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人生教訓小説2 能あるさくらは葉を隠す 第3章 政治家とトーク

東大卒官僚内定女性がアイドルに。

まずは第1章第2章をお読み下さい。

その日、さくらはディレクターから、いくつかいつもと違う注文を受けた。これまでの芸能人や作家を呼んだトークと違い、おふざけはほどほどにすること。だからといって、さくらには政治なんて分からないだろうから、かたくなり過ぎず、ごく身近な話題に政治を少し関連づけるだけでいいと。相手もそのことはよく分かっているので、そんな感じで進めて欲しいとのことだった。

しかし、サユリは不思議でならなかった。なぜ、小津次郎のような大物政治家が、自分の番組に出演しようなどと思ったのか。若年者の票を狙ってなのか。だが、さくらの番組は主に未成年と20代前半の女性で、投票権がまだないか、あっても、もっとも政治に関心のない層だ。まあ、そういう層からの票の掘り起こしも大事だが、しかし、さくらの番組でなくてもと思う。

さて、番組が始まった。
「さあ、今日は、この番組にとってはとても意外なゲストをお呼びします。民主党党首、近々総理大臣になるかもしれない小津次郎さんです」
小津が、スタジオに入った。
「はじめまして、小津さん」
「いやあ、こちらこそ、よろしく、ご招待いただいてうれしいです」
と小津。年は41歳、だが、見た目はもっと若々しく30代に見える。さゆりと同じ東大卒で、その後、財務省官僚だったが、官僚をやめ、政治家の道にまっしぐら、今や日本の政権交代のホープだ。まだ独身で長身に甘いマスクと声、女性からの人気も抜群に高い。そのうえ、とても頭が切れる。不人気の政権党を尻目に小津の党首就任以来、支持率は鰻登りで、近々、行われる予定の衆院選では政権交代確実、総理大臣、それも史上最年少での就任が目前とされている。もっとも、番組パーソナリティの上野さくらは、そんな政治の世界の話しなど全く分からない。
そんなパープリン・ギャルのふりをしながらも、不真面目にならない形で小津とトークをしろとは難しすぎる。何と言っても、サユリには、この男にとってもいっぱい、政治の話しで聞きたいことがある。普段、読んでいる新聞、専門誌、官報から沸いて出てくる質問だ。だが、そんな質問をしてしまえば、かわいいスウィーツ・ギャルのイメージが台無しになる。
とりあえず、事前に決めている質問のリストをながめながら、進行司会をしていく。
「小津さんは、どうしてこの番組に出演したいと思ったのですか、私、さくらのようなのが相手じゃ、つまらないんじゃありません?」
「いやあ、さくらさんこそ、お会いしたかったんだよ。きっと、身のある話しが出来るんじゃないかと思ってね。今後の日本の未来を担う青年を代表して、どんな意見を持っているかなっと思ってね」
小津はにこにこ顔で話す。白々しくない素振りにほっとする。
「いやだ、私なんて小津さんの相手になれるか全然自信なくて、だって、政治のことは全く分からないんですもの」
「分からなくてもいい。大事なのはどんな形でも、関心を持とうとすること。分かりやすく説明するのは我々政治家の役割だからね」
「若者の政治に対する無関心を変えたいと思ったのですか」
「そうだね、きっとこの番組に出れば、観ている人の気持ちが変わって政治に関心を持ってくれる。そうすれば、こっちのものだ」
おっと、党首に選挙運動をさせてはいけない。さゆりは、方向をずらそうと、さくららしいトークを展開した
「小津さんの好きな食べ物はなんです?」
「スパゲティだ」
「スパゲティの何を?」
「ミートソース」
「うわああ、私も大好き」
「スパゲティにどんな飲み物を飲むんですか」
「赤ワインだね」
「いやだ、それも私が大好きなもの」
とさくら。実をいうと酒は飲めないたち。だが、話しを合わせないと。
「ペットを飼われているとききましたが」
「ああ、猫を1匹ね」
「私もです。どんな種類を」
「ペルシャ猫だよ、メスの」
「私は雄でシャム猫です。お互い猫好きってことですね」
これは事実だ。さくらは最近、仕事で知り合った者から子猫のシャムを貰った。
激務の中、猫は実にいい癒しになっている。
こんな感じで、政治とは無縁のお喋りが続く。小津は、嫌がる素振りも見せず、延々と相手をする。そして、男性ゲストにはお決まりできく質問を投げかけた。
「小津さんの好きな女性のタイプってありますか」
「ああ、僕が好きなのは、頭のいい女性だ。頭がいいのだが、それを表にひけらかさない人だ」
「能ある鷹は爪を隠すですか」
おっと、さくらが知ってそうでない諺を出してしまった。ま、いいか、このくらい。
「そうだよ。全くのところ、そんな人こそ、真に賢い人で、そんな人こそ、いざという時に世の中を救える力を持つと思う」
小津は、目の瞳孔を開き、輝かせながらさくらを見つめ言う。
「そんな女性にもう出会いましたか」
「さあ、どうかな」
「政治の世界には、たくさん、そんな人がいるのでしょう」
「いやあ、なかなかいるもんじゃないんだよ」
何となく怪しい目つきを小津がさくらに送る。どうしようかなと思い、さくらは、思い切って政治の話題を振り分けてみた。
「小津さんは政府が出している定額給付金に反対されているそうですね。でも、私なんか、一万二千円貰えるんなら喜んじゃう」
「一万二千円で何をするの?」
「うーん、化粧品とか服を買ったりとか」
「だが、景気の悪い今だと、断然、貯金に回す人が多いだろう。それだと、経済的な効果は低い。むしろ、その給付に回す二兆円もの予算を失業した人々の支援などに回すと効率がいいと思わないかね」
「うーん、でも、さくらとしては買い物のお金が増える方がよくて」
「それで浮かれて、困っている人は放置していいの?」
「いや、そんなの絶対嫌、ほっとけない」
とさくらは、思わず反応した。そんな薄情に思われたくない、と感じたからだ。
「ほっとけないと思ったら、政治にしっかりと関心を持つことだ」

