいた龍司をセーラが誘ってくれたのだ。龍司は快く誘いを受けた。セーラがブルーピースのワゴン車をドライブして島の反対側にあるジャスコまで行った。郊外型の大型スーパーマーケットで何でも揃っている。
b0017892_16144139.jpg

 ジャスコでの二人だけの買い物は実に楽しかった。食料のまとめ買いだけでなく、服、本、、CD、電球、洗剤など生活に必要なものをまとめて買っておこうということにした。
 買い物しながら、お互いのことを話した。彼女は、沖縄がとても気に入っている。昨年の滞在でも素晴らしい体験をしたが、先月からの数ヶ月に渡る長期の滞在にも満足していると話した。ブルーピースが滞在のために借り切っている別荘も辺奈古の海が見渡せ、とても快適なところであると。いずれ、より詳しい海の環境調査を発表するつもりであると息巻いていた。
 龍司は、CDコーナーにあった昨年、浜辺でのコンサートで演奏を聴いたバンド、ビギンのCDを買い、これを帰る時、一緒に車の中で聴こうと言った。セーラは微笑んで「是非とも」と言った。
 龍司はセーラの生い立ちについて訊いた。龍司も自らのことを話し、セーラも応えるように話した。セーラは生まれも育ちもフロリダ州で両親はクルージングなどのツアーを提供する観光業者であった。そのため、幼い頃から海への親しみは実に強かった。高校卒業後、フロリダ州立大学の海洋生物学部に入学して、その後、同学科の大学院に進み、そして、講師として採用され博士号も取得した。しかし、州の教育予算削減のため解雇された。その時に知り合いの紹介で環境保護団体ブルーピースに海洋環境調査のスタッフとして採用されることになったのだ。沖縄は故郷のフロリダと気候的に似通い、その意味でも自分にとっては第二の故郷のように思えてならないほど親しみやすいと語る。
 龍司のような大都会のコンクリート・ジャングルで育った者よりも、アメリカ人でありながら、馴染みやすいところのようだ。日本人でありながら全く違った環境だからこそ惹かれた男と、アメリカ人でありながら馴染んだ環境に似ているからこそ惹かれた女という不思議な組み合わせだ。
 買い物が終わり車で辺奈古に戻っていった。セーラが運転して、龍司が助手席に座る。カーステレオでビギンのCDを流しながらのドライブだ。漁港近くのアパートに着いた。最近、龍司が一人で暮らすため引っ越したところだ。漁港からも安次富の家からも歩いて五分もないところだ。安次富の家は、洋一が帰って以来、活動家が頻繁に出入りしたり泊まったりするようになり騒々しく、また、自立した漁師になるという意味で別に住居を構えることにしたのだ。
 車は停まったが、セーラは言った。
「ねえ、私もアパートに入っていいかしら、これから、明日の朝まで、どうせ別荘で一人きりなの。他のスタッフはみんな泡瀬や高江に行ってしまって」
 セーラの瞳は瞬いていた。これは実にいい。二人っきりになりたいと誘ってくれているのだ。アパートの一室で夜通し過ごそうということなのか。誰にも邪魔されず、二人っきりで。すると、突然、車の後部座席のドアが開き人が入ってきた。何だと思い、振り向くと、後部座席に男が座り込んでいる。所狭しと置いた買い物袋を押しのけて勝手に何だと思ったが、男には見覚えがあった。
「トニー、君、何しているんだ?」

続き
by masagata2004 | 2010-10-21 16:22 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第18章 ワンショット・ワンキル

米軍新基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)たちの戦い

まずは第1章から第17章までお読み下さい。

 その後、龍司とヘインズとはお互いのプライベートなことを語り合った。ヘインズの出身はサウスカロライナ州であること。高校卒業後、海兵隊に入隊して湾岸戦争時に初めての従軍をしたという。数年前に教官としての任務に就くことになったという。プライベートでは、一度、結婚して五年続いたものの、離婚したという。龍司も離婚経験があると自分の二度の結婚失敗体験を語った。龍司は子供はいるのかときくとヘインズは「一緒に住んでいないが息子が一人いる」と重い口調で語った。なので、踏み込まないことにした。
 互いに語り合い、打ち解け合って、お互いファーストネームで呼び合おうということになり、龍司はヘインズを「チャーリー」と呼ぶことにした。ファーストネームのチャールズの略称だ。ヘインズは「リュージ」と呼んだ。
 チャーリー、ナイスガイだぜ、と思った。

 数日後、龍司は洋一に誘われ、平和団体が名古市民会館で主催する戦場ジャーナリストの講演とドキュメンタリー映画の上映会に参加することにした。テーマは、米軍はイラクとアフガニスタンで何をしているのか、そして、米軍とはどんな人達なのかというものだ。
 龍司はもちろんのこと、沖縄人なら誰でも最も関心を持つ事柄だ。
 講演をするジャーナリストは二人で、一人はイラクに詳しい志葉玲と名乗るジャーナリストで、イラク戦争前、戦中、そして、戦後とイラクに出向き取材をしてきた三十代のジャーナリストと、常岡敬介という四十代のジャーナリストで、自らイスラム教徒であり、アフガニスタンに渡り、九一一以降、米軍を主体とする多国籍軍と対決するタリバン及びアフガニスタンの市民に密接して取材をしてきた経験を持つ。取材中、タリバンに長期に渡り身柄を拘束されたこともあるという。
 その二人にイラクとアフガニスタンの現状を語って貰い、その講演後、沖縄に駐留する米海兵隊の新兵訓練の様子を取材記録したドキュメンタリー映画「ワンショット・ワンキル」を上映し、その映画の監督である藤本幸久氏が講演をするプログラムになっている。
 司会者は、沖縄に弁軍基地があるため、沖縄人は自らを被害者だと思いがちだが、そんな基地から部隊が出撃することによって、嫌がうえでも加害者になっている面も忘れてはいけないと語った。
 沖縄が本土に復帰する前のベトナム戦争時、容赦なくベトナム市民を殺戮する米軍の前線基地として沖縄は使われた。そのため、沖縄はベトナムの人々から「悪魔の島」と呼ばれていたという。今の時代、そう呼ぶのは、イラクとアフガニスタンの人々だろう。
 沖縄に基地を貸すということは、アフガニスタンとイラクでの米軍の戦争に加担するということを意味しているのだ。

