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小説で地球環境問題を考える Part 15

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 14を読んでください。


 次の日、二人は、朝十時に同じベッドで目を覚ました。健次はぐっすり眠られた。由美子のスイートルームのベッドはとても心地良かった。
 ルームサービスに朝食を部屋まで運んで来てもらった。そして、食べながらベッドの上で会話を楽しんだ。b0017892_2246472.jpgゆっくりと二人だけのひと時を楽しんだ後、外出してクラランコクの町を一日中回ることにした。
 森の探索と植物の成分分析に関しては、その日一日だけは堀田と他の隊員達に任すことにした。皆、健次には休息が必要だと理解してくれた。
 まず、すぐ近くにある観光名所の一つ、スワレシア国立博物館へ行った。その近代的な建物の中には、スワレシアの伝統民具や工芸品美術品などが展示されていた。どれも見る者の目を楽しませるすばらしい品々であった。
 クラランコクの近代的な中心街の町並みは、とても美しい。ホテルの周りは、幅が広く舗装された道、熱帯地方らしくやしの木が両側に立ち並ぶ。車やオートバイが大忙しで走っている。
 高層ビルもにょきにょきと立つ、その中でもツインの世界一高いビル、クアランコクタワーは、一際目立ち、発展するスワレシアを象徴し威厳がある。
 マラティール大統領の経済発展第一主義は、次々と町の様相を変化させている。だが、一方で少し中心街を外れると、そこにはスラムがありトタン屋根でできたバラック小屋が並ぶ。
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 道を歩く人々は、ボロボロの服をまとい、小さな子供でさえ道端で物乞いをしている。これが、世界の発展途上の国々の実態なのだ。
 先進国と発展途上国の経済格差は、環境問題を考える上において最も重要な課題だ。
 由美子は、大統領と会ったときのことを思い出した。貧しい状況を少しでも改善したいというのが、指導者の本音なのだ。自然保護などというのは、余裕のある先進国の人々ができること。自然を破壊しなければ、まともな生活を維持できない貧しい人々には、そんなものは戯言としか聞こえない。
 そもそも、同じ地球という星に人々は住みながら、なぜこんなにまでも貧富の差が大きいのだろう。先進国では、食物があり余り、肥満で悩む人々が大勢いる。一方、発展途上国では、栄養失調で幼い子供達が毎日と餓死している。
 数人のボロボロの服を着た子供達が、由美子と健次が外国人だと分かると集まってきた。子供達は、にこにこしながら、手の平を広げ、お金をせがんでくる。
 二人は、どうしようか迷った。子供達の無邪気な顔を見てると、あげなければと思う。だが、そんなことをするのは、同時に後ろめたいことでもある。彼らを、乞食として扱うことになるからだ。同じ人間なのに、人間としての尊厳を無視しているように思えてならなかった。だが、考えてみれば、彼らにとって今大事なのは、そんな尊厳などというものよりも、今日一日の生活をどう守っていくかということだ。
 どうすればいいかと悩みながら、由美子は、財布を取り出し、何枚かのお札を取り出した。すぐに健次もつられて、財布を取り出すことにした。
 由美子が、お札をやると一人の男の子は、さっとそれを手に取り、何も言わず立ち去った。
「あ、こら!」
 健次が言った。
「どうしたの? 」
と由美子は言うと。
「あのガキ、俺の財布を丸ごと盗っていきやがった。何てことするんだ!」
 健次は、走って追いかけようとした。由美子が、さっと彼の手首を押さえた。
「健次、やめて、ほっておきましょう」
「何言ってんだ!」
 健次は、かっとなって言った。
「なくなった分のお金は、わたしがあげるから。ね、お願い」
健次は、由美子の悲しそうな顔を見ると、ぽっと溜め息をつき言った。
「ちぇ、しょうがねえな」


 次の日の朝、由美子と健次は、スイートルームのベッドの上で目を覚ました。
 昨日は、実にゆったりとした一日だった。だから、全然疲れを感じない気持ちのいい朝を迎えている。窓からこもれる朝陽を浴びながら、起き上がり、由美子は背筋を伸ばした。
 健次は、さっそくバスルームでシャワーを浴びている。由美子も一緒にバスルームに入った。
 
 シャワーと朝食の後、二人は、ロビー階へ降りた。さっそく、新たなる戦争を始める決意をした。これから、クアランコク大学の研究所へ向かう。
 エレベーターを降りると、ロビーを抜け玄関口に向かう。そして、回転ドアを抜けるとタクシーが並んでいた。その一台に乗ろうとする。
 そこへ、
「由美子!」
 聞き覚えのある声だ、と由美子は思った。声の方へ振り向くと、そこに自分の方へ向かって走ってくる若い女性の姿が見えた。
「真理子!」
 由美子は、感激した。心配で早く再会したいと思っていた親友が目の前にいるのである。思わず真理子に抱きついた。
「真理子、どうしてここに?」
「今朝、着いたばっかりなのよ。取材に来たの」
「そう、じゃあ、記者のままでいられたのね。よかったわ」
「何を言っているよ。私が今勤めているのは、雑誌社よ。環境問題に熱心で国際的な雑誌だから、やりがいがあると思って、思い切って転職したの。それでダム建設にともなう森林破壊の問題を取り上げにね。今度は、もう大丈夫よ。編集部が私に是非ともと取材で来たのだから」
「そう、じゃあ、とにかく落ち着いたのね」
「もちろんよ、何もかも順調よ。あなたが心配することなんてなにもないわ」
 真理子は、元気いっぱいの笑顔を作り言った。
「おい、由美子、突然何なんだ? この人は誰だ?」
と健次は、ことの成り行きに混乱していた。
「ああ、健次、こちらはわたしの高校時代からの大親友、真理子よ」
 真理子は、健次を見つめ言った。
「初めまして、大塚真理子です。お会いできて光栄です」
「いや、こちらこそ」
と健次は、何となく面食らった調子で言った。真理子が興味深そうに自分を見つめるからだ。
「あ、それから真理子、こちらは・・」
「あーら、いちいち紹介されなくても分かるわよ。彼氏でしょ。なかなかハンサムじゃない、うらやましい」
「あ、ははは」
とその場で三人は、大笑いした。
 由美子は、健次を見つめ言った。
「健次、先に行ってて。真理子とせっかく会えたの。少し話しがしたいの。後で、わたしも研究所に向かうから」
 すると、真理子が、
「あら、由美子、そんなことまで」
と言った。
 健次が、その場をとり繕うように言った。
「そうか、俺は先に行っている。外国でせっかく会えたんだからな。ゆっくりしていけよ。だけど、終わりしだい、すぐに研究所に来いよ」 
 そう言うと、健次はタクシーに乗り込んだ。
「本当にいいの、大事な彼氏と一緒に行かないで?」
と真理子が言うと、
「いいのよ。さっそく、いろいろと聞かせて」
と由美子は言った。

 二人は、スイートルームに入った。
 プルルル、プルルル、と電話の鳴る音がする。由美子は受話器を取った。
「ハロー」
と言った。すると、
「お嬢様、お嬢様ですね?」
と聞き覚えのある家政婦の声が聞こえた。何だか慌てたような声だ。なぜ、わざわざ日本からここまで電話を? と不思議に思った。
「あら、ばあや、どうしたの?」
「大変なんです、お嬢様。旦那様が!」
「お父さんが、どうしたの? 」
 由美子は、急に不安になった。
「旦那様が、お倒れ、になって、息さえもしてないんです。たった今、救急車で運ばれ、まして・・」
 ばあやの声は、その事態の緊迫度を如実に表すかのようにぶるぶると震えていた。いつもは落ち着いているばあやのこんな口調を聞くのは初めてだ。

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 それからほぼ六時間後、由美子は、成田空港にいた。

 電話を受けた後、すぐさま空港に向かったのだった。荷物など準備せずタクシーに乗り込みクアランコク国際空港へ、そして、何とか東京行きの便に間に合った。
 日本へ向かう飛行機の中で、父のことばかり考えていた。あの父が、見るに頑丈そうなあの父が、倒れたなんて信じられない。いったいどういうことだったのか。数日前、帰国したとき、咳き込んでいた。ずいぶん前から、とんでもない病気を患っていたのに違いない。

Part 16へつづく。
by masagata2004 | 2007-09-27 21:45 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)

小説で地球環境問題を考える Part 14 

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 13を読んでください。

 次の日の昼、由美子と隊員一行は、現地の警察に健次の捜索願いを出す決心をした。もう丸一日以上行方不明なのだ。健次の身に、とんでもないことが起こったとしか考えられない。
 由美子たちは、警察署に向かおうとした。
 その時だった。ロビーの玄関前で、思わぬ事が起こった。
「由美子!」
 由美子は、その声に振り向いた。
「健次!」
 そこにいたのは、まさしく健次だった。ずっと行方を心配していた健次なのだ。
「あなた、どこにいたの。みんな、ずっと心配してたのよ」
 由美子は、目から涙がこぼれてきた。さっと、健次に抱きついた。
「由美子、そんなに泣くなよ。俺は、どうにもなっちゃいないぜ。それよりも、おかげでいい発見をしたんだ。もしかすると、あの森を守れるかもしれない」
 健次は、手に草をたくさん詰めた大きな麻袋を持っていた。

 健次は、由美子と調査隊員の前で、こう説明した。
 健次が夜になって急に森へ行きたくなり、車を飛ばして森に着いた。ところが、森の中でコブラに咬まれてしまい、死にかけたが、ペタン族のゲンパに出会い、この草をすりつぶした液を飲ませてもらい命をとりとめ助かったこと。
 この草は、あの森林の木の上の方に着生する雑草でかなりたくさんあること。コブラの毒を血清に変わって解毒できたほどだから、何か他に医学的な効用があるかもしれないのと考えたこと。
 皆、由美子も含め健次の話に唖然としていた。いくら健次が無鉄砲な性分の男だとしても、暗い夜にあの森まで行くのだろうか。それに、こんな雑草みたいな草が、本当にコブラの毒を解毒できたのだろうか?
 健次は、それがいきさつだと、必死で弁明した。今は、皆に余計な心配をかけたくなかった。自分が、襲われ殺されかけたなどと聞けば不安がるに違いない。そんなことよりも大事なことが、あるのだ。急いで、この草の成分を分析して新薬としての有効性を証明しなければならない。コブラの毒の解毒以外にも、様々な可能性が秘められているこの草を。
 
