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愛国者なら自虐的な歴史を学ぼう 南京虐殺について

Excite エキサイト : 国際ニュース

東西冷戦の終結からか、バブル経済崩壊による自信喪失の余波か、はたまた憲法9条改正への世論作りのためなのか、近年、歴史教育を見直す運動が盛んになっている。だが、その見直し方は、実に奇妙である。

小林ヨシノリ漫画の「ゴーマニズム宣言」、扶桑社の「新しい教科書をつくる会」に始まった、いわゆる自虐的な歴史観を教育現場や世論から排除しようという動きが、その象徴である。最近では、中山文部科学大臣が、「歴史教科書から従軍慰安婦や強制連行という言葉が減ってよかった」という発言をしたことが物議をかもし、NHK番組改変問題で取材対象となった女性国際法廷は、慰安婦問題を扱っていたため、読売や産経、その他、保守系のマスコミから批難の砲火を浴びた。

従軍慰安婦、強制連行と共に、常にこの歴史修正論者のスケープゴートとなっているのが、1937年、当時の中国の首都であった南京で起こったいわゆる「南京大虐殺」事件である。実を言うと、筆者は、以前、市民メディアのJANJANに、南京大虐殺をテーマにした記事を投稿したことがあり、その際に、予想通り否定派から反論の意見を数多くいただいた。
昨年11月に投稿したファルージャと南京、イラク戦争と日中戦争を読んでいただければ分かると思う。

南京大虐殺とは、日中戦争の最中、南京にて日本軍により一般市民を含む30万人もの人々が虐殺されたという事件である。その数の多さから、この虐殺自体、ありえなかったという説が、保守系の雑誌や書籍を中心に広まっているが、南京大虐殺は歴史的な事実として起こったことであり、日本の政府も裁判所も、権威ある歴史学者も、事実をすでに認定していることなのである。

ただ、事実誤認をしている人達もいると思うので、よく聞かれる否定説の反証をしておこうと思う。

(1) 当時、南京の人口は、20万人程度なので、30万人もの人を虐殺することなどありえない。また、短期間に大量の人間を殺せるだけの兵器は日本軍にはなかった。

その20万人という数字は、南京市のごく一部、当時、難民避難のために設定された国際安全区内の人口であり、約4平方キロメートルの地域の人口を、南京全体の人口とすり替えた数字である。事件前年の南京市の人口は、約100万人と記録されており、事件当時は避難していた人が数多くいたため約60万人と推定される。中国の兵士は、約11万いたと推定される。
南京大虐殺は、1937年12月から2ヶ月に渡り30万人もの人々が虐殺されたと中国側は主張しているが、これはあくまで事件後、処理した死体から割り出した推定値である。正確に数えたとは言えず、実際の数より多過ぎるということも考えられるが、2ヶ月で30万人という数はあり得ないわけではない。当時、南京には約20万人の日本兵が駐留しており、大量破壊兵器がなくとも、機関銃、手榴弾、銃剣、サーベルを使用すれば不可能ではなく、加害兵士の証言からも、これらの武器を使用して殺戮を行ったことが裏付けられる。虐殺が起こった現場も、南京市のみならず、南京市郊外を含む広範囲であったといわれる。
大量破壊兵器を使用せず行われた大量の虐殺は、近年では1994年アフリカのルワンダで起こっており、民族浄化により10ヶ月間で100万人もの人々が虐殺されたといわれている。


(2) 事件当時、南京大虐殺は、一般には全く知られず、戦後、東京裁判によって知られた事件。事件そのものがでっち上げられた可能性がある。

南京虐殺があった当時、南京には日本軍の従軍記者の他、アメリカなどの海外の記者も滞在していた。日本では軍部の検閲があり、ほとんど報じられることはなかったが、アメリカの大手新聞ニューヨーク・タイムズ、シカゴ・デイリーなどは、世界に向け事件を報じていた。
(例)シカゴ・デイリー 1937年12月15日より一部抜粋より
「南京の包囲と攻撃を最もふさわしい言葉で表現するならば、地獄の4日間ということになろう。首都攻撃が始まってから南京を離れる外国人の第一陣として、私は米艦オアフ号に乗船したところである。南京を離れるとき、我々一行が最後に目撃したものは、河岸近くの城壁を背にして300人の中国人の一群を整然と処刑している光景であった。そこには、すでに膝がうずくまるほど死体が積まれていた。」