 まずは、イラクに詳しいフリージャーナリスト、志葉玲の講演から始まった。
 志波氏は自己紹介と挨拶をした後、自らのイラクでの取材活動をスライドを使い説明した。
 志葉氏が特に注目したのは、イラクの一般市民に対する被害である。非人道的な兵器が数多くイラクの地で使用され、主なものを挙げると白リン弾と劣化ウラン弾である。
 白リン弾とは、手榴弾、砲弾、爆弾の一種で、充填する白リンを大気中で自然燃焼させるものである。五千度の熱を出し、焼夷弾なので酸素がある限り燃え続け、攻撃目標だけでなく周囲数百メートルの広範囲に被害が広がり、かなり多くの一般市民が犠牲になっているのを知った。真っ赤に焼き尽くされた死体をいくつも見たことを語り、その死体を撮した写真を見せた。まるで天狗になったかのように真っ赤に皮膚が焼けただれ、悲痛の表情で死んでいったことが分かる。
 もう一つは劣化ウラン弾だ。これは劣化ウランを主原料とする合金を使用した弾丸であり少量でも極めて破壊能力の高い兵器として米軍が湾岸戦争時からイラクで使用していたものだ。兵器としての殺傷能力の高さもさることながら、爆発後、残された粉塵が空気中に放散し続け、それが、体に吸い込まれると放射線を出し続け、人体の細胞に異常な現象を引き起こす。それによる一般市民を含めた数多くの健康被害が報告されている。
 特に細胞分裂の著しい胎児・新生児・幼児への影響は深刻である。イラクでは、日本に比べ数十倍の確立で幼児が白血病にかかり、生まれてくる子供は早期に死ぬか奇形児であることが珍しくない。
 また、米兵たちが誤射または、むしゃくしゃして、民間人を殺したりすることがあり、その時に正当防衛にみせかけるため、自らが携帯するのとは別に余分な銃を持ち歩き、殺した民間人の死体の側に置き、それで正当防衛に見せかけることが横行しているという。ニュースで聞く「武装勢力を殺害した」というものの中には、そんな事例も多々含まれる。 
 講演の最後に志葉玲はこう締めくくった。
「アメリカでは政権が代わり、新大統領は、「戦争終了」を宣言して軍を撤退させているが、イラクの人々の苦難は終わらないし、アメリカの戦争責任が消えたわけでもありません。イラクでは少なくとも約十万人、最大で百万人超のイラク人が殺された上、今もイラク国民の約六分の一が難民となっています。アメリカは国をあげて戦争の検証をし、被害者の救済を行うべきでしょう。アメリカを支持した日本も同様です。私は断固、追及し続けます。イラクに本当の平和が来る時まで、アメリカやその従属国家が自らの誤りを検証し、反省した上で、しかるべき償いをする時まで」
 次に、常岡浩介氏が、アフガニスタンの現状について講演をした。

続き
by masagata2004 | 2010-10-20 03:11 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第17章 トニー



 トニーっと聞いて、はっと驚いた。
「トニーて、もしかして浜辺のこと、それもついさっき起こったことか」
 ヘインズはそう言われ、周囲が気になったが、バーテンダーは英語が片言しか話せない男であり、それ以外、数人ほど年老いた客がいたが、カウンターからは離れた席に座っており、英語も理解できないだろうし、話している声も聞こえない距離であるということを確認すると、龍司のすぐそばの椅子に座った。
「そうだ、監視カメラに映っていた。二人の男たちが君に暴行を加えた。あの美しいレディにも変なことをしかけそうだった。そして、トニーは勝手に銃を持ち出した。三人とも門限を破って基地の外に出た」
「ほう、すばやいな。さすがアメリカ海兵隊だ。それがどうしたっていうんだ? 何か俺たちの方に問題が」
と龍司はしかめっ面になって言った。
「いや、すまないと謝りたいんだ。私の部下が、君たちにひどいことをしたようだ。君とあの側にいたレディに対して。君もそうだが、彼女も大丈夫かな」
「大丈夫だよ。彼女がアメリカ人だから気掛かりになったのか。俺のような日本人に対してだと知らんぷりするんだろう」
「君たちが、俺たちのことを良く思っていないのは分かっている。特にあの新兵たちは、来週にもアフガニスタンに派遣される予定になっている。だから、いつになく気が立っているんだ」
「ほう、そりゃ見事な言い訳だ。それで何だ、俺たちにどうしろと。許してくれってか」
と龍司が、いきりなって言うと、ヘインズは困った表情になった。龍司は思った。なるほど、実のところ気のいい奴なんだな、このヘインズという奴は。
「ふん、いいさ。カメラの映像だけでは分からなかったろうが、あのトニーという奴のおかげで助かったんだ」
「え、どういう意味だ。トニーはいったい何をしようとした? 映像だけでは音もなく、はっきりものを見るには暗過ぎた。おしえてくれ」
「二人の男たちがな、彼女と俺に近付き、俺に対しては暴行、そのうえ、フェンスのリボンを外すことを強要したんだ。奴ら酔っていて彼女に対しても、一つ間違えば何するか分からない状態だったが、あのトニーが突然現れて、俺たちを助けてくれたんだ。銃で男たちを威嚇してな。あんな小男だからこそ、銃でないと止められなかったんだろうけど」
 龍司は、にんまりとした表情で言った。
「はあ、そうか。そういうことだったのか」
とヘインズの表情がほころんだ。何だか、トニーに特別の思い入れでもあるような素振りだ。龍司は、それを見て言った。
「どっちにしろ、海兵隊の不祥事だな。別に表にはしない。ひどい目にあったけど、同時に同じ隊員によって助けてもらったということで、相殺して構わないよ。こっちも変なことには関わりたくない。誰にもいわん。彼女も気にしないだろう」
 ヘインズが安堵の表情を浮かべる。
「だけど、あのトニー、大丈夫かな。銃で威嚇された仲間は黙っちゃないだろう。同じ基地にいるんだし」
と龍司は心配になって言った。
「大丈夫だ。そのことは私が何とかする。やつらこそ規則を犯して、君たちに迷惑をかけたのだから、トニーを咎めるつもりはない」



