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小説で地球環境問題を考える Part 8

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 7を読んでください。


 クアランコクタワービルのオープニング・セレモニーは、一階の広い玄関ロビーホールで、早朝に開かれた。
 ロビーホールは、つやつやとした大理石で壁とフロアが、かためられ、ゆったりと広く天井は空を見上げるように高い。フロアには椅子が数多く並べられ、世界各国からの来賓、マスコミの記者などが正装をまとって席に着き華やかな雰囲気を呈していた。
 セレモニーの主催者は、スワレシア大統領マラティール・モハメド氏と同国通産大臣ライ・グーシング氏である。この超高層ビルの所有者であるスワレシア政府の代表だ。
 由美子と英明は、このビルの建設を担当した明智物産の代表として出席した。
 セレモニーは、まず最初にマラティール大統領のスピーチから始まった。
「この式典に出席なされた皆様に深い感謝の意を述べたいと思います。スワレシアも、数々の難を乗り越え、今このビルの完成に象徴されますよう、大きな発展を遂げようとしています。これも、ひとえに皆様の御尽力があってのことと考えています。我々スワレシア国家がさらなる進歩を遂げ、世界の平和と発展に貢献することをお約束します。また、・・」
 マラティール氏の年齢は五十九歳だ。スワレシア人特有の浅黒い肌に皺の刻まれた顔が独自の貫禄をかもし出している。だが、演壇の上で背筋をピンとのばして立つ堂々とした姿は五十九歳とは思えない若々しさを感じさせる。スピーチの英語も流暢で、熱弁のある話し方も一国の指導者らしい。
 マラティール氏は、十年前から大統領の座に着き、現在二期目を務める。来月には三期目続投のための大統領選を控えているが、国民から絶大な人気を誇っているため、続投は確実視されている。マラティール氏の政策信念は、この発展途上のスワレシアを経済大国のみならず、民主主義を基に政治や文化でも他国に引けを取らない世界に通じる真の先進国に変えていくというものだ。
 マラティール氏には、二つの評判がある。一つは、国家第一主義で政策の施行が強引で独裁者的であるということ。
 だが、もう一つの評判は、それらの政策の遂行は、国民の生活を豊かにしていくために行っていることであり、大統領は国民の幸せを考える人物で、国民に信頼されるべき素晴しい指導者であるというものだ。いずれにせよ、議会からも国民からも大統領への支持は絶大である。
 大統領のスピーチは約三十分間続いた。次に明智物産代表として由美子の側に座っていた副社長石田英明が司会の紹介を受けながら立ち上がった。誇らし気な笑みを浮かべ演壇に上がった。
「只今御紹介に預かりましたイシダ・ヒデアキです。ここでスピーチをできる機会をいただけましたことを大変な栄誉と考えます。御存知の通り、このクアランコク・タワーの建設は私共、明智物産にとっても史上稀に見る大型プロジェクトでした。世界一の超高層ビルを・・」
 さすがはハーバード大学出のエリートビジネスマンだ。まろやかにアメリカ英語を話す。
 由美子は苛々していた。英明が由美子の心理を見抜いていたためだろうか、スピーチをする機会を与えられなかった。
 十分程のスピーチを済ますと、英明は無表情に演壇を下りた。
 セレモニーの後、大統領と通産大臣はSPに囲まれたまま、エレベーターに乗り上がっていった。最上階の九十九階だ。電光表示の数字が上がっていき「99」を示した。大統領などの要人警護のため、セレモニーの間は、三十基以上もあるビル内のエレベーターは一基しか使えないようになっていた。
 二分ほどして九十九階からエレベーターが戻ってくると由美子と英明が乗ることになった。明智物産のクアランコク支社オフィスのある階へ向かうのだ。
 エレベーターで由美子が言った。
「ねえ、大統領と通産大臣は何しに上がったの?」
「これから官邸に戻って閣僚会議があるそうですから、そのことについて打ち合わせをしに行ったのでしょう。邪魔することのないように」
 英明は由実子の企んでいることを見抜いているようだ。
「あら、私が、邪魔でもするとお思い?」
 由美子は、かっと英明をにらんだ。昨晩からにらみつけられ、慣れてしまっているのか英明は平然としている。
「別にそういうわけではありませんが、あ、着きましたよ。七十五階です。ここに私たちのオフィスがあります」
 英明がエレベーターから廊下に出る。その瞬間、由美子はさっとボタンを押し、エレベーターのドアを閉めた。  
 エレベーターの中で一人になった由美子は、最上階のボタンを押した。
 エレベーターは、上昇していく。そして、約十秒後、エレベーターが停まった。ドアが、さっと開いた。
 由美子が廊下に出ると。警備員が数人近付いてきた。
「君は何者だ?」
 警備員の一人の男が強ばった口調できく。
「明智物産社長の代理である娘の明智由美子です。大統領に大事な話があって参りました。会わせていただけますでしょうか?」 
 すると、警備員の男は、なるほどという顔をして由実子を見つめた。そして、男は、とにかく大統領と通産大臣の話し合いが終わるまで十分ほど待つようにと言った。
 十分が経った。すると警備員の男は、その場を離れた。どうやら、大統領のいる部屋へ向かったようだ。
 しばらくして警備員が戻り、由美子に近付き言った。
『大統領が入っていいとおっしゃています。案内しますから、ついてきてください』
 由美子は、警備員についていき、大きな応接室に入っていった。
 そこには、通産大臣のライ氏と、マラティール氏がソファに座っていた。
 マラティール氏は、近くで見るとさらに貫禄の伝わってくる人物だ。通産大臣は、それとは対照的で、同じ年齢のはずだが大統領よりずっと老けて見える。いまいち、大臣としての貫禄も感じられない。二人は、由美子を見つめながらソファーから立ち上がった。
「初めまして、由美子さん。今回お父さまはお越しになれないと聞いていましたので残念に思っていたのですよ。ですが代理のあなたにお会いできて嬉しい。あなたのお父様にはずいぶんお世話になりましたからね。娘さんのあなたと是非ともお会いしたいと思っていたのですよ」
とマラティール氏は、たいへん流暢な日本語で由美子に話しかけた。
 由美子は、驚いてしまった。まるで、日本人に話しかけられたような気分だ。
「私の日本語に驚いていらっしゃるようですね。私は日本に住んでいたことがあるんですよ。その時からあなたのお父様とのつき合いが始まりましたからね」
 由美子は、自分の驚いた表情が失礼に当たらなかったか心配になった。
「初めまして。大統領、すばらしい日本語、感激しますわ。父の会社が、お世話になってますので、私こそ、お近付きになれて光栄でございます」
 由実子は、大きな笑みを浮かべて言った。心の中では恐ろしく緊張していた。今まで大統領のような大人物と面と向かって会ったことがないのだ。
 マラティール氏は、握手をしようと手を差し出した。由美子も、さっと手を差し出し握手を交わした。すぐにライ氏が、続いて手を差し伸べ握手を交わした。ライ氏は英語で「お会いできて光栄です」とフォーマルな挨拶を一言口にした。由美子は、「私も光栄です」と言って丁寧に返した。
「どうぞ、お座りください」
 マラティール氏は言った。
 由美子とマラティール氏は、向かい合いソファーに座った。ライ氏はマラティール氏の横に座った。
「大統領、今回厚かましくも、約束もとらずここに参りましたのは、たいへん重要なことがあってのことなんです」
「なるほど、それはいったいどういうことなのでしょう? 私でお役に立つことでございますなら、何なりとお話しください」
 マラティール氏は、真剣な眼差しで由美子を見つめる。
「ここから車で二時間ほど離れたところで、ダムの建設が予定されていることはご存じでしょうか?」
「もちろんですとも、何といっても、そちらの明智物産の方で担当なさっていただくことになりましたプロジェクトですからね。完成すれば、貯水規模、発電量は東南アジアで最大のものとなりましょう」
 由美子は、ここぞと神経を集中させた。相手は一国の大統領、慎重に対応しなくてはならない。
「大統領、昨夜、建設予定地周辺の村民の方達が集まって、市民会館で反対集会をしていたことはご存じでしょうか?」
「ほお、それは初耳ですな」
「そんなことはないと思います。昨夜、そちらの通産大臣の命令により警官隊が市民会館の講堂に押し寄せ、村民の方たちを逮捕して、集会をやめさせましたから」
「何ですと?」
 マラティール氏は、驚きの表情を見せた。
「村民の方たちは今、留置場にいます。本当なら、今日のオープニングセレモニーの時にここでデモをするはずだったんです」
「ライ君、それは本当なのかね?」
 マラティール大統領は、英語でライ氏に話しかけた。
「大統領、彼らの集会は著しく公益を害するもので、ほっておけば、今日のオープニングセレモニーを妨害され、ダムの建設もまた・・』
「ライ君、すぐに村民の方たちを釈放しなさい。我が国はこれでも、民主主義体制をとっている国家だ。市民の運動を力で押さえたとなると、国家の恥だ。釈放しなさい。私は、そこまでしろとは君に命じた覚えはない」
 ライ通産大臣は、立ち上がった。
「かしこまりました、大統領。直ちに釈放させます」
 何だか、ライ氏は不満気な感じだ。苦々しい表情で応接室を出ていく。
 応接室は、由美子とマラティール大統領の二人だけになった。
「わざわざおしえていただいてありがとうございます。時に彼も行動が強引すぎてしまいミスを犯してしまうことがあります。私の監督不届きといえばそれまでですが、これも国を思う気持ちがあればのことでして、ですが、まことにとんでもないことをしてしまったと思いますよ」
 マラティール氏は、淡々と言った。
「大統領、そのお国を思う気持ちがあるのでしたら、ダム建設自体を考え直してはいただけませんでしょうか!」
 由美子は、息を吐き出しながら言った。
「考え直すというと、どういうことですかな? 由美子さん?」
 そう言いながら、マラティール氏の表情が、不気味に変わっていった。
「は、はい。ご存じの通り、大統領、今回の発電所建設計画は、私共の会社明智物産が請け負うこととなりましたが、実際のところ、建設の発注主でございますスワレシア政府の大統領、貴方に考え直していただきたいのです」
 由美子は、目の前のマラティール氏の凍った目つきと驚きの表情を見て、これ以上言葉が出なかった。
「お父さまには、そのことをお話しなさいましたか?」
 マラティール氏は、ソファーから立ち上がった。ゆっくり歩いて窓の方へ近付いていく。窓の外の景色を眺め始めた。ここは、世界一高いビルの最上階、眼下に見下ろすのはスワレシアの首都クワランコク市の全景だ。
「まず、きっとお父さまとお話しになったはずです!」
とマラティール氏は、とげとげしく言った。
 由美子は、「はい」と答えた。
 すると、マラティール氏は言った。。
「でも、断られたのでしょう。このビルの建設同様、ダム建設計画を逃すと、お父様の会社にとって大変な損失を被ることとなりますからね。だったら、建設を中止する理由なんてないということになりますよね?」
 由美子は、ソファーから立ち上がり、力を振り絞り口を開いた。
「しかし、大統領、ダムが建設されれば、周辺の住民の方たちの生活はどうなるんですか。みんな、もと住んでいた土地を出ていかなければなりません。建設予定地の森には、ペタンという原住民の方たちが生活しています。森の自然と共存しながら根を下ろしている方たちです。その人たちも出ていかなければなりません。それに、森を切り開いて建てるのですから、地球の貴重な財産である熱帯雨林を破壊することになって、地球環境全体にも悪影響を及ぼすんじゃありませんか?」
 由美子は、話しながら息が切れそうだった。
「は、はあ、驚きましたな。明智物産のような大企業の社長のお嬢様が、こんな理想主義を唱えるとは、時々、アメリカやヨーロッパの環境保護団体の方たちが私の官邸を訪ねて同じようなことを言ってきます。まるで正義の使者にでもなったかのように。しかしですね、彼らは私たちの国スワレシアの辿ってきた歴史を何一つ知らない。それなのに、勝手な理想主義を押しつけてくる」
 マラティール氏は、由美子をにらみつけながら話しを続けた。
「私たちの国スワレシアは、長い間、イギリスの植民地でした。第二次世界大戦になると、あなた達日本がこの地に攻めてきて、占領しました。戦争が終わってイギリスの植民地にまた戻り、その後、人々の運動の末、やっとのことで独立を手にしました。ですが、農業や漁業が主要な産業となっている我が国は貧しく弱く、またいつ植民地主義の脅威にさらされるのでと怯え続けなければなりませんでした。真の独立はまだまだ先でした。そんな時、私はこの国の指導者となる決意をしたのです。念願が叶い、大統領になったときに経済発展第一の目標をかかげることにしました。工業化を促進させ経済を発展させ、先進国並みの経済力を獲得できれば、国家としての主権が侵されることはありません。日本が、高度成長を成し遂げていた三十年程前、私は貿易の仕事をするため日本に住んでいました。日本の経済発展を目の当たりにして、これこそはと思ったのです。私たちの国も、いずれは日本のような経済大国になる日が来る、必ず来させてみせると! それのどこがいけないというのですか!」
 マラティール氏の口調は、どんどん高鳴っていた。そして、
「熱帯雨林を切り開くのは罪深いことですと? そもそも、この国の熱帯雨林消失のほとんどは植民地時代に起こったことなのですよ。イギリスの人が、家具や薪にする木材を取りたいとか、ゴム農園を開くためにとかで、むやみやたらと木を切っていったことから始まったんですよ。熱帯雨林の伐採を含めて地球の環境破壊のほとんどは先進国が起こしてきたことじゃないですか! 私たちに責任はない。先進国のあなた方がまず解決すべきことなのです。あなた方に私たちを責める資格があるとお思いですか?」
 大統領の言葉には説得力があった。そして、由美子は言った。
「おっしゃる通りです。私たちに責める権利はありません。何よりも、私が分かっていることです。今まで、父の会社のおかげで便利で贅沢な生活ができました。私の豊かな生活は、父の会社が経済発展の名の元に行ってきた環境破壊を土台にして成り立ってきたものだったのです。そんなわたしに何も責める権利はありません。恥ずかしながら、そんな当り前のことを今になって分かってしまいました。しかし、この国の人々はどうなるんです。たしかに豊かになっていく人々もいますが、同時に環境が破壊され、健康がおかされ、住むところを追われたりする人々はどうなるのですか? あなたの大事にする同じスワレシアの方たちではないのですか。大統領は、この国を先進国並みの民主主義で国民の人権を尊重する国家にしていくという信念をお持ちだとお聞きしましたが?」
 マラティール氏は、言った。
「日本にいたときあなたのお父様からある言葉を教わりました。《大の虫を生かすためなら、小の虫を殺せ》とですね。国全体の発展のために、否応ない犠牲はつきものです。日本も同じようにして発展なさったんじゃありませんか。国が発展を遂げれば、いずれ皆、幸福になります」
「しかし、大統領、日本では国が発展していく中、数々の公害問題が起こり、犠牲になった多くの人々は一生癒えることのない身体的、また精神的な傷を負う結果となりました。それは歴史的事実です」
 しばらく、沈黙が続いた。
 そして、沈黙を破るようにマラティール氏は、言った。
「残念ながら、これ以上話す時間はありませんな。これから、大事な閣僚会議があります!」
 マラティール氏は、応接室を速歩きで出ていった。由美子は、黙って大統領の後ろ姿を見つめた。無礼なことをしてしまったと思った。
 