 健次と由美子は、ミィーティングが終わった後、夕食を食べに外へ出ることにした。今夜は、二人でクアランコクにある有名な郷土料理の店に行くことにした。
 ホテルのミィーティングルームを出て、廊下を歩いていたところで、背広にネクタイを身にまとった英明に出くわした。b0017892_2212929.jpg健次にとっては、ハワイでの悪酔い騒動以来の再会なので、気まずく目を合わせないようにした。二人は話すこともないと挨拶もせず通り過ぎようとした。
「今晩は。由美子さん、健次くん、お二人でお出かけですか」
 英明の方から話しかけてきた。
「そうよ。何か問題でも」
と由美子は、つっけんどんに言い返した。すると、英明は、澄ました顔で健次に向かって言った。
「健次くん、勝手に僕の婚約者に手を出さないでほしい。君のようなゲスな奴は、由美子さんにはふさわしくない」
「何が婚約者ですって! 勝手な勘違いはしないで!」
 由美子は、怒りをこめ叫んだ。
「由美子さん、あなた何をやってるのか知りませんが、どうあがいたって、計画通り来月にはあの森は切り倒されます。この男と一緒にいたって、事態は変わりませんよ。言ってるでしょう。僕と結婚をすれば、森の一つぐらい差し上げるって」
 何て男だ! 健次の前で、こんなことを口にするなんて。由美子は、この場で英明を殴りたかった。
「健次、行きましょう。こんな人、相手にしてられないわ」
 由美子は、健次の手を引っ張った。健次は、引っ張られながら英明に向かって得意気に言った。
「英明さん、残念ながら、あの森自身の力で、あの森は守れそうですよ。あなた達の悪企みなんか、おじゃんになりますからみててください」 

 レストランの料理は、とてもおいしかった。ここは、クラランコク一おいしい民族料理のレストランなのだ。東南アジアの料理は、主に辛いのが中心である。外の気温が暑いので、体をさらに熱くする食事をし、体感的に涼もうというわけだ。由美子と健次は、レストランの料理を口にほうばりながら会話を楽しんでいた。会話の内容は、主に二人のハワイ時代のことだった。
 だが、デザートを食べる頃になって、由美子は、真剣な表情になり健次に言った。デザートは、パイナップルに似ているが強烈な臭さを放つこの地方特有の果物ドリアンである
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「健次、さっき、みんなの前で、昨日から行方不明だったのは、思いつきで森に行ったからだなんて言ってたけど。そんなの嘘でしょう。一体、何があったの? わたしには正直におしえて」
 健次は、どきっとした。口に運ぼうとしていたドリアンの一片を皿の上に戻した。そして、しばらく考えこんで言った。
「由美子、おまえやみんなには、心配かけたくなかったから言うつもりはなかったが、実を言うと・・・」
と今までの本当のいきさつを、二日前の夜、ホテルの部屋で起こったことから、ありのままを話した。
「そんな、いったい、誰が?」
と由美子は、驚きのあまり唇を震わせ言った。
「わからない。だが、あの森にまつわることには、やたらとキナ臭い匂いが漂っている。誰かが俺を消してでも、何かを成し遂げようとしている。そんなとんでもない陰謀が渦巻いているような、そんな匂いがしてくるんだ」
 安藤は、皮肉にもそんなことを言いながら鼻をつくドリアンの匂いが気になってしかたなかった。ドリアンは食べるとおいしいのだが、匂いは排泄物のようで最悪だ。
 由美子の方は、健次の身に起った話しを聞いて驚き、匂いなど気にならなかった。気になるのは、どうしてそんなことが健次に起こったかだ。
「それって、ダム建設のこと? じゃあ、お父さんの会社が?」
「わかんないさ、勝手に決め付けるのはよそう。とりあえず、今は、せっかく見付けた、あの草を徹底研究することに賭けるんだ。今はそれだけに賭けてみればいい。明日は多忙しになるぞ。もう一度、森に行き、ゲンパに会って、もっと草のサンプルを採ってくるんだ。また、あの草だけじゃなく、他にもいい植物を知っているかもしれない。そして、サンプルを研究所に持っていき、そこで・」
「やめて、健次。明日は、わたしとずっと一緒にいて。森の探索や草の研究のことは、堀田さんや他の人達に任せてもらえないかしら。私達、もう一ヵ月以上もゆっくりできる日がなかったわ。あなたは仕事ばかりで、それに危険な目に遭ったりして。だから、明日は二人で一日中過ごしたいの。わたしのお願いってわがままかしら」
 由美子の必死にせがむ言葉を聞きながら、健次は、由美子の目を見つめ、そっと微笑んで言った。
「ああ、分かったよ。ゆっくりしよう」

Part 15へつづく。
by masagata2004 | 2007-09-16 20:53 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)

小説で地球環境問題を考える Part 13

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 12を読んでください。

 由美子は、目を覚ますと、服を着たままベッドの上で寝そべっていた自分に気付いた。もう朝だ。窓からまぶしい朝陽が入り込んでいた。
 時計を見ると午前六時だった。しまった、と思った。この時間にロビーでみんなと待ち会わせる予定だったのだ。
 とにかく、起き上がった。急いでバスルームに駆け込んだ。服を脱ぎ、シャワーを浴びた。
 五分ほどして、シャワーを止めると、タオルで体をさっと拭きバスルームを出た。
 新しい服に着替えながら、昨夜のことを思い出していた。昨夜は、夕食の後、部屋に戻って、ずっと健次を待っていたのだ。
 だが、待てども、なかなか彼は現れなかった。気が付くとベッドの上で自分は寝込んでしまっていた。
 どうしたのだろう。忘れてしまったのか?もしかしたらそうかもしれない。昨夜は、皆疲れ切っていた。前日の森の探索に続き、サンプルの分析と今日の探索計画の打ち合わせが続き、心身ともに神経を張り詰めた状態にいた。自分だって、待ちながら寝込んでしまったほどだ。きっと健次も、ちょっと休むつもりが、朝まで寝込んでしまったのだろうと思った。
 とにかく、急いで、ロビーに行くことにした。みんなが待っている。そこに健次も来ているはずだ。
 服を着終わると、由美子は走ってスイートルームを出た。
 エレベーターに乗りロビー階のボタンを押した。エレベーターは、どんどん下に下がっていく。
 由美子は、心配になった。腕時計を見ると、約束の時間より十五分も遅れている。健次は、時間にうるさい男だ。もしかしして、自分を置いて隊員達とさっさと出かけていったのかもしれない。
 エレベーターがロビー階に着くと、さっと降り走った。
 見覚えのある仲間たちが立っているのが見える。
「おはよう。みんな、ごめんなさい。遅れてしまって」
 由美子は、苦笑いをしながら、みんなに声をかけた。
「あ、おはよう、由美子さん。あれ、健次は、一緒じゃないのかな?」
 堀田が顔をしかめて言った。
「え、彼、まだ来てないの?」
 見ると、皆来ているのに、健次は、ここにいない。
「由美子さんとずっと一緒だと思ってたんだがな?」
「え? 昨日の夜、わたし、ずっと待ってたけど、彼来なかったのよ。堀田さん、健次と同じ部屋だったんでしょ?」
「ええ、でも、健次は、僕が部屋に戻ったときにはいなくて、てっきり、由美子さんの部屋に行ったのかと・・」
 皆、騒然となった。大事なグループのリーダーが行方不明となったのだ。

 健次は目を覚ました。顔に水滴がぽとっと落ちたのを感じた。
 は、ここはどこだ? 自分は体を横たわらしている。体の下には、草や葉で作られた敷き布団のようなものがあるのを感じる。目を開き真上に見えるものは空ではない。木の枝と葉で作られた天井のようだ。ここは、人間の作った小屋の中のようだ。作りはかなり原始的だ。辺りは暗くない。もう夜中ではなく、昼になっているようだ。
 ザー、ザー、と激しい雨の降り注ぐ音が聞こえる。これは熱帯地方特有の雨、スコールだ。短時間に滝のように降り注ぐ大雨だ。
 ポタ、ポタっと、水滴が健次の顔に落ちてきた。雨漏りだ。天井から、水の雫がどんどん落ちてくる。健次は、体を動かして、よけようとした。だが、体が思うように動かない。体が、重くて動きにくいのだ。何だか体中に熱を感じる。かなり気分が悪い。
 ああ、そうだ、自分は、コブラに噛まれ死にかけているのだ。もうだめだ。誰がこんなところに連れてきたのか知らないが、自分はすでに死ぬ身にあるのだ。死の恐怖が、健次を襲った。
「目を覚ましたのかい? 大丈夫かい?」
と英語で、誰かが自分に話しかける声が聞こえた。誰だ? と思いつつ、健次は、力を振り絞り叫んだ。
「ノー、ヘルプ、ミー」
 その人物は、健次の体をさっと動かした。すると、雨漏りの水滴が、顔に当たらなくなった。     
「すまないな。天井に穴が開いてしまって。ところで気分は、良くなったかい。そうだ、もう一杯薬を飲ましてやるよ。まだ、気分は悪いだろうが、じきに良くなるさ。この薬は効くんだから。現に、今生きていられるのもこの薬のおかげさ」
 健次の口に男が木でできたコップのようなものを近付ける。健次は喉が乾いていたせいか何の抵抗もなく口を開くと、コップからどろっとした液体のようなものが流し込まれた。味を感じる前に、どんどん口から喉へと流れていく。
 健次は、目を開き男の顔を見た。気分が悪いから、ぼんやりとしか見えないのだが、この男の顔には見覚えがある。どこかで会ったことがあるはずだ。目、鼻、口などの細かい部分がぼやけていても、輪郭、それに頭の両側を剃り真ん中でまとめた特徴ある髪型には、見覚えがある。
「ゲンパ、ゲンパだろ。俺、君をクアランコクの市民会館で見たよ。やはりここに住んでいるんだな。ところでだが、どうして俺はここにいるんだ? 俺は蛇に噛まれたはずだが、どうなったんだ?」
と健次は英語で話しかけた。
 ゲンパは、言った。
「君が、蛇に噛まれて死にそうだったところをたまたま仲間が見つけた。急いで、薬を飲ませ、解毒した。今、毒は消えたが、体の痺れだけが残り苦しいんだ。だが、それもじきに治まる。安心してくれ」
「コブラの毒を解毒したのか」
「そうだ、我々部族が古くから使っているものだ。草をまぶし液体にしたものだ。コブラの解毒だけじゃなく、他のいろいろなな病気になったときに効く」
「何だって、血清ではなくコブラの毒を解毒する薬を草から取ったって? そんな草どこに生えているんだ?」
「木に登ると見つかるさ。木の上の方にある枝に生えてる草さ」
「木の上に草が生えている? そうか、鳥や風が種を運び空から落ちてきて寄生する植物だな!」
 健次は、ついさっきまで重苦しかった体と気分がどんどん軽くなっていくのを感じた。