番組は終わった。その後、小津とさくらとの対談は好評で、新聞や雑誌が好意的に伝え、民主党の支持率がさらに上昇した。さくらは、決して意図したことではなかったが、その結果には満足した。政治に関心も兼ねてから持つサユリにとっては早期の政権交代は望ましいことだからだ。

しかし、サユリは、番組終了後から、ずっとふに落ちないことを感じ続けていた。小津は、何だって自分の番組に出たのか。テレビにしろ、ネットにしろ、小津が選挙運動のため出演すべき番組はたくさんある。なぜ、自分の番組が選ばれたのか。小津が何かを企んでいるのではないかと勘ぐってしまう。

テレビ局のクイズ番組収録の終了後、深夜、サユリは団十郎と共に局の裏門を出た。ハイヤーの車のところまでいこうとした。突然、目の前を遮るように、黒塗りの車が、車から中年の女性が現れた。
「さくらさん、私は小津次郎の秘書です。よろしければ、これから小津と会っていただけませんか」
唐突に何だ。すぐにでも寝たい気分のさゆりは、そっけなく返した。
「いえ、私はこれから忙しいので。この前の番組でお話はじっくり出来たと思いますよ」
と無視して通り過ぎようとした。
「小津は、今度は上野さくらではなく、「上原サユリ」さんとお話がしたいと申しているのです」
と秘書が言い、さくらと団十郎ははっとした。どういうことだ。さくらの本名など、一部の者しか知らない極秘情報なのに。

やはり、小津は何かを企んでいた、とサユリは悟った。

第4章へつづく。
by masagata2004 | 2009-02-11 17:51 | 時事トピック | Trackback | Comments(0)


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