また、このようなエピソードもある。当時の首相であった近衛文麿氏の長男である近衛文隆氏は、米国のプリンストン大学に留学中だったが、事件のことが大きく報じられたため、友人からひどく責められ、いたたまれない思いをしていると手紙に書き、何も知らない日本の家族は手紙を受け取り大変驚いたという。(NHK BSハイビジョン「真珠湾への道」2002年8月15日放送より)

しかしながら、以上の事柄を説明すると、必ずこのような返答がかえってくる。それは、我々にとって耳障りが悪く、日本人のイメージを下げる歴史を声高に叫ぶのは反愛国的ではないかと。

南京虐殺など当時の日本軍の行った不名誉な行為の数々はすでに歴史的な既成事実として記録されており、今更、我々が声高に叫ぼうと日本人のイメージを悪くすることには、あえてならないだろう。むしろ、恣意的に否定することの方が、イメージの悪化につながると考えるべきだ。

2001年2月にハワイ沖で日本人の乗った船員訓練船「えひめ丸」が潜水艦の浮上事故で沈没した事件があったが、この時に米有力紙のワシントン・ポストにこのような社説が載った。「日本人は、我々に事件に対する謝罪を求めているが、日本は南京大虐殺に対して謝罪してないばかりか、事実そのものさえ認めようとしてないではないか」と。決して、説得力のある論説とはいえないが、このような揚げ足をとられかねない印象を与えていることを知らなければならない。

また、否定説を説くことは、外交にも悪い影響を与えかねないと考えるべきだろう。日本と中国の間には、領土や資源などの国益を大きく左右する問題がある。お互いの主張は平行線なままで、最終的には第三者的な立場の国際機関に判断を委ねなければならなくなるかもしれない。その時に、このような意見が出されたらどうなるか?
「南京大虐殺のような重大な歴史的事実を自らの主観で平気で否定する日本の言うことに信憑性はあるのだろうか?」と。その時に、我々の側に、きちんと対応できるだけの態勢は整っているか考えるべきだ。

また、憲法9条改正を考えている人たちにとっても、南京大虐殺の事実を知ることは重要ではないか。軍隊を持つと言うことは、正しい軍隊の運用をきちんと知る責任が伴うことだ。南京で起こったことは、昨今のイラクのアブグレイブ刑務所で起こったことと同様に大きな失敗例といえる。その失敗を繰り返さないようにするためにも、過去の失敗からは大いに学ぶべきなのである。

南京虐殺事件による傷は歴史に深く残り、被害を受けた国民は世代を超えて我々日本人を恨み続けることになった。そればかりでなく、加害者となった日本人の兵士達も、自らの行為を一生涯に渡って悔やみ続けなければならなくなったのだ。

3月19日から21日の間、この南京大虐殺に関するパネル展と集会(20日午後6時)が、中野区の中野ゼロ小ホールにて開かれる。この集会では、NHK番組改変問題の女性法廷で加害兵士として証言をした方が、参加する予定となっている。カットされた貴重な証言を聞くチャンスとなるでしょう。国を想い、国を憂う者ならば、この国の辿った軌跡をしっかり知るべきであろう。たとえ、それが自虐的で耳障りの悪いことであっても。

詳細は以下の通り。

「いま歴史を問う かつてと今の戦場の実相から」
場所:中野ゼロホール
日時:3月20日(日)18時~
講演:斎藤貴男(ジャーナリスト)
証言:金子安次(元陸軍59師団伍長、撫順戦犯管理所で教育され不起訴)、この方が、女性法廷で加害兵士として証言をされた方です
松岡環(『南京戦 閉ざされた記憶』編著者)
報告:相澤恭行(PEACE ON代表)
トーク:海南友子(映画監督)、中原大弍(ピースボート事務局長)
参加費:1000円

