特別小説 「ミスター・ディープスロート」
10日前か2週間前、マサガタという30代のしがないフリッターは、新宿・歌舞伎町のバーに入り、うさをはらしていた。毎日が退屈で過酷である。そんなうさを晴らすため、バーでウィスキーを飲んでいた。
そんな時、同じカウンターに一人の男が座っているのを見つけた。その男は、外人のようだ。バーの中は暗くて肌の色がはっきりせず、白人か黒人であるかは分からないが、彫りが深く、外国人であることだけははっきりする。年齢は30近くか、でも、それもはっきりしない。ことさら、外人だと年齢は分かりづらい。
マサガタは、英語が少しばかりできるので、「ハイ、あんたはどこから来たものなんだい?」ときいた。
すると男は「ヨコスカ・ネイビー・ベース」と。
「ヨコスカの米海軍基地、もしかして原子力空母のある」
「ああ、あんたらが嫌っている船で働いているんだ」
と男は、原子力空母という言葉からマサガタの空母に対する悪感情を読み取ったようだ。そのとおり、マサガタは空母の配備にずっと反対であった。原子力空母ジョージ・ワシントン。横須賀に母港として昨年の9月から配備された軍艦だ。航行の動力源に原子炉を搭載しており、横須賀という首都から20キロ程度しか離れていない街に、原発が停泊しているようなものだ。
「今は休暇なの?」
「ああ、そうさ」
「軍艦で働いているっていうことは兵士?」
「いや、俺は、機関士だ」
「て、いうことは、原子力を扱っている?」
「ああ、そうさ」
マサガタはあることを思いついた。
「実を言うと、私はフリーライターで、あんたの船のことを調べているんだ。現場で働いている人の声を聞きたくてね。インタビューに応じてくれないか」
「いやねえ、そういうことは上官から禁じられているから」
「じゃあ、せめてメールで交信なんてできない?」
「ああ、いいよ。ホットメールのアカウントを持っている。そこにメールでもくれ。俺は今から、ここを出る。明日は早朝から24時間勤務だからね。早く帰って寝ないと」
「おっと、名前は?」
「ディープスロート」
「ディープスロート、変な名前だね」
「そう呼んでくれということだ。本名は教えられねえ。それから、メールアドレスはディープスロートXXXXアットマーク・ホットメール・ドット・コムだ」
男は去っていった。
マサガタは自宅に戻り、ディープスロートにメールを打った。
「インタビューを是非ともしたい」と。
そして、ディープスロートは返した。
「いいよ。また同じバーで」
マサガタは、またそこにいった。指定された時間は深夜だった。そこでインタビューをすることに。気になるのは、原子炉の安全性だ。
薄暗い中で質疑応答が始まる。
「停泊中は原子炉を停止していると聞いた。だが、炉は冷却し続けなければならず、そのため地上から電力を引いて冷却装置を動かし続けていると聞くが、もし地震などで地上の電力供給施設が破壊を受けたら、冷却が出来ず、メルトダウンが起こってしまうのではないか?」
「まず、そのようなことは起こらない。艦船は世界中のあらゆる状況を想定に入れて設計されている。当然、地震にも耐える設計がされている。電力が供給されない場合も、艦内のディーゼル燃料を使った電源で冷却装置を動かし続けられる。仮にそれも機能しなくなっても、現状では空気だけでも十分冷却は可能だ。
念のため、原子炉は24時間、1秒たりとも人の目が離れることはない。原子炉担当のスタッフは皆、2、3年以上、少なくとも2、3カ所の原子力施設での実習の経験があるプロたちだ。」
「過去に冷却水が漏れたり作業員が被ばくするような事故が起こっているようだが、米海軍は「事故はない」と主張している。理解できないが?」
「海軍の事故の定義は、核分裂物質が炉から漏れるような事態をいう。指摘したような事例は事故にはあたらない。」
「艦船に飛行機が上から、または横から激突するようなことがあっても、原子炉は大丈夫なのか?」
続きは、こちらを。
いやあ、機密すれすれ?のことをよくも話してくれました。ちなみに「ディープスロート」とは、かの有名なウォーターゲート事件における内部告発者の呼び名から借りたもの。結局のところ、数年前に姿を現し、正体はFBI元副長官だったと。巨悪を暴いた美談というより、実を言うと、政界内部の足の引っ張り合いだったというのが実態だった。ついでにディープ・スロートは、当時、論争となっていたポルノ映画のタイトル。口にアレがあるので、当時、アメリカでは同性愛と同様に犯罪となっていた尺八が楽しめる女性という意味。ディープスロートは、つまりそんな喉(スロート)のある女性なのだが、ワシントン・ポストの記者やマサガタが会ったディープスロートは男性なので、ミスターをつけておこうと思う。
今回、ミスター・ディープ・スロートがマサガタに話してくれた内容自体は、大したことではないと思う。おそらく、こんなことが一般にもれたところで機密に触れるというほど重大なことではない。表向き、おおぴらにはしないようなことだけど、知られたからって困るほどではないだろうし。そもそも、彼は機関士であっても、原子力の専門家ではないから、実習や訓練で教わる技術的な知識でしかない。その中でも、知られてもどうでもいいやつだけを話した。ただ、米軍が心配するとしたら、マサガタがスパイではないのかとか。でも、スパイなら、記事にはしたりしないぞ。
ちなみにアメリカ同様、日本でも取材源の秘匿は、裁判の判例で認められている。でも、ネット新聞ごときにジャーナリズムなんて認められるか心配だけど。
でも、スパイなら、まるで007だ。この前、最新作慰めの報酬っていうの見たな。マサガタはダニエル・クレッグのように格好良くはないけど、あんなにかっこよく立ち回れるかな。
みくびるな、これでも合気道10級だ!