 由美子は、スイートルームで窓の景色を眺めていた。
 激しい雨が、降りしきっている。そのスコールを見ながら、抑えがきかないほど不安な気持ちで一杯だった。
 今朝は、大混乱だった。ホテル中を探し回ったが、見つからなかった。警察を呼ぼうとも思ったが、騒ぎを大きくするのは良くない。何か特別な事情があって、健次が伝言を残さずどこかに出かけたとも考えられるのだ。
 いずれ由美子か隊員の誰かに連絡を入れるかもしれない。今日一日はそれを待とう。そういう結論になり、当然のこと、今日の森林探索は中止となり、一同は健次からの連絡を待つこととなった。
 由美子は、嫌な予感がしてならなかった。今回の森林探索は、当初から様々なことが絡み合い、きな臭い雰囲気が常につきまとうのだ。
 まさか、健次の身にとんでもないことが? 由美子は、目から涙がこぼれてきそうだった。ハワイで過ごした健次との日々が思い浮かべられる。楽しかった二人だけの思い出が。まさか、まさか。

 健次は、気分がすっかり良くなり、ゲンパと顔を向き合いながら座っていた。空は、真っ赤に焼けていて今は夕方だ。腹が減っているのを感じてきたる。むんむんと湿気をたっぷり含んだ生暖かい空気が体を包んできて、とても心地よい。そんな心地良さが空腹感を誘う。
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 健次は思った。今まで、何度かインフルエンザや胃潰瘍などで病気をしてきたが、その後の病み上がりの状態が、今以上に心地良かったことはない。数倍の解放感を感じるのだ。コブラの毒から解放されただけでなく、体の他の部分も癒されたような気分だ。むしろ、以前よりも体の状態は良くなった感じがする。自分が飲まされた草の薬は、ただならぬものだと確信した。
「ゲンパ、こんな薬があったことをどうして君達は世間に知らせなかったんだ? コブラの毒を血清以外に解毒できる薬が森の木の上にあったなんて!」
 健次は感動を込めて言った。
「僕達にとっては、毎日、普通に使っている薬草さ。外の人達が珍しがるとも思えない」
「ああ、そうだな。だが、もしこの薬草にとんでもない効果があれば、君たちの住む森も守れるかもしれない」
「さあ、ケンジ、腹が減ってるだろう。妻と母ちゃんが、おいしい夕飯をこしらえてやる。明日になれば、おまえを町へ帰してやるからな。その前に元気をつけるんだ」
 健次は思った。何が何でもゲンパ達の住むこの森を守らなければ!

Part 14につづく。
by masagata2004 | 2007-08-28 21:40 | 環境問題を考える | Comments(0)

小説で地球環境問題を考える Part 12

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 11を読んでください。


 英明は、リムジンの中で考え事をしていた。気になっていることといえば由美子のことだ。あの女は、全く厄介だ。だが、自分の出世のためには社長の娘である由美子を利用しなければならない。
 由美子と結婚するのだ。由美子と結婚すれば、明智一族の仲間入りができる。由美子は、社長清太郎の跡継ぎだ。しかし、あんな世間知らずの小娘に跡など継げるはずなどない。ということは夫であるこの自分が変わりに継ぐこととなる。
 清太郎が、癌で余命いくばくもないのは知っている。野村院長が教えてくれた。あの男は、自分に負い目を感じているのだ。というのも、最近、野村が自分の所有する野村病院に新しい病棟を造る際の融資追加を明智物産傘下の銀行に依頼した時、英明の力が役に立ったのだ。英明が多額の融資を後押しする代わり、野村が清太郎の主治医となり清太郎の健康状態に関する情報を全て提供するという約束をさせたのだ。
 由美子と結婚すれば、明智物産は清太郎の死後、自分のものになる。

 英明は思った。由美子が、自分を心底嫌いなのは分かっている。だが、結婚はさせてみせる。いや、必ず結婚する。こっちには、ダム建設を中止できるという切札がある。あの女は愚か者だ。自然を守るという血迷った理想に打ち拉がれ、しまいには何でもすることになるだろう。あの鬱蒼とした不気味な森を守るために。
 だが、そこまで追い詰めるには今のところ一つの障害が存在する。それをなくさなければならない。それは安藤健次のことだ。由美子の恋人だ。二人揃って愚かな理想主義者といえる。英明は健次とハワイで会った時のことを思い出した。その時、健次は仕事に失敗したからとやけ酒を飲み、酔いつぶれ、あろうことか自分につっかかてきた。何とも不愉快な体験だったことを覚えている。
 由美子と同様、とても厄介な存在だ。あの男がいる限り、由美子は他の男と結婚するつもりにはならないだろう。そして、あの男は、会社が管理する土地となったあの森で、訳の分からないことをしている。あの森に癌やエイズを治す薬があるというのだ。英明にとっては、あの森は木や草が集まっただけのものに過ぎず、そんな優れものがあるとは信じがたかった。
 だが、英明はアメリカのハーバード大学に留学していた時、医学部の学生からこんな話を聞いたことがある。化学薬品の合成などで新薬を作ってきたこれまでのやり方以外に、画期的な方法として熱帯雨林の植物から、直接そんな原料を捜し当てるというやり方が注目されているという。もっとも、古代から現代に至るまで医薬品の原料は植物から採取することが多かったのだが、その中で熱帯雨林は未知の原料の宝庫であり、癌やエイズを治せる薬の原料が存在する可能性があるといわれているのだ。

 そんなこと起こるなどと本気で思ってはいない。しかし、万が一の可能性も無視できないのだ。英明は、用心深い性分だった。
 障害となる要素は徹底して排除しなければならないと考えた英明は、携帯電話を取り上げた。番号を押した。しばらくして、
「ハロー、あんたかね。頼みたいことがある。厄介な奴が私の周りにいてね、・・・」
 こんな問題を処理してくれる裏世界の組織がクアランコクに存在することを英明はよく知っていた。


 次の日 
 昨晩、クアランコクに戻った時から、健次と隊員たちは採取したサンプルの分析をスワレシア国立クアランコク大学から借りた研究室で行った。
 昨日採ってきた植物のサンプルの中には特別なものはなかった。健次達は、形が奇妙で、不思議な匂いがする魅惑の熱帯雨林ならではの珍しい植物ばかりを採ってきたのだが、医学的な効果を及ぼす成分などは含まれていなかった。
 その他、昆虫も調べてみた。どれも奇妙な形や色をしたものばかりだった。日本では、絶対に見ることはできないものばかりだ。面白いのは、その多くは、カメレオンのように洩り全体の景色と形や色がマッチしており、その体自体が、葉っぱや木の枝とそっくりで、カモフラージュ効果といわれる天敵から見つかりにくくなるような外見をしているのだ。しかし、それらからも何も得られなかった。
 まだまだ、始まったばかりだ。それに昨日採ってきたのは、あの森にある生物のほんの一部でしかない。熱帯雨林には何百万という種類の生物が存在し、その多くがまだ人間に発見されていないものばかりだ。昨日採ってきたのはその中の数百でしかない。
 サンプルの分析が一段落すると、由美子も加わり、明日の探索の予定を決める打ち合わせが始まった。打ち合わせは長く続き、終わった時は夜遅くだった。取りあえず、一通りの計画はできあがった。明日からの探索は数日に渡り野宿して行う予定となった。限られた時間を活かし、なんとしてでもいい薬の原料を探し出さなければならない。あと三週間しかないのだ。

 健次と由美子と隊員達はホテルに戻った。
 健次は、フロントで鍵を受け取り、一人で自分の部屋へ行った。由美子と隊員達が、一階のレストランで一緒に食事をしようと誘ったのだが、食欲が湧かず断わった。
 ドアを開け部屋の中に入る。健次は思った。まず、シャワーでも浴びよう。汗だくだくで、体は石になったみたいに疲れている。今日は特別体を動かしたわけではないのだが、たまっていた緊張が、今になってどっと押し寄せてきたような感覚だ。
 シャワーを浴びたら由美子の部屋へ行こうと思った。今夜は二人で過ごすと約束したのだ。全くこんなに疲れている時に恋人のお務めをさせられるとはつらいものだが、考えてみれば、彼女の部屋はスイートルームだ。休むなら由美子と一緒にあの広い部屋で休むのが最適である。
 部屋の電気をつけた。
 目の前に三人の見知らぬ男達がいる。
「何だ、貴様ら!」
 健次は、大声を上げた。二人の男が健次の両腕を両側からぐっとつかむ。健次は力一杯抵抗した。両足を上げ、目の前のもう一人の男の腹を蹴った。男は床に倒される。
 即座、両側の男たちは、健次の両足を右と左からぐっと踏み、健次は立ったまま身動きできない状態にされた。
 腹を蹴られた男は、さっと床から起き上がり右手に拳を作ると、健次の頬を力一杯殴った。
 ばしっと、顔全体に衝撃が走った。すぐにもう一発が入った。その痛みを実感する間もなく、今度は腹に男の拳が入る。何度も強い衝撃が腹を攻める。内臓が破裂しそうな痛みだ。
 だんだん意識がもうろうとしてきた。目の前の男の顔がぼやけて見える。健次は何も考えられなくなり目を閉じた。
 二人の男は健次の意識がなくなったのを確認すると、手を放し床へ落とした。
 ガタっと、この部屋のバスルームのドアが開いた。一人の背広姿の男が現われた。
「終わったか!」
と英明が三人の男達に言った。
 男達は、揃って頷いた。
「じゃあ、さっそく後の処理を頼む。この男、とてもあの森が気に入ってるんだ。あの森の中で死ねたら本望だろう。連れていってやれ」
 気を失い床にひれ伏した健次を見下ろし、英明は勝ち誇った微笑みを浮かべた。
 