パネル展「南京閉ざされた記憶」
絵画展「戦場の記憶:元戦犯・桧山高雄展」
場所:中野ゼロギャラリー
期間:3月19日(土)~3月21日(月)
入場料:300円(20日の集会参加者は無料)

また、ノーモア南京の会のホームページもご覧ください。


ちなみに、南京大虐殺は、現在このブログで連載中の小説「白虹、日を貫けり」にも出てくる事件です。
# by masagata2004 | 2005-03-14 19:37 | 時事トピック | Trackback(2) | Comments(0)

海千山千なホリエモンの勝利!

Excite エキサイト : 経済ニュース

ライブドアの堀江社長ほど海千山千な人は、この日本にはいないのではないかと思う。

彼が嫌いで、やけくそになって無謀な勝負をして偶然にも勝利があったかのように思っている人たちは、とんでもない世間知らずだ。

全てはホリエモンの計算しつくされたシナリオを実行したに過ぎない。

彼はわざとアクの強いキャラを演じているのだ。そうすることによって、多くの人には印象に残ってしまう。まじめで誠実なビジネスマンであると、他となんだ変わらず注目は浴びない。
芸能界ではこういう言葉がある。「悪評も評判のうち」ってね。

そして、ホリエモンには、ビジョンがある。だが、それを敢えて出さない。敢えて出さないことによって既存メディアを踊らしているのだ。それこそ、閉鎖的な記者クラブを支配している既存メディアが震え上がることだ。記者クラブ体制の懐に入って、ライブドアの報道を充実させること。それによって、日本の政官と報の癒着を打ち破ること。ライブが、記者クラブの一員でいる限り、公機関やプロスポーツ関連の記者会見で排除することは出来ず、よってライブの市民記者を受け入れざる得ない。

ホリエモンは市民記者を使いランキングによってニュースを発信すると言っている。これをポピュラリティだけで公共性を軽視していると批判するメディアの連中がいるがとんでもない。その方がいいのだ。

ご存知だろうか?原子力発電の危険性が、あまり報道されないのは電力会社の圧力によるものだと言うことを。仮に記者によるランキングだけで決まるとすれば、間違いなく、我々の身の安全に関わってくるこの情報は、トップになる。

フジもついに、妥協せざる得ないところまできた。ホリエモンは、そう最初から読んでいたのだろう。自分に、あからさまに抵抗すれば、世論の反発が、フジの方に必ず来るだろうって。世論の反発は、裁判所の判決よりも恐いのだ。なんたって、フジも世論に支えられているメディアだから。

もう一つ、裁判所も、この裁判ではライブドアを味方する判決を出さなければならない理由があり、ホリエモンはご存知だったはず。ライブに不利な判決を出すことは、日本の株式市場、ひいては日本経済全体の信用を失墜させかねない。

ホリエモンこそ、真の海千山千というのだろう。

考えてみてくれ。彼は、あの若さで上場企業の社長に躍り出たのだ。

もっと注目すべきことは、彼は東大を中退した男だ。すご過ぎる。

この閉塞感の強い日本にいまだこんなキャラが存在するのは、ある意味救いではないか。
# by masagata2004 | 2005-03-13 09:48 | メディア問題 | Trackback(1) | Comments(0)

英語ぺらぺらの立場から言って反対

Excite エキサイト : 社会ニュース
私は、アメリカの大学に留学して、卒業して学士号を取りました。それから、英検準一級、TOEICでは885点を取り、翻訳・通訳の仕事を経験してきました。

その立場から言いまして、英語を小学校から教えるというのは、あまりお勧めできません。

面白い話をすると、帰国子女などは、皆、早い時期に英語を学んだことを後悔しています。日本語が十分に話せない内に、他の言語を必須科目として同時進行的に教えるのは無理があると思います。なぜなら、人間の言語能力は思考能力と表裏一体なのです。

