平和教訓小説「平和という名の付く船」 最終章 海ゆかば
平和をモットーに世界一周航海をする船が、自衛隊の護衛を受けることに。次々と迫り来るハプニング。その時、乗客たちは!?
まずは、第1章から第6章までお読み下さい。
ゴンゾウだ。なぜ、こんなところに? と思いきや、様子が変だ。ゴンゾウが拳銃を持っている。そして、にたにたとした顔をして、タツミと田之上を睨んでいる。銃を2人に突きつけながら。
「ゴンゾウさん、いったい何をしているんです?」
「このデータボックスを、今すぐ渡して貰いに来たのさ」
「え? あなたがどうして?」
田之上も、タツミも仰天だ。ヒッピー上がりの歌手が何を言い出す?
「渡さないとなると、この娘の命はないよ」
と銃を持つ右手とは逆側の左手には、ゴスロリガールのミクが腕を回され震えている。
「いったい、どういうことなんだ?」とタツミ、詰め寄る。
「おまえが、この事件の黒幕だったということか」と田之上。
「そうさ、仏像なんてどうでもいい。そのデータボックスが狙いだったのさ。そのためにこの計画を練ったんだ。米海軍のやつらを金でたらし込んで、仏像とデータボックスを盗ませ、それを海軍の放射線探知機や衛星電波でも関知できない核爆弾収納ボックスに入れた。地上の港に持ち運ぶと監視されているから、データボックスは見つかるのは分かっている。この船で運ばせアデン湾で海賊に襲われたと見せかけ奪い去る。そこで一緒にとんずらする手はずだった。ちなみに仏像は、何かあったときのカモフラージュだ」
「信じらん? あんたのような人がこんなことに関与していたとは?」
「むしろ、リーダー格といって欲しいな。米兵が乗り込んできたときには驚いたよ。さすがだよ、あの連中は、そうまでしても取り戻そうとする。ボックス取り戻すためなら、この船を沈める覚悟でもいたんだろう。まあ、ひ弱な自衛隊が、勇敢にも撃退してくれて、結果として満足なものになった。だが、困ったことに、その自衛隊が俺の仲間を撃ちのめしてしまうとはな。まさか、そんなことまでやってのけるとは、困っていいのやら、よろこんでいいのやら」
「一体、どうしてこの船を選んだ?」
「分かるだろう。一番、警戒が薄くてカモフラージュになりやすい船だからさ、だから、あんたの偽善平和団体にボランティアとして登録して、貧乏旅行の振りして潜んだというわけだ。しかし、とんでもない誤算があった。それは、この平和呆けを得意とする連中の船が、自衛隊の護衛を頼むとはな。自衛隊の実戦能力を見下したのと同様、あんたらの組織の偽善ぶりを視野に入れてなかったことが何よりも誤算だったよ、ハハハ」
とゴンゾウ、タツミをこき下ろすように言う。
「さあ、そのカバンを渡すんだ。すぐに渡さないと、この小娘の頭吹っ飛ぶぞ」
銃口をミクの頭にしっかりと突きつける。ミクは体も顔も固まっている。
田之上はボックスをゆっくりと運ぶ。
「おい、おまえ、このボックスを受け取れ」とゴンゾウはミクに命ずる。
ミクは涙を流しながら、両手でボックスを受け取る。
「さあ、次だ。あんた、代表よ。俺は甲板行くから、ボートを用意してくれ。港との連絡用のがあるだろう。それに乗っかりたいんだ」
ボックスを持ったミクに銃を突きつけながら、ゴンゾウは甲板に行く。田之上とタツミもついていく。甲板に着く。一番低く、海面に近いところだ。タツミは、連絡用のボートをロープを回しながら下ろす。ボートにはモーターエンジンがついている。
「さあ、ミクちゃんを離すんだ」とタツミ。
「いや、このこは人質だ。一緒に連れて行く。あとはどうしようが俺の自由だ。仲間は近くにいるから、すぐに応援にかけつける。その後、ディエゴガルシア近くでデータをいただく。これで大金持ちになれる。核爆弾も持つことが出来る。は、は、は」とゴンゾウは高笑いをする。
すると、ミクは
「いやああ」と叫び。手に持っていたカバンを振り投げた。ボックスは、海面に落ち、一気に水中へと沈んでいった。
「この、あまああ」とゴンゾウが怒りを込め叫ぶ。そして、持っていた銃をミクの頭に突きつける。あ、お終いだ! と思いきや、田之上が前に立ちはがり、銃を取り上げようとする。
すると、ゴンゾウは銃を突きつけ、発射。パーン、パーンと炸裂する音がする。
ミクはゴンゾウから体が離れた。だが、田之上は、銃弾を受け床に倒れこんだ。胴体血まみれだ。
次にゴンゾウはタツミに狙いをつけるが、「この野郎」とタツミは叫び、足蹴りで銃をゴンゾウの手から放し、さらにゴンゾウにパンチを加え、甲板から海面に突き落とした。
海面に落ちたゴンゾウは、慌てふためいた。泳げないのだ。
「うわあ、助けてくれ」と叫ぶ。タツミは、急いで田之上を見た。胴体と口から多量の血が流れている。
