自作小説「ヨーソロ、三笠」 第11章 国家主義とは

平和運動家の青年が、戦艦三笠に乗り込み、真の平和主義に目覚める。筆者の実体験に基づく奇想天外な物語。もちろん、フィクション。

まずは第1章から第10章までお読み下さい。

 源太は、東堂の命令により艦頭側艦橋の真後ろの高い柱を梯子を伝って登って行った。帆船でいえばマストの柱の上のようなところで、上甲板全体と周囲の海全体が見渡せる人一人か二人が立っていられるほどのカップ型の展望スペースに来た。見下ろしたところに東堂とその他将校がずらりと立っている艦橋が見える。源太が見下ろしているのを東堂が見上げて確認する。
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 さっそく砲戦の訓練が開始された。これまでの単独でした砲戦訓練とは違い、艦の兵員総出で実戦に則した形で行う。「右砲戦、はじめ」という声が艦橋から発せられた。スピーカー設備の内時代、号令はパイプを伝って生の声を届けるか、メガホンで叫びながらリレーのように伝言していくやり方で総員に命令を行き渡らせる。砲台付近を見ると、急に騒々しくなった。艦は停止している。右側の海には岩礁が見えた。どうやらあの岩山が目標らしい。源太はポケットから携帯電話を取りだした。
 ドーン、という大砲が発射される轟音が鳴り響くと共に、源太の立っているところに激しい震動が伝わった。源太は携帯電話を動画撮影モードにして片手で持ち、もう片方の手で手すりを握った。
 十分程の時間が経って、訓練が一旦休止に。艦橋の東堂が手を上げては下げる動作を見せ、降りてくるように指示した。源太は東堂のところへ行く。東堂も艦橋から降りて、源太と二人だけになれる場所へ向かった。源太は携帯電話の動画を再生して見せた。動画は五分ほどある。それを三回ほど繰り返し再生した。東堂は、真剣な眼差しで動画を見つめる。その後、艦橋へ戻った。源太も展望スペースへと戻った。
 その日、そのようなことを十回程度繰り返し、砲戦訓練は終わった。源太は携帯電話を東堂にまた手渡した。電池の残量が当初の半分ぐらいになっていた。とりあえずは電源を切った。東堂には電源を入れ方と保存されている動画の再生方法を伝えた。また、電池の残量が減っていることを教え、なのでやたらと再生を繰り返さないようにと伝えた。東堂は、もちろん分かっていると応えた。あんな小さな画面の映像が何の役に立つのだろうかと思った。もちろん、この時代で、このような技術が使えることは、圧倒的に有利になるのは間違いない。なんとも、ずるがしこいことをしているともいえる。

 昼食の時間となり、源太は水兵の詰所へと戻った。さっそく多神が声をかけた。
「おう、野崎、今日は長官と何をやっておった?」
「長官命令で、訓練に参加する代わりにちょっとしたことを」と源太。長官からは誰にも言ってはならないと釘を刺されている。
「ほう、そうか」と多神。
 昼食の後、休憩時間となった。源太は多神に対して、あることを訊きたくなった。
「多神さん、あなたは一体何のために戦っているのですか?」
「なんで、そんなこときくんだ。御国のために決まっておるがろう」
と少し驚いた表情で答えた。
「この戦争が正しい戦争だと思っているのですか?」
「当り前だろう。天皇陛下の御命による戦争だ。正しいに決まっておろうが」
「天皇陛下の御命は何でも正しい?」
「そうだべ。天皇陛下様は神様だぞ。神様のいうことに間違いなどなかべ」
「神様?」
「天皇が神様だと信じているのですか?」
「ああ、信じておる。この艦にいる者は皆、万世一系の天皇の元にあり、忠誠を誓っている。おまえは、ずっとイギリスにおったからそのことを知らんというのか」
 源太は議論をするつもりはなかった。なぜなら生きている時代が違う。受けてきた教育も。まあ、こんなものだろうと思って受け流した。しばらくして、詰め所に士官の男性が入り源太に近付き声をかけた。