 健次は目を覚ました。自分が寝そべっていることに気が付いた。その場所は、かなり寝心地が悪い。じめじめとした地面の上だ。
 辺りは暗いのだが、空に大きな満月が出ているのが見えた。満月の明かりが、わずかながら、ぼんやりと辺りの姿を照らしている。自分が調査で歩き回っていたあの森の中にいることが分かった。なぜこんなところにいるのだ?
 遠くから人の声と馬の足音が、小さいながらも聞こえる。声と音は、どんどん遠ざかっている。はっきり聞こえないのだが、日本語ではないようだ。スワレシア語で話す何人かの男の声のようだ。
 健次は思い出した。ホテルの部屋に入って、見知らぬ男達に囲まれ、顔や腹を殴られ気を失った。それからあとは半分夢を見ていたような心地だったが、自分が車で運ばれていたような覚えがある。
 そして、その次は、何か動物の背の上だった。かなりぐらぐらと揺れていた。
 それから、地面に意識がはっきりしないまま、叩き落とされたのだ。その落とされた瞬間、はっきりと意識が戻り目が覚めたのだ。
 一体、何だって自分がこんな目に遭わなければならないのか、健次には、皆目見当がつかなかった。
 どうして、奴らは、自分をこんなところへ連れてきたのか?
 何はともあれ起き上がろう。こんなところでじっとしてはいられない。
 突如、ジーっと、ラジオの雑音のような音が聞こえた。何だろうと思って目を凝らすと、ほとんど真っ暗だが、月の明かりでうっすらとそのものの形が見えた。そのものに見覚えがあったため、何なのかはすぐに分かった。
 昨日の探索でも、何度か出くわしている。熱帯ジャングルでは絶対に気をつけなければならない生物、毒蛇コブラだ。それもかなり体長が大きい。綱のような太く長い胴体をキュッと立て、ぎらりと自分をにらみつけてる。
 ジー、ジー、と身を凍らせる不気味な声を何度も立てる。舌を鳴らして周りの匂いを感じとっているのだ。健次は不利な体勢にあった。起き上がって逃げようとすれは、相手は自分が攻撃を仕掛けたと思い、防御のため噛み付くだろう。
 ただ、じっとしておくしかない。少しでも動けば噛み付かれる、猛毒のしみ込んだ鋭い歯が襲ってくるのだ。
 健次の体は蒸し焼きにされたように熱くなった。夜でも炎天下と変わらないジャングルの暑さに加え、目の前に迫る恐怖が体温を上げている。
 だが、その熱い体も一気に凍った。
 コブラは、さっと胴体を延ばし健次の腕に噛み付いた。
 腕に凄まじい痛みを感じた。そして、体全体が急激に痺れてきた。意識を再び失う。

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Part 13へつづく。
by masagata2004 | 2007-08-15 10:08 | 環境問題を考える | Comments(0)

映画「東京原発」 来年にも現実化されるらしいけど

Excite エキサイト : 社会ニュース

2007年8月3日に投稿
日本映画は普段見ないし、嫌いなのだが、この映画は柏崎刈羽原発の地震による緊急停止事件で原発危機に直面した現在、とても身にしみいるテーマとして見ることができた。ドイツ映画「みえない雲」と同様の反原発映画だ。

物語は、役所広司演ずる東京都知事が、東京に原発を誘致することを提起する。もちろん、都の役員達は唖然とする。だが、都知事には、ある企みがあった。

ドラマの中では、原発に関する神話とその反証が分かりやすく説明されていた。

日本にある原発で阪神大震災級の地震に耐えうる原発は実をいうと一つもない。柏崎刈羽の惨状を見てもご覧の通り。

日本の電力の3割は原子力で担っているので欠かせないとかいうが、原子力がなくても、残りの火力や水力を最大限活かせば、実を言うとピーク時でさえ何とかまかなえる。現に柏崎刈羽での電力供給停止の補填のめどは東電はつけているようで。というのも、火力や水力は、普段、最大出力の2割しか稼働していない。でもって原子力は出力調整のできない発電機。つまりは、原子力のために他の電力が必要になるってこと。

そもそも、日本の原子力政策は、何の戦略もない、土壇場的に積み上がった政策だったといわざる得ない。当初はエネルギー危機から生まれた発想だったが、いつのまにか利権の伴う「発電のための発電」へと変貌していき、国民の無関心から自然エネルギーへの転換政策が遅れ、原発に対する危機意識が薄れていったということだ。実に日本的だ。

ちなみに、この東京原発、まんざら映画の話しだけではすまなそうだ。というのも、来年、横須賀の米海軍基地が原子力空母「ジョージ・ワシントン」号の母港基地となるというのだ。つまりは、首都圏に陸上よりも危険な海を航行する原発ができるという。1年の半分を原発が横須賀にいて、母港として修繕などもそこで行う。おお、危険極まりない。

原発よりもひどいのは、それが都市に電力を供給せず、軍艦のみの、それも我々の税金で、でもって、アメリカの軍事戦略のために使われる。

日本は、アメリカに3発目の原爆を落とされるということか。

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by masagata2004 | 2007-08-03 23:10 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)

ドイツ映画「みえない雲」 もはやフィクションではない

Excite エキサイト : 社会ニュース

ドイツの町で原発事故が発生。近郊に住んでいた人々のパニックを描く。ハンナという女子学生は、原発事故の緊急サイレンを聞いて弟と共に避難しようとする。だが、大混乱で急ぐ中、事故で弟を失い、自らは逃げ遅れ多量の放射能を浴び、白血病にかかってしまう。

ドラマ自体は、ややありきたりのストーリー。日常から突然、非日常のパニックに放り投げられた人々の葛藤を分かりやすく描いている。

この映画を観たいと思ったのはもちろんのこと、中越地震で柏崎刈羽原発が緊急停止、変圧器火災を含め数多くの損壊が報告され、放射能漏れも起こったというニュースを聞いてだ。

日本は、現在、エネルギーの3割を原子力に頼っている。その上、柏崎と静岡の浜岡原発は、地震の起こりやすい所に建っており、非常に危険な状態である。今度の地震でチェルノブイリの再来が起こったかもしれない。

原発恐怖の話しをしても、資源の乏しい日本にはどうしても必要、原発は石油に比べ効率がいいという推進論に掻き消されそうになる。だが、現実は、数々のトラブル発覚で安全神話が崩壊しているので分かるように、効率を維持するために安全管理をおろそかにせざる得ないのが現状だ。特に建てられてから数十年を経過したものは老巧化が起こってどうせ使えなくなる。また、廃棄物の処理にも余分なコストがかかる。地底に捨てようとするが、何せ場所の確保さえままならない。実をいうとそれだけ非効率なのである。そして、いざ、事故が起これば、その損壊は計り知れない。いわゆる効率がいいというのは、中短期的な観測で言っているに過ぎないのである。

ところで、そんな当たり前の事実が、なぜ一般に知れ渡らないかというと、まずマスコミは電力会社を大スポンサーとしているため否定的な報道ができない。それから、政治は、与野党とも電力会社とその系統労組の支援を受けているので、これも力が入らない。

我々は何をすればいいのか。このようにインターネットの時代。ネットを利用してできるだけ正確な情報を仕入れて危険を熟知すること。そして、できるだけ原発に反対する政治運動などに参加すること。もちろんのこと、原発をなくすため不足する電力は、どうすればいいのかというと、代替エネルギーを模索する。自然エネルギー、例えば風力発電など。テレ朝の「素敵な宇宙船地球号」という番組で風力発電なら現在の総エネルギーの10%ぐらいをまかなえるかもしれないと聞いたことがある。最も、それをしようとすると、既存勢力が妨害しようとする。だが、原発依存を放置すれば大惨事となり、そういう人達も多大な被害を受けることを理解しておかなければならない。

何よりも、環境問題全般に関わることだが、電力そのもの消費量を減らすように心掛けないといけない。

原発は、もはや古い時代のエネルギー理論でしかない。21世紀中に世界から消えてしまって欲しい。

映画では、放射能から逃れようとする人々が描かれていたが、そこで、学んだことがある。逃げてもどうせパニックになり、それによって死ぬかもしれないから、場合によっては逃げるのをあきらめるべし。特に大都市だとそうだ。それから、逃げる場合は荷物は、少なめにというか、ほとんど持たないこと。邪魔になるだけ。地震用の防災リュック持っているけど、それの原発避難用も兼ねておくか。でも、東京だと逃げることなど不可能。放射能の前に群衆にもみくちゃにされ殺される。

どのみち、死を覚悟する心の準備もしておかないと。

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by masagata2004 | 2007-07-18 22:44 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(3)

小説で地球環境問題を考える Part 11

 出発した成田が冬の曇り空だったためか、クアランコクの日差しは恐ろしく強く感じた。ファーストクラス出口のタラップから降りると目が痛くてたまらない。由美子は、帽子をかぶり陽射しを避けた。
 税関を通り到着ロビーを抜けタクシーに乗った。行く先は、ホテルではない。さっそく、もうすでに健次が入っている森の方に向かうのだ。時計を見ると午後一時だった。ここから二時間で森のある場所に着く。
 
 二時間後、タクシーは、クアランコク郊外の農村に着いた。目的の森は、目の前に立ちはだかり悠々しい姿を見せていた。
 思った通り、ジープが二台停まっている。すでに健次達が、森の中に入って探索を始めた模様だ。