--------------------------------------------------------------------------------
「トニーって、あんたやあの二人の男たちと違って小柄だから大変じゃないのか。仲間同士のいじめに合うこともあるだろう」
「ああ、私の訓練生の中では一番小さい。そのうえ、そのうえ」
 ヘインズの口調は何か、ものがつっかかったようないい口だ。龍司は続きの言葉が分かっていた。
「肌の色が黒いってことだろう。純粋な黒人ではないようだけど」
「ああ」
 黒人が大統領になっても、まだ人種差別は続いているのか、大変だな、と龍司は思った。
「君は、アメリカ人が嫌いになっているんだろうな。君たちの海を壊そうとするんだから」
「アメリカ人が好きだとか嫌いだとかいえないな。彼女、名前はセーラというんだけど、反対運動の協力者だ。あんたのような軍人もいれば、セーラのような海洋生物学者としてこの海を守るため、あんたの国の政府、彼女の国の政府でもあるが、それを相手に訴えを起こしたんだ。これって、アメリカの民主主義って奴だよな」
「はは、いっとくが、私も個人的には、今度の滑走路計画には反対だ。ここにきて三年になるが、珊瑚礁もあり実に美しい海だ。何度も潜ったよ。あそこを埋め立てるなんて信じらん。しかし、私にはどうにもならん」
「ああ、分かっているよ。相手にしなければいけない対象はおおき過ぎるうえ、ことは複雑だってこと」
 龍司は、ヘインズに、昨年、軍事に詳しい国会議員と、このバーで語り合った内容を伝えた。米軍が日本を守っていないこと、米軍が日本に駐留するのは、日本が駐留経費を支払っているので安くつくこと、普天間基地移設に関しては、実をいうと米軍にとってはどうでもよく、移設計画に積極的なのは日本の利権関連サイドであること。など、なかなか世間一般には表に出ない複雑な裏事情などを放した。
 ヘインズは、聞く度に頷き、そして、龍司が一通り話し終わると。
「その通りさ。私たちは、日本を守るためにここに送られたわけではない。我々が守るのは常に祖国と祖国の市民だけだ。他国に部隊を駐留しているのだって、祖国の国益を第一に考えてのことだ。しかし、驚くな、君たちは我々が守っていると信じ込んでいるとは。まあ、基地を借りているのだから、守ってあげるのは当然なのかもしれないが、だが、そのうえ、駐留経費まで払っているんだよな。ここに着任して、そのことを初めて知った時は驚いたよ。当然、我々の側が支払っていると思っていたが。君たちの国にだって軍隊というのがあるだろうに、どうして我々を、それほど頼りにしなければいけないんだ」
「俺たちの国は、あんたの国と戦って負けてぼろぼろにされ、そんな結果、戦争はしない、平和を愛するから軍隊は持たない国になったんだ。今、いるのは自衛隊という名の軍隊もどきの部隊さ。兵器は持っても使わないとする、へんてこな軍隊だ。だからこそ、君たちが必要ってことになっている。現実はどうでも、少なくともそう思い込んでいる」
「なるほどね。随分昔のことを引きずっているんだな。まあ、私にとっては知ったことじゃないがな」
 ヘインズはそう言って、ウィスキーを注文し水割りで飲んだ。
by masagata2004 | 2010-10-16 10:24 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

新宿アルタ前にて辺野古ドキュメンタリー上映

政治 - エキサイトニュース

10月13日の夜、東京・新宿駅東口前のアルタ前の広場にて、ドキュメンタリー『また、また、辺野古になるまで』の上映会が開かれた。そこでは、数十人ほどの人が集まり、その場に設置されたプロジェクターとスクリーンを使って、ドキュメンタリーの上映を行った。

この映画を製作したのは藤岡幸久氏という監督で、辺野古を鳩山政権以前から取材して記録を撮ってきた人で、上映会にも登場した。

この続きは、こちらを。

また、同日に参議院議員会館で開かれた以下のイベント報告記事もお読み下さい。

瀬戸内海原発建設を阻止せよ 参院議員会館での集会参加報告
by masagata2004 | 2010-10-15 21:06 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第16章 オレオ

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第15章までお読み下さい。

 龍司は、男の手を払おうとしたが、男は手を襟から放すと、突然、龍司の腹にパンチを加えた。龍司は、とっさにのけずさり地面に倒れ込んだ。かなりきついパンチだ。これまで、喧嘩などの経験で何度かパンチを喰らった経験はあるが、これは念の入ったパンチであると分かる。
 こいつらは海兵隊員だ。戦闘としての格闘を習っている。その筋が感じられる。
「やめて」
とセーラの声。すると、もう一人の男がセーラの手を取り、
「おまえ、どうしてアメリカ人のくせに、このジャップと付きあってやがるんだ」
と荒っぽい調子で言う。
「お願い、ほっといて」
とセーラが大声で言う。龍司は立ち上がろうとしたが、男に手で力一杯背中を押さえつけられ地面に平伏された。
「おい、おまえ、このリボンを外せ」
と男は耳元に顔を近付け、怒鳴り声で言う。怒鳴り声と共に酒臭い息が漂う。龍司は従うことにした。こいつらは戦闘訓練を受けている、そして、酒に酔っている状態だ。抵抗すると、かえって危ないと思った。特にセーラを危険な目に遭わせたくない。
 有刺鉄線に結ばれているリボンを一つ一つ外しにかかった。男たちは、それを見てへらへらと笑っている。何とも屈辱的な気分だ。
 突然、パーンと銃声が鳴った。何だと思ったら、もう一人別の男が現れた。男は小柄な男だ。手に小銃を持っている。
「やつらをほっといて、基地の中に戻れ」
と男は言った。龍司は、その男に見覚えがあった。それも、この場所で会ったことのある男だ。
「おい、トニー、何のつもりだ?」
と大男が言うと
「僕の言った通りにするんだ」
とトニーと呼ばれる小男は言って、銃口を大男二人に向ける。
 大男たちは、セーラと龍司から離れた。龍司は、とっさに立ち上がってセーラに近付き「大丈夫かい、セーラ」
と話しかけた。セーラは龍司に抱きつき
「大丈夫よ」
と返した。とても体が震えている。
「だから言っただろう。このフェンスに近付くなって」
とトニーは龍司を睨みつけて言った。トニーと男たちは、そそくさにフェンスの低くなったところを飛び越え去っていった。分断されたもう一つ世界、奴らの世界に戻っていったというのか。
 龍司は、トニーと初めて会った時の頃を思い出していた。昨年の六月だった。同じ場所だったが、昼間なので、もっとはっきりとお互いに顔を見てとれた。フェンスの近くにいた龍司を怒鳴って追い払おうとしたのを、龍司が逆に怒鳴り返し蹴散らしたのだ。
 その時の仕返しをさせられたような気分だが、トニーは自分たちを救ってくれたのだ。