日本語がきちんと話せないことは、日本語でものを考えることがうまく出来ないことを意味します。人間の思考能力は、土台となるきちんとした母国語が喋れるようになって培われるのです。と、ある言語学者は言っていました。NHKの視点・論点でしたね。

私も、その意見には賛成で、自分も日本語というベースがあるから英語が学べたと思っています。

ただ、するとすれば、せめて小学校4年生からがお勧めです。

ただ、いい面もあります。発音が、ネイティブ並みになることです。英語の発音は難しいですから、特に日本人が分からないのは、LとRですね。大人になって習っても、発音をネイティブ並みにすることは不可能です。ちなみにこのLとR、中国人と韓国人は聞き分けられるんですよ。日本語の発音ってそれだけ、単純ってことですよね。恥ずかしながら、私は未だにLとRに苦慮しています。

ただ語彙力、表現力は別ですけどね。

子供の学習能力はすごいもので、小学生など、現地の学校に行くとしばらくすると、英語で話す方が楽だというほどです。

それから、私が留学中に会った人は、9歳の時に渡米して、同じ大学の大学生だったのですが、完全に日本語を忘れていました。ちょっと、それって恐いですよね。
# by masagata2004 | 2005-03-11 13:30 | 時事トピック | Trackback(3) | Comments(2)

山拓選挙への影響は?

Excite エキサイト : 主要ニュース

自民党の中西議員が路上での強制わいせつで現行犯逮捕された。

このままいけば、議員辞職となるだろう。それも、即刻しなければならなくなる。補選を恐れて、5日以上も伸ばすと、それだけで重大なイメージダウンだ。逮捕され容疑事実さえきちんと認めているくらいなのだから。

となると4月には補選だ。困っちゃうのは福岡2区の山崎拓前幹事長だ。

ただでさえ、女性スキャンダルで劣勢に立たされているのに、統一補選で同じ党から女性のからむ問題で、それも強姦ということで辞職した議員の穴埋めが行われることを考えるとイメージが悪すぎる。

私は、福岡出身なので、この人に対しては言っておきたいことがある。このじいさんの性的趣向なんてどうでもいい。よく英雄は色を好むというから。フランスの故ミッテラン大統領なども愛人がいたらしく、葬式にはその愛人が出席したほど公認されているみたいだ。

まあ、政治家にそういう道徳観念を求めすぎるのもなんだという考え方なのだろう。要は、いざとなったら国を守ってくれてさえいればいい。政治家としての資質とは切り離す考え方だ。アメリカもクリントン大統領からそんな感じになっているみたいだ。

だが、それでも、山拓のケースとは違いがある。スキャンダルが発覚してからの対応に問題があった。名誉毀損で訴えると言ってみたり、選挙となると取り下げたり、一貫性がない。どうせ関係があったのなら素直に認めればいいのだ。なんだか、おどおどしていて頼り甲斐がない。

また、その女性との関係にも、他のケースと違い問題がある。愛人女性によれば、2度も中絶を強要されたと言っているが、もし事実なら、これは別の意味で政治家としての資質を問うべきことだ。

大物政治家としての資質のある男なら、太っ腹で対処し、むしろ産みたいなら産ませ、認知をして面倒を見るくらいのことができないのか。

何だかまるで、若気の至りでできちゃったために、恋人に中絶を頼む情けない若造の行動に似通う。

もう60後半のおじいちゃんなんだから、これを機会に引退されてみてはどうか?