 安藤健次率いる一行は、その日の朝六時頃に森に着き探索を始めていた。健次は、昨夜眠れなかった。由美子からの電話とファックスは思わぬ出来事だった。さっそく、隊員全員にことを話し、朝の四時に起きクアランコクを出発、できるだけ多くの時間を使って、森の中で医薬品原料の探索をすることにした。
 森の前につき、眠気まなこの警備員に明智物産社長署名入りのファックスを見せたときは、これまでの人生で一度も経験したことのない快感を味わった。
 絶対に捜し出してやる。と健次は心に決めた。
 もし見つけることができたなら、仮にそれが癌やエイズを治療できる薬の原料であったとしたら、ダム建設計画など吹っ飛んでしまうだろう。医薬品の生み出す利益とは莫大なものだ。
 隊員の中には、朝早くからの探索とあって、すでに疲労が見えていた者もいたが、健次は、全く疲れなど感じていなかった。何日か寝らずにいられるほどの活力が体に漲っていた。
 熱帯雨林の中は年間を通して、気温摂氏二十五度以上湿度九十パーセント以上の高温多湿状態だ。それが、数多くの生物の生命を支えられる豊かな自然環境を作り出しているのである。
 熱帯雨林に生息する動植物は、二ー三百万種ともいわれ、実に地球上の全動植物の三分の二が熱帯雨林に生息していることになる。そのうえ、まだ発見もされていない種も数多くあるのだ。そんなに種類が豊富なのだから、中には癌やエイズを治せる薬の原料が存在していても不思議ではない。
 こんな思惑が、健次のような薬理学者達を世界中の熱帯雨林に引き込んでいるのだ。

 一行は、休憩を取ることにした。というのも、朝早くからこの森に入って夢中になるあまり、食事も休憩もろくに取っていなかったからだ。健次は平気だったが、他の隊員が体に応えていた。森に入ってやっていたことといえば、サンプル探しばかりだ。植物を取ったり、昆虫を取ったりと、可能性のある珍しい生物をどんどん採っていくのである。
 体中、汗にまみれてた状態だ。暑苦しいのだが、長袖と長ズボンを身につけなければいけない。ヒルや蚊が森にはたくさんいて、肌をさらけだしているところに容赦なく襲ってくるからだ。特に足には太腿までを覆う靴下をはく。地面から這い上がってくるヒルの侵入を防ぐためだ。
 辺りから、鳥の鳴き声と虫の音が混ざって聞こえてくる。時折、猿の鳴き声も聞こえる。
 六十メートルぐらいの高さがあるフタバカキと呼ばれる大きな木のたもとに健次は腰を下ろした。水を飲みながら健次は、ふとあることを気にかけ始めた。それは、発電所建設反対集会の時、突然現われた森の原住民ペタン族の男ゲンパのことだった。彼と彼の仲間は、どうしているのだろう。彼らは発電所建設で立ち退きを命じられているのだ。
 すでに立ち退いてしまったのだろうか? 彼らほど哀れな人々はいない。少数民族で原始的な森の生活をしているということもあって、近代化を急ぐスワレシアでは社会に受け入れてもらえていない。
「健次、そろそろ引き上げないか?」
と堀田が言った。
「なんだと、まだまだだ。まだ、何も見つけてないだろう」
「健次、俺たちは急いで来たあまり十分な準備をしてない。ここで野宿できるだけの設備を持ってきていないんだ。食料も水も十分じゃない。おまえが必死になるのも分かるが他の奴らのことも考えろ。とにかく、今日は夜が明ける前に引き上げて、また、明後日に出直してこよう。今日は、ごくわずかだが、サンプルも取れた。それにこのへんの植物の分布の記録も取れた。明日、みんなでゆっくり話し合って、これからの計画を練ろうじゃないか。次は、野宿もできるようにしっかりとした準備をしてここに来よう」
と堀田は、励ましながらも疲れた表情で言う。
 健次は、堀田の言うことに頷いた。確かに、手順をきちんと踏むことは大事だ。薮から棒に行動は取れない。いかに強い熱意を持っていようとも、あまり無計画に行動するととんでもない結果を招くことになる。
 誰でも分かる常識的なことを自分が忘れてしまっていたことに気付いた。とにかく、堀田の言う通りだ。暗くなる前に、引き上げよう。手で顔の汗を拭きながら健次は、そう思った。

 由美子は、ずっと、森の前で健次達が出てくるのを待っていた。健次達が今日中に引き上げることになると、堀田から電話で聞いていた。健次にファックスを送った後、由美子が、心配で堀田に電話をして頼んだのだ。健次は、無鉄砲な性格だ。ハワイにいたとき、そんな性格が災いして仕事でミスを犯すことが多かったのを見ていた。
 由美子は、森に入る許可が下りたものの、いろいろと面倒なことが起こってくるのではと不安であった。父、清太郎も気が変わるかもしれない。会社にとっては、そもそも迷惑千万なことなのだ。健次達には騒ぎを起こさず慎重に行動してもらわなければならない。
 ブーと遠くから車の走る音が聞こえた。背後の農村の田園からだ。由美子が、後ろを振り向くと黒いリムジンが砂埃を撒きながら、自分の方に近付いて来るのが見えた。
 リムジンは、由美子の目の前で停まった。運転手が外に出て後部座席のドアを開ける。 サングラスをかけたスーツ姿の英明が出てきた。由美子をサングラス越しに不気味な目つきで見つめている。
「何しにきたの?」
と由美子が言った。
「由美子さんこそ、ここで何をなさっているんです?」
「あなたの知ったことじゃないわ」
 英明は、停まっているジープ二台を見つめた。ここの警備員から電話があり、社長の署名入りの立ち入り許可書を持った日本人の団体を森に入れさせたということを知らされ、飛んで来たのだった。
「あなたも、あの連中の仲間ですか? 全く、勝手なことをして、ここは本来立ち入り禁止ですよ。何をするつもりか知らないが、荒らされるのは迷惑です」
 英明は、由美子をにらみながら言った。
「どうせ荒らすんでしょ! はっきり言っておくけど、社長であるわたしの父からきちんと許可を取ってやってることなのよ。あなたにこれを止める権利はないわ」
「はい、はい、分かってますよ」
 英明は、由美子が厄介でならなかった。由美子は、自分の父親の会社の利益になることを妨害しようとする変わった女だ。新聞記者に頼んで自分の会社の恥じになるようなことを書かせようとは。盗聴器を通して由美子と大日本新聞の記者の会話を聞き取った時は、さすがに冷や汗の出る思いだった。大日本新聞の社長とは、知り合いだったのが幸いした。
 最大の広告主である明智物産の名誉に傷をつけることは向こうからも願い下げで、すぐに英明の申し出を受け入れてくれた。危ない記事を差し止め、代わりに明智物産の宣伝をしてもらった。予定外の広告収入が入ったと新聞社側も大喜びだった。
 英明は思った。
 由美子こそが今まで会社の恩恵を受けてきた人間じゃないのか? 父親の金でさんざん優雅な生活を送ってきていながら、いまさら、自分の青臭い理想のため会社を敵視するとは、何とも支離滅裂としている。
「とにかく、癌を治すなんて夢のようなことをいうのもいいですが、建設工事が開始されれば終わりですよ」
「ええ、分かっているわよ。でも、その夢のような薬がここで取れれば建設計画も吹っ飛ぶかもね」
 由美子は、そう言いながら英明をにらんだ。 英明は、その由美子の顔に少しばかり圧倒された。だが、すぐに気分を取り直し不気味な微笑みを浮かべ言った。
「由美子さん。ダム建設がそんなにお嫌なら、今すぐにでも中止にすることができるんですよ。お忘れですか? 私との結婚のこと」
 英明は誇らし気に言った。   
「さっさとどっかに行って。あなたとこんなところに一緒にいたくないわ。わたしをこれ以上怒らせないで」
 英明は、またもや怪しげな笑みを浮かべると、リムジンの中へ戻った。リムジンはエンジン音をたて、その場を去っていった。
 
 走り去るリムジンを見ながら由美子は思った。父、清太郎は、どうしてあんな男を信頼する部下として慕い、自分と結婚させようとするのだろうか。彼が優秀なビジネスマンで会社の売上げを増やしているからだからなのだろうか。父は、そんなことを基準に人の価値を判断しているのだろうか。
 実際の話、自分が英明と結婚しても、この森は守れない。英明と父は喜ぶだろう。だが、英明のことだ。何だかんだと理由をつけて結婚の後、建設を実行するだろうし、仮に明智物産がダム建設に身を引いても、他の企業が代わりを引き受けることとなる。そもそも、発電所建設は、スワレシア政府が首謀となってやろうとしていることだ。由美子とて、父、清太郎とて建設計画を止めることなどできやしないのだ。由美子は、大きな無力感に襲われた。
 ガザガザと、人が草叢を歩く音が聞こえてきた。すると森の中から人がぞろぞろと出てきた。皆、日本人だ。
「健次、健次!」
 由美子は、健次の顔を見るやいなや、走って抱きついた。健次も、ぐっと抱き締め返す。
「由美子、帰ってきたのか。ありがとう。君のおかげだよ。この森に入れたのは」
 健次はとても嬉しそうな表情を浮かべ言った。
「それより、健次、何かいいものは見つかったの?」
「そう簡単にはいかないさ。とりあえず、いくつかサンプルは取れた。今日はもう遅い。明日、サンプルの検査をしてみる。それから、じっくり計画を立てて、明後日になればまたここに戻ってくるさ」 
 由美子は活き活きとした健次の顔を見たとたん、さっきまでのいらいらと高ぶっていた気持ちが急に落ち着ついた。

Part 12へつづく。
by masagata2004 | 2007-07-14 10:55 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)