 しばらくして、由美子も応接室を出た。大統領が警備員に囲まれエレベーターで1階に降りたのが確認された後、他のエレベーターが起動した。さっそく扉の開いたエレベーターに乗り込み、1階へと降りることにした。

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Part 9 へつづく。
by masagata2004 | 2007-06-04 21:08 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 7

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 6を読んでください。

 集会の場所は、ホテルからタクシーで十分ほど行ったところにある市民会館だった。数百人くらいが入れる広さの講堂が使われていた。集まったのは、森の近くに住む農民たちだ。
 講堂の演壇では、集会のリーダーを務めるスワレシア人の中年男性が、演説を振っていた。
 由美子と健次と堀田は、席に座って中年男性の話に耳を傾けていた。
 演説は、政府公用語の英語と違い、地元の人たちが日常話すスワレシア語で行なわれている。
 堀田が、由美子と健次の通訳をしていた。堀田は、仕事で五年ほどスワレシアに住んでいた経験があり、そのためスワレシア語が理解できる。
「新しいダムができるとなると、私たちは土地を奪われ農業をやめなければいけなくなる。開発だとか国の経済のためだといって、似たようなことがこの国の各地で起っている。その度に、私たちの平和な生活は脅かされてるのだ。もうこれ以上我慢はできん。今こそ政府と対決すべきだ!」
と男は、大声を張り上げて言う。
「オー!」
と応える大声のかけ声が、講堂に響いた。
 
「いいか、明日、世界一だといわれるのっぽビルのオープニング・セレモニーにマラティール大統領が来る。あのビルに乗り込んで直接訴えてやるんだ!」
 由美子は、その式典に自分も出席する予定であることを思い出した。
 ガタン、っとドアの開く大きな音がした。それはあまりに大きく突然で、聴衆も演壇の男も、その場でぴたりと黙ってしまった。
 全員、入り口のドアの方を向いた。一人の男が立っている。若い体格のがっしりとした肌は茶褐色の男だ。現地の人のようだが、様相が全く異なる。
 何とも奇妙な格好をしている。現地の人々と違いシャツとズボンという服は着ていない。髪の毛は、両側を剃っているが、長くのばし背中で結んで垂らしている。着ているものは、上半身裸に腰巻きだけだ。首と腕に独特の模様をほどこした飾りを身につけている。足は裸足だ。まるで原始時代の人間の姿を思わせる。
 いったい、何者だという感じで皆、彼を見つめている。
 由美子は、ふと彼のような男の姿に見覚えがあると思った。確か、大学で写真を見て習ったことがある。世界の先住民の一員としてでだ。
「おまえ、何者だ。ペタンの者か?」
と演壇の中年男は英語で話しかけた。
 ペタン、それが、その民族の名前だったと由美子は思い出した。スワレシアの森に住む人達だ。一万年以上も前からの狩猟採集生活を守り続け、生きている人々で世界的にも、とても珍しい。スワレシアでは、人口の○.一パーセントにも満たず、彼らは熱帯雨林の中を移動して生活するため、現地の人々でもそんなに滅多に会うことはない。
「ペタン、ペタン?」
 そう小声で話す声が、各所で聞こえた。
「イエス・アイ・アム・ペタン。ネイム・イズ・ゲンパ」
 ペタンのゲンパという名前の人だと、たどたどしい英語で言っている。
「君はいったい、何の用でここにきた?」
 演壇の男は聞く。
「君たちと一緒に戦いたい。一緒に政府と戦いたい」 
「君と私達の戦いとどういう関係があるんだ」
と演壇の男はゲンパにきく。
「私たちは、森で暮らす者だ。今度政府がダムを作るから、森から出ていけと言われた。私たちは、はるか昔から森で暮らす者だ。森以外のところに住めない。住みかがどんどん減ってみんな死ぬかもしれない。だから、戦いたいんだ」
 聴衆が、騒めいた。
 由美子は、席から立ち上がった。自分も何か言わなくては。実際、そのために来たのだ。自分の会社の建てるダムのために多くの人々が苦しんでいる。自分が、彼らと一緒になって戦ってやるといえば、皆、心強いと思うかもしれない。図々しいと思われるかもしれないが、やってみようと考えた。
 ガタン、とまたドアの開く音がした。今度も何事だと人々は振り向く。すると、どっと黒い服を着た人々が波のように入ってきた。警察官たちだ。
「皆、そこを動くな。君達を逮捕する」
 警官隊のリーダーらしき男がそう叫んだ。
「なんで、逮捕されるんだ。おれたちは集会してるだけだぞ」
 演壇の男が言った。
[この集会の内容は、国家安全破壊防止法違反に当たる。よって、全員逮捕だ!」
 警察官二人が、演壇に上がり、男の両腕をつかんだ。
「やめろ、放せ。集会の自由を犯すな。何をする!」
 男は、床にひれ伏され、さっと背中で手錠をかけられた。
 警官隊は、銃とこん棒を出し、次々と聴衆を捕まえ、手錠をはめていく。抵抗する者も出、講堂の中は格闘ばかりの騒然な雰囲気となった。
「由美子、逃げよう」
 健次は、由美子の手を引いた。と、そのとき、バシっと、いう音がした。
「堀田!」
 健次が叫んだ。堀田がこん棒で肩を打たれたのだ。気を失って、床に倒れた。
「堀田さん!」
 由美子が叫んだ。
 突然、大男の警官が、がっと由美子と健次に体当たりし、覆いかぶさった。