別の立場で、国に貢献することだってできるだろう。
# by masagata2004 | 2005-03-10 15:47 | 時事トピック | Trackback(2) | Comments(1)

自作小説「白虹、日を貫けり」 第6章 民本主義論

テーマは、ジャーナリズム、民主主義、愛国心。激動の歴史を振り返りながら考える。

まずは、まえがきから第5章まで読んでください。


大正七年(一九一八)四月、白川龍一は大阪朝夕新聞社の社会部室にいた。
 入社してから慌しい日々が続いた。まずは、大阪市内に引っ越すことだ。それはすぐに決まった。大西の住む下宿屋に空き部屋があったということで、当面は、そこに住まいを置くことにした。社にも歩いて通えるため都合のいい場所であった。
 今まで暮らしてきた上海や神戸の洋館と違い、はるかに狭いうえ、生活も完全に和式になるため、龍一は、馴染むのが大変だった。
 風呂もないため、銭湯に通うこととなった。毎晩、大西と一緒に通った。これまでは、ほとんど朝にシャワーを浴びる生活だったが、それからは夕飯を食べた後に体を洗う生活をすることになったため、朝起きて服に着替える時は体がむずむずしてならなかった。
 銭湯で大西と裸の付き合いもすることになったが、最初に驚くものを見せられた。大西の体には背中から腹にかけて大きな傷跡があるのだ。大西は、最初に裸を見せた時に、それが十四年前、日露戦争で出兵した時、戦場で負傷した時のものであることを語った。大西は、かつて軍人だったのである。しかし、それ以上は語らなかった。

 新入社員としての仕事は、まずは勉強であった。何よりも、記事を書くだけの知識を身につけなければならないということだった。様々な書物を読まされた。主に政治・経済の書物はもちろんのこと、文芸書物も読まされた。
 毎日、必ず発行される大阪朝夕新聞の紙面は隅から隅まで読んだ。政治面、社会面、文化面、国際面など徹底して、一字一句逃さず読んだ。新聞記事の書き方を徹底して知るためだ。
 大西は、龍一の言わば後見人となったわけだが、社会部のエースとして活躍する大西記者に新入り見習いの龍一の面倒を見る暇はなく、いつも外を動き回っているため社内で顔を合わすことは、ほとんどなかった。
 社会部の部長は、岸井といい、東京帝国大学卒業後、大阪朝夕の姉妹社である東京朝夕に入社したが、敏腕記者として名をはせ数年前に大阪朝夕に社会部の部長職として迎えられた経歴を持つ人だった。
 岸井部長は、面倒見のいい人だった。年齢は四十近い人で、背広に蝶ネクタイ姿が板についた紳士であった。岸井部長は、自らを民本主義論者と呼び、民本主義運動を支持する立場の朝夕新聞の一員であることを誇りに思っており、龍一も思うべきだと語った。
 「民本主義」という言葉に熱弁を振るう記者が、この大阪朝夕には数多くいたが、龍一には、その言葉がどんな意味を持つのか、どうもしっくりしなかった。
 ある日、岸井部長は、その民本主義で有名な学者の講演の取材に同行するように言われた。記者として初めての取材となるので、龍一は身を引き締めて望むことにした。
 その学者の名は、「吉野作蔵」といい、岸井部長の出身大学である東京帝国大学で教授をしている方だそうだ。