人工呼吸を試みたが、すでに息がない。殉職したのだった。
護衛艦が到着後、船に平穏が戻った。だが、自衛官一名の死は、艦内及び船内にとてつもない衝撃を与えた。ワールドピース号は修理の後、護衛艦と共に、帰国の途につくこととなる。ツアーは中止だ。しかし、乗客たちは自衛隊のおかげで自分たちの命が助かったことを実感した。
タツミは過去のことを思い出した。なぜ、自衛隊を去ったのか。国を守るためにしたことだったが、自らが航海士をつとめた艦がぶつけた活動家のボートは転覆。それで溺れ死んだ者がいた。そのことが国際問題に発展。領土問題という政治問題が絡むため、航海士の判断ミスということで片づけられ、タツミは依願退職を余儀なくされた。
そんなことに嫌気が差し、タツミは平和団体での活動に没頭した。嫌な過去から自らを切り離すためのことだった。忘れられる、と思った。駆け込み寺のつもりでいた。だが、どんなところにいても、危機というものは必ず襲ってくる。逃げられないのだ。誰かが命懸けで立ち向かって難を逃れなければいけない。そんなことを痛感した。
田之上は、遺言で公務中、海上で死ぬことがあれば、そこで海上葬儀をして、自らの遺体を入れた棺桶を日の丸の旗に包んで、海中に放り投げて欲しいと書き残していた。独り身で家族や親戚もいない身なので、そうして欲しいと。そして、その葬儀には、自らが自衛艦になる決意をしたきっかけとなった歌「海ゆかば」を歌ってもらいたいとも。
さて、誰が歌うことになるのか。艦上の葬儀には、タツミを含め乗客たちが参列した。その中に、田之上に命を救われたミクがいた。相変わらずのゴスロリスタイルだが、だが、色合いがやや暗めだ。葬儀を意識してか。
日の丸に包まれた棺桶を見つめ、ミクは歌った。
「海ゆかば 水漬(みづ)く屍(かばね) 山ゆかば 草蒸す屍 大君の 邊(へ)にこそ死なめ かえりみは(わ)せじ」
歌い終わると、目から涙をこぼしていた。
棺桶は、日の丸と共に海中へ艦から放り投げられた。
タツミは、沈んでゆく棺桶に対し敬礼した。
終わり
この物語に対峙するテーマの「日の丸に死す」もよろしく。それから、テーマは、ほぼ同じくする来年から連載予定の「ヨーソロ、三笠」もよろしく。
まずは、第1章から第6章までお読み下さい。
ゴンゾウだ。なぜ、こんなところに? と思いきや、様子が変だ。ゴンゾウが拳銃を持っている。そして、にたにたとした顔をして、タツミと田之上を睨んでいる。銃を2人に突きつけながら。
「ゴンゾウさん、いったい何をしているんです?」
「このデータボックスを、今すぐ渡して貰いに来たのさ」
「え? あなたがどうして?」
田之上も、タツミも仰天だ。ヒッピー上がりの歌手が何を言い出す?
「渡さないとなると、この娘の命はないよ」
と銃を持つ右手とは逆側の左手には、ゴスロリガールのミクが腕を回され震えている。
「いったい、どういうことなんだ?」とタツミ、詰め寄る。
「おまえが、この事件の黒幕だったということか」と田之上。
「そうさ、仏像なんてどうでもいい。そのデータボックスが狙いだったのさ。そのためにこの計画を練ったんだ。米海軍のやつらを金でたらし込んで、仏像とデータボックスを盗ませ、それを海軍の放射線探知機や衛星電波でも関知できない核爆弾収納ボックスに入れた。地上の港に持ち運ぶと監視されているから、データボックスは見つかるのは分かっている。この船で運ばせアデン湾で海賊に襲われたと見せかけ奪い去る。そこで一緒にとんずらする手はずだった。ちなみに仏像は、何かあったときのカモフラージュだ」
「信じらん? あんたのような人がこんなことに関与していたとは?」
「むしろ、リーダー格といって欲しいな。米兵が乗り込んできたときには驚いたよ。さすがだよ、あの連中は、そうまでしても取り戻そうとする。ボックス取り戻すためなら、この船を沈める覚悟でもいたんだろう。まあ、ひ弱な自衛隊が、勇敢にも撃退してくれて、結果として満足なものになった。だが、困ったことに、その自衛隊が俺の仲間を撃ちのめしてしまうとはな。まさか、そんなことまでやってのけるとは、困っていいのやら、よろこんでいいのやら」
「一体、どうしてこの船を選んだ?」
「分かるだろう。一番、警戒が薄くてカモフラージュになりやすい船だからさ、だから、あんたの偽善平和団体にボランティアとして登録して、貧乏旅行の振りして潜んだというわけだ。しかし、とんでもない誤算があった。それは、この平和呆けを得意とする連中の船が、自衛隊の護衛を頼むとはな。自衛隊の実戦能力を見下したのと同様、あんたらの組織の偽善ぶりを視野に入れてなかったことが何よりも誤算だったよ、ハハハ」