もしかして、軍機違反の乗組員は誰で、そいつから何を聞き出したかと、問い詰めるため拷問するのか。マサガタは、ディープスロートの本名も知らないし、記事に書かれていること以外は聞いていないが、向こうも心配だろうから、とりあえず、本当のところはどうなのかを突き止めるためするだろう。自衛隊と違い、本物の戦争やっている最中だからね。
ホースによる水攻め、うーん、だが、同じホースでも、アレを使うかも。やつら、鉄の檻で日々欲求不満だからな。女性が少ない環境のうえ、筋肉むきむき同士がにらみ合い、おまけにキリスト教の教えによるルールでそっちで発散することができない日々。
となると、おお、超ハード! ジェームズ・ボンドも、その手の訓練は受けているのかな。
憧れがあっても、ジャーナリストにも、スパイにも、絶対になりたくないね。
まあ、マサガタ程度でもこんな話しが聞けたんだから、ボンドなら設計図を入手しているわな。
あと、心配なのは、マサガタの家にガサ入れが入っているかも。といっても価値のあるものなんてないだろうけど。ラスト・コーションのDVDは別かな? あとアルマーニ・ジャケット。しかし、ご安心。そんなこともあろうと、ブービートラップを仕込んでおいたから。一番、手ごわいトラップはこれだ。侵入者に容赦なく襲いかかるぞ!
さて、マサガタは、あと何日、生きられるか。
そんな時、同じカウンターに一人の男が座っているのを見つけた。その男は、外人のようだ。バーの中は暗くて肌の色がはっきりせず、白人か黒人であるかは分からないが、彫りが深く、外国人であることだけははっきりする。年齢は30近くか、でも、それもはっきりしない。ことさら、外人だと年齢は分かりづらい。
マサガタは、英語が少しばかりできるので、「ハイ、あんたはどこから来たものなんだい?」ときいた。
すると男は「ヨコスカ・ネイビー・ベース」と。
「ヨコスカの米海軍基地、もしかして原子力空母のある」
「ああ、あんたらが嫌っている船で働いているんだ」
と男は、原子力空母という言葉からマサガタの空母に対する悪感情を読み取ったようだ。そのとおり、マサガタは空母の配備にずっと反対であった。原子力空母ジョージ・ワシントン。横須賀に母港として昨年の9月から配備された軍艦だ。航行の動力源に原子炉を搭載しており、横須賀という首都から20キロ程度しか離れていない街に、原発が停泊しているようなものだ。
「今は休暇なの?」
「ああ、そうさ」
「軍艦で働いているっていうことは兵士?」
「いや、俺は、機関士だ」
「て、いうことは、原子力を扱っている?」
「ああ、そうさ」
マサガタはあることを思いついた。
「実を言うと、私はフリーライターで、あんたの船のことを調べているんだ。現場で働いている人の声を聞きたくてね。インタビューに応じてくれないか」
「いやねえ、そういうことは上官から禁じられているから」
「じゃあ、せめてメールで交信なんてできない?」
「ああ、いいよ。ホットメールのアカウントを持っている。そこにメールでもくれ。俺は今から、ここを出る。明日は早朝から24時間勤務だからね。早く帰って寝ないと」
「おっと、名前は?」
「ディープスロート」
「ディープスロート、変な名前だね」
「そう呼んでくれということだ。本名は教えられねえ。それから、メールアドレスはディープスロートXXXXアットマーク・ホットメール・ドット・コムだ」
男は去っていった。
マサガタは自宅に戻り、ディープスロートにメールを打った。
「インタビューを是非ともしたい」と。
そして、ディープスロートは返した。
「いいよ。また同じバーで」
マサガタは、またそこにいった。指定された時間は深夜だった。そこでインタビューをすることに。気になるのは、原子炉の安全性だ。
薄暗い中で質疑応答が始まる。
「停泊中は原子炉を停止していると聞いた。だが、炉は冷却し続けなければならず、そのため地上から電力を引いて冷却装置を動かし続けていると聞くが、もし地震などで地上の電力供給施設が破壊を受けたら、冷却が出来ず、メルトダウンが起こってしまうのではないか?」