 岸井部長と龍一は、大阪公会堂の応接室で吉野作蔵教授と対談することになった。講演は、これから三十分後に始まる予定なのだが、その三十分間の時間を使っての対談となる。吉野氏は年齢は岸井部長と同じくらいで、岸井部長と同じく現在教鞭を取る東京帝国大学法学部政治学科を卒業しており、岸井部長とは一年先輩であり、長年来の友人だそうだ。単独の対談も、その同学の誼で実現したと言う。
 政治学の世界では、大変有名で、大学の教鞭の傍ら全国中を講演しており、「単独の対談が出来るなど、この上なく光栄だぞ」と岸井部長は、龍一を吉野氏に紹介しながら言った。
 吉野氏は、にこにこしながら龍一と握手を交わした。そして、
「お若いの、質問があれば何でも訊いてくれ給え」
と言った。
 ちょび髭を生やし、大学教授らしいインテリさを感じさせる中年紳士だった。
 岸井部長は、
「まず、ありきたりの質問で申し訳ないのだが、吉野さんの定義する民本主義とは、どのようなものなのでしょうか? 我々の読者でも分かるように説明いただけないでしょうか」
と言った。岸井部長は、吉野氏の書いた論文を何度も読んでおり、十分分かっているのだが、これは大衆紙の取材であり、民本主義など聞いたこともない人々に知らせる意図があった。
「民本主義とは、いわゆる近代国家が持つべき政治理念だ。政治が、一般人民の利益並び意向を重んずることを方針と考える主義だ。貴族、富豪などの一部少数者階級の利益のために民衆一般の利益を阻害することがあってはならん。また、国家が絶対的でその前に皆が頭を下げないといけないという考え方は間違いだ。これからは、強制組織の国家を絶対の価値と認めねばならない時代は過ぎた。富国強兵と言い、人々が国家のために尽くすことが善なのではなく、人々が国家を使い、善を尽くすことが本義と考えるべき時代が来たのだ」
 吉野氏がそう答えると、岸井は質問を続けた。
「今後、この民本主義運動の目標は何なのでしょう?」
「まずは、普通選挙制の実現だ。現状では、税金を一定額納めなければ政治参加するための選挙権を得ることは出来ない。それを、収入に関わらず、全ての民が投票をできるようにする制度に変えることだ」
 普通選挙か。龍一は父、源太郎が投票に行く時に、自分は従業員をも代表して投票に行くと言っていたことを思い出した。裕福な貿易商の父には、投票権はあったが、収入の少ない社員達にはなかったからだ。代議士を選ぶため投票に行くには、金持ちにならなければならない。だが、結果、金持ちが、金持ちのためだけの政治を行うことになってしまう。確かに、それは問題があると龍一は思った。
「我々、新聞記者は、民本主義においてどんな役割を果たすべきなのでしょう?」
 岸井の質問は続く。
「新聞は、言論を代表する機関だ。民本主義においては言論の自由が不可欠だ。皆が自由に議論し合い、何をなすべきか決める場が必要だ。何かを議論するには、土台となる情報が必要だ。新聞には、世の中で行われていることを民衆に伝える役割がある。それから、政治的な最終決定は代議士や官僚が決めるのだが、その代表者たる者どもが、民衆の意見に耳を傾けられるようにするために新聞は人々の意見を載せなければならない。君達には、そんな役割を期待したい」
 吉野氏が淡々と答える姿を龍一は、じっと見つめていた。
「こちらのお若い人には私の言っている言葉が分かったかな、何と言っても新聞記者になられたばかりと聞くが、どうやらきょとんとされているようだが」
 龍一は、その言葉に少しムカッときた。別に呆気にとられているわけではないと言いたかった。
「吉野先生のお言葉には感銘を受けます。さすが、イギリスに留学をされ進歩的な思想を広められているだけのことはありますね」
 西洋かぶれなのだろうかと、龍一はふと思い
「What you are saying is called "Democracy"? (貴方がおっしゃっていることはデモクラシーと呼ばれるものですね)」
と英語で質問した。龍一は、目の前のインテリ言者の反応を試したかった。
「That's right.(その通りだ)君はイギリスに行ったことがあるのかね。英語がうまいね」
と英語で返した。
「ノー。ですが、上海で育ったため英米人とは付き合いがあり、小学校までは英語の学校に通っていました」
「なるほど」
 岸井は、二人のやり取りにきょとんとしている。なぜなら、岸井には英語が理解できないからだ。
「私はデモクラシーは決してすばらしいものだとは思いません」