小説で地球環境問題を考える Part 10

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 9を読んでください。


 クアランコク国際空港から五時間後、ジャンボジェット機は成田に着いた。到着ロビーを出ると、由美子は、タクシーを拾い運転手に真理子の住所を告げた。 
 空港から一時間後、品川にある真理子の住むマンションに着いた。階段を駆け上り真理子の部屋に行く。由美子は、インターホンを押した。
「誰ですか?」
 真理子の声だ。
「わたしよ。由美子よ。真理子、スワレシアから戻ってきたの。あなたにききたいことがあって・・」
 とっさにドアが開いた。
「由美子、帰ってきたの。ちょうどいいわ。私もあなたにききたいことがあるの」
 真理子はこわばった顔をし由美子をにらんでいる。そして酒臭かった。
 部屋の中にはウィスキーの瓶が転がっていた。
「ずっと飲んでたのね、真理子」
「そうよ、飲まずにはいられなかったわ!」
「一体どうしちゃったの? 今朝の新聞をクアランコクで読んだわ。それで急いで飛んできたの。いったいどういのことなの、この記事は!」
 由美子は、その新聞を手に持っていた。
「それは、こっちがききたいぐらいだわ、由美子」
 真理子が、ぐっとにらみつける。こんな真理子を見たのは初めてだ。
「どういうことなの? おしえてよ」
「わたしの記事は、上からの命令で突然発行中止。きっとあなたの会社の評判を悪くするようなことは書くなって圧力がかかったのよ。自分たちにとって都合の悪い記事だもの。わたし、飛行機の中で記事を書き上げたのよ。日本について編集長に出して、朝刊紙面に出そうってことになったの。だけど、今朝になってみるとこのあり様、会社に行くと、私に転属命令が来たの。何でも営業をやれって。私に記者を辞めて、広告を募る仕事をしろっていうのよ。これもすべて上からの命令なんだって!」
「そんな!」
 由美子は、驚きのあまり胸が破裂しそうだった。
「あなたね。あなたがおしえたのね。あなたしかわたしがあの記事を書くこと知らなかったもの!」
 真理子の声には憎しみが込められていた。
「何ってこと言うの、真理子。私がそんなことするとでも思って。もしわたしが会社のために記事を差し止めるつもりだったら、最初からあなたにあんなことおしえる?」
 真理子の表情が、さっと変わった。
「そうね、そうだったわね。私、お酒飲み過ぎて取り乱してた。御免なさい。大親友を疑うなんてどうかしてたわ。でも、突然のことで頭が混乱して」
 真理子はすまなそうな表情になった。
「でも、いったい誰が?」
 由美子は、考えた。
 すると、真理子は言った。
「由美子、考えてみれば、大日本新聞はあなたの会社、明智物産を最大の広告主としてるわ。大事なスポンサーなのよ。きっと自主的にあの記事を取り止めたんだわ。私って馬鹿だった。大学でマスコミ学を勉強していたとき、習ったことだわ。マスメディアがいくら、社会の公器といわれていても完全な中立を保てないってこと。広告やコマーシャルなどで、運営資金を利益優先主義の企業からもらっているのだから、所詮は同じ利益主義者の仲間にすぎないんだってこと。正義の戦死を気取っていた自分が甘かったんだわ」
 真理子は、しょんぼりとして言った。由美子は、罪悪感にさいなまれた。自分のせいのような気がする。由美子が手を下したわけではないが、由美子の頼んだことが裏目に出て親友の真理子を傷つけることになってしまったのだ。

 真理子は、今は一人にしてほしいと告げた。由美子も、それが真理子のためだと思いマンションを出ていった。

 由美子は、外に出て歩きながら考えた。いったい誰が新聞社に指図したのだと。いや、真理子の言う通り、新聞社の方から真理子の記事を読んで自主的に差し止めたに違いないのだ。
 もし、明智物産の誰かが、大日本新聞に圧力を加えたとなると、誰かが由美子と真理子の会話を聞いていたことになる。真理子の記事を編集長に見せて発行されるまでの間に。明智物産の誰かが次の日に出される記事の内容など知り得ることなんてありえないのだ。あれは二人だけでホテルのスイートルームの一室でした会話なのだ。誰も聞いてはいなかったはずだ。
 由美子は、通りにタクシーが走っているのを見つけた。手を挙げ止めさせた。中に乗り込んで運転手に告げた。
「世田谷区成城にお願いします」
 それから三十分程して、由美子は我が家に着いた。
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 インターホンを押すと、しばらくして家政婦のばあやが玄関から出てきた。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
 ばあやが、そう言うと、由美子は、
「お父さんは帰ってるかしら」
とさっそくきいた。
「旦那様は、書斎の方におられますが・・」
 由美子は、駆け足で廊下を走り書斎へ向かった。書斎のドアを開けた。
 父、清太郎が、机の上で書類を読んでいる最中だった。
「何だ、由美子じゃないか!」
 清太郎は、驚いた顔で由美子を見る。
 由美子は、手に持っていた新聞紙を書斎の机の上に投げつけた。
「これを読んで、お父さん」
 由美子は、清太郎をにらみつけ言った。
「何だ、一体?」
「とにかく、読んで! お父さん」
 新聞紙は四面のところが開いた状態になっている。清太郎は、圧倒され訳も分からず記事を読み始めた。      
「それが、どうした? クアランコクから、こんな記事をわしに読ませるため大事な仕事をほっぽり出して帰って来たのか!」
 清太郎は、かっとなって言った。
「わたしの友達の新聞記者が左遷されたわ。明智物産がダムを造るため、熱帯雨林を破壊して周りの村人や森に住む原住民の人達を苦しめているという事実を新聞の記事に載せようとしたためにね。代わりにこんなインチキな記事を出すなんて」
「わしは何も知らんぞ」
 清太郎は、キツネにつままれたような顔で由美子を見る。
「お父さんが知らなくたって、同じことよ。明智物産が新聞社に圧力かけてやめさせたんでしょ」
 由美子は、大声で叫んだ。とにかく、由美子は腹が立って仕方なかった。何であろうと父を責めたかった。たとえ記事の差し押えが、新聞社の自主的なものであったとしても、明智物産社長である父にも責任の一端はある。つまり大日本新聞は、清太郎のことを気遣い社会正義を投げ売ることをしたのだ。そのうえ、親友を犠牲者にさせてしまった。
「だからなんだって言うんだ! おまえは会社に不利益になるような情報を新聞記者におしえたのか。よくもそんなことできたな」
 清太郎も強気で言い返す。
「お父さんは分かってないわ。ダムができると、たくさん生活に困る人達ができるのよ。その人達は、どうだっていいって言うの!」
「何を言っとるんだ、由美子。ダム建設は会社のためだぞ。まずは、会社の利益を考えろ。人を思いやるのは勝手だが、会社には関係ないことだ」
 清太郎は、由美子の言葉など理解の範疇にないようだ。由美子は悲しくなった。
「お父さん、わたし、お父さんのことが理解できない。わたしにはとっても優しいのに、私のためなら何だってしてくれて、こんな豪邸に住まわして、毎日おいしいもの食べさせてくれて、ハワイにまで留学させてくれた。そんなやさしいお父さんが、どうしてそんな酷いことを言うの?」
 由美子は、涙を流した。清太郎は滅多に見れない娘の泣き顔をまじまじと見つめた。しばらくお互いの間に沈黙が続いた。
 清太郎は小声で、
「全く、おまえの言っていることはわけが分からん・・」
と呟いた。
 由美子は思った。父にこれ以上、何を言っても無理だ。清太郎は、今回に限らず今まで会社の利益のために数多く似たような環境破壊を押し進めてきたのだ。それを、自分のような小娘が文句を言ったところで考え方を変えるなんてことあり得ない。
 沈黙の中、由美子はふと健次のことを思い出した。まだクアランコクにいるのだ。せっかくの医薬品原料探索が中止になってしい、そのことが心苦しかった。一ヵ月後には、あの森の伐採が始まる。あと一ヵ月しかない!
「お父さん、ダムのことはどうでもいいわ。だけど、お願いがあるの。ダムができるのは一ヵ月あとのことでしょ。その一か月の間だけでいいの。森に入って、医薬品の原料を探しに来ている人達を入れて」
「医薬品の原料を探すだと! いったい何者なんだ?」
 由美子は、健次との関係を今話すのはまずいと思った。清太郎は、健次と会ったことはないから全然知らないのだ。由美子の恋人であることなどを今話せば、余計な混乱を生じさせてしまう。
「わたしがハワイで知り合った友達の薬理学者が率いる調査隊よ。熱帯雨林から癌やエイズを治せる薬の原料を探しているの」
 清太郎は、その言葉を聞いてはっとした。癌やエイズを治せる薬を熱帯雨林から探す?
「何、馬鹿なことを言っとるんだ。そんなものがあるか!」
「探してみなきゃ分からないわ。わずかな可能性にかけて頑張ってるの。熱帯雨林は生物の種類がとても豊富なところよ。今まで発見されてない特殊なものが存在するかもしれないの。そして、それが癌やエイズを治す薬の原料になるかも・」
 ゴホ、ゴホ、ゴホ、清太郎が喘息のような咳をした。
「お父さん、どうしたの、大丈夫?」
 咳がまた続いた。ゴホ、ゴホ、苦しそうで身動きが取れないみたいだ。
「由美子、薬を、取って、くれ。右の、一番上の、引き出しに、入っている。それを、わしの口に入れて、くれ」
 咳をしながら途切れ途切れに言う。
 由美子は、さっと引き出しを開けた。粒状の薬を入れた瓶詰が入っていた。 
 瓶を取り出し蓋を開けた。粒を一つ取った。由美子は、急いでそれを咳を吐き出す清太郎口の中へ押し込んだ。水差しとコップがそばにあった。すぐに水をコップに入れ、それもすぐに口へ押し込んだ。清太郎が喉をグイグイ鳴らしながら飲み込む。
 しばらくすると、咳はおさまった。
「お父さん、ひどい咳だわ。いったいどういうことなの? 何かひどい病気じゃ」
 由美子は、恐ろしく心配になった。どう見ても普通の風邪で患う咳にはみえなかった。
「医者に行って検査をしてもらった。どうも働き過ぎで体の調子を最近崩しているらしい。まあ休みを取るようにしていれば、じきに治ると言っていた。心配するな!」
「心配するわ。あんなに咳き込んで」
 由美子は、何だか自分が父親を責めすぎて咳を出させた気がしてしまった。
「由美子、その医薬品の原料を探すという奴だが、工事が始まる前までなら構わん。入れてやりなさい」 
「お父さん! 本当?」
「ただし言っとくが、工事が始まったら、おしまいだ。分かったな」
 清太郎は由美子をじろじろと見つめながら言った。由美子は心配そうな表情から喜びの表情へと変わっていった。

 清太郎は、由美子に社長命令を書いた署名入りの文書を差し出した。それにはダム建設予定地の森に工事開始日前までは、安藤健次を含めた医薬品調査隊員のみ入れるというものだった。
 由美子は、取りあえずクアランコクの健次に電話をして文書はファックスで送った。もちろん、現地の当局に話しは伝わっている。健次は大喜びだった。そして、言った。
「由美子、安心しろ。もしかしたら、すごい原料が見つかって、明智物産が森を破壊するのをやめざる得なくなるかもしれない。癌でも治せる薬を作れる原料があるなら、ダムなんかよりも価値が出てくるもんな」
 すっかり、薬の原料を見付けた気分だった。

 由美子は、その夜、父と食事を共にし、いろいろな話をした。話の内容は、主に子供の頃から高校時代まで父と遊んだことなど家族としての思い出話や自分の五年間のハワイ生活の話しだった。これ以上、森の話はしないことにした。今の由美子には、それで満足だった。