「あのオレオ、あ、トニーと呼ばれていたわね、マッチョな男たちに。彼ら海兵隊員は、みんなどうしようもなく貧しい家の出身なのよ。まともな教育を受けてない人達だから、あんな粗野な行動を取るんだわ」
 セーラはビールを飲みながら、龍司にそう語った。二人は、浜辺のビーチから集落の飲屋街にある「バー・アップル」に移った。カウンターで肩を並べながら話しをしている。
「オレオってどういう意味だ?」
と龍司が訊くと
「ああ、悪い言葉使っちゃったわね。オレオってお菓子知っているかしら、黒いビスケットの中に白いクリームが入っているものよ。つまり黒人と白人の混血という意味」
「はあ、なるほど、確かにそう見えたな」
と龍司。
「多くの若者が、大学にも行けず、まともな職にもつけないで軍に入るの。アメリカは最近、どんどん貧しくなって、そんな若者が増えている。わたしがブルーピースに入る前に務めていた大学でも授業料が高くなって、おまけに予算削減で授業数がどんどん減っていき勉学を続けられなくなった学生を嫌って程見たわ。ついには講師も解雇されて、私も解雇の対象にされてしまった」
 セーラの意気消沈した表情を見るのは何とも耐えられない。龍司は、気分を変えさせる意味で敢えてこう言った。
「いや、でもな。あんな荒れくれものが君たちと世界の平和のために戦っているんじゃないの。テロとの戦いをアメリカは国是としているんじゃないのか」

続き
by masagata2004 | 2010-10-15 00:17 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第15章 再会

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第14章までお読み下さい。

 普天間基地の移設がどうなるか結論は出ないまま、年越しを迎えた。辺奈古になる可能性は未だ残されている。県外か、国外かと、いろいろな議論が噴出され続けたが、県外の場合、どこも受け入れを嫌がっている。当然のことだろう。ならば、普天間の海兵隊のもう一つの移設先であるグアムに一括して移設してはどうかという案が出たが米軍は当然の如く拒否。
 年末が迫り、首相は長引くのはよくないと、遅くとも翌年の五月までに結論を出すつもりだと国会で明言した。果たして、どこになるのか。

 年が明けた一月、名古市は任期切れに伴う市長選が行われることになった。市長選は、土建業者の支援を受けているためか新基地受け入れ容認の現職市長対その市長の助役であり、新基地受け入れには反対を表明した候補の一騎打ちとなった。
 テント村の活動家たちは、当然のこと反対派候補の応援に奔走した。沖縄で県内移設反対の意見が強まっているとはいえ、いざ、選挙となれば事情が変わってくる。選挙となればどこでも利権にまつわる事情が優先され、土建業者が元来から大きな票田になっている沖縄では必ずしも、一般世論が選挙の結果を左右するとは限らないのだ。それに選挙の争点は、基地受け入れの是非にはとどまらないので、必ずしも反対派が勝つとは限らない。
 だからこそ、市民に対して直接語りかける戦法を取った。一人一人が基地にまつわる問題の実態を説明して回り、どう考えるかを問いかけたのだ。
 よくいわれている基地により沖縄の経済が成り立っているというのは必ずしも事実ではない。実際のところ、沖縄が基地に占拠されている場所が多いからこそ、都市計画などの妨げとなり、その結果、鉄道や利便性の高い交通網が敷けなく、結果、沖縄が発展できないというのが実情だ。逆にいえば、だからこそ、基地に依存せざる得ない状況が作り出されている。それに基地による経済効果は、基地内の従業員の雇用と施設などの建設費用に限定されており、それらは米軍のためだけであり、経済全体への波及効果は低い。また、米軍は冷戦後、日本の防衛を担う役割をなしていない。普天間飛行場が返還されても、新たに基地が建設されることで新たな基地の固定化につながるので、絶対に容認してはならない。米軍基地に関しては撤去しかありえないのだ。そのように反対派候補と、その応援をする活動家は、市民に説いていった。
 結果、反対派候補が勝利した。これで名古市の世論は辺奈古に新基地を受け入れることに反対であるということが、はっきりと示された。基地反対派新市長は「職を賭して阻止する」と就任演説で決意を述べた。市民は一致団結した。これにより、政府に県外・国外の移設という公約を守らせる大きな圧力を与えることになった。
 普天間基地の県外移設という期待が、県民の間にさらに強まった。しかし、政府の反応はそれでも、定まらなかった。
 
