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アレルギー小説「日本男児をやめられない」 最終章 海渡りと潮抜き

高温多湿の日本に来てゴム・アレルギーにかかったカナダ人が体験する日本の伝統文化とは。

まずは第1章から第5章までお読み下さい。

次の週、祭りの日が来た。神社を中心に町の人々、隣町の人々、それに今年は20年ぶりに海渡りでの褌着用が復活ということが話題になり、より遠くからも見物客がやってきた。

そして、ジャックにとっては思わぬ訪問客と対面した。それは妹のアンヌだ。驚きの知らせを受けた。アンヌは、数年前にアメリカ人と結婚してニューヨークに住んでいたのだが、夫がゲイであることが発覚。その上、最近、州で合法化された同性婚で新しいパートナーと結婚するつもりで、そのため、アンヌに離婚を申し出てきたというのだ。もちろんのこと、離婚したのだが、結果、心に深い傷を負ってしまった。何とか気分を変えようと兄のジャックがいる日本まで飛んできたというのだ。ジャックは、気分転換に祭り見物を勧めた。アンヌのため浴衣も繕った。

祭りの日、晴天で町は大盛況であった。神社から海岸までの通りはごった返した状態だ。商店街がいつになく賑わい、そして、神社は露店が軒を連ね、そこも大賑わいであった。

朝から町のどこかしこから笛太鼓が鳴る。アンヌは百合子に連れられ、いろいろなところを案内された。しかし、こんな賑わっている中でも、アンヌの表情は浮かない。必死で雰囲気に合わせて笑おうとしているのだが、それ以上に心の傷が深いようだ。

お昼が過ぎた。ついに目玉イベントの御輿担ぎと海渡りが行われる。特に海渡りは、腹巻きと褌の男衆によるものなので注目の的だ。神社で、お清めの儀式が執り行われ、御輿を担ぐ町民が一同に境内に集まり静かで厳かな儀式が執り行われた。神社の宮司が現れ、祈祷をするなどの儀式だ。ジャックは、仲間と一緒に境内に立って、その儀式をじっと見つめていた。初めて見る光景だ。その荘厳さに強い衝撃を受けた。

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清め儀式が終わった。さあ、始まる。まずは御輿担ぎだ。ジャックや男衆一同は、腹巻きと六尺褌、鉢巻き、地下足袋をした格好になっているが、海岸までは、その上に法被を着ている。なので、褌が見える状態ではない。というのは、まずは、男衆だけでなく、老若男女を交えた町民が境内から海岸近くまで御輿を交代で担ぐのだ。それは同じ法被を着ていれば、男女関係ない。お祭りの和気あいあいのイベントとして執り行うものだからだ。御輿に触ることは縁起のいいことだとされるので、誰もが飛び入りで交代で担ぐ。

その周りでは笛太鼓の音がなる。御輿を担ぐ者達は「ワッショイ、ワッショイ」と揃えて掛け声を出す。

百合子も、それに混じって1分ほど担いだ。ジャックと泰蔵は、先頭で担いだり、離れて見守り指揮を取る。御輿、英語で訳すと、portable shrineと呼ぶらしい。つまり、持ち運べる神社。それを体に接して担ぐので、神と自らを接触させる感覚を味わえる。肩にかかる重みは神からの御達しのように感じられる。

ついに、海岸近くにやってきた。御輿は一旦、用意された台に置かれる。さっそく男衆の出番だ。それまで法被を着て一緒に担いでいた者、または、離れて見守っていた者、などが、一斉に法被を脱ぎ、白の鉢巻き、腹巻き、褌、地下足袋だけの姿になる。男衆数十人が御輿のそばで生尻を見せつけずらりと並んだ。若い者から年老いた者、痩せた者、太った者と尻の形は様々だ。壮観な眺めである。ジャックと泰蔵が担ぎ棒の先頭に来た。周囲の目は、彼らに釘付けだ。カメラのシャッター音も聞こえる。