一時間後
 由美子と健次と堀田は、警察署の一室でソファに座っていた。
 堀田は、気を失っただけで怪我はなかった。三人とも市民会館の講堂にいた村人と共に逮捕連行されたが、自分達が日本人と分かると即座、釈放された。
「俺は他の奴らと一緒に留置場に入るぞ。俺も仲間だ。こんなことは許されん。市民が政府の横暴に反発して何が悪い」
と健次が、目の前の小太りな警察署長に言った。
 由美子も、言った。
「そうだわ。こんなことは許されるはずないわ。みんな、ダムが建設されると生活に困るから、団結したんじゃありませんか。私たちだけでなく、みんなを釈放してください」
 すると、署長は言った。
「あなたたち、日本の人には関係ないことです。これはスワレシアの法律に基づいてやったことなのです。政府は、国家の安全を乱す行為があれば、それを未然に防ぐ義務があります。今度のことも、通産大臣からの命令によってなされたものです」
「通産大臣がですか?」
「そうです。明日はクアランコクタワービルのオープニング・セレモニーがあります。大統領が出席されるなか、奴らが乱闘してきては、たまりませんからな。そのうえ、産業発展のために大事なダム建設の妨害をしようとしています。これは立派な国家安全破壊防止法違反です」
 警察署長は、由美子たちをにらみながら熱弁を放った。
「でも、村の人は自分たちの生活を守る権利があります。ダム建設こそ、村人の生活を脅かす破壊行為では?」
 由美子も、負けずに熱をあげて言い返した。
「悪いですけど、お嬢さん。私とは、そのような議論はしないでほしい。するのなら大臣や官僚たちとしてください。私は命令に従っただけですからね。とにかく、あなたたちにはここを出ていってもらいます。日本に帰るなり自由にしてください。こっちはあなたたちの世話などしている暇はないのです。あまり世話をやかすと強制退去命令を出して日本に無理にでも帰させますよ」
 さっと、周りを取り囲むように三人の警官が来た。由美子たちは、それぞれ腕を引っ張られ警察署の外へ出された。   
「ちくしょう! 何しやがるんだ。俺は留置場に残ると言ってるんだ」
 健次が、玄関に向かって叫び声を上げた。
「おい、健次、さっさと帰ろうぜ。俺たちにできることなんてなんにもないんだ」
と堀田が言った。
「何言ってんだ! 何かすべきだ。それが正義というもんだ」
 その時、すっと目の前に黒いリムジンが停まった。
 一人の男が、後部のドアを開けて出てきた。
「由美子さん、ご無事でなによりです。迎えに参りました」
 英明だ。そっけない口調だ。
「わたし、帰らないわ」
 由美子は、英明をにらんで言った。
「いいえ、どうしても帰ってもらいます。明日は大事なクアランコクタワービルのオープニングセレモニーがあるのですから。あなたはお父さまの代理として出席する義務があります」
 由美子は、英明の言葉にはっとした。クアランコクタワービルのオープニング・セレモニー!
 由美子は、自分からさっとリムジンに乗りこんだ。英明が、後に続いてリムジンに入ろうとする。
「待って、健次と堀田さんも一緒に入れて、同じホテルに泊まってるんだから」
と相変わらず英明に睨みをきかせ由美子は言った。

Part 8につづく。
by masagata2004 | 2007-05-25 21:41 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 6

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 5を読んでください。


一時間後、由美子は、ベッドに寝そべりかえり考えごとをしていた。
 ハワイでの五年間を振り返った。最初の一年は英語の勉強のため語学学校にいた。そして、あとの四年間はハワイ大学の学生として学んでいた。専攻は、環境学(Environmental Studies)というものだった。
 環境学とは、地球の自然環境や生態系の仕組みを学び、その保護についての研究を行う学問である。近年、環境問題に注目集まっているため人気が高まっている専攻でもあった。
 環境問題には、様々なものがある。熱帯雨林の伐採による地球資源の消滅だけでない。工場や自動車の煙から出る有害物質が雨と混じり地上に落ちる酸性雨。雨として降り注がれる水滴は、土の養分を消滅させ植物を枯らし、川や湖に落ちると魚貝類を死滅させる。
 また、工場や自動車から排出される大量の炭素ガスは、大気中に出ると本来宇宙へ放される地上の熱を閉じ込め地球の温暖化を引き起こす原因となる。その上、熱帯雨林などの植物が減っているため、それらの炭素ガスを吸収し酸素に変える自然の作用も働かなくなり、増々温暖化に拍車がかかっているのだ。
 それによって北極や南極の氷が解け海面が上昇する。海面の上昇により、人の住む陸地の多くの地域が、水没の恐れにさらされるのだ。そして、温暖化によって変わった地球の気候は、これまでにない規模の台風や洪水をもたらす。
 またフロンガスの問題。スプレーの噴射剤や冷蔵庫の冷却剤として使われてきたフロンガスが使用後、空中に放出され化学反応を起こし行なわれるオゾン層の破壊。オゾン層は、大気圏より上空にあり、太陽から送られる有害な紫外線を吸収する役目を持つ。破壊されれば直接多くの紫外線が人体に当たることとなり、人々は皮膚ガンなどの危険にさらされる。すでに世界的に使用は禁止されているが、これまで上空に放出されたフロンガスが多量にあり、未だ影響力が懸念される。
 実際問題、地球の環境破壊は、恐ろしく深刻で、科学者の間では二十一世紀半ば頃には地球は人間の住める環境ではなくなるという予測があるほどだ。つまり人類の滅亡が近いとまでいわれている。
 環境学で学ぶ範囲は非常に幅広く、生物学から政治・経済学に及んだ。環境問題を語る上で、政治や経済の問題を無視して通ることはできないのだ。環境破壊の元凶は、国家や企業の経済利益拡大の名目に行なわれる開発に由るところが大きい。
 由美子が、環境学を専攻として選んだ理由は、自然を大切にするハワイの人々の心に共感したからだった。ハワイは、二十世紀初頭観光地化が進むなか、同時に自然破壊も著しく進んでいったところである。そのため、これ以上の自然破壊を防ごうと環境保護運動も盛んとなっっていった。そして、エコツアリズムといわれる環境保護と観光産業を両立しようという考えが近年になって生まれてきたのだ。
 いろいろな対策が設けられている。たとえば、観光バスが一時的であっても停まる時にはエンジンを切らなければならない。余分な排気ガスを出させないためだ。飛行機でアメリカ本土や外国から来る観光客は持ち込める植物に制限が加えられる。ハワイ原産の植物の種を守るためだ。また、環境を汚さない電力として、太陽熱や風力による発電が試みられている。
 由美子は大学にいたとき、さまざまな環境保護運動に参加していた。ゴルフ場建設の反対運動、空港の滑走路拡張工事の反対運動、熱帯雨林を伐採して造る地熱発電所建設反対運動などに参加した。運動に参加する度に、正義のために戦ったいう充実感を由美子は感じ、環境保護運動こそが自分の生きて行く上での使命と感じるようにさえなった。
 その意味でハワイでの生活はすばらしいものだった。その上、由美子は恵まれていた。父親の持つ別荘に住み、オープンのスポーツカーで大学に通った。天気はいつも晴れ、眺める海はエメラルド・グリーンに輝き美しい。
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 週末や休みの日にはビーチでサーフィン、ジェットスキー、パラセーリングなどのマリンスポーツを楽しんだ。また、友達を別荘に呼んでパーティをたくさん開いた。
 大学の実地研究として、ハワイ島にある世界一高い火山マウナ・ロア山に登る探険。ハワイのみならず、飛行機に乗って本土西海岸のサンフランシスコ近郊にあるヨセミテ国立公園、中米の熱帯雨林なども探検した。 
 遊んだり、学んだりと楽しいことばかりであった。しかし、こんな夢のように恵まれた生活もすべて大実業家の父、清太郎のおかげだったのだ。父親の仕送りとクレジットカードで何不十なく生活してきた。だが、清太郎が、そのために何をしていたのか関心を払うことは由美子には、全くなかった。
 生まれたときからそうだった。母親は自分を生んでからすぐに死んだから、親といえば身の回りの世話をする家政婦か、唯一の家族である父、清太郎でしかなかった。
 清太郎は、誕生日など、ことあるごとに自分にプレゼントをくれた。いつもそれは高価で美しいものだった。おもちゃに洋服、おいしいお菓子、それらは由美子の小学校の友達が羨むものばかりだった。
 中学に入ってからは、私立の女学園に通うこととなった。メルセデスベンツの送り迎えが常だった。学校の中で彼女は重宝がられた。清太郎が由美子の学園に多額の寄付をしたからだ。
 だが、そんな生活が、すべて父親の会社が得る収益によって満たされてることなど、考えてもみなかった。それはとても当たり前のことだったが、当たり前過ぎて由美子は決して意識することがなかった。
 清太郎は、自分の愛する「お父さん」であり、それ以外の事業家としての父に関心を払おうとはしなかった。
 だが、由美子は今になって、ある一つの現実に直面させられていた。自分の今までの優雅な生活は、父親の事業によって支えられてきたものであったこと。その事業は、自然破壊という自分のもっとも憎むべきことにずっと関わってきたことだったのだ。父の会社、明智物産は日本でも指折りの総合商社だ。「明智財閥」とさえいわれている。様々な開発事業を請け負ってきた会社でもあるのだ。
 明智物産の手により、森が切り開かれ、その土地にビルや工場や発電所が建てられ、完成した工場や発電所からは、多量の炭素ガスが放出されてきた。
 事業内容はマスコミなどで聞かされ知っていたが、自分は今まで無関心だった。関心を持とうともしなかったのだ。もちろん、環境学の講議で企業と環境問題の関わりあいを学ぶ時に考えざるは得なかったが、環境破壊をやっている企業は明智物産だけではない。父の会社だけ責めても意味はないと思っていた。
 由美子は、凄まじい罪悪感に襲われた。自分が今まで愚かな偽善者をやっていたことを思い知らされた。
 しかしもっとも、父親が、自分と会社のためにしてきたことを今さら責めたとしても仕方のないことだ。これは環境学でも習ったことである。資本主義を基盤とした現代の経済活動においては当然のことなのだ。利益追求に明け暮れる企業にとっては、開発が優先され自然保護など眼中に入らないのだ。
 由美子は、大学でそんなことを学びながら、正義感からか、そんな社会のシステムを憎んでいた。しかし、自分が誰よりもその中にどっぷりと組み込まれていることに目を向けていなかった。理屈では、格好のいいことを唱え分かっていたものの、結局、現実に直面するのを恐れていた臆病者でしかなかったのだ。今、その現実に直接触れさせられているのだ。
 ベッドに寝そべってから、四、五時間が経っただろうか。その間、ずっと由美子は、考えごとを続けていた。
 トン、トン、と誰かがドアをノックする音が聞こえる。
『誰?』
 由美子は、元気のない声で言った。
「俺だよ、健次だ。由美子、開けてくれよ」
「健次!」
 由美子は、さっとベッドから立ち上がると勢いよくドアを開けた。
 健次は、由美子の顔を見ると言った。
「さすが、スイートルームだな。財閥のお嬢様だけはある。さっきはどうしたんだ、突然飛び出して? お前一人でジープを使って帰ったから俺たち迷惑したんだぞ」 
 由美子は、健次の顔を見ると、
「健次・・・」
と大声を上げて泣き出してしまった。
 由美子は、今までのいきさつをすべて話した。
「やっぱりな。それが会社ってもんだろう。いくら君が社長の娘っと言っても役員でもないから何の権限もない。君が悪いんじゃない、それが社会の仕組みというもんなんだ」
 健次は、必死で由美子を慰めた。
「ところでだが、俺たち一行は帰らなければいけなくなった。森に入れないんじゃ、調査のしようもない」
「そんな、帰っちゃうの?」
「このままここにいても仕方ないだろう」
「でも・・」
 由美子は、無性に悲しくなった。
「そうだ。俺たちさ、せめて帰る前に地元の人たちの集会にでも出ようかと思って」
 健次は、急に明るい調子で話した。
「集会?」
「そうなんだ。今夜あるんだ、この近くで開かれるらしい。あの森の近くに住む地元の人たちが反対運動しようって来てるんだ。ダムができるため彼らは立ち退きを言い渡されているのさ。そういうわけでさ、どうだ、一緒に行ってみないか?」
 由美子は、しばらく黙りこんで考えた。そして、
「ええ、是非とも行かせて」
と答えた。