とゴンゾウ、タツミをこき下ろすように言う。
「さあ、そのカバンを渡すんだ。すぐに渡さないと、この小娘の頭吹っ飛ぶぞ」
銃口をミクの頭にしっかりと突きつける。ミクは体も顔も固まっている。
田之上はボックスをゆっくりと運ぶ。
「おい、おまえ、このボックスを受け取れ」とゴンゾウはミクに命ずる。
ミクは涙を流しながら、両手でボックスを受け取る。
「さあ、次だ。あんた、代表よ。俺は甲板行くから、ボートを用意してくれ。港との連絡用のがあるだろう。それに乗っかりたいんだ」
ボックスを持ったミクに銃を突きつけながら、ゴンゾウは甲板に行く。田之上とタツミもついていく。甲板に着く。一番低く、海面に近いところだ。タツミは、連絡用のボートをロープを回しながら下ろす。ボートにはモーターエンジンがついている。
「さあ、ミクちゃんを離すんだ」とタツミ。
「いや、このこは人質だ。一緒に連れて行く。あとはどうしようが俺の自由だ。仲間は近くにいるから、すぐに応援にかけつける。その後、ディエゴガルシア近くでデータをいただく。これで大金持ちになれる。核爆弾も持つことが出来る。は、は、は」とゴンゾウは高笑いをする。
すると、ミクは
「いやああ」と叫び。手に持っていたカバンを振り投げた。ボックスは、海面に落ち、一気に水中へと沈んでいった。
「この、あまああ」とゴンゾウが怒りを込め叫ぶ。そして、持っていた銃をミクの頭に突きつける。あ、お終いだ! と思いきや、田之上が前に立ちはがり、銃を取り上げようとする。
すると、ゴンゾウは銃を突きつけ、発射。パーン、パーンと炸裂する音がする。
ミクはゴンゾウから体が離れた。だが、田之上は、銃弾を受け床に倒れこんだ。胴体血まみれだ。
次にゴンゾウはタツミに狙いをつけるが、「この野郎」とタツミは叫び、足蹴りで銃をゴンゾウの手から放し、さらにゴンゾウにパンチを加え、甲板から海面に突き落とした。
海面に落ちたゴンゾウは、慌てふためいた。泳げないのだ。
「うわあ、助けてくれ」と叫ぶ。タツミは、急いで田之上を見た。胴体と口から多量の血が流れている。
人工呼吸を試みたが、すでに息がない。殉職したのだった。
護衛艦が到着後、船に平穏が戻った。だが、自衛官一名の死は、艦内及び船内にとてつもない衝撃を与えた。ワールドピース号は修理の後、護衛艦と共に、帰国の途につくこととなる。ツアーは中止だ。しかし、乗客たちは自衛隊のおかげで自分たちの命が助かったことを実感した。
タツミは過去のことを思い出した。なぜ、自衛隊を去ったのか。国を守るためにしたことだったが、自らが航海士をつとめた艦がぶつけた活動家のボートは転覆。それで溺れ死んだ者がいた。そのことが国際問題に発展。領土問題という政治問題が絡むため、航海士の判断ミスということで片づけられ、タツミは依願退職を余儀なくされた。
そんなことに嫌気が差し、タツミは平和団体での活動に没頭した。嫌な過去から自らを切り離すためのことだった。忘れられる、と思った。駆け込み寺のつもりでいた。だが、どんなところにいても、危機というものは必ず襲ってくる。逃げられないのだ。誰かが命懸けで立ち向かって難を逃れなければいけない。そんなことを痛感した。
田之上は、遺言で公務中、海上で死ぬことがあれば、そこで海上葬儀をして、自らの遺体を入れた棺桶を日の丸の旗に包んで、海中に放り投げて欲しいと書き残していた。独り身で家族や親戚もいない身なので、そうして欲しいと。そして、その葬儀には、自らが自衛艦になる決意をしたきっかけとなった歌「海ゆかば」を歌ってもらいたいとも。
さて、誰が歌うことになるのか。艦上の葬儀には、タツミを含め乗客たちが参列した。その中に、田之上に命を救われたミクがいた。相変わらずのゴスロリスタイルだが、だが、色合いがやや暗めだ。葬儀を意識してか。
日の丸に包まれた棺桶を見つめ、ミクは歌った。
「海ゆかば 水漬(みづ)く屍(かばね) 山ゆかば 草蒸す屍 大君の 邊(へ)にこそ死なめ かえりみは(わ)せじ」
歌い終わると、目から涙をこぼしていた。
棺桶は、日の丸と共に海中へ艦から放り投げられた。
タツミは、沈んでゆく棺桶に対し敬礼した。
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この物語に対峙するテーマの「日の丸に死す」もよろしく。それから、テーマは、ほぼ同じくする来年から連載予定の「ヨーソロ、三笠」もよろしく。
by masagata2004
| 2009-10-27 21:15
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