特にジャックは祭り初の外人の担ぎ手で、おまけに祭りの幹事。背が高くがっしりとした体格。胸毛もあるのでさらに注目の的。もう褌が恥ずかしいなどといっている場合ではない。

男衆には、強い日差しも照りつけ輝いている。気温は三十度を超えている。なので、海に入るのは丁度いいぐらいだ。泰蔵は、ひとまず御輿から離れた。どうやら、海へ御輿を誘導する係りを担うつもりだ。一緒に昨年の幹事役である源がいる。太めの源の褌姿は相撲取りのようであった。
源は泰蔵に言った。
「泰蔵さん、二十年ぶりだな。褌で海に入るのは。いい気分だぜ」
「おう」と元気いっぱいの泰蔵。

ジャックは先頭で、同じく先頭の太郎と一緒に御輿の担ぎ棒を肩にしょっていた。その姿を百合子が見つめている。その百合子の隣にアンヌがいる。
ジャックは、掛け声をかけた。
「いくぞ! ワッショイ」
泰蔵と源が、手振りで皆を海へと誘導する。一同は、どんどん浜辺の方へ進んでいく。そして、砂浜に。

その後、波打ち際に来る。ここからが慎重だ。数百キロの御輿を担ぎながら、波打つ水の中に入っていくのだ。浅瀬が終わる三百メートルぐらいまで。丁度、小さな岩礁が見えるところまで担いでいくのだ。

ジャックも、数日前、下見として同コースに入ってみた。一番深いところはジャックの胸元まである。他の者だと肩ぐらいまではある深さだ。水の中なので、足元もふらつきやすい、そういう中を少しずつ進んでいくのだ。そして、岩礁の辺りまできたら、くるりと回って海岸へ引き返す。

周囲で笛太鼓が鳴り、一同は「ワッショイ、ワッショイ」と掛け声を上げる。地下足袋の中に水が入ってくる深さにまでなった。いよいよだ。そして、股の辺りまで。褌が、ぎりぎり見えるほどの深さになった。その深さで約百メートルだ。海岸で見物する人々が遠く小さく見えてしまう。自分たちが海の中に取り残されたような気分だ。
「よーし、深くなるぞ」と泰蔵が言う。
そして、沖の方を見ると数十メートル先に岩礁が。水がどんどん上がっていく。大事なことは御輿を海に沈ませないことだ。一同は団結した。
「ワッショイ、ワッショイ」と同時に掛け声をかけ、海岸の見物客にも聞こえるほどの大声を出した。海水に腰まで浸かる。腹巻きまでびっしょり濡れる。ジャックの胸元まで水位が上がった。一番深いところだ。岩礁が数メートル先にあるのが見えた。
「ようし、引き返すぞ」と泰蔵。泰蔵は首まで浸かっているが、足を地につけず、泳いでいる感覚だ。そして、引き返すように御輿のコース変更を誘導した。



さあ、陸を目指すぞ。御輿を神社に戻すのだ。
「行くぞ」とジャックは声を上げた。
陸に近付く。多くの見物客に混じって百合子とアンヌが手を振っているのが見えた。アンヌは、百合子と一緒ににこにこして見つめている。ジャックは、嬉しくなった。

陸に上がると一同、胸までびっしょり濡れた状態で、道路に上がり、御輿を担ぎ上げる。「ワッショイ、ワッショイ」と進んでいく。濡れた体、濡れた腹巻き、そして、濡れた褌が締め込まれた濡れた尻の数々。水がしたたる濡れ男たち。

神社に近付く前に、しなければならないことがある。それは潮抜きだ。放水ホースで真水を御輿と共に男衆が浴びる。すでに濡れているが、塩と泥の混じった海水による濡れた状態で境内に入るのでは清まらない。