Part 7へつづく。
by masagata2004 | 2007-05-12 20:50 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 5

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1からPart 4を読んでください。

 二時間後、ジープは、クアランコク・パレス・ホテルに着いた。
 由美子は、車を乗り捨て走り、ロビーを抜け、エレベーターに乗りこんだ。
 最上階に着いた。
 駆け足で英明のいるスイートルームへ向かった。
 由美子は、ドアをガンガンと叩いた。
 ドアが、さっと開いた。英明がそこにいた。
「やあ、由美子さん。何かご用ですか。そんなにドアを叩いて」
「とっても、大事な用があるの!」
 由美子の口調には、トゲがあった。
「ほう、しかし、どんなご用であろうと嬉しいことですね。あなたの方からこの部屋にわざわざ来てくださったのですから。いつ来てくれるのかと心待ちにしていましたから」
 英明は、にやにやしている。由美子はその顔を見ているとたまらなくむかついた。
「森を壊して、ダムを造るつもりなのね」
「ほう、あなたも、やっと仕事に興味を持ち始めましたか。その通りです。クアランコク郊外の森林地帯に水力発電所ダムを造る計画です。森林と周辺一帯の農村地帯は全て水没させて」
「すぐにやめさせなさい。熱帯雨林を破壊することが地球の環境にどういう影響を与えるか知っているの!」
 由美子は、英明をにらんで言った。
「由美子さん、今度のダム建設は、我が社にとって、どれだけ重大なものか、分かってないようですね。完成すれば東南アジア最大のダムになるのですよ。これは我が社にとってだけじゃありません。この国スワレシアの経済にとっても利益になることです。産業を発展させるためには膨大な水と電力が必要なんです」
「あなたこそ、熱帯雨林を守ることの重要性がわかってないようね。熱帯雨林は、人間の吸う酸素を大量に作っているわ。それに、生物資源の宝庫よ。まだ発見さえももされてない植物や動物がたくさん存在して、その中には癌などの病気を治せるかもしれないものも・・」
「あの健次という男と、いつもそんなことを話し合ってるんですか?」 
 英明は、口を挟んだ。
「そうよ。ご存じのようね。彼の一行がここに来ていることを」
「ええ、あなた達が、朝早く張り切ってホテルを出ていくところを見ましたので」
 英明は、健次に一度だけハワイで会ったことがあり顔をよく覚えていた。もっとも、両者の出会いはあまり愉快なものではなかったのだが。
 それは、半年前である。健次は、由美子を訪ねに来た英明に出会った。その時、三人で食事をすることになりレストランに行ったのだが、そこで健次は食事そっちのけで酒ばかり飲み悪酔いしてしまったのである。
 由美子は、健次に飲みすぎるなと注意したが、健次は飲み止まなかった。健次は、その日、完成間近だった研究用サンプルを冷凍保存するのを忘れ、台無しにしてしまい後悔の念にさいなまれ、やけを起こしていた。
 健次は、酔いながら英明にも酒をすすめた。だが、英明は、それを拒んだ。酔った勢いで健次は、飲めと何度も詰め寄った。そして、それでも英明が拒んだので、かっとなり勢いで殴り飛ばしてしまったのである。
 次の日には、健次は酔いを冷まし、英明に謝りに行こうとした。だが、英明はその日の朝早くの便に乗って、すでに日本に帰ってしまっていた。
「あんな男とまだ付き合っているとは、由美子さんらしくない」
「余計なお世話だわ。とにかく、彼の一行が、病気を治す薬の原料を探しに森の近くまで来ているの。お願いだから、ダム建設なんてやめて、健次達を入れて」
「駄目です。すでにスワレシア政府から委託を受け取締役会でも決まったことですから。そんなに軽々しく変更することなどできません」
 英明は、きっぱりと言った。
「お願い、英明さん、なんとかして!」
 由美子は、今までの態度を一変させ、強気で責めたてる表情を崩した。悲しい顔をして英明に必死で願いを請うように言った。そうでもしないとらちがあかない、と由美子は思ったのだ。
「由美子さん、あなたのそんな顔を見るのは辛い。私は、あなたをいとおしく想っています。他の誰よりも。ですから、どんな願いでも叶えてやりたい。それがあなたを愛する私の使命というものでしょうから」
「そう思ってくれてるのなら・・・」
「いいでしょう。できないこともない」
「本当に?」
 由美子は驚いた。
「ええ、私がここに来たのは今回のダム建設プロジェクトの最終調査報告をするためです。スワレシア政府から土地の譲渡も受け、明智物産の一事業として委託を受けたのですが、まだ副社長である私の最終調査報告なしには実行に移せない。もちろん、条件は申し分ない。大都市クアランコクの電力供給を担うのです。莫大な収益が臨めることは間違いない。よって、一ヵ月後には、実行の見通しです。しかし、私が、ここで建設には問題がある、会社に思ったほどの利益が上がらないとか、その他諸々の条件が良くないとかの報告をすれば、明智物産はこの事業から撤退せざる得なくなります。また、社長であるお父さまも私が説得します。御存知と思いますが、私は社長から絶大な信用がありますので必ず説得できます」
「じゃあ、やってくれるのね。建設は中止すべきよ。地球の環境を悪くするのだから」
「もちろんですよ。なにうえ、由美子さんの頼みですから、今すぐにでも」
「じゃあ、決まりね。健次達もこれで森に入れるわ」
 由美子は、英明に背を向け部屋から出ていこうとした。
「待ってください、由美子さん。やってもいいですが、それには条件があります」
 由美子は、さっと振り返った。
「何よ?」
 由美子は、ふと思った。この男がすんなり話を呑んだのは不気味だ。何かとんでもない裏がありそうに思える。
「私と結婚してください。これはお父さまも願っていることです。そうすれば建設を中止にします。あなたの望みが叶い、お父さまと私の望みも叶うんですから、結構な話じゃありませんか」
「何ですって!」
 由美子は、我を忘れる程怒りが込み上がってきた。
「ふざけたこといわないでよ。あなた自分を何様だと思っているの? わたしに森を守るため好きでもないあなたと結婚しろと言うの!」
「それが、あなたの望みではないのですか」
 英明は、すました顔をして言った。
「全く狂ってるわ。あなたに頼んだのが間違いだったわ」
 由美子は、部屋のドアを勢いよく開け、廊下へ出ていった。そして、手に力を入れぴしゃりと音をたつように勢いよく閉めた。
 由美子は、駆け足で自分の部屋に向かった。
 部屋に着くと、電話に飛び付いた。
 プッシュボタンを押した。
『ハロー、こちらオペレーターです』
『日本につないでください。東京の明智物産本社です』
 それから、十分後、
「もしもし」
 父、清太郎の声だ。
「お父さん、私、由美子よ。大事な話があるの」
「おう、元気か、英明くんとはうまくやってるか?」
「英明さんと私をここへ送ったのはダム建設事業のためだったのね」
「だったのねとは何だ。自分の受け持たれた仕事の内容など行く前から当然分かっていたはずだろう。それがどうした?」
「どうしたも、こうしたもないでしょう。熱帯雨林という地球にとってかけがえのない資源を破壊することをわたしにしろっていうの。あの森を壊すのはやめて。地球の熱帯雨林がどんどん減ってきてるのは分かっているでしょう。ダム建設は中止して!」
 由美子は、大声で叫んだ。
「何だそんな大きな声を出して、いったい何を言っとるんだ! お前は会社の仕事をどう思っているんだ。地球だの熱帯雨林だの何をわけをわからんことを言っている。英明くんから聞いてないのか、今度のプロジェクトが成功すれば会社にとっても多大な利益が見込まれる。そして、スワレシアという国にとってもだ。自分の会社の利益を考えられないのでは後継者は務らんぞ」
「自然を破壊してまで利益を追求する会社なんて、誰が継ぎたいっていうのよ!」
 由美子は泣きだしそうな声で言った。
「全く、ハワイで何を学んできたか知らんが、わしはそんなくだらないことには聞く耳持たんぞ。すでに決定したことなんだ。いきなり中止できるか!」
「でも、お父さん、お願い」
「由美子、わしはいまから大事な会議に出席しなければならん。切るぞ」
 通話は、残酷にカチッと切れた。
「お父さん!」
 由美子は涙を流し、力を落として床に膝まずいた。

Part 6に続く。
by masagata2004 | 2007-04-28 13:12 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 4

 由美子は即座、スイートルームを出てエレベーターに乗り込んだ。堀田に教えられた階へ着くと、エレベーターを出、目的の部屋番号に向かって突進した。
 目的の部屋に着いた。ノックをしようとすると、さっと、ドアが開いた。
 堀田が現れた。
「やあ、お嬢さん、来たね。健次は、ぐっすり眠っているよ。起こしてやりな。僕は、同じ部屋だけど、今から明日の朝まで研究所にいるから帰ってこない。だから、二人きりで後はごゆっくりと、じゃあね」
 堀田はそう言いながら、由美子を部屋に入れ出ていった。
「ありがとう」
と由美子は小声で言った。
 由美子は、ベッドに寝そべる健次を眺めた。やっと二人だけになれたのだ。
 由美子は、床から飛び上ると、健次に覆いかぶさった。
「お、なんだ!」
 健次は、さっと反応した。眼鏡を外した目で間近に由美子を見る。
「こいつ!」
 健次は、大きく笑顔を作り言った。堀田が、この部屋にいないことを感知すると、照れくささが外れ、間近に由美子がいることに感激が走った。
 健次は、由美子にキスをせずいられなかった。由美子もそれに答えた。
 ぐっと深く唇を触れ合わせ、数秒後、放すと由美子は熱いままの唇を動かし言った。
「ねえ、健次、どうしてスワレシアに来たの。仕事って何なの?」
 すると、健次は由美子を腕に抱き言った。
「新しい薬の原料となるものを探すためさ」
「新しい薬の原料、そんなものがここで採れるの?」
「何言ってるんだ! ハワイで環境学を勉強したのなら知っているだろう。このへんは、ブラジルのアマゾンにも匹敵する世界でも有数の熱帯雨林地帯なんだぞ」
「あ、そうか。熱帯雨林の植物や昆虫から採るのね。知ってるわ、熱帯雨林は植物や生物の大宝庫。そのバリエーションといったら、地球で一番というから、まだ、発見もされてない生物や植物がうようよしているんでしょう。もしかしたら、その中に癌やエイズを治せる薬の原料があるかもしれない。そういうことでしょ?」
「よく知ってるじゃないか。そうさ、癌細胞やエイズウイルスを殺せる物質が熱帯雨林に潜んでいるかもしれないってことさ」
「見つけることができたら、健次、大金持ちね」
「何言ってやがる! 俺はそんなことのためにやってるんじゃない。薬を探して、不治の病で苦しんでいる人々を救いたいんだ。それこそ、俺の使命だ!」 
「わたし、健次のそんな正義感が強く情熱的なところがところが好きよ」
 由美子は、そう言いながら健次にキスをした。
「ねえ、熱帯雨林の中で二人っきりって素敵よね。ハワイでも何度か経験があるでしょ」
「おい、ハワイのときとは事情が違うぞ。まさか、そこまでついてくるつもりじゃないだろうな?」
「わたしも、環境学者のはしくれとして世界中の熱帯雨林をできるだけ多く見たいの。いけない?」
 健次は、じっと由美子を見つめると、
「そうだな。今や熱帯雨林っていうのはどこも伐採が進んで少なくなってきているからな。できるだけ多く見ておくべきだろう」
と言った。
「じゃ、ついてきていいの?」
「その代わり、邪魔するんじゃないぞ。あくまで補助として働いてもらう。環境学を勉強しているなら、少しは役に立つことでもあろうだろうし」
 由美子は、ぐっと力をこめ健次を抱き締めた。
「おいおい、そんなに喜ぶなよ。しかし、由美子、自分の仕事のほうはどうしたんだ。何の仕事で来たのか知らないが、ほったらかしていいのか?」
「ああ、あんなのわたしには関係ないことよ」