「おい、野崎君、長官がお呼びである。長官室へ行き給え」
と「はい」と源太は答え、長官室へ行った。
 長官室で二人だけになったところで、東堂は源太の携帯電話を取り出し、
「どうも。使い方が分からなくなった。どうしたら、動く写真が出せるのじゃ」
と訊いた。動画の再生のことだ。源太は携帯のボタン操作を、さっさと説明した。そして、東堂が観たかった砲戦訓練の動画の再生をしてみせた。
「ほお、なるほど、ちゃんと聞いてみると簡単じゃのう。実に便利なものじゃ」
と感心しながら携帯画面を見つめる。
「便利ですが恐ろしいものです。実をいうと、この携帯電話が僕を二十一世紀から、この時代に連れ出したものかもしれないんです。この携帯を浸かっていた時に、タイムスリップをしてしまったみたいで」
と源太は言った。
「ほう、そのなのか?」と東堂。
「僕も訊きたいことがあります。よろしいでしょうか、長官」
と源太。
「何じゃ?」
「あなたは天皇陛下を神様だと信じているのですか?」
と言うと、東堂はさっと源太の方を向き、しばらく真顔で見つめ答えた。
「おはんはそう信じておらんという顔じゃな。無理もなかろう。実のところ、天皇陛下は神ではあらん。あの方は人間じゃ」
「え、人間なのですか」
「そうじゃ、おいどんは何度も顔を合わしておる。陛下は人間じゃ」
「だけど、この艦の人も、それから日本にいる人々も、皆、陛下は神だと信じているのでは」
「おはんのような未来から来た者だから、正直なところが言えるのじゃ。そうじゃ、天皇は神だと皆信じておるが、実はそうじゃあらん。だけどな、そういうことにしておかなければならん理由がある」
「それは何ですか?」
「国家としての秩序を保つためじゃ。そして、それは国に住む全ての民のために必要なことじゃ」
「全ての民のためですか」
「おはんは維新により、この国が日本という西洋を真似た国家となったことは歴史の勉強として知っておる立場のはずじゃ。そうじゃ、この国は西洋を真似た君主国家となり、三十八年が経った。それ以前は、徳川将軍による幕府が治めておった。だが、それでは西洋に対抗するには不十分な体制であった。なので、より強い国家を目指すため、西洋を真似して天皇を神として元首として置き、一つの統一された国民国家としたのじゃ」
「はい、よく知ってます。学校の歴史の時間でそう習いました。所詮は天皇は神であることは方便でしかないということですよね。統合の象徴ということで存在してきたと」
「おはんの時代では天皇陛下はどうなっておる?」
「元首ではありません。だけど、国民国家の象徴という形になっています。だけど、何の権限もない公式な行事に顔を出すだけの人です」
「ふうん、なるほど、いずれはそうなる存在であろう。いずれは。この時代においても、実権はないものじゃ。古来から天皇は君臨しても統治はせずとなっておる。元首といえども、命令を下す時は、おいどんを含めた政府の助言を元にするとなっておる。それは陛下が勝手にことを決められんということじゃ」
「僕の時代には、天皇の制度を廃止すべきだという意見だってあります」
「そうじゃな。それも理にかなってくるかもしれん。だが、おいどんの時代ではそうはいかんのじゃ。おはんもこの艦に乗って分かっておろうが、皆、バラバラのところから来た者共じゃ。藩が違えば、国が違うというもの。徳川の二百六十年の間に統合されていたように見えておったが、それが崩れるとまた、バラバラになってしまいそうになる。もし、統治が崩れてしまえば、隣の清国のように無様に外敵に食い荒らされる結果となる」
 アヘン戦争と、その後の香港の割譲の事を言っていると分かった。
「我が日本はそうはならんと奮闘しておる。アメリカやイギリスという国が大砲持って脅しに来て、好きなようにせようとも、逆にこちらが彼らを利用して彼らと肩を並べたる国家になるように仕組むつもりで頑張らないといかん。皮肉なことに、アメリカとイギリスという国のおかげで、強国ロシアと戦える軍備を手に入れた。この戦艦もそうじゃ」
「とはいっても、それなのになぜ戦争をしないといけないのですか。話し合いでが駄目だとしても、人が傷付く戦争をするくらいなら、少々こっちが譲っても、少々苦い思いをしても、戦争を避けることをすべきです」
と源太は、そう苦々しく言った。
「おはんは、それでもよかかもしれんが、それ以外の者はどげんするとじゃ。それで耐えうるか。土地を奪われ、奴隷のような扱いを受ける立場になっても耐えられると思えるか。同じ国の同胞におはん自身の理想を押しつける権利などあるのか。他の者が納得するのか。現実の中で苦しむ民を見捨てるのか」
 その言葉に源太はぐさっと来た。自分の理想を他に押しつけているに過ぎないというのか。そして、こう東堂に言った。
「つまりは、天皇のため、国家のためは、みんなのため、そして、そんなみんなを想わざる得ない自分自身のためだといいたいのですね」

第12章につづく

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by masagata2004 | 2013-04-30 00:26 | 自作小説 | Comments(0)


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