その水が地面にまで落ちると、虹が辺りに広がった。まるで神の虹だ。感激の光景だった。
真水を日差しの照る中、ずっぽりと浴びるのは実に気持ちがいい。
百合子が、目を輝かせ、シャワーを浴びているジャックを見つめている。輝く瞳はジャックを呼び寄せているようだ。ジャックは、御輿から離れ、百合子に近付く。すると百合子も近寄ってきた。

ジャックは思わず百合子の手を取り、両腕で彼女の体を抱えた。百合子はジャックの両腕に抱えられると、二人は口と口を触れ合わせ、激しいキスをしてしまった。思わず、そうせずにはいられなかった。

ああ、こんなことしていいのか。ここはカナダじゃないぞ。

だが、周囲は大感動だ。歓声が上がり、大盛況だ。男衆たちも「ジャックさん、百合ちゃん、いいねえ」と声を上げている。

その後、御輿は境内に入った。とりあえず御輿を台の上に置いて、男衆は御輿から離れる。とりあえず、褌を外し風呂に入るのだ。この後も、様々な祭りイベントがある。

ジャックは、風呂場に行く前に百合子とアンヌのところまで行った。
「楽しかったか」とジャック。アンヌに対して言った。
「ええ、少しずつ気分が晴れていく感じ。過去のことを悔やんでも仕方ないもの」とアンヌ。
「ジャックさん、一緒に風呂に行こう」と太郎が後ろから声をかけた。
「OK」とジャック。太郎は、百合子を見つめる。だが、もう未練はないという感じの晴れ晴れとした表情だ。百合子もほっとした気分だ。

ジャックたちが銭湯に向かう姿を見つめ、アンヌが百合子に言った。
「あの男の子は誰? とってもセクシーなお尻ね。お近づきになりたいわ」
アンヌは、目を輝かせ太郎の尻に視線を集中させた。


大盛況の祭りが終わって一年近くが経った頃、ジャックは泰蔵と一緒に漁船の中にいた。漁師として泰蔵から修業を受けている。泰蔵は、すっかり元気を取り戻し、漁に戻った。ジャックは、あの祭り以来、海に関心を示し、泰蔵と同じ漁師になる決意をした。なので、泰蔵から修業を受けている。これから、日本で暮らしていくつもりだ。

漁から帰ると、家では腹を膨らませた妻、百合子が待っているのだ。百合子は、そろそろ出産だ。

ところで、百合子の幼馴染みの太郎はカナダにいる。それもジャックの妹アンヌと。アンヌは太郎の尻に惚れ、尻を追い回した挙げ句、太郎をものにしてしまったらしい。そして、二人でモントリオールへ。国際結婚を果たし、今は新婚生活。その回復力には並みならぬものがある。褌の魔力とはすごいものだ。

家の玄関から、隣のおばさんが大慌てで現れた。
「泰蔵さん、ジャックさん、大変よ。百合ちゃんが急に産気づいて、丁度、いま病院に運ばれたところなの」
予定ではあと一ヶ月先だった。ジャックと泰蔵は急いで病院に向かった。

そして、子供が生まれた。元気な男の子だった。偶然にも、その日は夏祭りの日だった。おかげで泰蔵とジャックは御輿を担げなかった。だが、この日に生まれたからには、きっと祭り好きな子に違いない。そうだ、彼が大きくなったら、褌を締めて一緒に御輿を担ごう。

終しまい

ついでに、外人が褌を着るとこんな感じに。



この小説の著作権は、このブログの管理者であり著者のマサガタこと海形将志に帰属します。

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次なる軽小説は「ふれあい商店街」。失われた地域コミュニティを求めて、がテーマ。
by masagata2004 | 2011-10-30 17:43 | ライフ・スタイル | Trackback | Comments(2)
Commented by at 2012-08-18 08:05 x
褌を締めながらこの作品を拝読しました。私もこれから、褌を締めることを日本人の誇りだと思いたいと思いました。
Commented by masagata2004 at 2012-08-19 11:50
褌さん、コメントありがとうございます。この小説で誇りに思えると聞いて大変光栄です。


私の体験記、意見、評論、人生観などについて書きます


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