 龍一は、吉野氏に挑戦する気構えで言った。自分の意見がどうとかではなく、目の前の学者を論破してみたい誘惑に駆られたのだ。
「それは、どうしてかな?」
 吉野が言うと、
「デモクラシーは衆愚政治の元凶だと、古代ギリシャの哲学者プラトンが言っています。ギリシャのアテネは、デモクラシーのために政治が腐敗していったのです。民衆は、政治に無知であり、また、貪欲な性質を持っているため、結局のところ、政治を腐敗させてしまったのです」
 龍一は、上海で出会ったことのあるイギリス人が言っていた言葉を思い出した。その人は、イギリスの貴族階級の人だった。
「そのことはもちろん留意せねばいけないことだろう。だが、私は民衆が生じさせる不利益と特権階級が生じさせる不利益を比べた場合、民衆によるものの方が小さいと考える。また、デモクラシーは、現在は世界の潮流と言えよう」
「ロシアでは共産主義革命が起こっています。デモクラシーだけが世界の潮流だとは言えないのではないですか」
 龍一は、むっとして言い返した。
「ストップ! ここでやめだ」
 岸井が二人の抗論をとめた。岸井は、龍一をにらんでいた。
「岸井君、君はなかなか優秀な部下を持っているね。朝夕もますます活気づくことだろう」
 吉野氏は、微笑を浮かべて言った。
「とんでもございません。大変無礼なことをしてしまったようで」
 岸井は、困った表情を浮かべ言った。
「悪いが、時間がないので私は失礼するよ。これから講演なので」
 吉野氏は、そう言いながら、応接室を出て行った。
 しばらく、岸井と龍一の間に沈黙の時が流れた。
 岸井は言った。
「白川君、君は社に帰ってなさい。講演の取材は、私一人だけでする。社に戻ったら、自分の今後についてじっくり考えてなさい」
 岸井は、凍った表情で龍一を見つめ、さっさと応接室を出て行った。
 龍一は、応接室に一人残され思った。これは、首を意味するのだろうか。おそらく、そうだろう。それなら、それでいいやと思った。どうも自分には向いている仕事には思えない感じだ。
 辞めさせられるのなら、社に帰らず、下宿屋に帰ろう。
 龍一が下宿屋に戻ったのは、その日の晩だった。西洋料理店で久しぶりにワインを飲みビフテキを食べた。上海にいた頃を思い出しながら食事を楽しんだ。
 龍一が下宿屋に戻ると、大西がいた。
「おい、どないしとったんか。岸井部長が心配しとったで。お前がいのうなって、困った様子やったで。無断で家に帰ったらあかんぞ」
 大西は、にやにやしながら言った。龍一には不気味に思えた。怒っているのか、喜んでいるのか分からない表情だ。
「おい、夕飯付き合えや。今晩は俺がおごるで」
 大西は、龍一を力強く引っ張った。龍一は、もう食事を済ませてきたと言いたかったが、そんな余裕さえ与えない強引さだった。
 大西とは何度か行ったことがある飲み屋に来た。焼き鳥と日本酒が出された。龍一は満腹であったが義理で食べていた。
「部長がわいに頼みごとしてきたんや。何でも、お前をなだめて欲しいとか言ってな。お前、何でも吉野先生とやりやったそうやな」「はい、それで部長が怒って僕を首にしたがってたようで、それで無断で家に帰りました。どうせ首でしょう」
 龍一は、酒をぐいっと飲み込んだ。
「何言うとんか。あれから、部長、吉野先生にお前を首にしたと言ったんだが、そのことで吉野先生からこっぴどく叱られたらしくてな。お前のような前途有望な記者を首にするとは何と了見が狭いんやと言われ、首にするなら今後朝夕の取材は受けへんと言ったらしいんや。民本主義では、誰もが言いたいことをいい議論することが認められなあかんからってな」
「そうだったんですか。そんなことを吉野教授がおっしゃったんですか」
 龍一は驚いた。自分は突っかかったつもりだったが、相手は悪くは解さなかったようだ。「ええか。お前は吉野作蔵教授というど偉い方に見込まれたんやで。自信もたなあかんぞ。俺も嬉しいで。お前は、どうやら期待通りの男やったようやな」
 龍一は、急に気が抜け、不思議と腹が空いてきた。そして、焼き鳥を手に取りむさぼった。

 
第7章に続く
# by masagata2004 | 2005-03-09 19:58 | 自作小説 | Comments(0)


私の体験記、意見、評論、人生観などについて書きます


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