 四月
 思わぬニュースが海を越え、沖縄に伝わり、沖縄では新聞が一面で伝えるほどの大ニュースになった。
 それは、アメリカの連邦地裁が、普天間基地の移設先として予定されている辺奈古沖の環境調査をアメリカの国内法に照らして再考するよう国防総省に命じる判決が下ったというものだった。
 国防総省側は、辺奈古の環境調査は日本政府の管轄であるという立場から、判決に不服を示し控訴した。
 だが、これにより、辺奈古の基地建設がアメリカ側の事情により中止される可能性が生まれたのだ。
 この連邦地裁の喜ばしい判決を導いたのは、もちろんのこと、国際環境保護団体のブルーピースをはじめとするアメリカにいる環境保護活動家たちだ。
 彼らは、判決の報告をするため沖縄にやってきた。これまでも何度も訪れているのだが、今度は朗報を携えての訪問だ。もちろんのこと、テント村の活動家たちとも顔を合わすことになる。
 ブルーピースの中には、龍司が待ち望んでいたセーラ・フィールズ海洋生物学博士がいた。
「ハーイ、セーラ、久しぶりだな」

続き
by masagata2004 | 2010-10-11 00:37 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第14章 米軍は日本を守らない



「あんな演説をした君でさえ、その程度の認識というのが現状だよな。まず、いい例が沖縄の海兵隊だ。普天間には飛行場があり、この辺奈古には訓練所がある。その他、北部の山間部にもジャングル戦闘のための訓練所があるよな。しかし、これらの施設は日本の防衛のためにあるわけではない。皆、イラクやアフガニスタンへの戦闘のための前線配備と訓練のためさ。ちなみに言っておくけど、海兵隊というのは大規模な戦闘に対処するための軍隊ではない。戦争が起これば、地ならしのため最初に戦場に入る先遣隊のような役割を担っている。それ以外にいうと、救出部隊として民間人を紛争地帯から救い出す任務も担っている」
「じゃあ、彼らは日本人を救ってくれると?」
「ふふ、例えば、朝鮮半島などで有事が起こった場合、最初に救出対象になるのはアメリカ人と永住資格を持つ者、まあ、それは仕方ないだろう。だが、次はというと、それはイギリス人、カナダ人、オーストラリア人などのアメリカの友好国の市民だ」
「え、日本人は含まれていない?」
「いや、その次の優先順位の「その他」の分類に含まれることになるかな、はは」
「その他だって?」
「ああ、そうさ、ここでいろいろと好き勝手に日本人の税金で訓練しているが、日本人は必ずしも助けてもらう対象になってないとさ」
「こりゃあ、驚きだ。てっきり自衛隊が出来ないから代わりに助けて貰えると思っていたのに。だけど、日本の国土が攻められたら米軍は守ることになっているのでしょう。日米安保条約にも沿う書いているはずだ」
「ふふ、条約には、そう書いているのだけど、それにはいろいろと条件がついているのがみそだ」
「条件とは?」
「仮にどこかの国が日本に侵攻することがあっても、米軍が動くには、大統領と米国の連邦議会の承認があってでないといけないということさ。彼らの国の憲法に照らして、つまりはアメリカの国益に則したものであるかどうかの判断をした上でということだ。大統領がOKしても2ヶ月すれば議会が拒否すればそれで停止だ」
「条約で決まっていても、自動的には防衛しないってこと? その時のアメリカの事情に左右されるってことですか」
「まさしくその通り。そもそも、条約とは別に日米で防衛のガイドライン合意がされており、その中には、日本防衛の一義的責任は自衛隊にあるとなっている。米軍は、自衛隊が先に出た後に、それをサポートするのが役割だと」
「え、それって今までの政府の説明とは逆では、自衛隊は盾で、米軍は矛の役割を担っているって。それじゃあ、自衛隊が前面で戦わなければいけないってことで」
「そう、そのうえ、そのサポートさえしてもらえるかはっきり約束していない」
「じゃあ、いったい何のために米軍は日本にいるんですか」
「それは君も知っているんだろう。日本が戦争に負けて、その占領のために最初に来たんだ。だが、その役割が日米安保で日本を守る立場になった。どうしてか分かるか」
「うーん、歴史の授業で習ったけど、冷戦になってソ連と対抗するためとか」
「その通り、日米安保はソ連包囲網の一環だったんだ。ソ連の共産主義の拡散を防ぐ防波堤の役割を日本に担わせたんだ」
「だから、日本をソ連から守っていた」
「おっと、それがまた違うんだ。守っていたというよりは、共産主義に日本が取り込まれるのが怖かったのだろう。アメリカの戦略として、自由主義の勢力保持が目的だったんだ。日本は、その戦略の片棒を担ぐために、基地を提供したということさ。その見返りに独立国家として認められ、そのうえ、経済援助を受け経済復興を果たした。いわゆる吉田ドクトリンだ。むしろ、敗戦国の日本がうまく立ち回った戦略ともいえる」
「じゃあ、冷戦においてアメリカの戦略を助けるという目的であって、日本の防衛はついでというか・・」
「まあ、口だけだったということかな。本気で防衛する気などなかっただろう。本当に日本の対ソ連防衛を考えていたなら、沖縄に基地が集中するのがおかしい。本来なら北海道だろう」
「そうですね。北海道には米軍基地はないですよね」
「ソ連が責めてきたら自衛隊に対戦させて、自分たちはとっと逃げる時間の余裕を稼がせるためさ。沖縄は、その意味で安全な場所なんだ、米軍にとって。そして、ベトナム戦争時は最大の前線基地として使われた。今はイラクやアフガニスタンへの前線となっているが、昔と違って、軍には機動力があるし、距離的にも、もっと近い基地が他にあるのだけども、沖縄の方が都合がいいとなっている」
「え、どうして?」
「思いやり予算を日本が払うから、経費が安くつくためさ」
「え、そんな理由で」
「ああ、何たって全駐留経費の8割を日本がもっているんだ、そりゃ安くつくさ」
 佐藤はバーボンで顔が赤らんでいた。ややしどろもどろの口調になってきている。龍司は、それでも訊きたいことがあった。
「ソ連はもう崩壊しましたけど、今、日本にとっては北朝鮮と中国という別の脅威がありますよね」
「ふふ、北朝鮮、確かに拉致とかけちなことをする国だが、自衛隊の相手にはならんよ。戦闘機さえ飛ばせない。だからあの国は核ミサイルの開発にいそしむんだ。核ミサイルに対抗する術は現状ではあり得ない。打ち上げられたら数分で到達さ。核に対抗するには報復としての核を保持するという抑止力で対抗するのが策だが、北朝鮮のような自暴自棄を武器にする国家相手に抑止力など通用するはずがないだろう」
「でも、中国は軍事力をどんどん拡張していっていて日本にとっては脅威でしょう」
「現状では、まだ自衛隊の方が軍備では上だ。だが、近い内に超える可能性がある」
「大変ですよね。尖閣諸島とかに攻め入ったりしたら、そのために米軍が必要では」
