自作小説「ヨーソロ、三笠」 第6章 神からのお告げ

平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第5章までお読み下さい。

「なぜです? どうして僕がこの船にいなければならないのです? 僕は水兵ではありませんよ」
と源太は仰天して言った。
「そうじゃが、おいどんが見た夢の中の神様は、おはんがおいどんのためにここに来るだけでなく、おはん自身も、おいどんと会って大事なことを学びに来ると言われた。その世話をおいどんはしなければならないとも」
 東堂は、源太を大きな目でぎょろりと見つめながら言った。
「僕が、ここであなたから何を学ぶというのです」
「さあ、わからんが、とにかくせっかく水兵の格好をしておるのだから、この艦で一緒になって行動してみてはどうか」
「は、冗談じゃないですよ。さっきから言っているように水兵ではありません。元の世界ではただの大学を卒業したばかりの男です。そもそも、軍隊の訓練なんかしたこともないし、したくもありません。僕にはふさわしくないところです。なので降ろしてください」
「降ろせと言っても艦は出航した。引き戻せん。数週間すれば補給艦が来る予定じゃ。それまではここにおらんといかん。それに、おはんは、このまま艦を降りて、どこか行く宛があるのか。この時代では、おはんの知っている者などおらんのではないか」
 その言葉に源太はぎょっとした。冷静になってみればそうだ。軍艦などにはいたくないと言う気分から「降ろしてくれ」と言ってしまったが、この明治時代に自分が頼れる知人や親戚などはいない。その先祖はいるかと思われるが、この時代では他人同士だ。そうだ、時空を超えた今の自分にとって、今頼れるのは、目の前にいる人物のみなのだ。源太は東堂に言った。
「僕が答えを持ってきたという言いましたが、それは一体なんなのですか」
「そのことはおいおい、知ることになるだろう」
「今の僕には、あなたしか頼る相手はいません。だけど、僕に何が出来るのでしょう。まさか戦闘に参加せよと言うのですか」
「さあ、そのこともおいおい考えさせてもらおう」
 しばらく沈黙が続いた。そして源太は、ぼそぼそと「では、お願いします」と答えた。
 その後、東堂は源太にそこにじっとしているように言い長官室を出ていった。
 源太は考えた。全く不思議な現象で、こんなところに来た。でも、戻らなければ、戻るためにはどうしたらいいか。それを考えるための、また、その間生きていくための場所が必要だ。自分には不釣り合いなところでも、生き延びるためにはいなければならない。
 二十分ほどして東堂が戻ってきた。あの多神を一緒に連れてだ。
「よいか、この若造は、おいどんの大事な友人の息子さんだ。しばらくイギリスにいっとたが、最近、帰ってきたばかりでのう。水兵になりたいと。是非ともと言うので、この艦に乗船させることにした。他の艦と乗り間違えたのかと思い違いしとったらしい。この艦こそ、我が連合艦隊旗艦「三笠」であると教え込んだ。しばらく、訓練に参加させるつもりじゃ。もちろん、戦闘態勢にはいっとるのじゃから、いざとなれば、ロシアとの戦闘も覚悟の上でしごいて欲しい」
「はあ、ですが、こん人は海兵団にはいたことはあるのですか?」
「ないが、特別に認めた。そこをおいどんがおはんに無理を言ってたのんじょる」
 東堂は威厳のある表情と口調で多神に迫る。
「了解いたしました。丁度、軍楽隊員の戦闘訓練を担当いたしておりますので、一緒に砲員として訓練させます」
「ああ、おはんだからこそお願いすることじゃ、よいな、義兄弟として親身に世話してくれ給え、兵曹長」
「はい」と多神は敬礼して答えた。
 東堂は、源太の持っていた財布と携帯電話、そして、腕時計は私物として預かると言ったので、そのまま渡した状態にした。携帯電話は渡す前に、電源を切っておいた。どうせ使うことも、使えることも、この時代ではあり得ない。そして、多神と一緒に長官室を出た。
 長官の肝入りで水兵の一員としてこの艦で行動する。もちろん、暫くの間だけだ。だけど、どうすればいい。水兵の訓練を受けたことなどないし、水兵のすることなどほとんど知らない。ましてや、今は明治時代、そんな時代の水兵になるなんて。




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 多神は、砲室という甲板の機関砲が並べられている場所に源太を案内した。甲板には自分と同じ黒い制服を着た水兵たちがたむろしている。多神は、ここで砲員長の任務についているという。
「皆、聞け。これより新入りが入る。これより、軍楽隊員と同様に砲撃の訓練を一通り教えることになる。なので、同じ仲間と思って扱うように。特にこの者は長官より推薦を受けて入隊した者だ。なんで、丁重にお付き合いをすること」
 水兵たちはぎょろ目で源太を見つめる。水兵たちは、明治時代の日本人。それが如実に分かったのは、皆、背が低いことだ。源太の時代と比べ小柄でずんぐりむっくりの体格に見える。それに比べ、源太は、すぐそばの多神を除いては、大柄な男に見える。そのうえ、体格も筋肉質でがっしりとしている。
「おお、頑丈そうな奴でねえか」と誰かが口にした。まあ、スポーツマンだから、そんなものだろう。源太は深く礼をして
「野崎源太と言います。よろしくお願い申し上げます。しばらくイギリスにいました。そのうえ新入りです。ふつつかなところもあると思いますが、何ぶん、お見知り置きを」
と丁重に言葉を発した。偶然にも、東堂がイギリスと言っていたのが自らの経歴とマッチしてよかった。こんな言葉を、この時代の人は理解してくれるのだろうかと心配になった。
 水兵たちは物珍しそうに見つめながらも、しばらくすると、とてもなごやかな表情になって源太に近付いてきた。
「あなた、お国はどこですか」と一人の水兵が聞いてくる。お国? 日本に決まっているだろう。いや、この時代のお国というのは、出身地方のことに違いない。
「はい、僕は、私は、埼玉の出で」
「埼玉? ああ、川越か岩槻の国ね」
 いや、さいたま市なのだが。当時は、そんな感覚なのだろう。
「でっけえな。ここでは砲員長についででっけえぞな。それに逞しい体しとりますね」
「イギリスでテニスをしておりましたから」
「テニスって庭球っていうものですかい。ということになりますと、機関砲はお得意でごあんすな」
「何と言っても、この艦はエギリスで造られたもんやからな」
と水兵たちの会話には様々なお国訛りが混じっていた。源太の時代では、考えられないほどお国訛りがあっけぴろげだ。源太の時代ほど標準語に慣れ親しんでいないと言うことなのか。
 だが、そんな彼らはどこか、気さくな感じがする。これが明治の日本人の、それも軍人たちの姿ということなのか。何となく、ほっとした気分になった。
「おい、野崎、お前のための支給物があるので来い。いろいろと準備するべ」
と多神が言いながら甲板から砲室へ入っていく。野崎はついて行った。

第7章につづく。

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by masagata2004 | 2012-10-09 00:23 | 自作小説


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