 次の日、朝早くから由美子は健次と共に、現地のガイドが運転するジープに乗っていた。このジープには、由美子と健次と現地ガイドと堀田の四人が乗っている。もう一台ジープが後ろについて来ていて、他の調査隊員たちが乗っている。この調査隊のチーフは、健次だ。
 クアランコクから、車で二時間は経っった。そろそろ目的の場所に着く頃だった。由美子と健次を含め一行は元気を漲らせていた。
 準備は万全である。大きなリュックの中に食料や数々の器材を入れ、場合によってはテントを張り野宿する構えもできている。
 目指す森林は、首都のクアランコクから車で二時間ほどしか離れてないのだが、現地の人々は、「秘境の地」と呼ぶほど別世界な場所なのである。
 森は、鬱蒼としており、様々な生物が住む典型的な熱帯雨林だ。蒸し暑くコブラなどの毒蛇がいて危険なところでもある。現地の人々はあまり近づくことがないという。そして、森には一万年前からの狩猟採集生活を続ける先住民が住んでいるという。
 ジープは、砂埃をまき散らしながら進む。この辺りにくると、クアランコクの町中とは違い舗装された道は全くない。周りは水田の広がる農村地帯だ。
 数百メートル先に、緑の木々の群れが見えてきた。あれが目指す熱帯雨林だ。ちょうどそこで水田地帯が終わっている。秘境の始まりである。
 ジープは、ついに目的地に着き、止まった。すぐ目の前に、大きな森がある。それは、まるで緑の大きな怪物が由美子たちを恐がらせながらも、迎え入れてくれるような雰囲気であった。
 ジープから下りると由美子は、今までにない興奮を覚えた。熱帯の森は、ハワイにいたときも大学の研究で何度も入ったことがある。森に入る前というのは、いつだって晴れやかな気分になる。そして、森に入ればさらに晴れやかさが増す。そこで緑の神秘と接することができるからだ。森とは、人間をそんな気分にさせてくれる場所だ。
 隊員たちは、全員ジープを下りた。リュックを背負い、森に目を向けている。
 近くに警備員が数人、たむろしていた。この森一帯は、スワレシア政府の所有する国有地であり、ちょうど、警備員たちのいる場所が正式な入り口となっていた。
 堀田が、さっそく警備員に話しかけている。由美子は森をじっと眺めた。熱帯雨林について大学で習ったことを思い出していた。
 緑の生い茂った力強い木々が寄り集まっている姿は感動を与える。この森の中には数え切れない種類の生物が生息する。地球の動植物の種の三分の二が熱帯雨林で生息しており、まだ未発見なものも数多くいるのである。そんな多くの生物を育て守り抜く力を熱帯雨林は持っているのだ。
 また、熱帯雨林の木々の葉など緑葉植物は、日光に当たると二酸化炭素を光合成といわれる作用で、人間や動物が生きていくために欠かせない酸素へと変える役割を持っており、地球の肺ともいわれている。
 だが、同時に熱帯雨林はデリケートでもある。人間の犯すほんのちょっとした伐採や火事などで姿は崩れ、一度破壊されると再生は大変難しいのである。
 伐採や火事で木々の消失した森の土には、新たなる植物が成長するための養分がほとんど残されていない。熱帯雨林には、大雨が降り、土の養分は、その度にほとんど流されてしまう。その上、残った養分は、強い日差しと高温による激しい植物の光合成作用によって一気に吸い取られてしまうのだ。
 しかも、そんなデリケートで再生の難しい熱帯雨林は、現在、急速なスピードで地球上から消失していっている。二十一世紀中頃までに地球上から全く姿を消してしまうことにもなりかねない程だ。
「なんだと!」  
 健次の叫ぶ声が聞こえた。堀田と二人で警備員と話している。
 由美子は、二人に近付いた。
「どうしたの、一体?」
 健次が、たじたじと言って答えた。
「大変なことになった。警備員が言うには、もう俺たちはこの森に入れないそうなんだ。何でも、ここは政府から日本企業に譲渡されて、その企業の許可がないと入ることができなくなったんだ」
 由美子は、警備員のほうを見た。手にはライフル銃を持って、いかめしい表情をしている。
 由美子は、つかつかと大股で歩いて近付き、警備員に英語で話しかけた。
『いったいどういうことなの? この森が日本企業のものだって。ここはスワレシア政府の所有する土地でしょ。この森をどうしようというの?』 
『ここに水力発電所を建てると聞いています』
『発電所を建てるですって。すると、この森の木々を切り倒すってこと』
『その通りです。発電所を建設しますし、また、この周辺はすべてダムとするため水没します。来月にも建設が始まります。そのために、この森は関係者以外立入禁止となっているのです』
 由美子は、発電所という言葉にさっと頭によぎるものを感じた。そして言った。
『発電所を建てる日本企業というのはどこなの?』
 警備員は、すぐそばにあった看板を指差した。看板は地面に杭を差して立てかけてある。まるで、この土地の番犬にでもなったかのようだ。
 看板には英語でこう書いてあった。 
『これより先はアケチ物産の水力発電所ダム建設予定地のため関係者以外立入禁止。立ち入った者は厳罰に処す』
 由美子の思ったとおりだった。飛行機の中で英明が言っていた水力発電ダム建設とは、目の前にあるこのことだったのだ。
 由美子は、ジープに向かって走った。ジープの運転席に乗り込んだ。
「由美子、何するつもりなんだ」
 健次が、言う。
「待ってて、すぐにこの森にみんなを入らせるようにするから!」
 由美子は、キーを回しエンジンをかけた。ジープは、クアランコクに向けて発進した。

Part 5に続く。
by masagata2004 | 2007-03-30 10:52 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 3

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1Part 2を読んでください。

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 次の日の朝、由美子は英明と共にクアランコク行きの旅客機の中にいた。成田発のスワレシア航空ファーストクラスの中である。
 成田からスワレシアまで五時間の飛行時間を要する。今は三時間経ったところだ。由美子は機内映画に見入っていたが、英明は隣の席で書類を読んでいる。
 由美子は、搭乗してからずっと気になっていることがあった。それは、この同じ飛行機のどこかに健次がいるに違いないということだ。
 この日、成田からクアランコクへ午前中発つ便はこの便の他には、ないのだ。空港のチェックインカウンターできいて調べたことだ。つまり、健次とクアランコクに着く前に会えるのである。飛行機の中で声をかけて驚かしてやろうと思った。
 映画が終わった。あまり面白くないアメリカ映画だったが、英明と話さずにすむ口実にはなった。映画が、終わったのを見計ってか、英明が話しかけた。
「由美子さん、さっそく、書類に目を通してください。今度のダム建設は、明智物産にとって会社創設以来、最大のプロジェクトになるのですから」
 さっと、由美子のテーブルに分厚い書類の束を置く。
 由美子は、立ち上がった。さっと、通路に出た。
「どこへ行くんです?」
 英明がきく。
「トイレよ。そんなこといちいちきかないで」
 由美子は、英明を尻目にさっさと通路を歩いていく。背後から英明のしつこい視線を感じる。由美子は、ファーストクラスから出た。
 由美子は、思った。健次は、エグゼクティブかエコノミーにいるはずだ。
 由美子は、さっとエグゼクティブの客席を眺めた。ぐっすりと寝ている者、本を読んでいる者、ほけっとしている者、様々だが、どの顔も見覚えのある健次の顔ではなかった。となると、エコノミーの席だ。
 エコノミーに入って、客席に座っている人々を眺める。エコノミーの列は、エグゼクティブやファーストクラスよりも長く、席が多くすし詰め状態だ。由美子は、この状態に驚嘆してしまった。生まれてこのかた、エコノミーといわれる客席に座ったことがなかったからだ。全くこの窮屈さは想像以上だ。こんなところに自分の愛する人は五時間も座らせられているのか! 全く、どういうところで健次は働いてるのかと由美子は怒りを覚えた。
 しばらく通路を歩くと、あ、と見覚えのある顔を見付けた。由美子は、大感激だった。
 由美子は、駆け足をしてその席へ急いだ。
 健次は、通路側の席で雑誌を読んでいた。
「ねえ、その本おもしろい?」
 由美子がそう話しかけると、健次がはっとして由美子を見た。健次は、手に持っていた科学雑誌をぼとっと膝に落とすと言った。
「おい、おまえどうして、こんなところに?」
 おろおろする健次を見て、由美子は得意気に言った。
「あなたと同じ、仕事よ」
「仕事、おまえが?」
「あら悪い。あなたの邪魔をしにきたと思ったの?」
「由美子、おまえって奴は、全くどういう女なんだ。今度の仕事は、研究所にとって歴史に名を残すほどのことかも知れないんだぞ!」
「わたしより仕事のほうが大事だって言うの、健次」
 健次は、どうもその言葉に弱い。
「いや、そう言うわけじゃないんだが・・」
と健次が困っていると、隣に座っている男が、健次の肩を叩き言った。
「うー、いいね、彼女がスワレシアまでついてきてくれるなんて。健次、羨ましいぞ」
「おい、堀田、こんなところでからかうなよ」
 堀田は、健次の同僚であり親友だ。由美子もハワイで会ったことがあり、堀田をよく知っていた。由美子は、堀田に微笑んだ。
「ねえ、クアランコクに着いたら、どこに泊まるの。ホテルの名前教えて」
「駄目だ。教えたら、押しかけるつもりだろう」
「あ、僕達、クアランコク・パレス・ホテルに泊まります」
と堀田が言った。
「おい、堀田、何言いやがるんだ!」
 健次は、困った顔をしたが、堀田は笑っている。
「まあ、素敵、わたしと同じホテルよ。また会いに行けるわね、健次」
「おい、おい!」
 由美子は健次の困り果てた姿を尻目に、その場を笑いながら立ち去っていった。由美子は思った。クアランコクの滞在は、これまでになく刺激的なものになるだろう。

