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演劇評論「新・こころ」 我々の知っている伝統とは?

夏目漱石原作の「こころ」を現代の視点で解釈して演劇にした作品。新宿3丁目でflying Stageという男性のみの役者により上演。以前、紀伊国屋でも同じ作品の劇を見たことがある。あくまで原作を忠実に劇にした作品でそれをきっかけに原作の本を買い読みもした。それについては、この記事を読んでいただきたい。

誰もが感じたのは、この小説は明治時代のゲイ文学ではないかということ。劇でも触れていたが、文中には「同性愛」ということが堂々と書かれている。現に、明治時代までの日本では同性愛は異端なものではなかったのだ。当時は、男色と呼ばれていた。それは、現代のゲイというのと違い、食べ物の好みといった程度で、性的指向がアイデンティティとなっていたものではない。

劇中では、明治初期に出版された男色文学について語る場面があり、異性愛と同様に一種のロマンスとして捉えられている。男色は硬派。女性としか付き合わないのは軟派といわれていた。

しかし、それも日本の近代化の中で廃れていってしまう。「こころ」は、それを憂いた作品ではないかと思わせてくれる。

この劇で重要なメッセージは、同性愛を含め、現代の日本人が伝統として考えている「伝統」は実をいうと、近代化を始めた時代に西洋から受け継がれた部分が案外多いということだ。




劇中ではちゃぶ台を登場させる際に、これは西洋の習慣をまねたテーブルだと説明がなされた。日本では伝統的には、一人に対して一膳の台が食事の際に置かれる。家族団らんでちゃぶ台を囲って食事をするのは、むしろ明治に入ってからだ。

明治時代に国家神道なるものができたが、これは元々の神道とは違い、キリスト教をまねたものだという。神道は多神教で、八百万の神といわれ、各地でそれぞれが独立して存在していたもの。戦後、国家神道が廃止され、元に戻ったのだ。

それを日本の古代からの伝統と思い込む輩がなんと多いこと。そういうことに対する批判を集約させた内容だったという印象を受ける。

でもって、演劇としての評価だが、役者の演技は、素晴らしすぎるぐらい見事だった。劇は小さなスペースを使ってのものだから、大がかりなセットは全くない。衣装と役者の演技にかかっていた。だからこそ、彼らの演技は臨場感を与えた。

ただ、女役には多少難があった感じがする。しかし、それも見事にこなしており、中には本物の女性ではないこと疑うほどの身のこなしと話し方をする人物もいた。

この作品、是非とも映画化をしてもらいたい。21世紀風に思いっきりゲイエッセンスを加え、また、近代の中で同性愛がどうとらえられてきたかをしっかりフィルムで描くのだ。

たとえば、西洋人が日本人のそんなところをみて「野蛮だ、非文明的だ」とののしり、それに驚く日本の教育者の姿なんて場面に入れるといい。

我々が、真の伝統を見直す時期に来たということかもしれない。

by masagata2004 | 2016-04-04 10:01 | 演劇評論 | Trackback | Comments(0)


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