 次の日の朝早く、由美子は、慌ただしくも、クアランコクへ向けて出発した。空港に行く途中、真理子のアパートに寄ってみたが、真理子は留守だった。真理子には、本当にすまないことをしてしまったと思った。自分には責任があるのだ。取りあえず、父には、大日本新聞社に掛け合い真理子に元のように記者として復帰できるように頼んだ。大広告主の父が指示するのなら、問題なくその頼みも通るはずだ。

Part 11につづく。
by masagata2004 | 2007-07-13 21:31 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)

映画「不都合な真実」 待ったなしの地球破壊

DVDを借りて観た。内容は、クリントン政権下で副大統領を務めたアル・ゴア氏が、地球の気候変動とそれに伴う人類存亡の危機を語るドキュメンタリー。

もっとも、ほとんどは、すでにニュースなどで知っていた内容で、衝撃的ではあるが、別段新鮮味はなかった。

ただ、印象に残ったのは、元政治家らしく、地球環境問題がこれまで一般にきちんと認識されなかった理由をしっかりと説明したことだ。
少数の利益団体により、意図的に事実がねじ曲げられ、その影響下にあるメディアによって間違った情報が流され氾濫してしまったのだと説いた。

筆者は、以前アメリカのサンフランシスコの大学で学び、そこで環境学の講義を取ったことがあり、その時にも似たようなことを学んだ。このことについてはこの記事を。地球の環境危機とそれを伝えない利権集団とメディアの関係。今や、元副大統領までもが、そのことを露見するようになったのかと。アル・ゴア自身は、若い時から環境問題に熱心だったと語っていた。クリントン政権は、かなり熱心に取り組んで、京都議定書に署名した。後にブッシュに離脱されるが。彼自身、もっとしたいことがあったのだろうが、政治というのは妥協の産物。出来る限りのことを限られた情況でして、前進をしていく。最終的に、政治家を辞めた今、映画という形で、啓蒙活動をするようになったというのか。

だが、その意味では残念な点もある。この映画には、環境破壊と世界経済の貧困や格差の問題があまり論じられていなかった。これは、私が取った環境学の講座では、最も強調されたことであった。貧困が人口の異常な増加をもたらし、また、焼き畑農業などの森林破壊の要因ともなっているのだ。元政治家なら、この点を強調して貰いたかった。それから、アル・ゴア自身も、自身の住まいの電気代が年間3万ドルを超えることが保守系団体によって報じられ、自らの「不都合な真実」を暴露されている。これは偽善的だ。

とはいえ、映画で知らされていることは事実であり、我々が知らしめなければいけないこと。私自身の取り組みとしては、この夏はクーラーを使わず扇風機のみで涼むこと。そして、このブログで環境問題啓蒙のための小説を連載すること。

だが、この地球環境問題、少なくとも我が世代では悪化を見るのみ。崩壊した自然はそう簡単に変わってはくれない。目にすることのない後の世代のためにしなければいけない人類究極の課題なのだ。ゴア氏が語っていたように、これは「モラルの問題」なのだ。

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by masagata2004 | 2007-07-05 23:04 | 環境問題を考える | Trackback(1) | Comments(0)

小説で地球環境問題を考える Part 9

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 8を読んでください。

 エレベーターは、一階に着いた。ドアが開かれる。
「由美子、由美子じゃない。由美子、私よ!」
 どこからともなく、日本人女性の声が聞こえてきた。聞こえる方向を見ると、一人の若い女性が駆け足で近付いてくるのが見えた。
「真理子!」
 由美子は、驚きの叫び声を上げた。

 五年ぶりの再会だった。
 二人は、ロビーのカフェテリアに座り、パイナップル・ジュースを飲んでいた。
「お互い離れ離れになって、もう五年が経ったのね。楽しかったわね、高校の時って」
 真理子が、感傷に浸りながらそう言った。短髪にしていた高校時代から、真理子はパーマに髪型を変えていた。雰囲気が、ぐっと派手になった感じだ。
「でも、すごいわ、真理子。見事に夢をかなえたんだもの」
「何言ってるの。まだまだ、駆出しよ」
 大塚真理子は、由美子の女子高時代の親友だった。むしろ、大親友といった方がいいかもしれない。高校時代、真理子とは同じ新聞部に所属していた。真理子は、将来の夢、ジャーナリストになる準備として、由美子は遊び半分のつもりで活動していた。
 今や真理子は、見事にその夢を叶えたのである。彼女は、今、日本一の規模を誇る新聞社「大日本新聞」の国際部記者となっていた。
 二人にとって、高校時代、とても思い出深い事件があった。そして、それこそが二人の正義感と友情を深めるきっかけとなったのである。
 それは、二人が高校二年になった時のことだった。彼女達の女学園には、一人の知恵遅れで年老いた用務員のおじさんがいた。二人は、そのおじさんとは大変仲が良かった。知恵遅れではあったが、陽気でとても親切な人であった。由美子達は、おじさんが大好きだった。
 ところが、そのおじさんが、校長室の金庫を開け、中にあった学校の金を盗んだ門で訴えられてしまったのだ。
 というのは、おじさんが校長室の掃除をし終わった後に、金庫の中にあった三百万円が消えてしまっていたというからだ。
 由美子と真理子は、その話が信じられなかった。二人には、おじさんが、そんな犯罪を犯す人物とは考えられなかったのだ。用務員のおじさんは、警察に連れていかれ、追求を受けることとなった。おじさんは、言葉がうまく使えないものの、警察では必死に無実を訴えた。そのことを聞いた由美子たちは、新聞部員として、また人助けとして調査を試みたのである。
 由美子たちは、用務員のおじさんに最初に容疑をかけた教頭を怪しんだ。
 教頭は、生真面目で校則にうるさく、そのせいか生徒の中で評判の大変悪い男だった。由美子たちは、怪しい教頭の身辺を洗った。
 そして案の定、教頭には怪しいことがあった。教頭は、事件が起こるごく最近まで、サラ金に借金をしていて学校にはよく取り立て屋が訪ねることがあったというのだ。
 二人は、詳しい事情を調べるために聞き込みをして、教頭が借金をしていたといわれるサラ金業者を突き止め乗り込んだ。そのサラ金業者の事務所が明智物産の所有するビルの中にあったことが幸いした。賃貸料を安くすると持ちかけ、その条件として客であった教頭に関するデータを渡せと詰め寄ったのだ。
 そして、教頭が利子を含め三百万円近くの借金をしていて、事件の直後全額それが返済されていたことが判明した。由実子たちは、教頭が真犯人であるという確信を得た。
 しかし、確信は得ても、用務員のおじさんの無実を証明するには、教頭が金庫から金を盗んだことをはっきりと証明する証拠が必要だった。
 盗まれた金は、生徒の親が校長に渡した学園への寄付金だった。金は、紫地に白い牡丹の花柄が入った風呂敷に包まれていた。金と一緒にその風呂敷も盗まれたのである。
 二人は、ある作戦を思いついた。それは、用務員のおじさんは犯人ではなく、真犯人はもしかして、教頭ではないかという噂を広めることだ。サラ金の借金返済に困った教頭が金を盗み、用務員のおじさんに罪をなすりつけたのだと言い広めた。また、誰かが盗まれた金を包んでいた風呂敷を、教頭が持っているのを見たということも加えた。
 この風呂敷こそ事件を解く鍵だった。金と一緒に盗まれた風呂敷包みは、寄付をした生徒の家が呉服屋であったこともあり、特注の世界で一つしかない柄物だったのだ。
 作戦は、予想通りに進んだ。噂が広まり、自分が怪しまれるのを恐れた教頭は、完璧に用務員のおじさんを犯人にでっち上げるため夜中になると、用務員室に忍び込み、紫地に白い牡丹の絵柄が入った風呂敷を部屋の机の引き出しに入れようとした。
 部屋の押し入れの中に忍び込み待ち構えていた二人は、その場面を襖に開けた小さな穴を通して高感度レンズカメラでばっちりと写真におさめた。
 次の日、風呂敷が、用務員室で見つかった。教頭が、他の先生に探ってみるように頼み、机の引き出しから見つけたというのだ。ところが、同じ日に由美子たちの新聞部は、号外版として、教頭が問題の風呂敷を持って用務員室に忍び込み机の引き出しに入れる場面を隠し撮った写真と教頭の借金苦の事実を載せた記事を発行、校内にばらまいた。
 教頭は、警察に逮捕され、当然のことながら懲戒免職となった。何でも、借金の理由は競馬・競輪に夢中になったせいだったとか。
 しかしながら、由美子たちは、正義感からおかした行為と言っても、やり過ぎだと厳しい注意を受け停学一週間の処分を受けた。
 でも、二人は満足であった。用務員のおじさんの潔白が証明されたし、いろいろとスリルのあることも味わえたからだ。
 真理子は、この事件をきっかけに社会に出たら必ずプロのジャーナリストとなり社会正義のために尽くそうという固い決心をすることになった。真理子にとっては大きな人生の転機であった。その頃、真理子は、自分が開業医の一人娘であったために医学部に行き医者となり家業を継ぐことを親から迫られていた。自分のやりたいことを貫くか、親の期待に答えるべきかとずっと悩んでいた最中であったのだが、はっきりと決心をつけるきっかけに出会えたのである。
 高校卒業後、真理子は早稲田大学のマスコミ科に進んだ。由美子は、ハワイへ行ってしまい、二人はそれ以来、ずっと離れ離れとなった。

「今回、やっと海外取材を請け負われたの。この世界一のっぽのビルを取材するためよ。ねえ、由美子、このビルあなたのお父さんの会社が建てたんでしょ。昔のよしみとしていろいろと話を聞かせて」
 由美子は、ちょっと、表情が硬くなった。
「あら、五年ぶりに会ったところで仕事の話なんか持ち出してずうずうしかったかしら?」 
と真理子が、すまなそうに言う。
「いや、そう言うことじゃないの。ただ、ちょっと・・」
「何よ、由美子。わたしたち、親友よ。悩みがあったら、どんなことでも話せるのよ」
 真理子の声が、不思議と落ち込んだ由美子にわずかな活力を与えた。
 