 飛行機は、クアランコク国際空港に着陸した。時差は日本より一時間遅いだけとたいして変わりがない。成田を発ったのが、朝早くで、五時間経った今、現地は真っ昼間だ。
 出口を出、タラップを下りると、そこから強い日差しに真夏の日本に匹敵する暑さと湿気が、体全体を覆った。ここは東南アジア特有の熱帯雨林気候なのである。
 由実子は、こんな気候にはハワイにいたときから慣れ切っていた。ここの方が湿気が強いのだが、また、ハワイに戻ってきたような気分になり心地良かった。
 英明は、飛行機の出口を出たと同時にサングラスをかけ、強い日差しを避けるかのように下を向いて歩いた。ハワイにいたときと同じ行動だ。
 到着ロビーを出ると、黒いリムジンが出迎えに来た。
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肌の浅黒い現地の運転手が、由美子と英明の荷物をトランクに入れ、ドアを開けた。
 由美子と英明は、乗り込んだ。
 リムジンが発車した。由美子は、走りながら窓の外を眺めた。
 古く黒いしみ塗れたビルがあると思うと、そのビルとビルの間にトタン屋根で作った掘っ立て小屋がある。まさにスラムだ。通りには、ぼろぼろの服を着た子供や年老いた女性が物乞いをしている。由美子は、東南アジアの小国スワレシアについて知っているだけのことを思い出した。
 スワレシアは、発展目覚ましいアジアの新興工業国として最近世界中の注目を浴びているが、まだまだ第三世界と呼ばれる貧しい発展途上の国々の一つである。
 この国は、かつてイギリスの植民地であった。第二次世界大戦中は、日本の占領下におかれ、戦争が終わったあとに再びイギリス領に戻るが、戦後の植民地独立運動のうねりを受け、一九六○年代一つの主権国家として独立した。
 現在は、大統領マラティール・モハメド氏の元、経済開発が振興され、かつての日本のような高度成長を続けている。
 人口は、日本のほぼ半分の六千万人、国土は日本とほぼ同じ大きさだ。しかし、GNP(国民総生産)は、日本の二十分の一にも満たない。国民の平均賃金は、日本の十五分の一と安く、そのため日本や欧米の企業がその安い労働力を求め生産工場をたくさん進出させている。スワレシア政府は大歓迎である。進出する外国企業には、数々の優遇措置をとっており、その一つに、先進国では厳しい環境保全基準がここでは緩いということがあげられる。        
 工業化にともない都市の人口は急増している。このスワレシアの首都クアランコクは、人口五百万の大都市だ。だが、その半数近くの住民はスラム街に住んでいるのが現状だ。。
 農業が衰退していき、多くの人々があぶれ都市に職を求めて来るのだが、そんなに多く職があるわけではない。職の見つからない者達は、スラム街に住むことを余義なくされる。
 リムジンは、クアランコクの中心街に来た。ここでは、空港近くのスラム街とは、うって変わり、近代的な高層や超高層ビルが立ち並ぶ姿が眺められる。
 この辺りの光景は、日本と全く変わらないといっていい。東京の丸ノ内か新宿に戻ったような気分だ。ここは、発展するスワレシア経済を象徴する風景といえる。
 あ、と驚く建物が目に映った。このビルは、超高層ビル群の中でも、ひときわ高くそびえ立っている。それも二つのビルが同じ高さで並ぶツインである。頂上の部分が、二つ揃ってとんがった円錐形になっている。ビル全体が、まるで二本のボールペンを立てたような形になっているのだ。
「明智物産が建てたのですよ。クアランコクタワーと言います。地上百階、高さは五百二十メートル、完成したばかりです。これは、高さでは世界一の超高層ビルです」
 英明が、すぐ側で耳打つように言った。
「何ですって、こんな大きいビルを!」
「今さら何を驚いているんですか。スワレシアは、高度経済成長の真っ只中にいる国です。二十一世紀中には、先進国の仲間入りするといわれています。そして、我が明智物産はスワレシアの経済に多大な貢献をしているのです。明後日にマラティール大統領を招いてオープニングセレモニーが開かれます。私達も出席するんですよ、由美子さん」
 由美子は、衝撃を覚えていた。もうスワレシアという国では、日本やアメリカをしのぐ超高層ビルが建造されている。それも、自分の父親の会社が建てたのだ。東南アジアの小国いう印象を持っていたが、こんなビルがあっては発展途上国となんていってられない。
同時に驚いたのは、父の会社がこんなビルを建てる大事業を成し遂げたことだ。変な話し、父が事業家だということは知っていたが、ここまでのことをする会社の社長だったとは思いも寄らなかった。それだけ由美子は父親の会社について興味がなかった。由美子は、父、清太郎のことを初めて知ったような気がした。
 リムジンは、クアランコク・パレス・ホテルに着いた。

 由美子と英明は、最上階のスイートルームに案内された。部屋は別々で、由美子のスイートルームと英明のスイートルームは、同じ階の別の端々にあった。互いの部屋の間には百メートル近い距離があった。
 英明が、由美子の心理を見抜いていたのか、それは結構な計らいだと由美子は思った。
 由美子は、部屋に入ると、さっそく、電話の受話器を取りフロントにつないだ。
 由美子は、英語で言った。
『ハロー、わたし、ミスター・堀田とお話したいのですが、つないでいただけますか?』
 しばらくして、堀田につながった。
『やあ、由美子さんだね。健次なら僕と同じ部屋だ。どうだい、邪魔しに来たいだろう?』
『もちろんよ。そこは何階の何号室?』
 電話の置かれたテーブルの下に盗聴器が仕掛けられていることを由美子は知らなかった。
 百メートル離れたスイートルームで英明は由美子の話し声を聞いていた。このホテルは、明智物産が所有するホテルである。この程度の計らいなどたやすかった。

Part 4へつづく。
by masagata2004 | 2007-03-29 00:09 | 環境問題を考える

原発ってエネルギー生産コストが安いのか?

Excite エキサイト : 社会ニュース

実際のところ、核廃棄物の処理費用を含めるとそうでもないといわれる(JANJANより)。また、安全管理のコストを下げなければ、他の発電よりコスト効率が悪くなり、その上、寿命が30年だ。その意味で言えば、原発は効率がいいとは言えないと。(ビデオニュース・ドット・コム)

ある限定された状況で推し量った場合に、効率がいいと言われているらしい。

何よりも、万が一の事故が起これば、それによる損害は、計り知れない。チェルノブイリで皆さん、経験済みのこと。だから、コストの面で言えば、絶対にいいはずがないのだ。

何でも、日本で原発が未だに廃止と向かわない理由は政治的なものからだと言われる。それは、電力会社とその労働組合の既得権維持のためだ。だから与野党ともに腰が重い。

実に憂慮すべき事態だ。毎日夜も眠れない。

政府や企業の言う「安全宣言」は全く信じられん。ある日、地震が起こったら・・・・

ああ、怖い。何とかしてくれ・・・

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by masagata2004 | 2007-03-17 22:19 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 2

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。

まずはPart 1から読んでください。

 成田空港に一機のジャンボ旅客機が着陸した。八時間もの時間をかけてハワイのホノルルからやって来た飛行機だ。
 着陸から約三十分後、税関と入国手続きを済ませ、第二ターミナル到着ロビー出口から、一人の若くて美しい女性が現れた。
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 ハワイと違い、今、日本は冬だ。ハワイで着たままの軽装では肌寒い。だが、女性は満足気に外の空気を吸った。彼女にとっては、五年ぶりに味わう空気だ。手を挙げ、タクシーを止めた。
 彼女は、さっそくタクシーに飛び乗った。
「横浜にある国際医薬研究所までお願いします」
 タクシーは、成田空港から横浜市へと向かった。