「だから、言っただろう。米軍は有事になったからといって自動的に対処してくれるわけではないと。それにアメリカは同盟国であれ、領土紛争に介入しないという方針になっている」
「え、それはどういうことですか?」
--------------------------------------------------------------------------------
「八二年にイギリスとアルゼンチンの間でフォークランド紛争というのが起こったが、その時でさえ日本より絆の深いイギリスを応戦することはしなかった。そんな国さ。尖閣諸島に関しては、日本の施政下にあると言っているが、中国と領土権を巡って係争中だということで、日本の領土とまでは言っていない。それに日本が領土と主張する北方領土や竹島に関してはロシア領と韓国領としている。あくまで中立の立場だ」
「しかし、中国の脅威というのはあるのだから、米軍に頼らないとと思ってしまいますよね」
「ふふ、アメリカと中国が対戦か。それも日本を巡ってか。あり得ないな」
「え、ちょっと待ってください。日本とアメリカの間には軍事条約はあるけど、アメリカと中国の間にはないでしょう。それに確か中国は核保有国ですよ」
「君は、アメリカと中国が今、どういう関係にあるのか知っているのかね。アメリカ製品と称していてメイド・イン・チャイナなんてラベルがあるのを多く見るだろう」
「は、はい。ああ、経済ではかなり親密ですよね」
「親密なんてものじゃない。切っても切れない相互依存関係だ。アメリカ製品の多くは中国の工場でつくられている。それによって、中国は莫大な貿易黒字を出しているが、一方でアメリカは膨大な赤字を出している。その結果だ。アメリカは莫大な借金を中国にしているということだ。日本よりも多くな。それはつまり、中国が米国債を購入することで補われ、両国は日中や日米以上に依存関係になっている。中国はアメリカに対しては米国債という核兵器よりも強大な兵器を持っているから、何ら脅威と感じていないだろう。アメリカにとっても東アジアでは日本を凌ぐ経済発展を遂げる中国の方が重要になっている。そんな日本のためにアメリカが中国に対し戦争をすると思うか。最近は経済に限らず軍事の面でも戦略パートナーになってきている。いずれは西太平洋を二分しようかなんて構想もあるくらいだ」
「げえ、それって、アメリカと中国は仲間同士ってことですか」
 龍司は、佐藤の口から出る言葉に次から次へと衝撃を受けていた。今まで信じてきたことの真逆ばかりを知らされる。
「でも、そんなことなら、どうして米軍は、沖縄から出ていこうとしないのですか。戦略上、沖縄でなくてもいいのでしょう。思いやり予算で安くつくといっても、沖縄の人達が嫌がっているんだし、あんなにも辺奈古にこだわらなくても」
「へへ、アメリカにとっては実のところどうでもいいのさ」
「え、どうでもいいって、どういうことです。それなら、出ていってもいいということでしょう」
「普天間の移設の日米合意では、半分をここに、後半分をグアムに移すとなっている。だが、グアムへの移設に関しては日本が負担する分以外に、アメリカ側が負担する分もある。財政難のアメリカとしては、今になってそれが難しくなっているんだ」
「え、アメリカはグアムに移設すると困る?」
「そうさ、今のまま、普天間基地を継続して使えればその方が安くて済むということ。なので、合意通りにしろとごねて、先延ばしにすれば使い続けられるだろう。そして、その後の交渉としては、辺奈古がどうしても無理だというのなら、それは日本の責任だということで、賠償としてグアムへの全軍移設に変更する代わりに費用をより多く負担しろと要求する腹づもりなんだろう。ただ、辺奈古への移設になっても問題はない。どうせ日本の金で造られる基地だ。軍港も兼ね備えた最新基地をただでもらえるのだから、そりゃこの上ない。その後の維持費もほぼ日本の負担でやってもらえることになる。つまり、米軍にとってはどっちに転んでも痛くも痒くもないといったところだな」
「畜生、ふざけてやがる。散々こけにしやがって、だったら、こんな合意捨てて、思いやり予算も払うのやめてしまえばいいでしょう」
と龍司はついに怒り心頭となって佐藤に言葉を放った。
「そう、誰もがそう思うところだが、これまた国内の事情があって、そう出来ないんだな。まず、今度の滑走路計画だが、米軍よりも欲しがっているのは滑走路を建設するゼネコンだ」
「ああ、そうですね。地元の土建屋でしょう。確か、市長はその支援を受けているって」
「いや地元だけではない。今度の滑走路建設の大元は東京にある大手ゼネコンが請け負い、地元の業者は下請けとしておこぼれを貰う立場だ」
「じゃあ、ゼネコン利権欲しさに?」
「ああ、そのゼネコンに抱き込まれた官僚と政治家共も、沖縄の声は無視してでも滑走路が欲しいのだろう。私はこれでも、そんな連中とは距離を置いているつもりだが、現新政権も、その意味で一枚岩ではない」
「だけど、造られるのは米軍基地ですよ。自衛隊の基地ではない。米軍がアメリカの国益のために使う基地なんですよ。日本を守らない米軍のために、一部の奴らが潤うんですか」
「はは、君の怒りはごもっともだが、ここに来て、問題の核心となってきたな。そういう屈辱的な状況でも、米軍基地を捨てきれない最も大きな勢力がある。誰だと思う?」
「さあ?」
「分からないか。日本国民さ」
「え?」
「考えてみろ。もし米軍がいなくなれば日本の防衛はどうなる? いや、実質的には防衛など担っていないから同じことだが、本当に基地を撤去していなくなれば、よりはっきりする。そうなると、結局のところ、自分の国は自分たちで守れという原則に辿り着く。どうだ、そうなると困るだろう」
「あ、確かに日本には憲法九条があるから、戦争は出来ない。軍隊は保持しないってことだから・・」
「そうなってくると、きちんと憲法を変えないといけない。そんな事態を受け入れる覚悟が国民にあると思うか。米軍嫌だといいながら、米軍が守っているから、平和憲法でやっていけるんだ、という思い込みがある。それを捨てる勇気がないから、今のような滑稽な状態が続いているんじゃないのか。沖縄はひどい状態だが、首都の東京だって米軍に管制空域を握られ、羽田空港での離着陸では不便を強いられている。そんなの屈辱だと思っても、この状態に甘んじざる得ないいびつな事情があるってことさ。一筋縄ではいかないよ」
 龍司は呆然とした。そうか、それほどまでに根の深いことなのか。考えてみれば、基地建設反対と叫んでみたところで、背景には複雑で緻密過ぎる問題が横たわっている。それを一つ、一つ理解しないと、この問題の解決は実に難しい。それに理解したとして解決には相当な覚悟が必要になる。
by masagata2004 | 2010-10-08 10:21 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第13章 元自衛官国会議員