「まず、そのようなことは起こらない。艦船は世界中のあらゆる状況を想定に入れて設計されている。当然、地震にも耐える設計がされている。電力が供給されない場合も、艦内のディーゼル燃料を使った電源で冷却装置を動かし続けられる。仮にそれも機能しなくなっても、現状では空気だけでも十分冷却は可能だ。
念のため、原子炉は24時間、1秒たりとも人の目が離れることはない。原子炉担当のスタッフは皆、2、3年以上、少なくとも2、3カ所の原子力施設での実習の経験があるプロたちだ。」
「過去に冷却水が漏れたり作業員が被ばくするような事故が起こっているようだが、米海軍は「事故はない」と主張している。理解できないが?」
「海軍の事故の定義は、核分裂物質が炉から漏れるような事態をいう。指摘したような事例は事故にはあたらない。」
「艦船に飛行機が上から、または横から激突するようなことがあっても、原子炉は大丈夫なのか?」
続きは、こちらを。
いやあ、機密すれすれ?のことをよくも話してくれました。ちなみに「ディープスロート」とは、かの有名なウォーターゲート事件における内部告発者の呼び名から借りたもの。結局のところ、数年前に姿を現し、正体はFBI元副長官だったと。巨悪を暴いた美談というより、実を言うと、政界内部の足の引っ張り合いだったというのが実態だった。ついでにディープ・スロートは、当時、論争となっていたポルノ映画のタイトル。口にアレがあるので、当時、アメリカでは同性愛と同様に犯罪となっていた尺八が楽しめる女性という意味。ディープスロートは、つまりそんな喉(スロート)のある女性なのだが、ワシントン・ポストの記者やマサガタが会ったディープスロートは男性なので、ミスターをつけておこうと思う。
今回、ミスター・ディープ・スロートがマサガタに話してくれた内容自体は、大したことではないと思う。おそらく、こんなことが一般にもれたところで機密に触れるというほど重大なことではない。表向き、おおぴらにはしないようなことだけど、知られたからって困るほどではないだろうし。そもそも、彼は機関士であっても、原子力の専門家ではないから、実習や訓練で教わる技術的な知識でしかない。その中でも、知られてもどうでもいいやつだけを話した。ただ、米軍が心配するとしたら、マサガタがスパイではないのかとか。でも、スパイなら、記事にはしたりしないぞ。
ちなみにアメリカ同様、日本でも取材源の秘匿は、裁判の判例で認められている。でも、ネット新聞ごときにジャーナリズムなんて認められるか心配だけど。
でも、スパイなら、まるで007だ。この前、最新作慰めの報酬っていうの見たな。マサガタはダニエル・クレッグのように格好良くはないけど、あんなにかっこよく立ち回れるかな。
みくびるな、これでも合気道10級だ!
もしかして、軍機違反の乗組員は誰で、そいつから何を聞き出したかと、問い詰めるため拷問するのか。マサガタは、ディープスロートの本名も知らないし、記事に書かれていること以外は聞いていないが、向こうも心配だろうから、とりあえず、本当のところはどうなのかを突き止めるためするだろう。自衛隊と違い、本物の戦争やっている最中だからね。
ホースによる水攻め、うーん、だが、同じホースでも、アレを使うかも。やつら、鉄の檻で日々欲求不満だからな。女性が少ない環境のうえ、筋肉むきむき同士がにらみ合い、おまけにキリスト教の教えによるルールでそっちで発散することができない日々。
となると、おお、超ハード! ジェームズ・ボンドも、その手の訓練は受けているのかな。
憧れがあっても、ジャーナリストにも、スパイにも、絶対になりたくないね。
まあ、マサガタ程度でもこんな話しが聞けたんだから、ボンドなら設計図を入手しているわな。
あと、心配なのは、マサガタの家にガサ入れが入っているかも。といっても価値のあるものなんてないだろうけど。ラスト・コーションのDVDは別かな? あとアルマーニ・ジャケット。しかし、ご安心。そんなこともあろうと、ブービートラップを仕込んでおいたから。一番、手ごわいトラップはこれだ。侵入者に容赦なく襲いかかるぞ!
さて、マサガタは、あと何日、生きられるか。
by masagata2004
| 2009-02-17 21:43
| 自作小説
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