 約一時間後、タクシーは、横浜の国際医薬研究所に着いた。
 タクシーを下り、女性は久しぶりの日本円で料金を払い、スーツケースを引っ張り研究所の玄関入り口へ急いだ。
「すいません、こちらに安藤健次という人が働いていませんか?」
 受け付けには、大きな眼鏡をかけた中年女性が座っていた。
「あ、安藤先生ですね。今、第三実験室にいらっしゃるはずですよ」
と受付の女性は答えた。
 スーツケースを受け付けに預け、エレベーターに乗り安藤のいる第三実験室へと向かった。彼女は、浮き浮き気分だった。
 第三実験室と書かれてあるドアの前に着くと、ノックをした。
「どうぞ」
 これは、聞き覚えのある男の声だと思い、彼女は、ドアを開けた。
「アロハ、健次」
 安藤は、驚きの目を向けた。たった今までにらめっこしていた顕微鏡から目を離したところだったのだ。
「由美子、何だ、帰ってきたのか!」
「そうよ、成田に着いた後、さっそくここに直行したの」
 彼女の名前は、明智由美子。明智物産社長明智清太郎の一人娘である。五年間のハワイの大学留学を終え、帰ってきたところだったのだ。そして、恋人の安藤にさっそく会いに来たところである。
 安藤健次は、薬理学者である。そして、国際医薬研究所に籍を置く研究員である。年令は二十九歳。背が高く、眼鏡をかけ、精悍な顔立ちをした青年だ。
 一ヵ月前までは、ハワイの研究所にいた。由美子とは、二年前にオアフ島のサンセットビーチで初めて知り合った。サーフィンをしていた健次にジェットスキーをしていた由美子がぶつかったことがことの発端だった。
 運よく二人とも怪我はせずにすんだが、健次のサーフィンボードが、ぶつかった衝撃で割れてしまい、由美子は、弁償をしなければいけなくなった。
 だが、そのことで二人の交際は始まった。
 健次の仕事は、不治の病とされている癌やエイズを治療する薬の製造を研究すること。国際医薬研究所は、世界中に支部があり、医薬品メーカーや政府の支援を受け成り立っている研究機関だ。健次は、日夜、新薬の研究開発に励むスタッフの一員であった。
「ねえ、一ヵ月ぶりでしょう。さっそく、一緒に食事でも行かない?」
「ああ、駄目だ、由美子。今夜はミィーティングがある。明日の朝早くクアランコクに発つんだ。長期の出張になる。その打ち合せなんだ」
「クアランコク、それって、東南アジアにあるスワレシアっていう国の首都でしょ。そんなところにどうして?」
「研究のためさ」
 健次は、ぶっきらぼうに答えた。
「もう、せっかく会えたのよ。それなのに、また離れ離れになってしまうの」
 由美子は、がっかりだった。飛行機で八時間もの間、想いを巡らせながら、健次との再会を楽しみにしていたのだが、それが、こんな短い間のものになってしまうとは考えも及ばなかった。
「由美子、俺との再会を喜ぶのもいいが、まずはおまえの親父に会うべきじゃないのか」
「何よ。私も、スワレシアに行く。健次と一緒にいたいわ」
「よせよ。遊びじゃないんだ。おまえが来ると足手まといになるだけだ」
「足手まといですって、愛する人に向かって何よ!」
 由美子は、かっとなった。  
「俺の仕事の邪魔をするんなら、もう愛してなんかやらないぞ」
 健次は、笑いながら言った。
「まあ、ふん、失礼するわ」
 由美子は、実験室を出て、エレベーターに乗って下り、受け付けに向かった。
 受け付けの中年女性に言った。
「すいません。タクシー、一台呼んでください」
 タクシーは、五分後に研究所に来た。運転手は、由美子のスーツケースをトランクに入れた。
 由美子は、タクシーの席に座ると言った。
「世田谷の成城に行って」 
 それから、約一時間後、タクシーは成城の明智邸に着いた。
 大きな門を入ると、白亜の豪邸が佇む姿が見えた。
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 由美子はタクシーを下り、玄関のインターホンを鳴らした。ドアが開き、年老いた家政婦が現れた。
「お嬢様!」
 家政婦にとっては五年ぶりの再会だった。
「お久しぶりね。ばあや」
 由美子は、そう言うと、さっと、ばあやに抱きついた。
「旦那様、お嬢様がお帰りになりました」
 家政婦は、大声を上げ、居間のほうへ向かった。由美子もそれについていった。
 由美子は、家政婦と共に居間に入った。二人の男が、ソファに座っていた。
「ただいま、お父さん」
 父の明智清太郎とは、一年ぶりの再会だ。一年前、清太郎は、ハワイに由美子を訪ねてきたことがある。由美子は、ソファに座ったままの清太郎に抱きついた。
「お帰り、由美子。やっと日本に帰ってきたな。このお転婆娘が!」
 清太郎は、笑みを浮かべながら、嬉しそうな声を上げた。由美子もうれしかった。五年ぶりの我が家で、愛する父と再会できたのだ。
「由美子さん、お久しぶりです。ずっとお待ちしてました」
 はっと、由美子はソファから立ち上がるもう一人の男をにらんだ。
 それは、石田英明だった。清太郎の会社で働くエリートビジネスマンだ。彼は、一年前、清太郎がハワイに来たとき一緒に来た。何でもハーバード大学出の頭のきれる男だそうだが、由美子はこの男がどうも苦手である。
 背が高く体格はスマートなうえ、頭のよさそうな顔をしている。だが、人間味に欠けるような気がしてならないのだ。父に紹介されて知り合った後、彼一人で一度仕事の出張ついでにと、ハワイの由美子を訪ねてきたことがあった。半年前のことである。
 いくら仕事で来たからといっても、英明は、暑いハワイでも、常に背広とネクタイ姿だった。ビジネスで会うわけでもないのにアロハシャツなど絶対着なかった。
 それに、話となると堅苦しい会社や仕事のことばかりだった。ハワイに来る普通の観光客と違い、ビーチで遊んだりすることは全くなく、また、そんなことをくだらないことと毛嫌いしているようでもあった。
「あら、お久しぶり」
 由美子は、そっけなく言った。まったく、なぜこんな時にこの男が! 邪魔である、と思った。しばらくして、由美子と清太郎、そして、英明の三人で夕食が始まった。
 由美子は、清太郎の方ばかりに話しかけた。父と娘の団欒を楽しみたかったのだ。英明は、そんな由美子を特別気にすることもなく黙々と食物を口に運んでいた。
 夕食が終わり、三人で、居間に戻った。
 清太郎が、話を切り出した。
「由美子、今日は大事な話がある」
「あら何? お父さん、かしこまって」
 夕食時の微笑ましい表情の清太郎とはうって変わり、今は真面目な顔を由美子に向けている。
「もう、大学を出て、おまえも立派な社会人となる。これから、どうするつもりなんだ」
「お父さん、それなら、わたし、考えてることがあるの」
「何なんだ?」
「ハワイの大学に残って、環境学の研究を続けたいの。環境保護の活動の手助けをしたいし・・」
 英明が、口を挟むように言った。
「また、ハワイに戻るんですか、お嬢様のような方が遊んでばかりとは感心しませんね」「あなたには、関係ないわ!」
 由美子は、かっとなって英明に怒鳴った。
「由美子、英明くんの言う通りだ。もう、お遊びは終わりなんだぞ!」
 清太郎も、さらに怒鳴って言う。由実子は、清太郎の突然の怒鳴り声にびっくりした。
「お父さん、私、お遊びをしていたわけじゃないわ。環境学っていうれっきとした勉強をしていたのよ」
 由美子は、父親までもが自分がハワイで遊んでばかりいたと思っていたことにショックを受けた。
「まあ、由美子、聞け。おまえが、ハワイでしていたことにあれこれ文句を言うつもりはない。立派に大学を卒業したのだから、それはもう結構だ。だが、お父さんはな、おまえにきちんと足の着いたことをして欲しいと願っている」
「何をして欲しいというの?」
「おまえに、わしの会社を継いで欲しいんだ。そのためには、まず、明智物産に入社だ。最初は、一社員として会社のことをみっちり覚えてもらう」
 由美子は、さらにがくっとショックを覚えた。
「お父さん、わたしがハワイに留学するとき、自分の好きなように生きていけばいいといったじゃないの。わたしは、お父さんの会社のことなんて興味はない。私は、・・」
「黙らんか!」
 清太郎が大声を上げた。由美子は、びくっとした。今まで知っている父とは思えない素振りだ。
「もう、おまえも子供じゃない。自分のすべきことぐらいわきまえてるはずだ。おまえには、明日から、会社に入ってもらう。おまえはわしのたった一人の後継ぎだ。それなりの義務がある」
 由美子は、黙ることにした。父は、とても頑固な性分だ。話しをし出すと、最後まで話し続けないと気が済まない。こういうときは、黙って聞き流すしかないのだ。
「そのためにだ、由美子。おまえをきちんと仕込んでくれる者がいないといけない。その男の指導の元で、立派な後継者となり、この明智家を次の世代へとつなげていくのだ」
 次の世代へとつなげていく、由美子はその言葉に怪しい響きを感じた。
「この男こそ、英明くんだ。おまえは明日から、英明くんの元で働き、いずれは二人で次の世代の明智家を築き上げるんだ」
 由美子は、ソファーから立ち上がった。頭には血が登っていた。
「お父さん、冗談はよして。私に英明さんと結婚しろと言ってるの」
「その通りだ。英明くんにもこの家に養子に入ってもらうことを承知している」
 清太郎の表情、口調は、まさに正気そのものだった。
 由美子は、英明をにらんだ。英明は、そのにらみをあざ笑ってはね返すかのように、にっこりと微笑んだ。
「突然のことで、驚かれるのは無理ないと思います、由美子さん。しかし、これは会社のため、私とあなたのためにも、とてもいい話だと思いますよ」
 英明は淡々と語った。
「いやよ。お父さんの会社なんて、興味ない。それに、この人なんて大っ嫌い!」
 由美子は、ヒステリックに叫んだ。
「由美子、何てことを言うんだ! 英明くんに! 謝りなさい」
「お父さんこそ、ひどいわ。私に何の相談もなく、勝手に決めて」
「おまえのためを思ってやったことだ」
 何が、自分のためだ。結局は自分の会社のためじゃないか、と由美子は、心の中で叫んだ。
「由美子さん、落ち着いてください」
 英明が、なだめるように言う。
「何も、いますぐにと言うわけじゃありませんよ。じっくり時間を置いて考えてくださればいいのです。何よりも、由美子さんの気持ちが大事なのはお父さまも分かってらっしゃいますし」
 なによ、白々しい! 由美子は思った。
「ところで何ですが、せっかく入社されるのですから、明日から仕事と行きましょう。さっそくですが、海外出張です。明日の朝に出る飛行機に乗ります」
「まだ、入社するとなんて言ってません。それから、あなたとは結婚しないと、考える前に決めています」
「由美子、英明くんの言うことを聞くんだ」
 清太郎が抑え込むような口調で言う。由美子は、父親を無視し、英明に言った。
「わたし、あいにく日本に帰ったばかりだから、しばらく落ち着きたいの。外国なんて当分行くつもりないわ」
「明日行くのは、由美子さんの好きなハワイのような熱帯地域ですよ。スワレシアのクアランコクです」
「スワレシアですって?」
 由美子は、はっと健次のことを思い浮かべた。

Part 3につづく。

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by masagata2004 | 2007-03-08 21:01 | 環境問題を考える