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第12章までお読み下さい。

 主民党による新政権が発足。政権交代という歴史的な快挙とあって内閣支持率は七割を超えた。課題は山積だ。何よりも景気の回復、雇用の増進が国民にとって最大の懸念となっている。
 しかし、沖縄にとっては普天間基地の移設問題が最大の懸念事項であった。
 新首相は、最低でも県外への移設に向けて努力すると国会での演説で述べたのだが、だが、対する在日米軍側は、普天間の辺奈古への移設は前政権との合意だったといえ、それは政権が変わろうとも日米の国家間の合意であると主張し、一歩も引かない姿勢を前面に押し出した。
 そして、それを受けてか次第に日本政府も、政権与党の主民党内にも移設先変更に対する慎重意見が出だした。
 本土のマスメディアや世論では、議論が真っ二つに分かれた。米軍がいうように、すでに合意事項だから今更、日本側の都合で変えるのは道理に合わないし、そんなことを要求するとアメリカとの信用を損ない日米同盟に悪影響を与えるという論調と、沖縄に今まで米軍基地を押しつけてきたこの異常な状態は改善すべきで、戦後六十年以上も経って、未だに日米関係は日米安保体制の下、不平等なままであり、政権交代をした今こそ、両国は対等な関係を構築すべきで、そのためにも、沖縄の基地負担の軽減、そして、日米地位協定の改定などを実現していくべきだという論調である。
 そんな内地の賛否両論とは別に沖縄では専ら、普天間基地県外・国外移設論が優勢であり、地元紙も日本国政府に県外移設をすべきだという論陣を張り続けた。
 政権交代により、日本は対米追従から抜け出し、やっとアメリカにものをいえるようになったのではないかと、これで沖縄も救われると期待が膨らむばかりであった。
 だが、日本政府では、閣僚の中から「時と場合によっては、公約を修正しなければいけなくなる」などの発言も飛び出るなど事態は不透明さを増していくばかりであった。

 そして、政権交代から数ヶ月経った頃、テント村に著名な国会議員が現れた。テレビや新聞で有名な主民党の議員で、元自衛官だったという人で、国防問題や外交問題の専門家だという。歳は五十ぐらいで口髭がトレードマークで名は佐藤俊雄という。背広に議員バッチをつけてやってきた。今は主民党政権内閣の下、防衛政務官を務めており、移設問題のキーマンの一人でもある。今回の県外移設の公約に関しては、首相を支えつつも、慎重論を掲げている人物である。
 その日の午後、テント村は、この思わぬ来客でやや騒然とした。秘書とガードマンを同行して現れた佐藤氏は、皆の意見を聞くためにやってきたと言う。あくまで自分の立場は中立であり、できるだけ多方面の立場の意見に耳を傾け参考にしたいと言う。
 態度が定まらない主民党政権に対する不満は日に日に強まっており、活動家たちは、想いのたけをぶちまけた。
「なぜ、公約を実行しないのですか。散々、沖縄に期待もたせておいてひどいじゃないですか」
「新基地は米軍だけでなく自衛隊も共同で使いたいから、計画変更なんてしたくないのでしょう。そんなに軍備が必要なのですか」
「選挙で応援して、主民党を勝たせた沖縄を裏切るつもりなのですか」
 龍司も、言うべきことを言うことにした。特に佐藤が元自衛官のタカ派であり、毎年、終戦記念日には、靖国神社に参拝するというので、この人物の立場になりきったつもりでの意見を述べた。
「佐藤さんよ、この浜辺の有刺鉄線を見て日本の国会議員として屈辱的だと思わないのか。日本の安全のためとはいえ、他国の軍隊に、この土地を占拠されているんだぞ。戦争に負けて取り上げられた土地に基地を造られ、さらにそれを広げるために海を埋め立てることまでされようとしているんだ。有刺鉄線の看板を見ろよ。「入ったら日本の法律で罰せられる」って。こりゃなんだ。日本人をバカにしてやがるんじゃないのか。そのくせ、奴らは騒音出したり、犯罪やったりとやりたい放題じゃないか。まだ日本は占領状態にあるとしか思えん。日米安保とかいうが、この軍隊は、あんたらが参拝する靖国の英霊とやらを処刑した軍隊だぞ。そんな奴らのいいなりにいつまでなるんだ。真の愛国者なら、こんなものとっとと撤去しようとまず思うのじゃないのか」
 龍司の言葉遣いは、相手が国会議員であることなどものともしないほど荒々しかった。いくら何でも言い過ぎじゃないのかと周囲の活動家たちさえにも思わせるほどだった。また、龍司の意見は活動家たちにとっては、ややピントの合わないものだったみたいだ。テント内は、しばらくシーンとなった。
b0017892_1832375.jpg