 二人は、タクシーに乗りホテルへ行くことにした。ホテルに着くと、最上階にある由美子のスイートルームに二人は入った。
「わあ、素敵な部屋ね。さすがは明智物産社長令嬢だわ!」
 真理子が、心弾ませながら言うと、
「そんな恵まれた境遇が今ほど憎く思えるときはないわ」
と由美子はそっけなく返した。
 由美子は、英明が由美子に結婚を条件に発電所建設を止めると申し出たこと以外、真理子に今までのいきさつを、すべて話した。
 明智物産が起こすダム建設計画のこと。地元の住民がそれに強く反対していること。森に住むペタンという原住民のこと。警官隊が入り、集会を無理矢理中止させ、留置場に入れたこと。その後、スワレシア国大統領のマラティール氏と話しをしたこと。
 真理子は、言った。
「ひどい話ね。あんなのっぽのビルを建てられるほど発展を遂げてると思えば、影に涙ぐむ犠牲者ありというわけね」
「真理子、お願い。このことを記事にできるかしら」
 由美子は、真理子の腕をつかみながら言った。
「由美子、あなた、何を言ってるの! そりゃ、記事にすべき話だと思うわ。センセーショナルな話だし、こっちにとっては最適なネタだわ。だけど、そんなことすると、あなたの会社はどうなるの。このことが記事にされて一般に知れ渡ると、明智物産は、もしかしてダム建設計画をあきらめなければいけなくなって、とんでもない損害を被るかも知れないのよ。計画が中止にならなくたって、会社のイメージに傷をつけることになるのは間違いないわ」
「いいのよ。わたしが責任を取るわ。社長の娘のわたしが責任を取る。だから、お願い。どうしても、地球の貴重な資源である熱帯雨林を守りたいの。近くに住む住民や森のペタンの人々に苦しい思いをさせたくないの。今まで現実を見ようとせず、ぬくぬくと生活してきた自分が情けないの。今までの自分はなんだったんだって思うと悔しいの!」
 由美子は、目から涙を流して言った。
「由美子!」
 真理子は、目の前で泣き崩れる由美子を見るのは、初めてだった。
「泣かないで。お願いだから泣かないで」
 真理子は、必死になだめた。
「真理子! 力を貸して」
 由美子は、すがる思いだった。
「ようし、分かった。親友の由美子の頼みだもの、断るわけにはいかないわ」
「真理子!」
「安心して、これから飛行機に乗って日本に帰るわ。今夜着いて、すぐに記事を書く。明日の朝刊にはこのこと載せられるわ。わたしも、正義のジャーナリストだもの。新聞は社会の公器って言うわ。高校時代の用務員のおじさんを救った事件のこと思い出すでしょう。ジャーナリズムが人を救うのよ。こんな使命が果たせるなんてまたとない機会よ」
 由美子の心に強い感激の鼓動が響いた。 
「でも、本当にいいのね。あなたの会社の名前を出して」
「もちろんよ。わたしが責任を取るんだから」
 由美子は、手で涙を拭きながら言った。

 クアランコクタワービル七十五階のオフィスに英明はいた。
 今朝は社長令嬢由美子のせいで大往生した。エレベーターも大統領警護のため一基しか動いていなかったので、あとを追いかけ九十九階に行ったときには遅すぎた。大統領と由美子の対話はすでに始まっていた。大統領が誰かと会談中は、いっさい邪魔を挟めない。これでは仕方ないと七十五階のオフィスに戻った。
 どうやら由美子は、とても失礼なことを大統領に言ってしまったらしい。大統領官邸に電話をすると、秘書から、今後、明智物産の者はファックスもしくは郵便でのみ大統領と連絡を交わすようにと言われてしまった。
 社長の言っていた通り、じゃじゃ馬娘もいいところだ。会社の運命を危うくすることばかりする。その度に、こっちは振り回され尻拭いに負われるのだ。
 英明は、電話の受話器を取った。
「オペレーター、東京の大日本新聞社につないでくれないか」
 しばらくして、
「もしもし、大日本新聞社かね。社長の広瀬さんと話しをしたいのだが。私は明智物産の石田という者だ。緊急事態だ。急いでつないでくれ」
 そして、三十秒ほどして、
「もしもし、社長。お久しぶりです。さっそくですが、そちらの国際部の真理子という記者なのですが・・・」

 次の日の朝、由美子は目を覚ました。
 昨日は真理子を空港へ送り出し、夕食を取って、ホテルの部屋に戻るとすぐに眠りに入ったのだ。空港で真理子に明智物産のダム建設計画の書類を持たせた。記事を書くのに役立てて欲しかったからだ。
 由美子は、ベッドから起き上がると、ドアと床の間に挟まれている新聞紙を目にした。宿泊客に毎朝配られるものだ。日本人客には日本の新聞が配られる。
 大日本新聞社は、海外に滞在する日本人のために日本で発刊されるのと同時間に新聞を海外の主要都市で発刊、配達するシステムを持っているのだ。
 スワレシアと日本との時差は、わずか一時間だから、この部屋に送られた朝刊は、日本の朝刊を読むのとほとんど変わらない。
 由美子は、決して、朝刊を読むことが楽しみではなかった。父親の会社の信用に差し障ることが書いてあるはずだからだ。たとえそれが正義のためであったとしても、自分にとっては気に病むことだった。由美子は、父親が好きだ。大事な唯一の家族なのだ。その家族を傷つけることを自分はしているのだ。
 由美子は、愛する父の顔を思い浮べながら、新聞紙を拾い上げ紙面を広げた。
 最初の一面記事は、政治の動きについてだ。新しい内閣改造の動きについて書かれていた。
 真理子は言っていた。書く記事は、トップニュースというわけじゃないから、一面に載るということはない。国際部の定期的な海外の一出来事を記す記事として四面くらいに載るだろうと。幸か不幸か大事件としての扱いを受けることにはならないのである。
 由美子は、二面、三面と開く。そして、四面目に来た。由美子は目を凝らして、そこに書かれている記事を読んだ。
《発展するスワレシア、世界一高いビルオープン 次は東南アジア最大のダム》
 何だか変な見出しだなと思った。四面の上半分をこの見出しの記事が埋めている。下半分は企業広告だ。
 由美子は、記事の中身を読み始めた。
《昨日スワレシア首都クアランコクで高さ世界一の超高層ビル、クアランコクタワービルのオープニングセレモニーが開かれた。高さは地上五百二十メートル九十九階建て。そのうえ、同じ高さのビルが二本並ぶツインビルだ。式典には、スワレシア国大統領マラティール氏も出席し、このビルに象徴されるスワレシア経済の勢いをアピールした。・・》
 記事の横には、クアランコクタワービルの真直ぐそびえる姿を背景にマラティール大統領が誇らし気に微笑んでいる姿を撮った写真が載せられていた。
 由美子は読み続けた。続いて書いてあることは、ビルののデザインがボールペンを立てた形を似せたものだったため頂上が円錐形になっているとか、総工費に200億円もの金額が費やされたとかいう宣伝文句のような事柄だった。
 まあ、いいだろう。真理子もそもそもあのビルの取材に来たのだったから。ダムのことはどう書かれているのだろうと思い由美子は、さらに続けて読んだ。
《スワレシアの次なる世界一は、クアランコク郊外に建てる東南アジア一の貯水量と電力供給量を誇る水力発電ダムである。建設は来月にも着工され、スワレシアの工業と国民生活の近代化に多大な貢献をするものと思われる》
 発電所建設計画の部分はそれだけであった。
 この紙面に載っている記事は、主にクアランコクタワービルのことだ。ダム建設のことは、ほんの数行。記事には、最初から最後まで批判的な言葉はなく真理子に話した問題となっていることは何一つ書いていない。むしろ、称賛記事ともいえる。
 由美子は、次の紙面も見てみた。次はスポーツ記事だ。プロ野球とサッカーのJリーグ。次は、文芸と家庭欄だ。
 由美子は、四面に戻った。また、同じ記事を読み直した。
 真理子は一体何をしているんだ? 由美子は無意味に、さらにもう一度記事を読み直す。何度読もうと、それで書かれた文章が変わるはずはないのだが、やるせない気持ちがそうさせた。ふと記事を読む目がずれ込み、紙面の下半分にあった大きな広告欄を目にしてしまった。
 微笑む美しいモデルと超高層ビルの立ち並ぶ街並の夜景が背景となっている上に、大きな文字が宣伝コピーとして並んでいる。
《皆さんの生活を守り続けて三十年》
 そして、会社名も大きくプリントされていた。《明智物産》そして、別のコピーも大きく、くっきりと印刷されている。
《明智物産は、世界一の高さを誇る超高層ビル、クアランコクタワービル建設に成功し、このたび、建設予定の東南アジア一の規模を誇るダム建設にも携わっています》
 なんということだ。これじゃ、この紙面の記事は、同じ紙面の広告と合わせて明智物産の宣伝に使われているじゃないか。
 一体、全体何が起こったと言うのか! 由美子は頭が混乱してきた。
 由美子は、真理子がくれた名刺をバッグから取り出し、電話の受話器を急いで取った。名刺に書いてある真理子の職場の電話番号を見ながらプッシュボタンを押した。
「もしもし、こちら大日本新聞国際部ですが」
 若い男の声が聞こえた。
「もしもし、そちらに大塚真理子という記者の方いらっしゃいませんか?」
 由美子は言った。
「大塚ですか? 今日は来ておりませんが」
 真理子がいない?
「そうですか。どうもすみませんでした」
 由美子は、受話器を切った。名刺の裏にはボールペンで真理子の住むアパートの住所と携帯電話番号が書かれていた。
 由美子は、電話をかけ直した。
 耳元からプルルと信号音が聞こえてきた。何度も続くが、誰も取らない。しばらくして、留守応答のメッセージが聞こえた。電波の届かないところにいるのだろうか。それとも、真理子の身に何かあったのでは? 恐ろしい胸騒ぎがした。とてつもないことが暗躍しているような気がした。たった一枚の新聞紙面が、由美子にとんでもないことを訴えかけているような気がしてならない。
 由美子は、とにかく帰国することにした。急いで航空会社に電話を入れ、その日の午後の成田行きの便を予約した。

Part 10へつづく。
by masagata2004 | 2007-06-20 21:48 | 環境問題を考える | Trackback | Comments(0)


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