小説で地球環境問題を考える Part 1 

地球環境問題を小説で説いてみようと思って書きました。自作小説ですが、環境問題を考えるための記事と思ってください。

熱帯雨林を守ろうと奮闘する環境活動家と破壊を進める国家及び企業の対立から浮かび上がる不都合な真実。


「院長先生、正直に教えてくれませんか?」
 明智清太郎は、困惑気味な表情の医師を見て言った。明智の主治医である野村院長は、手にカルテを持ち椅子に腰かけていた。
 机の上には蛍光板に照らされたレントゲン写真数枚がかけられ、内臓の様子が写し出されていた。
「そうですね。あなたには、はっきり申し上げたほうがよろしいでしょう。あなたのような立場の方には、隠すというのは適切でないでしょうから。診断の結果、腫瘍が発見されました。それもかなり進行しています。もともと膵臓から発生したものなんですが、胃や肝臓などの他の臓器にも転移しています。これだけ腫瘍部が広がっていると、摘出して治療するのは不可能です。お仕事がお忙しかったとはいえ、こんな状態になるまで放っておかれるとは・・・」
 野村院長は凍った目をして、明智を見つめる。
「では、先生。実際のところ、私は助かるのでしょうか?」
「残念ながら、もってあと1ヶ月というところでしょうか。私もこんなことを申し上げるのは大変つらいのですが」
 明智は、がくんと肩を落とした。今、まさに人生で最大の難関に直面しているのだ。これまで、幾度も大きな難関に出くわしてきたが、これほどまでに大きなことはなかった。
 明智清太郎は、年齢六十五歳、白髪頭の貫禄ある老人だ。肩書きは日本で指折りの資本力を誇る総合商社、明智物産の社長である。明智物産は、総売上高一兆円以上、総従業員数十万人以上、世界中に百以上の支社を持つ巨大企業だ。
 明智清太郎は、日本で、いや、世界でも指折りの富豪だ。もっとも、偶然にそんな富豪になれたんではない。
 明智清太郎の生まれは、北海道の貧しい農村だった。高校卒業後、身一つで上京した。小さな缶詰工場で営業マンとして働き始め、実績を上げた後、そこの工場長に就任、缶詰の製造と販売を一手に引き受けるために食品会社を設立、それを足掛かりに、事業を次々と起こした。
 食品会社の次は運送会社、そして、海外との貿易をすすめるため貿易商社を築いた。事業はおもしろいほどにうまくいき、規模は、うなぎ登りに拡大していった。分野も建設、電気などと多方面に渡り総合商社と呼ばれる規模となった。
 もちろん、数々の困難もあった。資金を調達するために銀行の融資をもらうのは並大抵のことではなかった。高卒という学歴だったため、信用を得ることはたいへん難しかった。
 だが、八方まわり、苦労に苦労を重ね、資金をぎりぎりの分まで調達。それでも資金不足に悩まされたが、高度成長時代の日本経済の支えがあり、予想以上の収益を収めることができたのだ。
 また、人間関係のトラブルにも数多く出くわした。ライバル企業の陰湿な妨害、信頼していた部下の裏切り、そのたびに清太郎は顔を紅潮させ怒ったが、そのエネルギーを糧に利益拡大の事業展開に精を出すようにした。
 そんな事業拡大による栄えある人生の中、清太郎は数々の恋愛を経験した。そして、葉子という女性と結婚することになった。
 葉子は、取引相手の娘であった。強い信頼関係から紹介された女性であった。葉子は、お嬢様育ちで美しく気立ての良い女性であった。清太郎は、出会ったときからすぐさま気に入ってしまった。葉子も、同様であった。仕事上の都合と二人の恋愛感情がうまく符合し、結婚は成立した。
 結婚から数年後、夫婦の間に女の子が生まれ由美子と名付けられた。由美子は愛らしく、清太郎にとっては自分の妻と会社同様にかけがいのないものとなった。
 しかし、由美子が生まれて数カ月程経ったある日、明智家に悲劇が襲った。葉子が外出中、交通事故にあい死亡したのである。
 清太郎は気が狂わんばかりであった。せっかく愛する娘を授かったという時に愛する妻を失うことになり、堪え難いショックを受けた。
 赤ん坊だった由美子は、母親の死を知るには、あまりにも小さ過ぎた。
 由美子は、母親似の美しい容貌に清太郎によく似た強情で負けん気の強い性格を兼ね備えた子であった。自分に母親がいないことを気にすることなく明るく活発な少女へと成長していった。
 そんな由美子の姿を見ながら、清太郎は妻の死による悲しみから立ち直り、唯一の肉親である娘のためにと、さらなる事業拡大に力を注いだ。
 由実子には、何不自由のない生活を送らせた。高等な教育も受けさせた。自由奔放にやりたいことをやらせた。娘の幸せを願い、いずれは会社を引き継がせるつもりで頑張り通した。

 だが、それが、もうままならない。あと半年の命、娘は、二十四歳、ちょうど、留学先のハワイの大学を卒業したばかりだ。まだ、会社を引き継がせるにはおぼつかない。
 娘が会社を引き継ぎ、その次の後継者となる孫を生むまで、死んでも死にきれないのだ。
 どうしてくれよう。これじゃあ、今までの苦労はなんだったのだ!
 ここにきて自分の書いた人生のシナリオを閉じなければならないとは。なんという無念だ。
 
 社長専用のロールスロイスで野村総合病院から新宿ビジネス街の明智物産ビルに着くと、さっそく秘書に連れられ、ロビーを通り抜け社長室へ向かった。社長と秘書が歩く姿を見るなり、通りがかった社員たちは条件反射的に頭を下げる。清太郎と秘書は、最上階の社長室へ直通で行く専用のエレベーターに乗りこんだ。
 エレベーターには、革張りの長椅子が備え付けてあった。最上階の五十階まで約一分の間、清太郎は椅子に座り考えにふけった。エレベーターのガラス張りの大きな窓から、眼下に広がる大都会東京の壮大な景色が眺められる。経済大国日本の繁栄を、そのまま象徴するかのような景色だ。
 社長室に着いた。
 エレベーターを降り、しばらく歩くと、またもや革張りのどっしりとした椅子に腰を下ろした。目の前には、とてつもなく大きく台の広い机が置かれている。さっそく、いつものように、机に置かれた書類を開き文面に目を通した。
 コン、コン、と誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「社長、石田でございます」
 石田だ。
「入り給え、英明くん」
 清太郎は言った。
「失礼いたします」
 石田英明が、ドアを静かに開け、中に入ってきた。普段は社員が社長室に出入りするには秘書を通さなければならないのだが、この男、石田英明に関しては別であった。
 英明は、清太郎から特別の信頼を受けている。三十歳の若さで清太郎により副社長に任命された程だ。
 慶応大学経済学部を卒業。その後、アメリカへ渡りハーバード大学大学院で経営学修士号(MBA)を習得し、アメリカの商社に入社。そこでトップセールスマンとして活躍していた時に明智物産より引き抜かれた。入社後は期待通り驚異的な実績を上げ、出世街道まっしぐらだった。
 ビジネスのやり方が、強引だと文句も聞かれるが、彼の会社への貢献度は抜群のもので取締役員の中では最年少の三十歳の若さで副社長に就任できたのも、その彼の実績による結果だった。
 今や年功序列、終身雇用という言葉は死語である。明智の求める人材というのは、利益を上げ、会社の株価を上げ、実績を数字で表わせる者共だ。年齢や勤続年数など関係ない。それが明智物産の方針だった。
 英明とは、まさにそういう男だった。
「社長、検査に行かれたとお聞きしましたが、いかがでございましたか?」
 英明は、遠慮深い口調できいた。
「なあに、たいしたことはなかった。今までの仕事の疲労が貯まったためだということだった。もうわしも年だ。無理はできん。当分は商用で遠出するようなことは控えなければな」
 明智は、医師には一切公言は慎むようにと注意をしてきた。明智物産社長が、癌で半年の命ということが知れ渡れば、社内はもとより財界全体が大騒ぎとなる。余計な混乱は避けたかった。とくに今は、いままでにない大規模な事業をすすめている最中でもあるのだ。 
 いくら最も信頼する部下の英明であろうと、また娘の由美子さえにも話すことは出来ない。今はそんな大事な時期だ。
「それは何よりです。体調がお悪い様子でしたので、ずっと心配でした。これからは、あまり無理をなさらないでください。私で出来ることがありましたら、社長の負担を少なくさせることは出来ますので」
「それはありがとう、英明くん。だが、もう心配はいらんよ」
 明智は、ぐっと気合いを入れて答えた。
「ところでですが、社長。今回のプロジェクトの書類には目を通されましたでしょうか」
「ああ、一通りな。土地の選定は決定したんだろう。最終処理は、君の仕事だったな」
 プロジェクトというのは、スワレシアという東南アジアの新興工業国の首都周辺に予定されている水力発電ダム建設のことだ。完成すれば貯水量、供給電力量ともに東南アジア最大規模のダムとなる。
「計画は、順調に進んでおります。スワレシアの大統領が発案し、国家総動員の事業なのですから」
「ところで、英明くん、由美子のこと考えてくれたかね」
 明智は、突然、話題を変えた。
「社長、考えるもなにも、願ってもないお話です。お嬢様のような素敵な方と一緒になれるのですから」
 英明は、大きな笑顔を作って言った。
「そうか、それはよかった。私もこれで少し肩の荷が降りる。娘には君のような男に面倒を見てもらう必要がある」
 明智は、満悦の笑みを浮かべて言った。
「ところでお嬢様は、今日、ハワイからお帰りになるそうで」
「ああ、そうだ。まったくあのじゃじゃ馬娘、五年ぶりにやっと日本に帰ってくるんだ。何だか、あっちの大学で環境学とかいうわけのわからんことやっておって、結局は遊びほうけてばかりいるんだ。日本に帰ったら、この会社で働いて、みっちりしこまなきゃな。英明くん、頼んだよ、由美子のこと」
「お任せください、社長」
 英明は自信あり気に顔をほころばせた。
「そうだ、英明くん。今日は、会議に出席せんでもいい。由美子を成田に迎えに行ったらどうだ」
「いえ、社長。それが、半年前、ハワイにお嬢様を訪ねましたところ、帰国の際は、迎えになど絶対来ないでくれと言われまして」
「なんだと、由美子の奴、君がわざわざ迎えにくるというのに、そんなことを。けしからん!」
「社長、もしかしたら、由美子さんは照れてらっしゃるのではと?」
「あの娘に照れることなどあるか!」
 明智は怒りを込めて言った。娘の由美子にはまったく困ったと、せっかくの肩の荷が重くなってしまった。

 英明は、明智と会議の打ち合せを済ませた後、社長室を出た。

 副社長室のある階へ戻るエレベーターの中で英明は背広のポケットから、携帯電話を取り出した。ある番号を押す。
「野村総合病院です」
と事務員らしい女性の声が耳元に響いた。
「野村院長を頼みます。石田と伝えて下されば分かります」
 しばらく待つと、英明は言った。
「やあ、院長さん、それで検査の結果はどうだったんだ?」
 野村院長の発する言葉を耳元で聞く。そして、
「そうか、やっぱり、癌だったのか!」
 英明は、満悦の笑みを浮かべた。

Part2に続きます。

この小説の著作権は、このブログの管理者マサガタこと海形将志にあります。
by masagata2004 | 2007-02-24 21:10 | 環境問題を考える

シバレイ様、この記事をどう思います?

たまたま、物置の整理をしていて見つけた6年前の雑誌。
ニューズウィーク日本語版、2001年8月1日号
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MIT(マサチューセツ工科大学)の気象学の教授、リチャード・リンゼン氏は、地球温暖化は誇張され過ぎていると。今世紀末には、気温が3-4度上昇すると予想されているが、氏の予想によれば1度未満だと。もちろん、産業活動が温暖化に与える影響は否定しないが、でも、そんなに大きくないと。また、シミュレーションは、あてにならないとか。サンプルにする海水も、適切なものを使っているとは思えないとか。データも大雑把なものでかないとか。

また、同じ記事の中で、ニューズウィークのパリ支局長のクリストファー・ディッキー氏は、環境保護団体は、寄付金集めのために脅威を煽っているという論説を書いている。これまでの社会問題は、地域単位のものが主流だったが、ここにきて地球全体で騒げる問題が出てきたので、大喜びだと。

最も、この記事は6年前の話し。だから、今はまた状況は違うと思う。ちなみにこのリンゼン氏は、ブッシュ大統領にホワイトハウスでご招待を受けた学者だそうだ。本人は民主党支持者だと主張しているが。

でも、数年前の雑誌を見るのも面白い。この時は、あの911の1ヶ月程前。ビンラディンが新たなテロを仕掛けているという警告を米政府が出している記事が掲載されている。でも、まさかあの超高層ビルが崩壊することまでは予想してなかったのだろう。

その他、憲法9条を改正して平和を守れと提言する日本通のアメリカ人政治学者のコラム。ウォーターゲート事件の真相を暴いたワシントンポスト紙の女社長の伝記記事とか。買った当時は読んだのか覚えていないが、再び読んでみたい。

シバさんも読みたいですか。
by masagata2004 | 2007-02-18 14:15 | 環境問題を考える


人生は常に進歩していかなければならない


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