 佐藤は表情が急に深刻になり、
「いや、いろいろな意見を聞かせていただきありがたく思います。時間も時間なので、ここらで失礼させていただきます」
と述べて、秘書、ガードマンと共にテント村を去った。予定では、この後、名古市の市長や市議会議員と面会するため市役所にいくという。来年の一月には、この市で市長選が予定されている。現市長は、かならずしも新基地建設に反対ではないと聞く。

続き
by masagata2004 | 2010-10-07 18:01 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)

旅小説「私を沖縄に連れてって」 第12章 逮捕

米軍基地建設に抵抗する海人(うみんちゅう)の戦い

まずは第1章から第11章までお読み下さい。

 翌日、早朝、活動家と海人たちは、漁船一隻とカヌー数隻を櫓の周りに浮かせ、同時に十人ぐらいは櫓の海面上の足場にどっしり座り込むことにした。その座り込みメンバーに安次富とその息子の洋一、龍司がいる。
 ジャングルジムのようなパイプで形作られた櫓の足場用板にところ狭しと十人もの人間が座り込む。
 作業船と海上保安庁の大型ゴムボートがやってくる。漁船一隻とカヌー隊は、すぐさまけ散らかされた。
 だが、この日の主戦場は櫓だ。そのために人員とエネルギーをこの場所に集中させたのだ。「さあ、来い」と皆、息巻いた。
 そして、彼らはやって来た。作業船から掘削用の機械を櫓の屋根の中に置こうとしている。そのためにも、足場にいる龍司たちを追い払わなければならない。
 ヘルメットと救命胴衣と黒のウエットスーツを身につけた男たちが足場に踏み込んできた。さっそく、座り込みメンバーをどしどし海に投げ落としていく。小柄な女性は、すぐに落とされた。三十分ほどで座り込みメンバーは半分になった。
 洋一も海面に落とされた。必死に足場に上がろうとするが、それを足裏で押さえ、また引き落とす。何度もそんな状態が続くと疲れてしまい海面でもがき、仕方なく漁船に泳いでいき一時休をしのぐ。間違っても敵側のゴムボートや船に拾い上げられてしまってはたまらない。
 龍司と安次富は、体を引っ張られながらも粘って座っている。龍司は自分を引きずり降ろそうとする連中がつかむ胴体と腕に力を入れ、相手がつられて力んだ瞬間を利用して絶妙のタイミングで力を抜き、それと同時に体を反転、それにより、連中のバランスを崩させ海中に落とすという高度な格闘を繰り広げた。外見上、相手に暴行を加えていない格闘だ。
 だが、安次富は、何度も引っ張られ体がへとへとになっている様子だ。しかし、それでも粘る。すると、黒いウエットスーツの男は安次富の首を絞め始めた。安次富は「ぐ、ぐう」と言う。
 こりゃ、とんでもないぞっと思った龍司は、立ち上がりその首を絞める男の腹に蹴りを入れた。すると、その男は安次富の首をつかんだまま一緒に海面に投げ出された。
 海面で安次富が息をしようともがいている。首を締め続けられた状態から平静を保とうと必死だ。すると、さっき首を絞めていた男が、今度は安次富の頭を押さえ海中に沈み込ませようとする。
 殺す気か、と危険を察知した龍司は海に飛び込み、安次富を押さえつける男に近付き、得意のパンチを食らわした。水面でのパンチは得意技だ。大学時代、そんなことをしたために水球部を退部にさせられた。
 男は、一気に力を失い、意識もうろうとなり、海面に浮かぶだけの状態になった。
 安次富は、息をふうふうさせながら、正気を取り戻そうとしている。だが、ショックが強かったらしい。顔を真っ赤にしてかなり苦しい状態だ。
 これはまずい。急いで仲間の漁船に乗ろうと思った。すると、目の前に海保のゴムボートが止まった。男が一人手を差しのべる。見ていられなくなったのか。危ない状態なので急いで海面から出ないとと思い、手を伸ばし、安次富も一緒に引っ張り上げゴムボートに乗った。
 とりあえず、助かったと思った。安次富もすぐに落ち着きを取り戻した。同時に龍司に殴られ救命胴衣で浮かんでいるだけの状態になった男も海面から引き上げられた。
 龍司と安次富を海保の男が見つめ言った。
「お前らを威力業務妨害で逮捕する」
 龍司は仰天した。即座に二人に手錠がかけられた。そして、海保の男は龍司に向かって怒鳴り声で言った。
「お前はそれに加えて公務執行妨害と暴行罪だ」
「何だと、あれは正当防衛だぞ」
 龍司は言い返したが、奴らは無視して、ボートを陸に向けて進ませた。最初から、これをすることが目的だったのではないかと疑う。

続き
by masagata2004 | 2010-10-04 21:12 | 沖縄 | Trackback | Comments(0)


人生は常に進歩していかなければならない


by マサガタ

プロフィールを見る
画像一覧

S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30

カテゴリ

全体
プロフィール
自作小説
映画ドラマ評論
環境問題を考える
時事トピック
音楽
スポーツ
ライフ・スタイル
米留学体験談
イベント告知板
メディア問題
旅行
中国
風景写真&動画集
書籍評論
演劇評論
アート
マサガタな日々
JANJAN
スキー
沖縄

タグ

最新のトラックバック

映画「終戦のエンペラー」..
from soramove
【映画】バーダー・マイン..
from しづのをだまき
インサイダー
from 映鍵(ei_ken)

フォロー中のブログ

高遠菜穂子のイラク・ホー...
ジャーナリスト・志葉玲の...
増山麗奈の革命鍋!
*華の宴* ~ Life...
poziomkaとポーラ...
広島瀬戸内新聞ニュース(...
楽なログ
美ら海・沖縄に基地はいらない!

その他のお薦めリンク

ノーモア南京の会
Peaceful Tomorrows
Our Planet
環境エネルギー政策研究所


私へのメールは、
masagata1029アットマークy8.dion.ne.jp まで。

当ブログへのリンクはフリーです。

検索

ブログパーツ

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

東京
旅行家・冒険家

画像一覧